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命名家族会議 そして、初散歩

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 二回目のワクチン接種後、夏休みに入った事もあり、結衣の友達が連日のように遊びにきたり、母さんの友達も遊びにきた。例の『社会化期』なるものに、人との触れ合いも重要らしい。ナナは、人懐っこく、皆に大人気だった。もちろん、外にも抱っこして連れて行く。首輪やハーネスを試しに着けてみたり、リードを着けて部屋の中で散歩のトレーニングをした。
 それから、三回目のワクチン接種が終わり、数日後、いよいよ初めての散歩……の前に、とりあえず自宅の庭に放牧してみる事にした。
 初めて歩く地面。初めて嗅ぐ草の匂い。ナナは縦横無尽に庭を駆け回った。やはり、外というのは嬉しいのだろう。最初は、20分程度遊ばせて、徐々に慣れされる事にした。
 そして、いよいよ、ナナの散歩デビューの始まりである。
 夏の時期は長い。昼間は暑すぎて、人より地面に近い犬は、太陽光の反射熱などを人より受けやすく、熱射病や、肉球の火傷の原因になるので、早朝か夜が良いと、母さんが買ってきた本には書いてあった。
 それなら、やはり早朝かな。家族皆でそう話し合い、近くの公園へ出掛ける事にした。まずは、公園までは結衣が抱っこし、その後、公園内を散歩させる事にする。
 ナナは最初、戸惑っていたが、興奮し始めた。なので「め!」と、なだめると、ナナは大人しくなった。ナナはとてもお利口さんなようだ。
 そして、思った以上に人も多い。やはり、夏は暑いので朝晩に散歩したりする人が多いのだろう。
 すれ違う人達に「かわいい!」「触っていいですか?」など、言われナナは可愛がられる。ナナも嫌な顔もせずに可愛くじゃれつき、撫でられたりした後「お利口さんですね!」とか言われると、何か嬉しい。我が子が誉められてるみたいで。
 しばらく歩いていると、子犬を散歩させている、青年に出会った。
 すれ違う時に挨拶を交わす。とても爽やかに、ニコリと挨拶をしてくれた。物腰も柔らかく、スポーツでもやっているのだろうか?よく通る声だ。スマートで好青年だと言って良いだろう。イケメンだった。
 結衣は、1人だけ少し遅れ、俯き加減で、照れながら挨拶をする。
 「こ、航太(こうた)君、お、おはよう。こんな所で珍しいね……。」
 「おう。斉藤じゃないか。おはよう。」
 ん?どうやら、結衣は青年と知り合いらしい。しかも、結衣は……しおらしい……。母と僕は、一瞬で感づいて微笑ましいと思ったが、父もそれを感じたのか、少しムッとしたように言う。
 「航太君とやら。君はウチの結衣と知り合いなのかね?どんな関係で??」
 と、父さん!?しょ、初対面なのに、失礼すぎやしないかい?
 僕と同じように、それに気が付いたのか、結衣は父さんの腕を「お父さん!」と言いながら引っ張り「ごめんね。ごめんね。」と航太に謝っている。
 しかし、航太君は笑顔で返して、礼儀正しかった。
 「はじめまして。結衣さんの高校の同級生で、長谷川航太と申します。何時も、結衣さんには、大変お世話になっております。」と父さんに挨拶をした。
 ほ~ぅ。と、珍しく感心したように中途半端に頷いている。父さん。
 すると、『ワン』とナナが吠える。航太君の連れている子犬の臭いを嗅ぎ、尻尾を振る。そして、航太君の連れている子犬も『ワン、ワン』と言い、尻尾を振る。2匹はじゃれ合い始めた。初めての他の犬との触れ合い。どうやら、上手く行ったようだ。
 航太君は、しゃがみ、子犬の頭を撫でながら話始める。
 「コムギ~。良かったでちゅね~。初めてお友達が出来まちたね~。」
 爽やかなイケメンも、子犬には『でちゅまちゅ言葉』になるものなのか。
 そして、航太君は改めて紹介した。
 「ミニチュアダックスフンドの『コムギ』です。男の子です。よろしくお願いします。」
 僕は、結衣の肩を少し押して、自己紹介を促した。
 結衣は、はっとしたように。
 「パピヨンの『ナナ』です。女の子です。よろしくお願いします。」
 結衣は、ガバッと深々とお辞儀をする。微笑ましい……。
 それから、ナナとコムギ君は遊んだ。二匹は、既に仲良しになっており、航太君も僕達家族も嬉しかった。
 まだ、短い時間だったが、とても充実した時間を過ごせた。そんな気がする。
 結衣は終始、緊張しているみたいだったが、嬉しそうだ。それを、にこやかに見ていた母さんが、帰り際に航太に声を掛ける。
 「航太君。良かったら今度、コムギ君を連れて、家に遊びに来て下さいな。」
 航太君は、一瞬驚いたようだったが、にこやかに「はい!ありがとうございます。喜んでお伺いさせて頂きます。」と、お辞儀をして帰って行った。
 帰り道、結衣は嬉しそうだ。ナナを抱きかかえて、鼻歌を歌い、スキップでもしそうな勢いだ。
 家に帰り、朝食をとる。食べ終わった後、ナナにご飯を与える。ナナは余程、楽しくて疲れたのか、食べながらウトウトし始め、そのまま皿に顔を突っ込んで寝てしまった。
 家族は皆、大爆笑。母は笑いながら、ナナの口元など、汚れた所を拭いてやり、ゲージの中のナナの寝床へ連れて行った。
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