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伝えたかった事。伝えたい事。

伝えたかった事。伝えたい事。6

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 時は少しだけ遡る。
 俺は、ゼウス様と対戦し負け、気を失った。
 そして、気が付いたら、天使ちゃんこと、ラファエルさんと共に小部屋に監禁されていたのだ。
 そこは不思議な空間で、見渡す限り、まるまる、部屋の外の景色が見れるのだ。ラファエルさん曰わく、外からはこの部屋は見えないらしい。
 それから、程なくして、イリア達とゼウス様の戦いが始まった。
 普通に話し声も聞こえるし、戦闘の衝撃や音も聞こえる。それはもう、凄まじいものだった。俺に似た何かがゼウス様に胸を貫かれたシーンなんて、鳥肌ものだった。
 そして、最も衝撃的だったのが、キレたイリアだ。ゼウス様をたこ殴りにしている時は背筋が震えたよ。イリアを怒らせるのは止めよう。そう密かに思った瞬間である。
 結果的には、イリア達がゼウス様を退け、ボロボロになったゼウス様は俺達が居る部屋へやってきて言った。
 「あたたたた。久しぶりに倒されてしまったばい。少し回復するまで、ここに居ろう。」
 「お疲れ様でした。ゼウス様。」
 ラファエルさんは、ゼウス様に飲み物を渡した。
 「すまんね。天使ちゃん。」
 それを飲んだゼウス様の傷は一瞬で綺麗になり、服まで綺麗になった。
 な、なんだ!?その飲み物!?
 「いや~。参った~。神弓に、勇者の魔法剣。あれは、やばかね。普通にわしにダメージば与えるとは……まあ、一番驚いたとは、イリアちゃんの力ばってんね。『赤化の暴走』……これほどやったとは……。そりゃ、普通のエルフが束になっても敵わんばい。」
 ゼウス様はラファエルさんから飲み物のおかわりを貰い、飲みながら言った。
 結局、ゼウス様は何をしたかったのだろう?
 「ゼウス様は、いったい何をしたかったんです?」
 俺はたずねる事にした。
 「ん?そうね。ヤマトから『獣人移住計画』ば断られたけん、この計画は頓挫したわけよ。仮に心臓ば移植させた獣人ば移住させても、あっという間に駆逐されてしまう。それやったら、移住させる意味もなかけんね。だけん、わしは、お前で遊ぶ事にしたん。」
 「俺で?」
 「そうたい。一番簡単な遊びは、お前たちと戦う事。」
 遊びが戦う事……?
 「まあ、普通に戦っても面白くなかけん、本気ば出してもらおうと思って。色々考えよって。そしたらね。流れ的に、『神ドッキリ』が出来る流れになったやなかね。」
 「『神ドッキリ』?」
 「そぎゃんたい。『神ドッキリ』。まあ、過激なドッキリやね。普通のもんには出来ん、神による神だけが出来るドッキリ。生身にそっくりな人形とか、普通は用意出来んやろ?」
 ゼウス様はニヤニヤと笑いながら言う。
 あれはやっぱり人形だったのか。
 「ただの、クソドッキリですよ。」
 天使であるラファエルさんは天使らしからぬ悪態をついた。それ程、内容的にはよろしくないのだろう。
 まあ、イリア達はあの人形が俺だと思っているしな。
 しかし、ゼウス様はラファエルさんの言葉を聞いて盛大に笑い声を上げた。
 「それが良かとよ。神にしか良さの分からん、至高のドッキリ。あの、やられた奴の顔ば見たことなかけん、分からんとよ。あの、え?なんで??ええ!?みたいな顔。普通の『ビックリした!』じゃなか、あの呆気にとられた表情。その後のビックリした様子。あれは見たもんにしか分からんとよ~。」
 ゼウス様は下賤な笑みを浮かべる。ほんと、神ってろくなやつしか居ないのだろうか?
 どうやら、ラファエルさんもその神の顔を見て、げんなりしているようだ。
