124 / 201
ラックスター
ラックスター4
しおりを挟む
俺は一人で数日後、女王様の元へ向かった。
「おお。ヤマトよ。よくぞやってきた。それで、今日は何用じゃ?」
女王様は玉座に座り、ミカンを食べながら言う。
「ラックスターについて、少しお尋ねしたくて。」
ラックスターと言う名前を聞いて、女王様はミカンを食べる手を止めた。
「そうか。あやつの事を知ったか……。」
「はい。」
「……そうか。おぬしにも悪い事をしたな。すまぬ。」
「いいえ。俺の場合は、心臓を移植してもらわないと助からない身だったので。」
「そうか。そう言ってもらえると、妾も助かる。」
女王様はそう言い、少しの沈黙の後に言葉を続けた。
「こんな事を聞くのは、おかしいと思うが……あやつは、元気にしておったか?」
「はい。」
「あやつは、何か言っておったか?」
「はい。彼の事は彼自身から聞きました。そして、僕を守る。と言って影に戻りました。」
「……そうか。」
女王様は少し、嬉しそうな顔をする。
「聞いたじゃろうが……あやつは、ずっとこの世界を恨んでおった。人を恨むだけではなく、この世界を……。それはそうじゃな。それ相応の目にあっておる。妾はその姿を約千年、見守ってきた。あやつが見た物を、あやつが味わった苦痛と一緒に。」
どういう事だ?一緒に苦痛を味わった??
「どういう事なのですか?」
「妾の身体もまた異端なのじゃよ。この異端で異質なデカい身体にはな、そう多くはないが、他の者の心臓を体内に保管出来るのじゃ。その保管された心臓には記憶が残る、それを妾は体験したように夢で見るのじゃよ。喜怒哀楽。痛み。あらゆる記憶をな。そして、妾は心臓の持ち主と会話も出来る……。妾はな、ヤマト……あやつ程、この世界を恨んでおった者を知らぬ。妾は、あやつ程……この世界を愛しておった者を知らぬのじゃ。同じ異端の者として生まれ、本人は笑っておる事が多かったが、村を一度出れば、好奇の目に晒され、酷い仕打ちも受けておる。おぬしには語らなかったであろうがな。そんな、あやつに妾はもう一度、この世界を見せてやりたかったのじゃ。千年という長い時間の中で変わっていった人達、風景を見せてやりたかったのじゃ……そうして、幸せになってもらいたかった。」
「そうだったのですか。」
「もちろん、おぬしを助けるという意味も大きいぞ。人間がエルフの世界で暮らすには生命維持魔法を絶えず使い続けるか、心臓をエルフの心臓に変えるしかない。人間と言う異端の存在を認めさせるには、魔力の有無も関係あったのじゃ。人間が膨大な魔力を有しておったなら、深刻な問題が発生したやもしれん。この世界にも、必ず悪と言うモノが存在しておるからの。ラックスターはおぬしの心臓にピッタリじゃったのじゃ。そして、ラックスターならおぬしを守ってくれるとも信じておった。」
そうだったのか。確かに俺が普通のエルフが扱えないような強力な魔法を使ったのならば、それは異端の者として扱われたのかもしれない。そして、ラックスターと同じような運命を辿ったのかもしれない。
それでも、一つだけ疑問に残る事がある。なぜ、ラックスターは歴史から葬られたような扱いを受けているんだ?あんなに立派な英雄ならば、もっと称えるべきではないのか?それが、一番聞きたかった。
「女王様。ラックスターは、なぜ、歴史から葬られたのですか?あれほどの英雄ならば、もっと称えられて良いと思うのですが?」
俺の質問に女王様は即答した。
「あやつの意志じゃからじゃよ。」
「ラックスターの……意志?」
「そうじゃ。あやつの意志じゃ。あやつは異端の者。それはどう足掻いても変わらぬ。あやつがどんなに立派な功績を上げようと、最期は同族であるエルフに殺されておる。それをありのままに伝える事は出来ぬのじゃ。」
何でだ?異端審問への圧力にもなるのではないか?捕らわれて、処刑された事まで伝えれば。
「何でなのですか?捕らわれて、処刑までされた事を伝えれば、抑止力にもなるのでは?!」
女王様は首を横に振る。
「妾も似たような事をラックスターに伝えた。じゃが、あやつはこう言ったのじゃ。『同じ異端の者が、その結末を知ってしまったのなら、僕と同じ異端として生まれた子達が頑張れません。異端として生まれただけで差別を受け、劣等感も抱くのです。そして、英雄と言われるまでになった僕の最期がそれだと、結局は努力して英雄になっても報われないと思ってしまいます。それならば、少しの情報でいい。『異端の英雄』として名前だけを残した方が、余程、良い。単騎で討伐を果たした。それくらいで、いいのです。』とな。」
