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スプリンティア

スプリンティア1

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 やっぱり、ヤマト君のからあげは最高だ。
 どういった原理か分からないけれど、これを食べた日は、不思議と悪夢は見ない。
 美味しくて、幸せになる。そして、悪夢を見ない。一度で二度おいしいとはよく言ったものだ。いや、三度おいしいだろうか?
 でも、なんでだろう?古傷が痛む。今まで痛む事はなかったのに……。ギシギシ……ミシミシと真綿で締め付けるようにゆっくりと痛みが増していく。
 耐えられない痛みではないのだけれど……嫌な感じ。
 これは何かの前触れなのだろうか?
 いやいや。そんな事を考えても仕方がない。来週はいよいよ、お祭りなのだ。 気合いを入れなくちゃ。
 ボクはカーテンを開け、窓の外を見る。
 まだ寒さの残る早朝の街。まばらに行き交う人達は、寒さで体をしぼませながら歩いている。それでも表情はこれから訪れる春を思い、ほころんでいるようだった。 

 この世界の冬はなかなか寒い。いや、この国か。
 雪も降れば、ホワイトアウトにならない程度に吹雪もする。積雪もするし、街の大広場にある噴水も凍る。
 魔王様の住むディアネロ火山は……まあ、これ以上なんだけど。
 そして、真冬になって俺が思った事。
 エルフというのは、なかなかにたくましい。雪が降ろうが、吹雪いていようが、生活魔法のおかげでお店にはやってくる。そして、もちろん、冒険者はダンジョンへ赴く。
 これだけ雪が降るのだ、客足は遠のくだろうと予想していたのだ。しかし、おかげさまで、店は赤字になる事はなかった。
 そして、その冬も終わりを告げようとしている。来週はいよいよ、春の訪れを祝う祭り「スプリンティア」が開催するのだ。
 話は少し戻るのだが、ラックスターの件から、もう一ヶ月以上が過ぎ、あの件でアリシアも、うちで働くと言い始め、ギルドに退職届を出した。
 うちで働いてくれるのは、ありがたい事なのだが……現状、今の店舗では人員過多なのだ。今、建てている、新しい店舗兼住宅。それが完成すれば人員は不足する。それまでは、ギルドで働いてもらう事になった。
 そして、今、アリシアは後進の指導にあたっている。
 「ラディアット。その書類は確認後、主任の所へ。それが終わったら、このクエストをクエストボードに張り出して。」
 「はい!分かりました。アリシア先輩。」
 アリシアの後任受付嬢、ラディアットさんはアリシアの指示に従い、業務をこなしている。
 「あ。ヤマト君、いらっしゃい。今日はどんなご用件?」
 アリシアは俺に気付くと、にっこりと微笑みを浮かべながら声を掛けてくる。
 「おう。アリシア。少し、アリシアに相談があってな。でも、今はまだ忙しそうだから、あっちの席でお茶でも飲んで待ってるよ。」
 「うん。分かった。もう少しで終わるから~。」
 アリシアはそう言い、俺に手を振りながら仕事に戻った。ちなみに、ギルド内には酒場併設されている。酒はもちろん、紅茶や朝食なども食べられ、冒険者には人気だった。
 それにしても、あれだな。この酒場にも揚げ物が出るようになったから、俺も少しはこの世界に貢献しているのだろう。この前までは、サラダや焼いただけの魚や肉ばっかりであんまり美味そうな匂いはしなかったのに、今は昼食時とあって、いい匂いがする。
 「お待たせ。ヤマト君。」
 そんな事を考えていると、仕事を終わらせたアリシアが俺の向かいの席に腰を下ろした。
 「おう。お疲れ様、アリシア。」
 「ありがと。ところで、相談って何?」
 「そうだな。丁度、昼時だし、飯でも食べながら話そうか?」
 俺の言葉に、アリシアは嬉しそうする。そして。
 「うん。そうする。あ、でも、イリア達は呼ばなくていいの?」
 どうやら、アリシアはイリア達の事を気にかけてくれているようだった。
 「いや、今日からしばらく、イリア達は神々の気まぐれが起きたらしくって、王宮に呼ばれているんだよ。」
 「え?そうなの??イリアとエリは分かるけど……ララは??」
 「いや、それがな……ララも呼ばれたんだよ。」
 そう。イリアやエリは元・各隊の隊長だから、有事の時は招集すると言われていたけれど……今回は、元・勇者のララまで呼ばれていた。もちろん、ターニャさんも公務として呼ばれている。
 俺がこの世界にやってきて、イリア達が呼ばれる事はなかったのに……ララまで呼ばれるとは……かなりの問題が起こっているようだった。
 「それは……心配だね。ララまで呼ばれちゃうなんて……。」
 アリシアも同じ事を思ったようだ。

