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確かなモノは闇の中……

確かなモノは闇の中……6(イリア編)

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 引き留める事の出来なかった私は、無意識に『ゲート』を唱え、王都の家の玄関まで帰っていた。
 頭の中では、自問自答を繰り返す。
 ああ……私は、何をやっているのだろう?
 そう思う度に、虚無感と喪失感に支配され、ただ立ち尽くすだけで、目の前にあるチャイムすら押せずにいた。
 それでも、考える事を止められない。
 何で言葉が出なかったのだろう?それに、なんで忘れる事の無かった、ヤマト様と出会った日の記憶を忘れていたのか……。
 様子のおかしいヤマト様を気遣う事も出来ず、今思えば、薄気味悪い笑みを浮かべるだけしか出来なかった。
 なんで、ヤマト様の記憶が蘇ったか。それは、今は置いといていい。
 弁解する事もなく。……いや、弁解は聞き入れて貰えないかもしれない。
 しかし、横を通り過ぎるヤマト様の腕を掴んで、話を聞いて欲しいと懇願する事は出来たはず。ターニャや女王様の疑いは解けたはずだ。
 それなのに、私は身動き一つとる事も出来なかった。
 ……情けない。
 私とヤマト様はこれで終わってしまうのだろうか……。
 引き留める事も出来ない……。いや、私には、引き留める権利も無い……か……。
 結局、私が嘘を付いていた事には、変わりないのだから……。
 バレれば、こうなる事は予想出来ていたのに……。
 この一年の思い出が走馬灯のように流れて、涙が溢れてきて、止まらない。
 せめて、こんな日くらい、雨が降ってくれれば涙をごまかせたのに……夜空には痛いくらい輝く星が私をあざ笑っているようだった。
 いや、あざ笑っているのは、自分自身か……。
 ……はは……ははは……はははは。
 私はいったい、どうしたらいいの……。
 それに何で私は、王都の家に戻って来ているのか……。
 本当にどうかしてる……。
 答えの出ないまま、玄関のドアは不意に開いた。
 「誰か居るのかい?……こんな時間に??」
 ……エリだ。
 私はエリと目が合う。
 エリは一瞬、目を見開き、驚いた表情をしたが。
 「イリア……あんた……酷い顔だよ。何があったか知らないけどさ。早く家に入りなよ。」
 そう言い、私を家の中へ入れてくれた。
 
 リビングに入るなり、みんなが私の方を振り返る。
 どうやら、今日は珍しくマーガレットが夜のこの遅い時間まで居るようだ。
 それにしても、何だろう?みんなの表情が曇っている。
 「……イリア。おかえり。」
 うっすらと笑い、私を見つめるララの瞳は充血していた。
 いや、ララだけじゃない。さっきは暗くて分からなかったけど、エリの瞳も充血している。ターニャにアリシアもだ。
 「ヤマト君はどうしたの?」
 アリシアは私とヤマト様が一緒でない事に気がついて、その事をたずねる。
 私は、その事に何と言っていいか、まだ整理がつかず答えられずにいた。そして、はぐらかし話を変えるように言う。
 「珍しいですね。マーガレットがこんな時間まで居るなんて。」
 「あ……うん。アリシア達から相談を受けてね。」
 マーガレットは私にそう返す。
 「……相談?」
 私は空いている所に腰を下ろしてたずねる。
 「うん。なんて言ったらいいんだろう……。みんなから同じ相談を受けたの。ヤマトさんが何かに悩んでいるのに、声を掛けれない。掛けようとすると、変な笑顔を向けるだけになっちゃうって。」
 やっぱり、みんな、私と似た感じになっていたんだ。
 「でさ。みんなで、この家に帰って来た時に泣き出したの。何がなんだか私にも分からないから、ずっと慰めていたのよ。」
 正常な判断が出来るようになったって事かな。
 「それで、イリア。ヤマトさんはどこに行ったの?みんな、謝りたいって言ってるんだけど?」
 マーガレットだけでなく、みんながヤマト様を探している。もう、言い訳は出来ない。いや、言い訳をしようとした事自体がいけなかったのかもしれない。
 「ヤマト様は……麗月を片手に出て行ってしまいました。」
 それを聞いた瞬間、マーガレット以外の子達が泣き出した。一様に、自分が悪いと言いながら。
 みんな、ヤマト様が悩んでいる時に声を掛けられなかった事を悔やんでいるのだろう。
 でも、実際はそうではない。
 あれは、私が嘘をついている事、私が計画通り罠にハメてこの世界の住民にした事が分かったから。幼い頃の記憶が戻ったから。女王様やターニャが、私と共犯関係にあると誤解したからだ。
 みんな、私がこの事を言ったら、軽蔑するかな?
 いや、それだけの事をしたんだ。軽蔑されても仕方がない。真実を話そう。
 「ヤマト様が出て行ってしまったのは、みんなのせいではありません。それは、私が………………。」