やはり、ラックスターは英雄の中の英雄だと、俺は思った。憎しみに包まれた心の中でも、己の事だけではなく、後に続く者達の事も考えていたのだ。
「やっぱり。ラックスターは英雄の中の英雄ですね。」
「うむ。妾もそう思う。あやつこそ、英雄じゃ。」
女王様のその言葉を聞いて、俺はお城を後にした。
「おお。ヤマトよ。よくぞやってきた。それで、今日は何用じゃ?」
女王様は玉座に座り、ミカンを食べながら言う。
「ラックスターについて、少しお尋ねしたくて。」
ラックスターと言う名前を聞いて、女王様はミカンを食べる手を止めた。
「そうか。あやつの事を知ったか……。」
「はい。」
「……そうか。おぬしにも悪い事をしたな。すまぬ。」
「いいえ。俺の場合は、心臓を移植してもらわないと助からない身だったので。」
「そうか。そう言ってもらえると、妾も助かる。」
女王様はそう言い、少しの沈黙の後に言葉を続けた。
「こんな事を聞くのは、おかしいと思うが……あやつは、元気にしておったか?」
「はい。」
「あやつは、何か言っておったか?」
「はい。彼の事は彼自身から聞きました。そして、僕を守る。と言って影に戻りました。」
「……そうか。」
女王様は少し、嬉しそうな顔をする。
「聞いたじゃろうが……あやつは、ずっとこの世界を恨んでおった。人を恨むだけではなく、この世界を……。それはそうじゃな。それ相応の目にあっておる。妾はその姿を約千年、見守ってきた。あやつが見た物を、あやつが味わった苦痛と一緒に。」
どういう事だ?一緒に苦痛を味わった??
「どういう事なのですか?」
「妾の身体もまた異端なのじゃよ。この異端で異質なデカい身体にはな、そう多くはないが、他の者の心臓を体内に保管出来るのじゃ。その保管された心臓には記憶が残る、それを妾は体験したように夢で見るのじゃよ。喜怒哀楽。痛み。あらゆる記憶をな。そして、妾は心臓の持ち主と会話も出来る……。妾はな、ヤマト……あやつ程、この世界を恨んでおった者を知らぬ。妾は、あやつ程……この世界を愛しておった者を知らぬのじゃ。同じ異端の者として生まれ、本人は笑っておる事が多かったが、村を一度出れば、好奇の目に晒され、酷い仕打ちも受けておる。おぬしには語らなかったであろうがな。そんな、あやつに妾はもう一度、この世界を見せてやりたかったのじゃ。千年という長い時間の中で変わっていった人達、風景を見せてやりたかったのじゃ……そうして、幸せになってもらいたかった。」
「そうだったのですか。」
「もちろん、おぬしを助けるという意味も大きいぞ。人間がエルフの世界で暮らすには生命維持魔法を絶えず使い続けるか、心臓をエルフの心臓に変えるしかない。人間と言う異端の存在を認めさせるには、魔力の有無も関係あったのじゃ。人間が膨大な魔力を有しておったなら、深刻な問題が発生したやもしれん。この世界にも、必ず悪と言うモノが存在しておるからの。ラックスターはおぬしの心臓にピッタリじゃったのじゃ。そして、ラックスターならおぬしを守ってくれるとも信じておった。」
そうだったのか。確かに俺が普通のエルフが扱えないような強力な魔法を使ったのならば、それは異端の者として扱われたのかもしれない。そして、ラックスターと同じような運命を辿ったのかもしれない。
それでも、一つだけ疑問に残る事がある。なぜ、ラックスターは歴史から葬られたような扱いを受けているんだ?あんなに立派な英雄ならば、もっと称えるべきではないのか?それが、一番聞きたかった。
「女王様。ラックスターは、なぜ、歴史から葬られたのですか?あれほどの英雄ならば、もっと称えられて良いと思うのですが?」
俺の質問に女王様は即答した。
「あやつの意志じゃからじゃよ。」
「ラックスターの……意志?」
「そうじゃ。あやつの意志じゃ。あやつは異端の者。それはどう足掻いても変わらぬ。あやつがどんなに立派な功績を上げようと、最期は同族であるエルフに殺されておる。それをありのままに伝える事は出来ぬのじゃ。」
何でだ?異端審問への圧力にもなるのではないか?捕らわれて、処刑された事まで伝えれば。
