上 下
54 / 201
ライバル出現?!前編

ライバル出現?!前編2

しおりを挟む
 残念なイリアを見た、次の日。今日は休日である。
 何時もと変わらず、購入した土地で、ララに剣術を教えてもらい、イリアに回復魔法をかけてもらう。
 そして、今日も、鍛冶屋の『カッコン』に寄って、稽古の汗を銭湯で流し、街をぶらぶらする予定である。
 何か趣味を持った方がいいのかな?この世界には、難しい本はあるが、漫画やアニメ、テレビゲームなど無い。悲しい事に、休日の過ごし方と言えば、街ぶらしかないのだ。
 イリア達はそれを喜んでいるのだけれど……。
 今回、『カッコン』に寄る理由は、昨日、イリアが揚げて小さくした骨玉で包丁を作ってもらうこと。
 ララは、料理をするから専用の包丁があった方が喜ぶだろう。俺の分も併せて、骨玉は全部、包丁にしてもらう。
 何度も何度も揚げた骨玉は、茹でたより遥かに小さくなってしまったので、価値がこの前よりかなり下がってしまった。
 まあ、ペティナイフや色々な種類の包丁になってはくれるだろう。
 
 カッコンで注文し、銭湯で汗を流し、街をぶらぶらした後、俺達は、また飲食店へ行くことにした。
 流石に、二週間前に壊された飲食店はまだ開いていない、俺がやった事ではないけど、少し罪悪感がある。費用は国が出してくれるらしく、その辺は安心だった。
 「あっ。ここですよ。今、流行りのオープンカフェ。とやらです。」
 イリアがそう言い、立ち止まる。
 おぉ……。この世界で、初めて見る。オープンカフェ。
 この世界の飲食店は店内営業が基本。外にテーブルや席がある事は珍しい。そして、なかなかの規模だ。ウッドデッキが半端なく広がっている。バーベキューとか出来そうだな。
 「……ピチョンパサラダが美味しいって噂……。」
 そう思っていると、ピチョンパことエビに目がない、ララが言う。
 「運が良いことに、席も空いているみたいなので、早速、入りましょう。」
 イリアの後に続いて、俺達は入店した。
 そして、美味しいと噂のシュリンプサラダを頼んでみた。
 この世界で食べたシュリンプサラダは、エビの皮を剥いて、塩で焼いたもの。もしくは、殻付きのエビを塩で焼いたものが乗っているだけ。あとは、ドレッシングの味で決まる。茹でてあるのもないし……。
 美味しいのは美味しいのだ。でも、まあ、味気ないというか……食材の味がよくわかるというか……。
 イリアやララはそれでも美味しいらしいが、俺は少し不満だった。工夫というのがないのだ。そして、今日もあまり期待していなかった。
 しかし、俺は久しぶりに出て来たサラダに感動した。いや、これが元の世界ならば普通だったのかもしれない。しかし……感動した。
 エビが……エビが、ニンニクで炒めてあるのだ。ちゃんと、背わたも取ってあるし。片栗粉などで臭みもとったのだろう。しかも、これはオリーブオイルか?それに、プラックペッパー。ドレッシングに入っているのは見たことあるけど、炒めるのに使われているのは初めてみた。
 ……うん!美味い!!炒めるのに、果実酒など使われてもいるのだろう。風味もいい。エビが主役だと、完全に主張している。その為の野菜の構成になっているし、ドレッシングもこのサラダ専用なのだろう。全てがマッチしている。
 ケーキやパン以外では初めてだ。こんな美味しい料理。どんな人が作っているのだろう?少し話が出来ないだろうか?
 俺は、シェフの方と話せないか、スタッフの人に聞いた。
 
