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確かなモノは闇の中……

確かなモノは闇の中………16

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 光に包まれたゼウス。その光がおさまり、姿を現す。
 全身は白くうっすらと発光し、薄紫色のいかずちを纏い、ピキッピキッやバチッバチッと嫌な音をさせる。
 「ちょっとばっかし手加減はしてやるたい。」
 ゼウスは右手に持っていた、ケラウノスを離す。
 すると、ケラウノスは消えた。
 「ケラウノスば使うと簡単に殺してしまうけんね。それじゃ、神への不敬。その身ばもって償うがよかよ。最初は、少しエッチか事ばして、からかってやるだけのつもりやったけど、もう許さんばい!」
 そう言い、ゼウスは一瞬でエリとの間合いを詰め、目の前でわざとらしく止まる。
 「チッ!」
 エリはその姿に苛立ちを露わにし、反射的に拳を繰り出した。
 しかし、その拳は幻を貫き通し、エリの腹には鈍い衝撃が走る。
 「ガハッ!」
 エリは腹を押さえ、両膝を地面に着く。更に間髪入れずにゼウスはエリの顔に蹴りを見舞った。
 その衝撃でエリは横に薙払われる。
 「エリ!!」
 イリアの声がとっさに声をあげる。
 「ララって子にもしたように、わし、女の子でも容赦なく、顔でも腹でも蹴ったり殴ったりするけんね。わしば殺す気で掛かって来んと死ぬばい。ククク。」
 ゼウスはイリア達を見渡し、悦に浸るように意気揚々と言う。
 その隙に、ララはエリを抱きかかえ、ターニャの所まで下がり、ターニャの側に居たアリシアが、ゼウスとの戦いでは、前衛としては役に立たないであろうイリアの救出に向かう。
 それを見たターニャはすぐさま、エリに回復魔法を施しながら、イリアに言う。
 「イリアお嬢様!早く、後方へ!!」
 アリシアが自分の為に行動したのが分かったイリアはターニャの言葉に従い距離を取ろうと走りだした。しかし。
 「遅かばい。」
 ゼウスに背を向けて走りだしたイリアの背中にそう声を掛け、ゼウスは背後からイリアに容赦なく蹴りを見舞う。
 「うぐっ!」
 イリアは声にならない声を出し。転がり落ちるような凄い勢いで転がって行った。
 「ちょっと!ほんとに女の子にも容赦なくない!?」
 イリアを助ける事に間に合わなかったアリシアはそう文句を言いながら、ゼウスに短剣で切りかかり、それをゼウスは拳で迎え撃つ。
 「当たり前たい。戦いに男も女もなかろうもん?」
 拳と短剣はぶつかり合い、キン!キン!と金属のぶつかり合う音がする。
 「ちょっ!なんで生身の拳でそんな音させてるのよ!?」
 「そりゃ、強化されとるけんよ。」
 「それじゃ、説明になってないよ!」
 文句を言いながらアリシアはゼウスに攻撃を撃ち込む。
 しかし、アリシアの攻撃にゼウスの拳は傷一つつかない。それどころか、戦いの現場に復帰したばかりのアリシアの持つ安物の短剣では逆に負けてしまい、ピキッと無情な音を立て、短剣は呆気なくその役目を終えた。
 「そんな!?」
 アリシアはそう言い、使い物にならなくなった短剣を捨て、腰にある投擲用のナイフを両手に構え、切りかかる。
 しかし、そのナイフも儚い音を立て、簡単に折れてしまった。 
 「残念やったね。」
 そう言い、ゼウスは容赦なくアリシアに拳を叩き付けようとする。
 その瞬間、横からララが凄い勢いでゼウスに切りかかる。
 それをゼウスは片手で受け止め、その衝撃で衝撃波が発生し、アリシアは、その衝撃波に少し吹き飛ばされた。
 ゼウスはニンマリと笑いながらララに言う。
 「ほう。さっきとは違うばいね。」