「何でなのですか?捕らわれて、処刑までされた事を伝えれば、抑止力にもなるのでは?!」
女王様は首を横に振る。
「妾も似たような事をラックスターに伝えた。じゃが、あやつはこう言ったのじゃ。『同じ異端の者が、その結末を知ってしまったのなら、僕と同じ異端として生まれた子達が頑張れません。異端として生まれただけで差別を受け、劣等感も抱くのです。そして、英雄と言われるまでになった僕の最期がそれだと、結局は努力して英雄になっても報われないと思ってしまいます。それならば、少しの情報でいい。『異端の英雄』として名前だけを残した方が、余程、良い。単騎で討伐を果たした。それくらいで、いいのです。』とな。」
やはり、ラックスターは英雄の中の英雄だと、俺は思った。憎しみに包まれた心の中でも、己の事だけではなく、後に続く者達の事も考えていたのだ。
「やっぱり。ラックスターは英雄の中の英雄ですね。」
「うむ。妾もそう思う。あやつこそ、英雄じゃ。」
女王様のその言葉を聞いて、俺はお城を後にした。
0
お気に入りに追加
160
あなたにおすすめの小説
異世界転生~チート魔法でスローライフ
リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。
43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。
その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」
大型連休を利用して、
穴場スポットへやってきた!
テントを建て、BBQコンロに
テーブル等用意して……。
近くの川まで散歩しに来たら、
何やら動物か?の気配が……
木の影からこっそり覗くとそこには……
キラキラと光注ぐように発光した
「え!オオカミ!」
3メートルはありそうな巨大なオオカミが!!
急いでテントまで戻ってくると
「え!ここどこだ??」
都会の生活に疲れた主人公が、
異世界へ転生して 冒険者になって
魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。
恋愛は多分ありません。
基本スローライフを目指してます(笑)
※挿絵有りますが、自作です。
無断転載はしてません。
イラストは、あくまで私のイメージです
※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが
少し趣向を変えて、
若干ですが恋愛有りになります。
※カクヨム、なろうでも公開しています
転生したら脳筋魔法使い男爵の子供だった。見渡す限り荒野の領地でスローライフを目指します。
克全
ファンタジー
「第3回次世代ファンタジーカップ」参加作。面白いと感じましたらお気に入り登録と感想をくださると作者の励みになります!
辺境も辺境、水一滴手に入れるのも大変なマクネイア男爵家生まれた待望の男子には、誰にも言えない秘密があった。それは前世の記憶がある事だった。姉四人に続いてようやく生まれた嫡男フェルディナンドは、この世界の常識だった『魔法の才能は遺伝しない』を覆す存在だった。だが、五〇年戦争で大活躍したマクネイア男爵インマヌエルは、敵対していた旧教徒から怨敵扱いされ、味方だった新教徒達からも畏れられ、炎竜が砂漠にしてしまったと言う伝説がある地に押し込められたいた。そんな父親達を救うべく、前世の知識と魔法を駆使するのだった。
大工スキルを授かった貧乏貴族の養子の四男だけど、どうやら大工スキルは伝説の全能スキルだったようです
飼猫タマ
ファンタジー
田舎貴族の四男のヨナン・グラスホッパーは、貧乏貴族の養子。義理の兄弟達は、全員戦闘系のレアスキル持ちなのに、ヨナンだけ貴族では有り得ない生産スキルの大工スキル。まあ、養子だから仕方が無いんだけど。
だがしかし、タダの生産スキルだと思ってた大工スキルは、じつは超絶物凄いスキルだったのだ。その物凄スキルで、生産しまくって超絶金持ちに。そして、婚約者も出来て幸せ絶頂の時に嵌められて、人生ドン底に。だが、ヨナンは、有り得ない逆転の一手を持っていたのだ。しかも、その有り得ない一手を、本人が全く覚えてなかったのはお約束。
勿論、ヨナンを嵌めた奴らは、全員、ザマー百裂拳で100倍返し!