 はぁ~。良かったわ~。
 就業時間中とあって、無理だろうとは思ってたけど、少しだけ話せた。
 名前は、マーガレット。とても大人しめの女性のエルフだった。エルフだけあって、美人で可愛かったし……しかも、俺の事を知っていてくれた。マーガレットも、俺と話してみたかったらしく、今度、食事をしながら、ゆっくり話する約束までしてしまった。
 エルフでも、食に興味をもってくれている人がいる事は、やはり大きな収穫だ。
 俺は意気揚々と席へ戻ろうとした。
 すると、そこには、イリアから後で合流すると聞いていたターニャさんが来ており、後一人、エルフの女性がいる。
 それに、なりやら騒がしい。少し遠くからでも分かるくらいに険悪な雰囲気だ。
 そう思った時、テーブルがバン!と大きな音を立てる。
 ヤバい、ヤバい。俺が居ない間に、他のお客さんとトラブルになったのか?
 元・勇者のララが居るから、ケンカをふっかけてくるような奴は居ないと思うけど……、イリアも川柳になるくらいに有名なはずだし。仲裁してくれそうな、ターニャさんも居るから安全だろう。
 そう思いながらも、俺は駆け足で席へ戻った。
 
 遠くから見ても分かったが、褐色の肌に綺麗な銀髪。ダークエルフか。近くで見ると、やはり、容姿端麗。唇もプルンとしてるし、イリア達と違って色っぽい。そして一番違うのは……胸がイリアやララより遥かに大きい事。
 アニメだったら、たゆん♪たゆん♪と効果音の鳴りそうなくらいの巨乳。ダークエルフもよく見かけるが、ここまでの巨乳ちゃんは……。
 あっ、俺の知っている限り、一人居た。『ハッコロン』のミネッサ。彼女には敵わないけど、かなりの巨乳ちゃんだ。
 そして、印象的なのは、左目はゴールド、右目は黒かった。オッドアイなのかな?とても綺麗な瞳だ。
 席に戻るなり、イリアとララの声が聞こえる。
 「……エリアス・クロムウェル。あなたが今、何をしたか分かっていますか?」
 「エリアス……クロムウェル……。」
 ララは名前をポツリと口にし、イリアは名を告げた相手を見る事をしなかった。
 しかし、その声は何時もより明らかに低く、怒りをはらんでいる。たまに聞く、冷たい感じの声とはまた違い、背筋が凍るような錯覚を覚えた。
 「はあ?!お前こそ、何やったかわかってんの!?あぁ?!オレが長期遠征に行ってる間に、勝手に王宮魔術師を辞めやがってよ!!」
 エリアス・クロムウェル。そう、イリアが言った女性も怒りの感情を込めながら、言葉を吐き捨てる。
 「あなたには関係ない事でしょ?」
 「あ?関係ないだ??関係なくはねぇだろ……?二年前からお前の様子がおかしかったから、あの時の事件が原因かと思って聞いてみりゃ、男を追っかけて辞めただ?ふざけんなよ?!お前?!」
 二年前から、イリアの様子がおかしい?それに事件?なんだそれ??この二人に何かあったのか??
 「あなたには関係ありません。それに、私が怒りを覚えているのは、あなたが食べ物を粗末にした事です。今、私は食べ物を扱う職についている身。食べ物を粗末に扱う事は許しません。」
 散乱した、シュリンプサラダを見ながら、そう言い、イリアの拳に力が入る。
 それに気がついたのか、エリアス・クロムウェルさんの拳にも力が入る。
 一触即発の危機。……このままだとヤバいな。
 俺は二人に近づき、必殺技を繰り出す事にした。

 俺はイリアとエリアス・クロムウェルさんの間に立ち、両者の耳を一つずつ掴んで、これでもか!ってくらいに、モミモミとマッサージを始める。
 「な、何をするのですか!ヤマト様!?」
 「て、てめぇ!いきなり、何しやがる!!」
 二人は抵抗をするが、あっという間に大人しくなり床に倒れ込む。そして、悶えるような艶めかしい声を出し始める。ララはそれをなぜか、羨ましそうに見つめていた。ターニャさんは、それを見て頭を抱え、周りはかなりザワザワとざわついている。
 そう。エルフは耳がとても弱い。俺が約半年掛けて辿り着いた答えだ。
 これは男も例外ではない。魔石加工屋『カッコン』の店主、ガルビンに何度も襲われそうになった時に身に付けた技。その力を俺は今、解放した。
 「ケンカは止めるか?」
 俺の問いに、二人は力無く、はい。と答え、二人はしばらく起き上がれなかった。
 
