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冥土の土産にパンケーキ

冥土の土産にパンケーキ編4

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 どれくらい沈黙した時間が過ぎただろう?飲み干されたグラスの中の氷は溶け、カラン。と、静まり返った店内に響いた。
 その音が止まった時間を動かしたかのように、景子さんの口を動かせる。
 「静江さんと直通さんはどうやって出会ったの?」
 素朴な質問。
 でも、静江婆ちゃんには久しくされなかった質問だろう。長い年月を直通さんと共にし、夫婦を続け、二人一緒で居ることが当たり前になった自分、年を重ねた自分の恋話なんて誰も興味を持たない。そう思っていたのだろう。静江婆ちゃんは照れくさそうにほっぺたを掻きながら、ぽつりと語り始めた。
 「わたしとお父ちゃん……直通さんは幼なじみでね。わたしが直通さんの二つ下。直通さんは生まれた時から、わたしの事を知っとったとよ。」
 「幼なじみだったんですね。」
 姉さんも口を開く。 
 静江婆ちゃんはコクリと頷いて続ける。
 「小さい頃から何時も一緒で、ようそこん海や山で遊びよった。直通さんはわたしん事ば、本当の妹んごつ可愛がってくれてね……。わたしらが生まれた時、小さい時は、まだ戦中戦後だった事もあって小さい頃は食べ物もあまりない時代やったけど、たまに手には入る飴なんか、直通さんはわたしに、ようくれよったんよ。」
 静江婆ちゃんは久しぶりに開いたアルバムを見るように、懐かしく、嬉しそうな、そんな目をして言った。
 「旦那さん、甘いもの大好きだったんじゃないんですか?」
 大森さんの言葉に静江婆ちゃんはうんうんと頷いて続ける。
 「直通さんは甘いもの大好きやったけど、わたしん事がそれ以上に大好きやった。って。だけん、わたしの喜ぶ顔が見たかったけん、わたしに飴とかをあげよった。って結婚してから聞いてね。わたし、嬉しかった~。」
 静江婆ちゃんは歓喜の絶頂に居るような、自分の手を握り締めながら遠くを見る。それだけ嬉しかったのだろう。僕達にもそれが伝わってくる。
 「静江さんはずっと直通さんと一緒だったの?」
 景子さんの質問に静江婆ちゃんは首を横に振った。
 「わたしらの若い頃は、こっちにあんまり仕事が無かったけん。お互い、都会の方へ出稼ぎに行ったんよ。」
 「二人は離れ離れになっちゃったんだ……。」
 大森さんはぽつりと言い続ける。
 「なら、二人はどうやって再会したんですか?」
 「京都。京都でね、偶然会ったったい!」
 静江婆ちゃんは当時を完璧に思い出したのだろう。若返ったかのように、張りのある声で食い気味に言う。
 「京都でですか?」
 びっくりして言葉が返せない大森さんに代わるように姉さんが静江婆ちゃんに聞く。
 「そぎゃん。京都たい。お互いに社内旅行でね。ほんと偶然に街中で会ったとよ。もう何年も会っとらんやったけん、お互い忘れとるやろ?と思っとったとばってん、一目で分かってね。そこから、文通が始まって……。」
 静江婆ちゃんは楽しかった記憶が蘇ったのだろう。言葉を詰まらせた。
 
 
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