8 / 40
冥土の土産にパンケーキ
冥土の土産にパンケーキ編4
しおりを挟む
どれくらい沈黙した時間が過ぎただろう?飲み干されたグラスの中の氷は溶け、カラン。と、静まり返った店内に響いた。
その音が止まった時間を動かしたかのように、景子さんの口を動かせる。
「静江さんと直通さんはどうやって出会ったの?」
素朴な質問。
でも、静江婆ちゃんには久しくされなかった質問だろう。長い年月を直通さんと共にし、夫婦を続け、二人一緒で居ることが当たり前になった自分、年を重ねた自分の恋話なんて誰も興味を持たない。そう思っていたのだろう。静江婆ちゃんは照れくさそうにほっぺたを掻きながら、ぽつりと語り始めた。
「わたしとお父ちゃん……直通さんは幼なじみでね。わたしが直通さんの二つ下。直通さんは生まれた時から、わたしの事を知っとったとよ。」
「幼なじみだったんですね。」
姉さんも口を開く。
静江婆ちゃんはコクリと頷いて続ける。
「小さい頃から何時も一緒で、ようそこん海や山で遊びよった。直通さんはわたしん事ば、本当の妹んごつ可愛がってくれてね……。わたしらが生まれた時、小さい時は、まだ戦中戦後だった事もあって小さい頃は食べ物もあまりない時代やったけど、たまに手には入る飴なんか、直通さんはわたしに、ようくれよったんよ。」
静江婆ちゃんは久しぶりに開いたアルバムを見るように、懐かしく、嬉しそうな、そんな目をして言った。
「旦那さん、甘いもの大好きだったんじゃないんですか?」
大森さんの言葉に静江婆ちゃんはうんうんと頷いて続ける。
「直通さんは甘いもの大好きやったけど、わたしん事がそれ以上に大好きやった。って。だけん、わたしの喜ぶ顔が見たかったけん、わたしに飴とかをあげよった。って結婚してから聞いてね。わたし、嬉しかった~。」
静江婆ちゃんは歓喜の絶頂に居るような、自分の手を握り締めながら遠くを見る。それだけ嬉しかったのだろう。僕達にもそれが伝わってくる。
「静江さんはずっと直通さんと一緒だったの?」
景子さんの質問に静江婆ちゃんは首を横に振った。
「わたしらの若い頃は、こっちにあんまり仕事が無かったけん。お互い、都会の方へ出稼ぎに行ったんよ。」
「二人は離れ離れになっちゃったんだ……。」
大森さんはぽつりと言い続ける。
「なら、二人はどうやって再会したんですか?」
「京都。京都でね、偶然会ったったい!」
静江婆ちゃんは当時を完璧に思い出したのだろう。若返ったかのように、張りのある声で食い気味に言う。
「京都でですか?」
びっくりして言葉が返せない大森さんに代わるように姉さんが静江婆ちゃんに聞く。
「そぎゃん。京都たい。お互いに社内旅行でね。ほんと偶然に街中で会ったとよ。もう何年も会っとらんやったけん、お互い忘れとるやろ?と思っとったとばってん、一目で分かってね。そこから、文通が始まって……。」
静江婆ちゃんは楽しかった記憶が蘇ったのだろう。言葉を詰まらせた。
その音が止まった時間を動かしたかのように、景子さんの口を動かせる。
「静江さんと直通さんはどうやって出会ったの?」
素朴な質問。
でも、静江婆ちゃんには久しくされなかった質問だろう。長い年月を直通さんと共にし、夫婦を続け、二人一緒で居ることが当たり前になった自分、年を重ねた自分の恋話なんて誰も興味を持たない。そう思っていたのだろう。静江婆ちゃんは照れくさそうにほっぺたを掻きながら、ぽつりと語り始めた。
「わたしとお父ちゃん……直通さんは幼なじみでね。わたしが直通さんの二つ下。直通さんは生まれた時から、わたしの事を知っとったとよ。」
「幼なじみだったんですね。」
姉さんも口を開く。
静江婆ちゃんはコクリと頷いて続ける。
「小さい頃から何時も一緒で、ようそこん海や山で遊びよった。直通さんはわたしん事ば、本当の妹んごつ可愛がってくれてね……。わたしらが生まれた時、小さい時は、まだ戦中戦後だった事もあって小さい頃は食べ物もあまりない時代やったけど、たまに手には入る飴なんか、直通さんはわたしに、ようくれよったんよ。」
静江婆ちゃんは久しぶりに開いたアルバムを見るように、懐かしく、嬉しそうな、そんな目をして言った。
「旦那さん、甘いもの大好きだったんじゃないんですか?」
大森さんの言葉に静江婆ちゃんはうんうんと頷いて続ける。
「直通さんは甘いもの大好きやったけど、わたしん事がそれ以上に大好きやった。って。だけん、わたしの喜ぶ顔が見たかったけん、わたしに飴とかをあげよった。って結婚してから聞いてね。わたし、嬉しかった~。」
静江婆ちゃんは歓喜の絶頂に居るような、自分の手を握り締めながら遠くを見る。それだけ嬉しかったのだろう。僕達にもそれが伝わってくる。
「静江さんはずっと直通さんと一緒だったの?」
景子さんの質問に静江婆ちゃんは首を横に振った。
「わたしらの若い頃は、こっちにあんまり仕事が無かったけん。お互い、都会の方へ出稼ぎに行ったんよ。」
「二人は離れ離れになっちゃったんだ……。」
大森さんはぽつりと言い続ける。
「なら、二人はどうやって再会したんですか?」
「京都。京都でね、偶然会ったったい!」
静江婆ちゃんは当時を完璧に思い出したのだろう。若返ったかのように、張りのある声で食い気味に言う。
「京都でですか?」
びっくりして言葉が返せない大森さんに代わるように姉さんが静江婆ちゃんに聞く。
「そぎゃん。京都たい。お互いに社内旅行でね。ほんと偶然に街中で会ったとよ。もう何年も会っとらんやったけん、お互い忘れとるやろ?と思っとったとばってん、一目で分かってね。そこから、文通が始まって……。」
静江婆ちゃんは楽しかった記憶が蘇ったのだろう。言葉を詰まらせた。
0
お気に入りに追加
15
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
相談室の心音さん
阪上克利
大衆娯楽
流産というつらい経験をした主人公の心音が職場に復帰した後に異動になったのは新しい部署の『相談室』だった。
『自分がこんな状態なのに人の相談なんてのっている場合じゃない』と悩むも、相談者の相談にのっているうちに少しずつ心が癒されていくのを感じる……。
このお話は大きな悲しみを乗り越えて前に進もうとする主人公、心音の再生の物語です。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる