上 下
17 / 28
新しい日々の始まり

新しい日々の始まり 10

しおりを挟む
 「それにしても、今日の主様、本当に、格好良かったよな。」
 
 ん?何の事だ??トイレから帰った俺はエリ達の話に耳を傾ける。

 「ですです。あのゴール右上角に豪快に決まった一撃も凄かったですが、決まった瞬間にゴールに背を向けて、右手人差し指を天に突き刺した姿は格好良かったですよね。」
 「そうそう。天に自分の存在を知らしめるようで素敵だったよね。世界で俺がナンバーワンだ!みたいな?」

 イリアとアリシアはエリの言葉にこたえながら頷いていた。
 は?……え?!な、何で、ただのゴールパフォーマンスがそんな解釈に??全身で喜びを表現するまでもなく、昔見た、マンガのキャラがやったポーズを真似しただけなのに??
 それに、俺が点決めた時は、凄く静かだったけど??

 「だよね。俺もかっけーって思ったよ。男の俺でも、惚れちゃいそうだったもん。リーネにも見せてやりたかったよ。」
 「だな。主様が点決めて、直ぐに交代して走って行っちまった後の歓声はヤバかったもんな。女だけじゃなくて、男の歓声がうるさくて、今も耳に残ってる気がするぜ。」

 ローネとエリはイリアとアリシアに共感するように、こちらも頷き、満足そうな表情を浮かべている。
 なっ!?俺が居なくなった後にそんな事が?!
 俺、その場に居たら、恥ずかしさのあまり、死にそう……。

 「それは、見たかったなぁ。でも、料理教室のヤマト兄さんも凄かったんだよ?ねえ?ターニャ姉さん。」
 「ええ。そちらのヤマト様がどれだけ凄かったかは分かりませんが、こちらで活躍なされたヤマト様は、とても素敵でしたよ。」

 リーネの問いにターニャさんは、これまた満足そうな表情を浮かべている。

 「へぇ~。どんなんだったんだい?ターニャ、リーネ、聞かせろよ。主様の料理教室の様子をよ……。」

 ああ……。何か恥ずかしくてこれ以上は聞けない。
 俺は聞き耳を止め、ララ達と話す事にした。

 「ララ、マーガレット、レイブンさん、今日もお疲れ様。」
 「お疲れ様です。ヤマトさん。」
 「ん……。マスター。お疲れ……様。」
 「本日もお疲れ様でした。ヤマトさん。」

 マーガレット、ララ、レイブンさんはビールジョッキを片手にこちらを振り向く。
 俺のイメージだったのだが、美形のエルフはグラスで飲むと思ってたんだ。最初は。
 でも、この世界のみんな、大体ジョッキで酒飲むんだよな。
 取っ手があるから飲みやすいのか、ただ俺が、エルフは上品に酒を飲むものと思っていたのか……。まあ、イリアの日頃の行動を見ていると上品とは言えないか……。

 「どうしたの?ヤマトさん??考え事??」

 マーガレットは心配そうに顔を覗き込んでくる。

 「いや。何でもないよ。それより、マーガレット。ウチで働いてくれてありがとな。もう一度、お礼を言っておこうと思って。」
 「いやいや。お礼なんてやめてよ。逆にお礼を言わないといけないのは、私だし……。私を雇ってくれてありがとうございます。ヤマトさん。」

 ジョッキをテーブルの上に置いて、マーガレットは深々と頭を下げた。
 ちなみに今日は立食も出来るようなセッティングをしている。

 「頭を上げてくれ、マーガレット。それより、挨拶の方どうだった?」
 「ん~。これと言って何もないよ?」

 頭を上げた、マーガレットは首を傾げた。

 「どちらかと言うと、オーナー以外の職場の人は安心してたかな?前も言ったように私はオーナーとは仲が良かったですが、料理長とはうまがあわなかったので。私、ダメなんですよね。封建的な人って。」
 
 確かに、そんな事言っていたな。そして、マーガレットは続ける。

 「正直、職場の人より、近所に住んでいた人達との別れの挨拶の方が大変だったよ。同じ街に住んでいるとは言え、端と端。広い街なので毎日会えるわけではないですから……。職場も雇ってもらった恩があるから、不義理をしないために挨拶に行ったわけだし……狭い職場環境の中で実質ナンバーワンの人と揉めてる私が居なくなって清々する気持ちもわかりますしね。……料理は私が作った物の方がウケがいい。味も昔ながらの物しか作れない料理長のより良かったし、オーナーは私を気に入ってくれていたから、ほかの人は板挟みになってたんじゃないかな?料理長につくか、私につくか。私は正直、私は小さくても権力争いなんて興味もないし、美味しい料理を作ってお客さんに満足してもらえればそれで良かったんです。だから、ヤマトさんが人を募集してて、雇ってくれる。って言ってくれた時は本当に嬉しかったんです。ヤマトさんは人の意見もちゃんと考えてくれるし探究心もありありだから。一緒に働けたら楽しいだろうな?って。」

