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ナナ、1歳誕生日 ナナ編

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 何も無い日の午後。リビングに、誰も居なかった。いや。ご主人さまが一人、ソファーに寝転んで寝息を立てていた。
 これは、チャンス!
 ワタシは誰も居ない、このタイミングだけが、ご主人さまに遠慮なしに甘えられる事が出来るのだ。
 日頃は、他の家族が見ているので、恥ずかしくて……。
 コムギ君はコウタご主人さまに抱っこされると、直ぐにコウタご主人さまの顔を涎いっぱいに舐めまわして甘えるけれど、ワタシはそんなに甘えられない。確か、ワタシ達、犬は雄の方が甘えん坊だと聞いた事があるけど、そんなに舐めなくても……と思う反面、ワタシも素直にご主人さまに甘えたいとも同時に思っていた。
 そう、何度も言うがこれは、チャンス!なのだ。
 ワタシは、ソファーに飛び乗り、ご主人さまの胸元に体を預ける。
 そして、寝顔を覗き込む。
 ああ……何て可愛らしい寝顔なんでしょう。
 ご主人さまと出会ったあの日、ワタシは眠くて、ご主人さまの顔をまじまじと見つめる事は出来なかったけれど……今は、誰にも邪魔されない。思う存分に堪能出来る。
 ご主人さま……は!もしや!!今なら、ご主人さまの顔をコムギ君のように、いっぱい舐められるのでは?!
 …………。
 ………。
 ……。
 ワタシは衝動を抑えられなくなり、ご主人さまの顔をペロペロと舐め始めた。
 ご主人さまはそれに気が付いたのだろう。うっすらと目を開ける。しかし、また眠ってしまった。
 起きて撫でて欲しいような……そのまま舐め続けたいような……。複雑な気持ち。
 ワタシは、ご主人さまの様子をうかがいながら見つめる。そして、また舐める事にした。
 ご主人さまは、う~んと唸り、起きそうで起きない。
 少し、面白くなってきた。起きるまで、何回も舐める事にしよう。
 ワタシは、新たな至福の時間を堪能するのであった。
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