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命名家族会議 そして、初散歩

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 子犬の名前は『ナナ』に決定!
 『第一回斉藤家子犬命名家族会議』は、こうして幕を閉じた。
 気がつけば、時計は夕方の6時を回っている。
 ここで、母が「お夕飯の支度をしなきゃ!」と慌て始めたが、父がおもむろに自分の財布からお金を出して言った。
 「静子。今日は、ナナが家族になった日。つまり、誕生日だ。お祝いだから、寿司をとりなさい。」
 「やった~!お寿司だ~!!」
 結衣はナナを抱きかかえ、クルクルと回り、喜びを体で表した。
 おいおい。そんなに、ナナをクルクル回して大丈夫かな?僕の心配とはよそに『第一回斉藤家子犬命名家族会議』は『斉藤ナナ誕生日会』へと変わっていった。
 と、言っても、犬に寿司は無いだろう。店員さんに言われて覚えていたのは「しばらく、餌はドッグフードをぬるま湯や、ぬるま湯で溶かした犬用ミルクで、ふやかしてあげて下さい。回数は生後4ヶ月くらいまでは4回。その後は回数を3回に減らして下さい。分量は袋に書いてありますから。しばらく、は多めでも構いません。成犬になったら、朝晩だけに減らしていいですし、量も書いてある量で大丈夫です。」だった。まだ、子供だし、栄養が必要なんだな。なかなか、犬を飼うというのは大変だ。
 僕は、ドッグフードの餌袋を見る。ちゃんと色々書いてある。グラム数もちゃんと計って……気持ち多め。ぬるま湯に犬用ミルクを入れて溶かし……ふやかした。
 そして、ナナに与えようとした所で、父に止められた。
 「優弥。まだ、ナナに餌をあげてはいけない。」
 「え?なんでだよ?やっと、いい感じになったんだぞ?」
 家に来てから、水しか飲んでないんだぞ。流石にお腹空いているだろう?と付け加えて、僕は不満を露わにして言った。
 父はそれでも、淡々と続ける。
 「犬は、主従関係が大事なんだ。犬はオオカミが先祖だって事は知っているか?」
 それは、流石に僕も知っているけど……それが何の関係があると?
 父は僕の表情を見て話を続ける。
 「オオカミは、力関係上の強い順番から餌を食べるんだ。その名残が犬にも引き継がれている。この家の家族の一員になったって事は、家族での順列をはっきりさせてあげないといけないんだ。だから、まずは、私達が食べた後に、ナナには餌をあげないといけない。可哀想だとは思うけれど、これも『しつけ』なんだよ。飼い主として、きちんと『しつけ』てあげないといけないんだ。可愛いとか、可哀想だけでは、犬は飼えないんだ。」
 『しつけ』か……。それは必要なんだろうか?自由に生きて、自由に育てば良いのではないだろうか?と疑問には思った。
 しかし、父は幼い頃から、犬を飼った事もある。経験も豊富。ここは、父の言うことに従った方がいいのだろう。僕達がご飯を食べた後では、この餌は冷たくなり過ぎている。仕方なく、餌を一度捨てて、ご飯を食べる事にした。
 皆、食べ終わった後、ナナのご飯を再度用意した。
 やっぱり、凄くお腹が減っているんだな。こちらを切ないそうな顔で見ていた。
 そして、いよいよ待望のナナのご飯タイムの始まりだ。
 ナナは、尻尾を思いっ切り振り、『もうお腹ペコペコだよ~。早く、ご飯、ご飯。』と言わんばかりだった。
 餌を置いたら、直ぐに、ナナはがっつく。凄い勢いで。余程、お腹が空いていたのだろう。周りに、こぼす、こぼす。あっという間に皿は綺麗になり、結衣は、落ちた餌を指ですくい、ナナへ与える。それを舐めるように食べて、ナナは結衣の指をペロペロと舐める。それを見た僕は、結衣に習い、ナナが落ちた餌を全部食べる前に餌をすくい、ナナに与える。……か、可愛い。
 「エサのしつけもこれから必要だな。」
 僕の反応とは違い、父はぼそりと言葉をこぼし、母は躊躇い、怖いのもあるのか、僕と結衣のナナ餌やり争奪戦には参戦しなかった。
 ナナが、ご飯を食べて落ち着いた頃。
 結衣は大声を出し、片足をあげていた。
「あ~!ナナがここで、オシッコしてる!!踏んじゃったよ~!!」
 全く気が付かなかった。トイレシートはゲージの中に用意していたけれど、そこにはしてくれてはいなかった。そして、オシッコは気が付かないうちに、何ヶ所かしてあった。そして、ウンコもいつの間にかに……。
 これは、飼い主として、ナナにガツンと分からせねばなるまい!