 落ち着き、立ち上がれるようになった二人を、俺の向かい合わせの椅子に座らせる。ララはなぜか、俺に自分の片方の耳をマッサージさせながら、ご満悦な表情だ。ターニャさんは相変わらず、頭を抱えていた。
 「とりあえず、お前らお互いに謝れ。」
 お互いに拒否しようとしたが、俺は片手をいやらしい手つきで動かすと観念したように、お互い謝った。
 「で、君は誰なんだい?イリアとはどんな関係?」
 エリアス・クロムウェルさんに俺はたずねる。彼女は俺を見るなり、なぜか顔を赤くして、うつむき、もじもじしながら話し始めた。
 「……オレ……わたくし、エリアス・クロムウェルと申します。エルヘイム女王国王宮弓術隊、総隊長をやっております。」
 え?王宮弓術隊、総隊長??しかも、なぜか、しおらしくなってる?
 「わたくしは、イリア……さんと共に王宮に勤めておりました。」
 「エリ。気持ち悪いので『さん』付けは止めてもらえますか?それにその話し方も気持ち悪いですよ。」
 イリアの言葉にエリアス・クロムウェルさんは慌てる。
 「うっ!うるせぇ!!」
 そう言い、しまった!というように口に手をあてて、また話し始める。
 「……わたくしが、遠征から帰ってきた時に、イリアの姿が王宮魔術師隊になかったので……。それで、女王様にお話をうかがったら、男を追い掛けて辞めた。と……。二年前の事件を気にして辞めたのであれば、まだ話しは別なのですけど……。男を追って辞めたって……。この世界に五人しか居ない、超特級王宮魔術師……しかも、この国の魔術師長が男を理由に辞めただなんて、責任感の欠片もない。それが許せなくて……。」
 エリアス・クロムウェルさんはうつむき、震えていた。
 なに?超特級王宮魔術師って?魔術師長ってなに?!イリアって、もしかして、物凄く凄いの?ポンコツって言われていたのに??勇者とも知り合いだったし……。
 でも、とりあえず、この問題は置いといて。肝心な事を聞かないと。
 「エリアス・クロムウェルさんは、イリアを恨んだりしていないのですか?」
 エリアス・クロムウェルさんは首を横に振る。
 「ヤマト様。エリは私の幼なじみで親友。そしてライバルなのです。悪い人ではありません。」
 俺はそれを聞き安心した。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

バイトで冒険者始めたら最強だったっていう話

紅赤
ファンタジー
ここは、地球とはまた別の世界―― 田舎町の実家で働きもせずニートをしていたタロー。 暢気に暮らしていたタローであったが、ある日両親から家を追い出されてしまう。 仕方なく。本当に仕方なく、当てもなく歩を進めて辿り着いたのは冒険者の集う街<タイタン> 「冒険者って何の仕事だ?」とよくわからないまま、彼はバイトで冒険者を始めることに。 最初は田舎者だと他の冒険者にバカにされるが、気にせずテキトーに依頼を受けるタロー。 しかし、その依頼は難度Aの高ランククエストであることが判明。 ギルドマスターのドラムスは急いで救出チームを編成し、タローを助けに向かおうと―― ――する前に、タローは何事もなく帰ってくるのであった。 しかもその姿は、 血まみれ。 右手には討伐したモンスターの首。 左手にはモンスターのドロップアイテム。 そしてスルメをかじりながら、背中にお爺さんを担いでいた。 「いや、情報量多すぎだろぉがあ゛ぁ!!」 ドラムスの叫びが響く中で、タローの意外な才能が発揮された瞬間だった。 タローの冒険者としての摩訶不思議な人生はこうして幕を開けたのである。 ――これは、バイトで冒険者を始めたら最強だった。という話――

