40 / 49
第37話
しおりを挟む
その後、やって来た国の役人によって町長は数々の汚職容疑で引き立てられていった。もちろん、彼らの前では若い商人は、風体はそのままだったがきちんと『帝の騎士』として陣頭指揮を執っていた。
黒髪のメイドも、彼らの前ではあくまで『商人』を装うその若き帝の騎士のアシスタントとしててきぱきと事務処理等をこなしていた。
その間、剣士は、重要参考人として帝の騎士が『身柄預かり』と言う事になり、すべての処遇を当の若き帝の騎士に任されていた。ただ、表向きはそう言われてはいたが、特に拘束、監視されている風はなかった。それでいながら剣士はこの街から逃げ出そうとする気配は全くなかった。
そして、あの食人鬼のメイドも彼らと共に居た。黒髪のメイドの手伝いや、帝都からやってきた役人の食事や身の回りの事などを黒髪のメイドと共にこなしていた。表向きは国家公認万能メイドである黒髪のメイド並みに仕事をてきぱきとこなしていた。しかし、それでも愛する主を殺された心の傷は深かった野田だろう、時折、遠くをうつろな目で見つめる様な姿が目撃された。
「ハロルド、カゲトキ、くれぐれも、あのメイドから目を離すなよ」
食人鬼のメイドは意識を取り戻した後も、再び鬼女に変化して取り乱す事はなかった。ただ、じっと一人、愛する物を失った悲しみにじっと耐えている様だった。そして、その悲しみを紛らわすために、帝都から来た役人たちの世話を甲斐甲斐しくこなしていた。
それでも、黒髪のメイドは何か気になることがあったのであろう。若い商人と剣士に、姿こそ黒髪のメイドのままだったが、彼らの主である『影の騎士団長』としてそう命じていた。
「シャロンさん、どちらへ?」
衣類の様な物がたくさん入った大きな籠を抱えて廊下を歩く食人鬼のメイドに、若い商人の姿をした若き帝の騎士が尋ねた。
ちなみに、あの後、意識を取り戻した食人鬼のメイドは自身の名を『シャロン=ファラメイ』と名乗っていた。ただ、その名が彼女、本来の名なのか、人として生きて行く為に人の名を語っているのかは分からなかった。
「あっ……ハロルドさん。
終わった洗濯物を干しにちょっと屋上へ」
若い商人の問い掛けに食人鬼のメイドは笑顔で答えた。
さすがに歳はまだ聞いてはいないが、少なくとも人の姿でいる時はこの食人鬼のメイド、二十歳代半ばくらいに見え、かなり美人の部類だ。しかも、主を失った悲しみや、あの変態町長から受けた酷い凌辱による心の傷も癒えつつあるのか、今見せた笑みはとても可愛らしく、それでもどこか儚くも寂し気でとても魅力的だった。
若い商人は思わず、顔がニヤけてしまいそうになるのを必死に押さえていた。
「では、また後程……」
食人鬼のメイドは、そんな若い商人の気持ちを知ってか知らずか、くすりと小さく笑って頭を軽く下げてそう言うと階段の方へと歩いて行った。
「おいおい、そんな顔でシャロン見てると、
お前さんの恐ろしいあのメイドさんに殺されるぞ」
ちょうど、曲がり角から出て来た剣士が、そんな若い商人を見て笑いながらそう言った。、
「僕はまだ若いんだし、
綺麗な女の人見てニヤニヤするのはごく普通の反応ですよ」
「ほぉ~、俺はお前さんとあの恐ろしいメイドさんは、
ただの主従の関係だけじゃないと思ったんだがなぁ」
若い商人がすまし顔で答えた言葉に、剣士は好色そうににやにや笑いながらそう言った。
「若旦那様、カゲトキさん、シャロン見ませんでしたか?」
そのまま、しばらく廊下で馬鹿話をしていた若い商人と剣士に、黒髪のメイドが通りかかって声を掛けた。
「シャロンさんなら、今さっき、屋上へ行かれましたよ。
天気も良いので洗濯物を一杯持って干しに行く様でした」
その瞬間、黒髪のメイドの様子が一変した。
「馬鹿者! それでお前達、シャロンを一人で屋上に行かせたのか!」
姿こそ、黒髪のメイドのままだったかが、その言葉は完全に『影の騎士団長』であるアメリア姫に戻っていた。
「でも、シャロンさん別段変わった様子は……」
そう言ってから何かに気がついたのか若い商人は声を上げた。
「まさか、あの人。僕らを油断させる為に今まで!」
「おい、まずいぞ、若者!」
同時に剣士が表情を一変させて叫んだ。
そして同時に、二人は走り始めていた。もちろん黒髪のメイドも同じだった。
黒髪のメイドも、彼らの前ではあくまで『商人』を装うその若き帝の騎士のアシスタントとしててきぱきと事務処理等をこなしていた。
その間、剣士は、重要参考人として帝の騎士が『身柄預かり』と言う事になり、すべての処遇を当の若き帝の騎士に任されていた。ただ、表向きはそう言われてはいたが、特に拘束、監視されている風はなかった。それでいながら剣士はこの街から逃げ出そうとする気配は全くなかった。
そして、あの食人鬼のメイドも彼らと共に居た。黒髪のメイドの手伝いや、帝都からやってきた役人の食事や身の回りの事などを黒髪のメイドと共にこなしていた。表向きは国家公認万能メイドである黒髪のメイド並みに仕事をてきぱきとこなしていた。しかし、それでも愛する主を殺された心の傷は深かった野田だろう、時折、遠くをうつろな目で見つめる様な姿が目撃された。
「ハロルド、カゲトキ、くれぐれも、あのメイドから目を離すなよ」
食人鬼のメイドは意識を取り戻した後も、再び鬼女に変化して取り乱す事はなかった。ただ、じっと一人、愛する物を失った悲しみにじっと耐えている様だった。そして、その悲しみを紛らわすために、帝都から来た役人たちの世話を甲斐甲斐しくこなしていた。
それでも、黒髪のメイドは何か気になることがあったのであろう。若い商人と剣士に、姿こそ黒髪のメイドのままだったが、彼らの主である『影の騎士団長』としてそう命じていた。
「シャロンさん、どちらへ?」
衣類の様な物がたくさん入った大きな籠を抱えて廊下を歩く食人鬼のメイドに、若い商人の姿をした若き帝の騎士が尋ねた。
ちなみに、あの後、意識を取り戻した食人鬼のメイドは自身の名を『シャロン=ファラメイ』と名乗っていた。ただ、その名が彼女、本来の名なのか、人として生きて行く為に人の名を語っているのかは分からなかった。
「あっ……ハロルドさん。
終わった洗濯物を干しにちょっと屋上へ」
若い商人の問い掛けに食人鬼のメイドは笑顔で答えた。
さすがに歳はまだ聞いてはいないが、少なくとも人の姿でいる時はこの食人鬼のメイド、二十歳代半ばくらいに見え、かなり美人の部類だ。しかも、主を失った悲しみや、あの変態町長から受けた酷い凌辱による心の傷も癒えつつあるのか、今見せた笑みはとても可愛らしく、それでもどこか儚くも寂し気でとても魅力的だった。
若い商人は思わず、顔がニヤけてしまいそうになるのを必死に押さえていた。
「では、また後程……」
食人鬼のメイドは、そんな若い商人の気持ちを知ってか知らずか、くすりと小さく笑って頭を軽く下げてそう言うと階段の方へと歩いて行った。
「おいおい、そんな顔でシャロン見てると、
お前さんの恐ろしいあのメイドさんに殺されるぞ」
ちょうど、曲がり角から出て来た剣士が、そんな若い商人を見て笑いながらそう言った。、
「僕はまだ若いんだし、
綺麗な女の人見てニヤニヤするのはごく普通の反応ですよ」
「ほぉ~、俺はお前さんとあの恐ろしいメイドさんは、
ただの主従の関係だけじゃないと思ったんだがなぁ」
若い商人がすまし顔で答えた言葉に、剣士は好色そうににやにや笑いながらそう言った。
「若旦那様、カゲトキさん、シャロン見ませんでしたか?」
そのまま、しばらく廊下で馬鹿話をしていた若い商人と剣士に、黒髪のメイドが通りかかって声を掛けた。
「シャロンさんなら、今さっき、屋上へ行かれましたよ。
天気も良いので洗濯物を一杯持って干しに行く様でした」
その瞬間、黒髪のメイドの様子が一変した。
「馬鹿者! それでお前達、シャロンを一人で屋上に行かせたのか!」
姿こそ、黒髪のメイドのままだったかが、その言葉は完全に『影の騎士団長』であるアメリア姫に戻っていた。
「でも、シャロンさん別段変わった様子は……」
そう言ってから何かに気がついたのか若い商人は声を上げた。
「まさか、あの人。僕らを油断させる為に今まで!」
「おい、まずいぞ、若者!」
同時に剣士が表情を一変させて叫んだ。
そして同時に、二人は走り始めていた。もちろん黒髪のメイドも同じだった。
0
お気に入りに追加
133
あなたにおすすめの小説
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
敗戦国の姫は、敵国将軍に掠奪される
clayclay
恋愛
架空の国アルバ国は、ブリタニア国に侵略され、国は壊滅状態となる。
状況を打破するため、アルバ国王は娘のソフィアに、ブリタニア国使者への「接待」を命じたが……。
イケメン社長と私が結婚!?初めての『気持ちイイ』を体に教え込まれる!?