 僕が息巻いてナナを叱ろうとした時、また父に止められた。
 「優弥。叱ってはダメだ。叩いたり、激しく怒ったりしてしまうと、トイレを上手く覚えないかもしれないからな。」
 「じゃあ、どうやるんだよ?」 
 「これが合っているのかは、私にも分からないが……。家では、昔、こうやっていた。」
 父はおもむろに、ナナのした、オシッコやウンコを片付け始め、オシッコを拭いたティッシュを持って、トイレシートの所に行った。そして、隅の方へ少しだけ染み込ませ、ナナをトイレシートの上に乗せて、ゲージを閉めた。
 そして、父はゲージの中のナナに言う。
 「ナナ。シ~して、シ~。」
 何回も繰り返し、同じ言葉を言う。
 「父さん。シ~ってなんだよ?」
 「シ~は、オシッコのシ~だ。」
 ナナは不思議そうに首を傾げる。そりゃそうだ。シ~とか言われて分かるはずもないし。
 しかし、父は続ける。
 すると、しばらくして、ナナはトイレシートの上にオシッコをした。
 父は優しい声で、ナナをゲージから出して、大袈裟に誉めた。
 「ナナ~。シ~できまちゅたね~。偉いでちゅね~。」
 ナナは何の事だか、理解は出来ていないだろう。しかし、誉められていることは分かるのだろう。尻尾を振っていた。
 ナナを下ろし、父は言った。
 「こうやって、シートの上でオシッコをしたら誉めてやること。それが大事なんだよ。そして、それ以外の場所でしたら、低い声で「め!」って分かりやすい短い単語でダメだって、教えてやれば、出来るようになるはずだ。子犬だから頻繁にオシッコもする。だからこうやって、オシッコをしようとしたらシートまで連れて行って、何度も何度も繰り返して根気良く教えてあげないといない。良い事と悪い事の区別を付けてあげないといけない。トイレも慣れれば、自分で、ちゃんと決まった場所にするようになる。激しく怒ったりすると、ナナが『オシッコをすると怒られる』って思ってしまって、しなくなり、膀胱炎とかの病気の原因になるんだ。」
 父は、どのくらいの数の犬を飼ってきたのだろう?そのたびに、試行錯誤を繰り返してきたのだろうか?
 そう考えていると、ナナは寝てしまった。それを見た父は、「ナナは、おねんねのお時間でちゅね~。」と言いながら、寝たナナを抱えて、ゲージの中の寝床にナナを置いて、ゲージを閉めた。
 そして、皆、リビングのソファーに腰掛けお茶を飲み始めた。
 「まさか、優弥が子犬を買って来るとは思わなかったぞ。」
父が口を開く。すると、母がそれにつられるように話しだした。
 「まったく。何の相談もしないで!携帯電話があるんだから、一言くらい、相談しても良かったんじゃない?私は犬が苦手なのに……。最初に見た時は、心臓が止まるかと思ったわよ。」
 「あははは。お母さん、それは大げさだよ。」
結衣は笑いながら言う。
 「ごめん。だって、一目惚れしちゃって、何も考えられなくなっていたんだよ。母さんが、苦手だって知らなかったし。でも、可愛かったでしょ?」
 「そりゃ、可愛いけど…。」
 僕の答えに、母は歯切れが悪く答える。
 「お兄ちゃんは、たまに周りが見えなくなるよね。」
 母をフォローするように結衣は言う。
 それに同意するかのように父も頷く。
 なんだ、二人して……。
 「優弥は、もっと、他の人の心に気を配りなさい。気配り出来ない奴は女にもモテないぞ。」
 父の一言に、悔しいが何も返せない。多分、彼女にふられた原因の一つかもしれない。
 人の気持ちを理解するのはとても難しい。でも、理解しようと言う心構えや、理解しようと心掛ける事は、そんなに難しくはないはずだ……。
 その人の表情を見て、その人の心を察する。その人の事を考える。それが大事なのかもしれない。まあ、エスパーでもないんだし、難しいだろうけど……。もっと考える事は必要なのだろう。
 「そうだ。」と、決め付けて自分の考えだけで物事を、押し進め過ぎてはならないのかもしれない。
 『優しさ』とは何か?そんな事は、考えて答えが出るわけでもないのかもしれない。自分で『優しい』なんて思える事自体が『優しさ』とは違うような気がした。
 そんな事を、思っていると、結衣が思い出したかのように言った。
 「お兄ちゃん。ナナのお昼ご飯はどうするの?私達が学校で居ない時の。」
 そう。そうなのだ。母が犬が苦手だと言う事を知らなかったせいか、昼は母に餌をやってもらえば良いと思っていたから、とんだ誤算だ。
 しかし、母は観念していたのだろう。
 「分かったわ。怖いけど、やってみる。でも、明日、ちゃんと教えてね。優弥。」
ありがたい!思いの外、簡単に解決してしまった。母には悪いと思っているが、本当にありがたい。
それから、久し振りに家族団欒と言って良いだろうという時間を過ごして、ナナが起きたところで、四回目であろうご飯をあげて、もう少し家族団欒の時間を過ごし、眠りについた。
     
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