 その言葉にララは淡々と答える。
 「……うん。さっきとは違う。闘気を剣に纏わせた。……これからは、殺す気で……いく。」
 その言葉に、吹き飛ばされたアリシアは表情を強ばらせ、何かを覚悟したように立ち上がり、ブツブツと呟く。それを見たララはゼウスに向かい、構えなおしてた。
 「ふん。……よかと?『魔法剣』やなくても?」
 「うん……。大丈夫。」
 「そうね?そのための、ミスリル製やろ??」 
 「そう……だけど、大丈夫。」
 ゼウスはどうやら、ララの奥の手を知っているのだろう。ララに奥の手を使わなくてもいいのか?と確認する。しかし、ララはそれを拒否して、ゼウスに切りかかる。
 
 最初の攻防とは打って変わって、一撃一撃に殺気がこもっているのが、その衝撃と音で分かった。
 アリシアの時の甲高い金属音とは違い、鈍く重い音。それと共に衝撃波が起こり、迂闊には近付けない。当たれば、お互いに只では済まないだろう。
 そんな攻防の中、回復したイリアとエリ、そしてターニャはアリシアの元へより話し合い。アリシア耳打ちした。その後アリシアはララに声を掛けた。
 「ララ!いけるよ!!」
 ララはその言葉を聞き、飛び、ゼウスから距離をとり、イリア達の元へ向かう。
 そして、アリシアは叫ぶ。
 「『デスホーリーフェザー』!!!」
 バンシーだけが使える死属性魔法。文字通り、アリシアはゼウスを殺しにかかった。
 白と黒を半々にした羽が空から落ち、ゼウスに当たる。
 普通ならこれで全てが終わる。
 アリシアは小さく微笑んだが、ゼウスは倒れない。それどころか、何事もなかったかのように、首を回し言った。
 「残念やったね。神には死属性魔法は通じんとよ。お前達と存在自体が違うけん。」
 「効けば儲けものって思ってましたから、そんな事は、計算済みです!『ヘルフレイム・コフィン』!」
 ゼウスの言葉に、そう言い、イリアは魔法を放つ。
 隻眼のワイバーンの時は魔力調整が出来ず、大型モンスター用だったが、ヤマトとの特訓のおかげで調整が出来るようになり、今は範囲を調整出来るようにまでなっていた。
 棺のような檻で出来た圧縮空間はゼウスの全身を覆い、その中でゼウスは黒炎に焼かれ始める。
 黒い炎はゼウスを完全に飲み込み、その姿は見えなくなる。圧縮された空間で、黒く、黒く、激しく、燃え盛っていた。
 果たしてあの空間は何℃になっているのだろう。竜の鱗も容易く溶かしてしまうくらいだからかなり高温なのだという事は簡単に分かる。しかも、この黒炎は燃やし尽くす対象が燃え尽きると消える仕組みになっている。
 しかし、黒炎が鎮火する様子は見られない。ゼウスは燃え続けているという事だ。そんな中、イリアはターニャに声を掛ける。
 「よし!今です!!ターニャ!!!」
 イリアの声にターニャがこたえる。
 「『ウォーターキャノン』!」
 黒く燃え盛る炎の檻の中、物凄い勢いの水魔法がぶち込まれ、圧縮された空間は耐えれず、爆発を起こした。水蒸気爆発だ。
 その爆発に巻き込まれないように、エリが障壁を張り、みんなを守る。
 「圧縮空間の中だけの爆発でおさめたかったのですが……。まだまだ、修行が足りませんね。」
 「それは仕方ないさ。これが終わったら修行しようぜ。それより、これで倒れてくれるといいんだがな。」
 イリアとエリはそう言いながら、前を見据えた。
 そして、煙りが晴れ、ゼウスの姿が見える。
 遠くからではよく確認出来ないが、四肢は吹き飛んでいないらしい。しかし、ゼウスは横たわっていた。
 「やったんじゃない?」
 そう言い、アリシアの表情は明るくなる。
 「そうですね。あの炎と爆発の中で外傷が見られないのは恐怖でしかありませんが。ダメージはあったようですね。……。」
