ウチの犬は幸せなんだろうか？幸せだったんだろうか？

動き始めた時間

5

　「珍しいですね……。マロンが家の人以外に、こんなに甘えるなんて。斉藤さん、犬に好かれます？」
　「いえ？ナナ以外、こんなに甘えられた事なんてないです。」
　あ……。ここは、嘘でもよかったから、はい。と答えるべきだっただろうか？犬好きとか、優しいとか、そんな印象を与えるべきだったのだろうか？邪な考えって、言葉に出した後によくわいてくるよな。
　「そうなんですか？意外です。接し方も、撫で方も、凄く優しかったから、てっきり好かれるのかと思いました。」
　もっと、撫でて。と体を預けてくるマロンちゃんを撫でながら、店員さんと僕は他愛ない話で盛り上がった。

　世の中、何がきっかけで仲が深まるか分からないものだ。
　公園で偶然に会ったあの日、勇気を振り絞って連絡先を交換してから、流れるように事が進んで行く。
　冬の中頃には、店員さん。いや、小島奈々(こじま　なな)さんと付き合う事になった。少し早い、春の訪れである。
　告白して付き合うにあたり、最初に言われた事が「私、優弥くんより、マロンの事を優先する事があると思うけど……それでいい？」だった。
　例えばの話だが、もちろん愛犬が突然、体調不良になったのならば、マロンちゃんを優先するという事なのだろう。僕も同じ選択をするだろうから、ダメだとは言わない。むしろ、体調が悪いのに、放っておくなど考えられない。犬も大事な家族なのだ。
　僕は奈々さんの言葉に少し安心したのだった。