 「まあ、わしの計画はこんなもんやけど、ちゃんとヤマト達にはその対価ば払うけん。」
 「対価?」
 「そぎゃん。対価たい。こん、神ドッキリには対価ば支払わんといかんルールがあるんよ。まあ、本来なら相手には、その対価の意味とか価値は分からんとやけどね。」
 え?それなら、対価の意味、無くない?
 分からない?という表情を浮かべていると、ラファエルさんが教えてくれた。
 「神がやった事ですので、実際にエルフや人間などには、ドッキリだと言う事が普通は分からないのです。神は本来、姿を見せる事はほとんどありませんし、見せて行う事自体、稀ですから。神は不可視化して、その現場をダイレクトで見るのが楽しいらしいです。悪趣味な事に。そして、起こる事が奇跡的な事になりますから、驚く姿というのは、それはビックリしたものになる事でしょう。」
 「そぎゃんたい。あれは見物よ~。神の中では、やられたら嫌な事のツートップやけん。」
 「は、はあ………。」
 なんか、よく分からないんだけど?
 「まあ、今回の対価は、『赤化の暴走』の確証が得られた事やね。女王やターニャちゃんの仮説が立証されたって事。あと、ヤマトとララちゃん、アリシアちゃんの武器ば壊してしもたけん、それの保証かな。それと、ヤマトに対する、あん娘達の想いが分かる事かな?まあ、わしが仕組んでケンカさせてしもうたけん、仲直りの手伝いって事で。」
 ゼウス様がそうこう言っていると、イリア達が俺の人形に向かって何か言い始めた。
 …………。
 ………。
 ……。
 ちょっと恥ずかしいけど、聞けて良かったかも。これじゃ、イリア達の事は怒れないな。別に、元の世界に未練はなかったし。ずっと想って貰えていた事は、正直、嬉しい。
 イリア達が再び沈黙に入った時、ゼウス様は俺に向かって言う。
 「んじゃ、わしはもう一つ煽りしてくっけん、あん娘達の視線がわしに集中した時、ヤマトは天使ちゃんと出て来て、あん娘の名前ば呼んでくれんね。」
 そう言い、ゼウス様は行った。
 そして、現在に至る。
 「……なんで失敗したん?完璧やったはずなのに……。あれか?念入りに計画ば立てずに、流れに任せて、神ドッキリに切り替えたけん?一瞬、呆気にとられてたやん?ビックリはどこにいったん?」
 ゼウス様は頭を抱えて考え込む。
 まあ、それは俺には分からない。確かに、呆気にはとられていたけど、普通に考えれば、その後、え!?ええ~!?とか驚きにはならずに、喜ぶのが普通のような気がするんだが……神様の考えるドッキリはよく分からない。神同士でやるなら、話は違うのかもしれないけど……。
 それより、俺はイリア達をなだめるのが大変だわ。
 ラファエルさんも、ゼウス様の事は放っているし、なんか、このままじゃ、空気になっちゃうんじゃね?ゼウス様??
 そんな事を考えていると、ラファエルさんがゼウス様に言う。
 「ゼウス様。そろそろ会議の時間でございます。」
 「え……あ、ああ。会議ね……。会議。」
 どうやら、まだゼウス様は心ここにあらずのようだ。どうせなら、今のうちに、下界へ帰して貰おう。武器の保証がどうとか言ってたけど、武器は買い直せばいいし、何か面倒くさい事言われたりする前に。
 イリア達と話をするのは、下界に帰ってからでも出来るしな。
 「あの。会議という事なので、俺達を帰してもらっていいですか?」
 「あ、ああ。そうやね。」
 おっ!やった!!
 ゼウス様は俺達に向かって手をかざしす。すると、俺達は光に包まれた。
 そして、光が消え、気が付くと、俺達はサイラムの洞窟に居た。どうやら、天界からの帰還には成功したようだ。
 
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