 どうやら、酒の力も入って、マーガレットは饒舌になってるようだ。

 「俺もマーガレットと仕事が一緒に出来て嬉しいよ。マーガレットみたいに、料理を探究するヤツってこの世界にはあんま居ないんだよな。お互いに頑張っていこうな。」
 「うん!」

 俺とマーガレットはがっちりと握手をした。

 「皆が、酒を飲み過ぎる前にもう一度、明日の確認をしておいた方がいいかな?」
 「……うん。その方がいい。もう、みんな分かっているとは思うけど、レイブンも……居るから。」

 そうだな。レイブンさんは昨日、ウチに来たばかりだ。レイブンさんには急な事だけど打ち合わせは聞いてもらおう。

 「それじゃあ、皆、少し集まってくれ。明日の最終確認をする。」

 俺の声にイリア達は集まった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?

gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。 そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて 「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」 もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね? 3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。 4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。 1章が書籍になりました。

魔法のせいだからって許せるわけがない

ユウユウ
ファンタジー
 私は魅了魔法にかけられ、婚約者を裏切って、婚約破棄を宣言してしまった。同じように魔法にかけられても婚約者を強く愛していた者は魔法に抵抗したらしい。  すべてが明るみになり、魅了がとけた私は婚約者に謝罪してやり直そうと懇願したが、彼女はけして私を許さなかった。

私ではありませんから

三木谷夜宵
ファンタジー
とある王立学園の卒業パーティーで、カスティージョ公爵令嬢が第一王子から婚約破棄を言い渡される。理由は、王子が懇意にしている男爵令嬢への嫌がらせだった。カスティージョ公爵令嬢は冷静な態度で言った。「お話は判りました。婚約破棄の件、父と妹に報告させていただきます」「待て。父親は判るが、なぜ妹にも報告する必要があるのだ?」「だって、陛下の婚約者は私ではありませんから」 はじめて書いた婚約破棄もの。 カクヨムでも公開しています。

〖完結〗その子は私の子ではありません。どうぞ、平民の愛人とお幸せに。

藍川みいな
恋愛
愛する人と結婚した…はずだった…… 結婚式を終えて帰る途中、見知らぬ男達に襲われた。 ジュラン様を庇い、顔に傷痕が残ってしまった私を、彼は醜いと言い放った。それだけではなく、彼の子を身篭った愛人を連れて来て、彼女が産む子を私達の子として育てると言い出した。 愛していた彼の本性を知った私は、復讐する決意をする。決してあなたの思い通りになんてさせない。 *設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。 *全16話で完結になります。 *番外編、追加しました。

政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~

つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。 政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。 他サイトにも公開中。

私も処刑されたことですし、どうか皆さま地獄へ落ちてくださいね。

火野村志紀
恋愛
あなた方が訪れるその時をお待ちしております。 王宮医官長のエステルは、流行り病の特効薬を第四王子に服用させた。すると王子は高熱で苦しみ出し、エステルを含めた王宮医官たちは罪人として投獄されてしまう。 そしてエステルの婚約者であり大臣の息子のブノワは、エステルを口汚く罵り婚約破棄をすると、王女ナデージュとの婚約を果たす。ブノワにとって、優秀すぎるエステルは以前から邪魔な存在だったのだ。 エステルは貴族や平民からも悪女、魔女と罵られながら処刑された。 それがこの国の終わりの始まりだった。

旦那の真実の愛の相手がやってきた。今まで邪魔をしてしまっていた妻はお祝いにリボンもおつけします

暖夢 由
恋愛
「キュリール様、私カダール様と心から愛し合っておりますの。 いつ子を身ごもってもおかしくはありません。いえ、お腹には既に育っているかもしれません。 子を身ごもってからでは遅いのです。 あんな素晴らしい男性、キュリール様が手放せないのも頷けますが、カダール様のことを想うならどうか潔く身を引いてカダール様の幸せを願ってあげてください」 伯爵家にいきなりやってきた女(ナリッタ)はそういった。 女は小説を読むかのように旦那とのなれそめから今までの話を話した。 妻であるキュリールは彼女の存在を今日まで知らなかった。 だから恥じた。 「こんなにもあの人のことを愛してくださる方がいるのにそれを阻んでいたなんて私はなんて野暮なのかしら。 本当に恥ずかしい… 私は潔く身を引くことにしますわ………」 そう言って女がサインした書類を神殿にもっていくことにする。 「私もあなたたちの真実の愛の前には敵いそうもないもの。 私は急ぎ神殿にこの書類を持っていくわ。 手続きが終わり次第、あの人にあなたの元へ向かうように伝えるわ。 そうだわ、私からお祝いとしていくつか宝石をプレゼントさせて頂きたいの。リボンもお付けしていいかしら。可愛らしいあなたととてもよく合うと思うの」 こうして一つの夫婦の姿が形を変えていく。 --------------------------------------------- ※架空のお話です。 ※設定が甘い部分があるかと思います。「仕方ないなぁ」とお赦しくださいませ。 ※現実世界とは異なりますのでご理解ください。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

処理中です...