 ターニャも無傷ではないだろう。と、倒れているゼウスを見て言う。
 しかし、次の瞬間。
 「あ~~、いたたた。自慢のヒゲの少し焼けたやなかね。どぎゃんしてくれると?」
 ゼウスは顎髭をさすりながら起き上がる。
 「………そんな。あれだけの攻撃を受けて、ヒゲが少し焼けただけ?」
 明るくなっていたアリシアの表情は一瞬で曇る。
 「『アイシクルランス』!!!」
 ターニャは、もしもの時を考えていたのだろう。予め詠唱を終わらせ、ゼウスの現状を見るなり魔法を唱える。
 先ほどとは違い、今度は十本の尖った氷柱が姿を現した。
 「これでも食らいなさい!」
 アリシアはゼウスに向かい、魔法を放つが。
 「『稲妻よ』」
 しかし、ゼウスはこれを先ほどと同じようにあっさりと稲妻で相殺した。
 「そろそろ、わしも反撃といこうかな。『裁きのいかずち』。」
 そう言い、ゼウスは右手の指を広げ、右腕をそのまま天にかざした。  
 すると、薄紫色の雷が、轟音と共に雨のように天から降り注いだ。
 イリア達の声や悲鳴は雷の轟音で聞こえない。  
 どれくらい、雷の轟音が続いただろう。時間にすれば一分にも満たない。しかし、それは全てを壊すには十分な時間だった。
 辛うじて、ララが剣を支えに片膝を着いていられた程度。イリアとエリは這いつくばり、顔を上げるのがやっとの状態。ターニャは大きく息を吸える程度の生命力は残っているが、この中で、身体補助スキルなど少ないアリシアはもう虫の息だった。うわごとのように、ヤマトの名前を呼んでいる。
 その状況を見て、ゼウスは、さもつまらなそうに言葉を投げ捨てる。
 「ふん。やっぱり、こんなもんかね。出し惜しみなんかするけん……。ああ……つまらんね。つまらん。」
 そして、ゼウスは何かを考え込む。
 「そうたい。よかこつば思い付いたばい。」
 そう言い、ゼウスはおもむろに見えない壁の向こうに行った。そして、ヤマトの所へ行き、襟を掴んで連れて来る。ヤマトのその姿にはまるで生気を感じられなかった。
 「……何を……するき?神ゼウス……??」
 要らない物を運ぶようにヤマトを連れて来たゼウスにララは動けない状況でたずねる。
 「ん~?よかこつば思い付いたったい。もう、お前ら、あと一発でも『裁きのいかずち』食らったら死ぬやろうもん?それに、アリシアちゃんはもう虫の息やん?さっきからヤマトの名前しか言いよらん。だったら一緒に逝った方があん娘も幸せやろうと思って。」
 その言葉を聞いて、イリアとエリは必死に顔を上げて言う。
 「……止めて下さい……神ゼウス。それ……だけは……。」
 「……止めろ……。いや、止めて……下さい。神ゼウス……。オレなら……どんな事をされても……いいですから。お止め下さい……神ゼウス。」
 イリアとエリはゼウスに懇願する。しかし。
 「ん~~。わし、エリちゃんの身体には興味なかし、イリアちゃんのお願いば聞く義理もなかとよ。わしは、わしのしたいようにする。そっだけたいね。」
 ゼウスはそう言い、薄ら笑いを浮かべ、左手でヤマトの首を掴み上げ、右手で躊躇無くヤマトの心臓を貫いた。
 目の前で繰り広げられた惨劇に、ララとエリは言葉を無くし、言葉にならない悲鳴と共に大量の涙を流す。
 一方、イリアは赤い目を見開いたまま、時間が止まったかのように固まっている。そして、現状を拒絶するように、大粒の涙と一緒に絶叫した。
 「イヤーーーーーーーーーーーー!!!!!」
 絶叫と共にイリアは自分の中にある、確かなモノが闇の中に消えていく感覚に襲われた。
 
 
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