 これまでの事をみんなに全て話した。
 罵倒されると思ったけど、誰も何も言わない。
 そんな中、ターニャが意を決したように口を開いた。
 「……実は、私や女王様もイリアお嬢様と共犯なのです。いや、黒幕は私や女王様だと言っていい。ヤマト様が疑っていた事は事実なのです。」
 そう言い、ターニャも私達に全てを話してくれた。
 自分が私にヤマト様をハメるように誘導した事。
 女王様がヤマト様と私を計画的に再び引き合わせた事も……。
 ヤマト様が疑っていた事は、全て事実だった。
 もう、私達に申し開きできないかもしれない……。
 「もう、私とターニャは終わりかも……しれませんね。」
 私は、零れ落ちる涙と共に、ポツリと呟いた。
 それを聞いたターニャは、嗚咽をかみ殺せず、また泣き出した。
 ターニャがこんなに泣く事自体が珍しい。それだけ、ヤマト様に思い入れがあるのだろう。
 もう、本当に諦めるしかないのかな……。
 終わりかもしれない。と、絶望を口にしたのに、希望は捨てられないでいる。
 今日はこんな感情ばかりだ。悪いのは私なのに……。
 うつむいて泣いている私とターニャに、パチンという音が響き、私の両頬に、軽い痛みが走り、私は顔を上げた。
 「……イリア。あんたは、それで本当にいいのかい!?」
 私の頬を叩いのはエリだった。
 そして、ターニャの頬には、ララとアリシアの手が添えられている。
 「……ターニャも、それでいいの?」
 「そうだよ。諦めるの?」
 その問い掛けに、ターニャは答える。
 「……諦めたくないです。いえ……せめて、話をしたい。もう……一度会いたいです。」
 そう。私も一緒だ。
 「イリアはどうなんだい?」
 「私も……諦めたくない。ちゃんと話をもう一度したい。謝りたいです。」
 その言葉にエリはにっこりと微笑んで言う。
 「よし!それなら、主様を探しに行くか。それとね。言っとくけど、私はあんたらに感謝してる。」
 「え?どうしてですか?」
 「だって、あんたらが、主様をこの世界の住民にしてくれなかったら、オレ達は主様に出会えなかったんだからね。それに、オレがイリアと同じ立場だったら同じ事をしたと思うし。ターニャだって、イリアの事を思ってやったんだ。主様にちゃんと伝えれば分かってもらえるさ。」
 「うん。そうだね。ボクも同じ事をしたと思うし、ヤマト君と出会えた機会をくれた事には感謝してる。」
 「……私も同じ気持ち。……それに、私達は、家族。これから先、マスターに家族が増える事があっても良いけど……減るのは許さない。私達で家族なんだから。」
 アリシアとララも口々に言う。
 そうだ。私達は家族なんだ。ヤマト様がそれを拒絶するかもしれないけれど……。もう一度、会って話をしなくては……。
 「いいかい?イリア。ターニャ。主様に会ったら、言い訳をせず、ちゃんと話して、今の自分の気持ちを伝えるんだよ。そして、オレ達も主様が辛かった時に何も出来なかった事を謝ろう。いいね。」
 エリの言葉にみんな、頷いた。
 「ほら、話がまとまったなら、善は急げって言うじゃない?猪突猛進のエルフらしく、ぶつかっておいで。明日のお店の事は、私に任せていいから。早く行った、行った。」
 マーガレットに背中を押され、私達はヤマト様を探しに出掛けた。
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