そんなお話です。
本当の仲間ではないと勇者パーティから追放されたので、銀髪ケモミミ美少女と異世界でスローライフします。
なつめ猫
ファンタジー
田中一馬は、40歳のIT会社の社員として働いていた。
しかし、異世界ガルドランドに魔王を倒す勇者として召喚されてしまい容姿が17歳まで若返ってしまう。
探しにきた兵士に連れられ王城で、同郷の人間とパーティを組むことになる。
だが【勇者】の称号を持っていなかった一馬は、お荷物扱いにされてしまう。
――ただアイテムボックスのスキルを持っていた事もあり勇者パーティの荷物持ちでパーティに参加することになるが……。
Sランク冒険者となった事で、田中一馬は仲間に殺されかける。
Sランク冒険者に与えられるアイテムボックスの袋。
それを手に入れるまで田中一馬は利用されていたのだった。
失意の内に意識を失った一馬の脳裏に
――チュートリアルが完了しました。
と、いうシステムメッセージが流れる。
それは、田中一馬が40歳まで独身のまま人生の半分を注ぎこんで鍛え上げたアルドガルド・オンラインの最強セーブデータを手に入れた瞬間であった!
異世界で生きていく。
モネ
ファンタジー
目が覚めたら異世界。
素敵な女神様と出会い、魔力があったから選ばれた主人公。
魔法と調合スキルを使って成長していく。
小さな可愛い生き物と旅をしながら新しい世界で生きていく。
旅の中で出会う人々、訪れる土地で色々な経験をしていく。
3/8申し訳ありません。
章の編集をしました。
フリーター転生。公爵家に転生したけど継承権が低い件。精霊の加護(チート)を得たので、努力と知識と根性で公爵家当主へと成り上がる
SOU 5月17日10作同時連載開始❗❗
ファンタジー
400倍の魔力ってマジ!?魔力が多すぎて範囲攻撃魔法だけとか縛りでしょ
25歳子供部屋在住。彼女なし=年齢のフリーター・バンドマンはある日理不尽にも、バンドリーダでボーカルからクビを宣告され、反論を述べる間もなくガッチャ切りされそんな失意のか、理不尽に言い渡された残業中に急死してしまう。
目が覚めると俺は広大な領地を有するノーフォーク公爵家の長男の息子ユーサー・フォン・ハワードに転生していた。
ユーサーは一度目の人生の漠然とした目標であった『有名になりたい』他人から好かれ、知られる何者かになりたかった。と言う目標を再認識し、二度目の生を悔いの無いように、全力で生きる事を誓うのであった。
しかし、俺が公爵になるためには父の兄弟である次男、三男の息子。つまり従妹達と争う事になってしまい。
ユーサーは富国強兵を掲げ、先ずは小さな事から始めるのであった。
そんな主人公のゆったり成長期!!
異世界転生はどん底人生の始まり~一時停止とステータス強奪で快適な人生を掴み取る!
夢・風魔
ファンタジー
若くして死んだ男は、異世界に転生した。恵まれた環境とは程遠い、ダンジョンの上層部に作られた居住区画で孤児として暮らしていた。
ある日、ダンジョンモンスターが暴走するスタンピードが発生し、彼──リヴァは死の縁に立たされていた。
そこで前世の記憶を思い出し、同時に転生特典のスキルに目覚める。
視界に映る者全ての動きを停止させる『一時停止』。任意のステータスを一日に1だけ奪い取れる『ステータス強奪』。
二つのスキルを駆使し、リヴァは地上での暮らしを夢見て今日もダンジョンへと潜る。
*カクヨムでも先行更新しております。
職業選択の自由~ネクロマンサーを選択した男~
新米少尉
ファンタジー
「私は私の評価を他人に委ねるつもりはありません」
多くの者達が英雄を目指す中、彼はそんなことは望んでいなかった。
ただ一つ、自ら選択した道を黙々と歩むだけを目指した。
その道が他者からは忌み嫌われるものであろうとも彼には誇りと信念があった。
彼が自ら選んだのはネクロマンサーとしての生き方。
これは職業「死霊術師」を自ら選んだ男の物語。
~他のサイトで投稿していた小説の転載です。完結済の作品ですが、若干の修正をしながらきりのよい部分で一括投稿していきますので試しに覗いていただけると嬉しく思います~
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる