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新しい日々の始まり

新しい日々の始まり 4

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 「コーチから奪えば!そうしたら、もう1点追加だ!」

 アタッキングサードからやっとの思いでかき出したボール。
 俺の後ろには無人のゴール。
 Bチームの選手達は獲物を見つけた野獣のように俺に向かって突っ込んでくる。
 まあ、そうだな。俺以外、ゴールキーパーも含めて上がってるし、取られてゴールに向かって蹴られただけでも失点だ。
 でも、冷静さを欠いた相手なんてかわすのは簡単。
 ひらりと闘牛をかわすようにドリブルを進めたり、身体を左右にふるボディーフェイトで簡単にかわす。
 はたまた、みんな、考え無しに突っ込んでくるからパスコースなんて幾つも出来る。視線を味方に向けキックフェインを一つするだけで簡単に抜ける。
 剣術などをやっているせいもあるんからだろうか?身体の動きや視線にはかなり敏感に反応する。
 サッカーに慣れてないせいでかなりオーバーにリアクションをするけど、もっと冷静になれるように教えないとな。剣術なんかでそれが出来るんだから、習得は早いだろう。
 次々と簡単なフェイントでかわし、あっという間にペナルティーエリア前にやってきた。後はDF二人とキーパーだけ。後ろからはその他の選手が物凄い勢いで追いかけて来ている。イリアにでも言われているのだろう。諦めが悪い。良いことなんだろうけど、ただ、全員が俺に来るとは……。教える事は、多すぎるくらいあるな。
 それにしても、流石にステータスの恩恵もあって足は速い。DF二人とキーパーを抜くまでに囲まれたらどうしようもないな。
 距離も余裕で射程圏内だし。エルフは遠距離砲も好きだろう。
 俺は右足を一閃した。


 ハア、ハア……ハア。
 サッカーの試合を途中で抜け出し、俺は全速力でエルヘイム城へたどり着く。
 ちょっと疲れた……いや、強がった。滅茶苦茶、疲れた。
 俺自身、ゲートの魔法なんて使えないし。イリアに頼んで使って貰っても良かったのだけれど、まだ試合中だったし。
 城門前で両膝に手をついて、呼吸を整えていると、足音が聞こえた。
 
 「あら、あら、まあまあ~。そんなに汗をかいて……。走って来たのですか?ヤマト君??お疲れ様です。これをどうぞ。」
 「ありがとうございます。エターナさん。」

 差し出された瓶を俺は受け取る。
 瓶はキンキンに冷えており、口にしたドリンクはスッと体に馴染んでいく。
 どうやら、冷やしたポーションだったようだ。
 体力は一気に回復する。

 「イリアはゲートで送ってくれなかったの~?」
 「まだ、試合中でしたからね。監督で忙しいだろうし、良い運動になると思ったんですけど……予想より遠くて……。」
 「あらあら、まあまあ~。無茶しちゃって。ヤマト君は、若いわね~。」
 「エターナさんも変わらないじゃないですか?年齢。」
 「あらあら。そうだったかしら?いけないわね。救護班長を辞めてから、小さい事は気にしなくなって……気がゆるんでいるのかしら??」

 流石、見目麗しいエルフ。少し困ったような表情も絵になる。
 ちなみに、エターナさんはイリア達と同じ王宮所属の救護班長だった人だ。エリが辞めた事で、どうせなら騎士団長と救護班長も辞めて、副長同士がそのまま昇格し、新しく組織した方が上手くいくだろうとの事で退役したのだ。
 そしてまた、ちなみに、ハセンとエターナさんは退役を機に結婚している。
 仲も良く、同じ王宮所属の長だったイリア達が結婚式に呼ばれていないという事は、この世界自体に結婚式というモノ自体がないのかもしれない。

 「ヤマト君、息は整ったかしら?」
 「はい。大丈夫です。お待たせしました。」
 「よろしい。では、厨房へ向かいましょうか?早くしないと、ターニャちゃんが待っているわよ。」
 「分かりました。急ぎましょう。」

 俺達は、城の厨房へと急ぎ、足を向ける。

 「ところで、ハセンはよくやっていたかしら?」

 急ぎ足でも、やはり自分の夫の事は気になるのだろう。

 「はい。ちゃんと指導して、監督してましたよ。」
 
 それを聞いて、エターナさんは嬉しそうな顔をする。
 ちゃんと監督してた。とか、言い方が少し変だったかな?
 まあ、イリアに比べたら負けていた分、落ち着いてはいなかったけどね。

 「うふふ~ぅ。それは、良かったわぁ。あの人も退役してから、大学の講師になったはいいのだけれど……イマイチ、ぼ~ぅ。としていたから、心配していたのよ。何か張り合いがない感じで……。でも、ここ1ヶ月はサッカーの指導を始めてから、少し生き生きしてきたのよ。これも、ヤマト君のおかげね。」
 「いやいや。俺としても監督をやって貰える方が居て良かったですよ。それに、イリア達も久しぶりにハセンと競える事を喜んでましたよ。」
 「うふふ。それは羨ましいわね。イリア達と私もまた競い合いたいわね。あの頃の熱は、なかなかに味わえないもの……。」
 「それなら、エターナさんもサッカーを覚えますか?」

 俺の提案にエターナさんは手をブンブンと振り。

 「私は、運動が得意じゃないから~。サッカーは無理よ~。」
 「運動出来なくても、監督は出来ますよ?イリアも運動は得意じゃないでしょ?」

 俺なんかより、スキルのおかげで身体能力などは上だけど。

 「あらあら?そうなの??……でも、せっかくのお誘いだけれど、私はサッカーはいいわ~。その代わり、こっちの方でターニャちゃんと競う事にするわぁ~。ハセンもその方が喜ぶだろうしぃ。」

 エターナさんはそう言い、目的地である厨房の前に立ち止まり、指を指した。
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