 雑談をしながら昼食を食べ、食後の紅茶を飲みながら、本題へ入った。
 「それで、相談なんだけど。」
 「うん。何?」
 「スプリンティアの事なんだ。」
 「って事は、スプリンティアの出店で出す料理の事だね?」
 そう。俺達の店は、スプリンティアで出店を出す事になったのだ。
 「そうそう。せっかくの祭りだから、日頃出してないメニューを限定で出すのはどうかな?って思ってるんだ。」
 「うんうん。それはいい案だと思う。限定とか女子は引かれちゃうよ。それで、どんなメニューを考えているの?」
 「一つは、アリシアがオススメしてくれた、ファーラビットを使った、ファーラビットバーガーを作ろうと思うんだ。ファーラビットをフライにして、トマトとレタスにタマネギ、それとヤマト特製ソースにマヨネーズをトッピングしたやつ。」
 「え?なに?それ??ヤマト特製ソースって??」
 アリシアは始めて聞いたであろう。ヤマト特製ソースに反応した。
 そう。やっと……やっと完成したのである。ヤマト特製ソース。ハッコロンの店主・ミネッサと試行錯誤を繰り返し……やっとだ。約一年掛かった。サラダのドレッシングが豊富なだけあって、酢代わりのスッパミンや香辛料も早い段階で揃ったのだが……最後のピースが足りなかった。それがやっと手に入ったのだ。
 その名も「悪魔の実二号」
 魔王様生産「悪魔の実」を品種改良した物だ。そもそも、悪魔の実は六号まであるらしく、俺が最初に食べさせられたのは「元祖、悪魔の実」。すなわち、一号だ。そして、二号は、辛さを抑え、フルーティーな甘さを強めている。それが、見事にソースとしての相性が抜群だったのだ。ソースにほのかな辛味とフルーティーさをプラスし、理想のソースが出来上がったのである。
 「ふっふっふ。それは、試食してのお楽しみだ。でだ、流石に一品だと寂しいというかなんというか……選ぶ楽しみもないだろう?でも、そんなに多くの種類出しても、出店なんだから作りきれないし……あと、一品だけ増やそうと思うだ。それで、いいモンスターは居ないか?」
 「なるほど……それなら、雷イタチなんてどうかな?」
 「ん?雷イタチ??始めて聞く名前だな。どんな味なんだ??」
 「そうね……味は、何て言ったらいいんだろ?ダンジョンで取れる肉には脂身はないの。歯ごたえもあるけど、肉自体の味は優しくて甘いのよ。それでね。面白いのが食べるとピリッと電気がはじけたようにパチパチするのよ。」
 え?何それ??脂身が無くて、歯ごたえもあり、甘味があり優しい。それに……パチパチって。静電気みたいのならお断りだよ?そんなの食えたもんじゃない。
 「おい……それ、本当に食えるのか?」
 「あら?ヤマト君、私の事信用してないの??それなら、今からダンジョンに狩りに行きましょうよ。」
 「え?今からか?!イリア達も居ないのに??」
 「大丈夫よ。私も居るし。レベル的にも、ヤマト君一人で楽勝なダンジョンだしね。ファーラビットも出るから、ついでに狩っちゃいましょう。クエストも受注しておくからね。」
 アリシアは何故かやる気だった。仕方がないので、俺は一度家に帰り、装備を整え、アリシアとダンジョンへ向かう事にした。
 
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