その最弱冒険者、実は査定不能の規格外~カースト最底辺のG級冒険者ですが、実力を知った周りの人たちが俺を放っておいてくれません~

詩葉 豊庸(旧名:堅茹でパスタ)
ファンタジー
※おかげさまでコミカライズが決定致しました!  時は魔法適正を査定することによって冒険者ランクが決まっていた時代。  冒険者である少年ランスはたった一人の魔法適正Gの最弱冒険者としてギルドでは逆の意味で有名人だった。なのでランスはパーティーにも誘われず、常に一人でクエストをこなし、ひっそりと冒険者をやっていた。    実はあまりの魔力数値に測定不可能だったということを知らずに。  しかしある日のこと。ランスはある少女を偶然助けたことで、魔法を教えてほしいと頼まれる。自分の力に無自覚だったランスは困惑するが、この出来事こそ彼の伝説の始まりだった。 「是非とも我がパーティーに!」 「我が貴族家の護衛魔術師にならぬか!?」  彼の真の実力を知り、次第にランスの周りには色々な人たちが。  そしてどんどんと広がっている波紋。  もちろん、ランスにはそれを止められるわけもなく……。  彼はG級冒険者でありながらいつしかとんでもない地位になっていく。

平凡な主人公が異世界に転生してチート勇者な人生を送るかと思ったら

けろよん
ファンタジー
トラックに轢かれて死んだら神様が出てきて、それは自分のミスだったからお詫びに、チート能力をくれた上で異世界に転生させてくれて異世界の森に出現し、そこを抜けると魔物に襲われている馬車に遭遇し、早速魔物をチート能力で軽く退治すると、実はその魔物はその世界の騎士団総出でも倒せないほどの強さで、しかも馬車に乗っていたのはその国のお姫様で、お姫様をお城まで贈って父親の国王と対面し、国王に対してタメ口を聞いて大臣とかが怒るんだけど、国王はまあよいと大臣を嗜めてくれて、国王から国を滅ぼそうとする魔王退治を依頼され、そんな面倒なことやってられっかと断るんだが、なんだかんだ言って受ける事になり魔王退治の旅に出るのだった。

私のスキルが、クエストってどういうこと?

地蔵
ファンタジー
スキルが全ての世界。 十歳になると、成人の儀を受けて、神から『スキル』を授かる。 スキルによって、今後の人生が決まる。 当然、素晴らしい『当たりスキル』もあれば『外れスキル』と呼ばれるものもある。 聞いた事の無いスキル『クエスト』を授かったリゼは、親からも見捨てられて一人で生きていく事に……。 少し人間不信気味の女の子が、スキルに振り回されながら生きて行く物語。 一話辺りは約三千文字前後にしております。 更新は、毎週日曜日の十六時予定です。 『小説家になろう』『カクヨム』でも掲載しております。

転生チート薬師は巻き込まれやすいのか? ~スローライフと時々騒動~ 

志位斗 茂家波
ファンタジー
異世界転生という話は聞いたことがあるが、まさかそのような事を実際に経験するとは思わなかった。 けれども、よくあるチートとかで暴れるような事よりも、自由にかつのんびりと適当に過ごしたい。 そう思っていたけれども、そうはいかないのが現実である。 ‥‥‥才能はあるのに、無駄遣いが多い、苦労人が増えやすいお話です。 「小説家になろう」でも公開中。興味があればそちらの方でもどうぞ。誤字は出来るだけ無いようにしたいですが、発見次第伝えていただければ幸いです。あと、案があればそれもある程度受け付けたいと思います。

しかたなく英雄的最後を迎えた魔法使いの受難

伊簑木サイ
ファンタジー
王国を守って死んだ守護魔法使いブラッドは、前世の記憶を持ったまま生まれ変わった。 今生ではひっそり普通に生きていきたいのに、強大な魔力のせいで、真面目にやってもなぜか大事に。 問題児扱いされて、おどろおどろしいあだ名と、愉快な手下、おかしな噂ばかりが増えていく。 生まれ変わっても、だいたいいつも不憫な目に遭ってばかりな彼の、愛にまみれた受難な日々のあれこれ。

処理中です...