すずなり。
恋愛
ある日、彼氏が自分の住んでるアパートを引き払い、勝手に『同棲』を求めてきた。
「お前が働いてるんだから俺は家にいる。」
家事をするわけでもなく、食費をくれるわけでもなく・・・デートもしない。
「私は母親じゃない・・・!」
そう言って家を飛び出した。
夜遅く、何も持たず、靴も履かず・・・一人で泣きながら歩いてるとこを保護してくれた一人の人。
「何があった?送ってく。」
それはいつも仕事場のカフェに来てくれる常連さんだった。
「俺と・・・結婚してほしい。」
「!?」
突然の結婚の申し込み。彼のことは何も知らなかったけど・・・惹かれるのに時間はかからない。
かっこよくて・・優しくて・・・紳士な彼は私を心から愛してくれる。
そんな彼に、私は想いを返したい。
「俺に・・・全てを見せて。」
苦手意識の強かった『営み』。
彼の手によって私の感じ方が変わっていく・・・。
「いあぁぁぁっ・・!!」
「感じやすいんだな・・・。」
※お話は全て想像の世界のものです。現実世界とはなんら関係ありません。
※お話の中に出てくる病気、治療法などは想像のものとしてご覧ください。
※誤字脱字、表現不足は重々承知しております。日々精進してまいりますので温かく見ていただけると嬉しいです。
※コメントや感想は受け付けることができません。メンタルが薄氷なもので・・すみません。
それではお楽しみください。すずなり。
イケメン彼氏は年上消防士!鍛え上げられた体は、夜の体力まで別物!?
すずなり。
恋愛
私が働く食堂にやってくる消防士さんたち。
翔馬「俺、チャーハン。」
宏斗「俺もー。」
航平「俺、から揚げつけてー。」
優弥「俺はスープ付き。」
みんなガタイがよく、男前。
ひなた「はーいっ。ちょっと待ってくださいねーっ。」
慌ただしい昼時を過ぎると、私の仕事は終わる。
終わった後、私は行かなきゃいけないところがある。
ひなた「すみませーん、子供のお迎えにきましたー。」
保育園に迎えに行かなきゃいけない子、『太陽』。
私は子供と一緒に・・・暮らしてる。
ーーーーーーーーーーーーーーーー
翔馬「おいおい嘘だろ?」
宏斗「子供・・・いたんだ・・。」
航平「いくつん時の子だよ・・・・。」
優弥「マジか・・・。」
消防署で開かれたお祭りに連れて行った太陽。
太陽の存在を知った一人の消防士さんが・・・私に言った。
「俺は太陽がいてもいい。・・・太陽の『パパ』になる。」
「俺はひなたが好きだ。・・・絶対振り向かせるから覚悟しとけよ?」
※お話に出てくる内容は、全て想像の世界です。現実世界とは何ら関係ありません。
※感想やコメントは受け付けることができません。
メンタルが薄氷なもので・・・すみません。
言葉も足りませんが読んでいただけたら幸いです。
楽しんでいただけたら嬉しく思います。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる