146 / 161
第百四十六話
しおりを挟む
しかし、この時の僕は、緑川のその答えを聞いて何故か、はっとしたのだ。
京大……もちろん日本における大学の二大最高峰の一つ『国立京都大学』の事だ。
いや、正確に言えば、京大の中に潜んでいた『京都』という言葉に僕の心が反応したのだ。
なんで、こんな簡単な事に気づかなかった?
僕はその瞬間、心の中で自問していた。
何故、もう二度と会えないと最初から諦めていた?
板額は、小学生の頃の僕に憧れ、自身が筆舌に尽くしがたい辛苦を舐めながらも、僕を探し追いかけ、僕に会いに来た。
今度は僕が板額を追いかけ、会いに行くべきじゃないのか?
板額は、京都の烏丸家本宅に居る。
遥か遠い異国に行ってしまったんじゃない。
京都なんて、ここから新幹線を使えば二時間かからずに行ける。
いや、もっといい方法があるじゃないか。
京都に住めば良い。
今は無理でも、もう一年ちょっとしたらやろうと思えばそれが出来る。
そうだ、京都の大学に入れば少なくとも四年間は京都で暮らせる。
板額の居る京都で365日毎日だって暮らせるんだ。
そうすれば、板額に会えるチャンスだって0じゃない。
この瞬間、僕の新しい生きる目標が決まった。
僕は板額に会うために京都の大学に行くんだ。
その後は、意外に早く、色々な事を決める事が出来た。
京都の大学と言っても、京都にはたくさんの大学がある。
今の僕の成績なら、安全圏なら『立命館大学』だろう。立命館なら、名古屋で受験する事も出来て、こちらから進学する人も多いし、事実、葵高からの入学者も多い。
でも、ダメだ。
例え第一の目的が板額にもう一度会う事だとしても、その為に安全圏の大学を選ぶなんてもっての外だ。そんな事をして板額に再会できたとしても板額は僕を許しはしないだろう。
では、緑川と同じく『京大』か?
確かに憧れに近い目標なら『京大』でも良いだろし、それが出来ればベストだ。上手く行けば中学高校と続き緑川とまた同じ学校に通終える。
でも現実的な線を考えれば御所裏の赤レンガで有名な『同志社大学』だ。多くの京大志望者が併願校、あるいは滑り止めとして受験する関西屈指の難関私立。東の『早稲田』『慶応』に並ぶ歴史ある名門私立大学だ。
今まで僕が漠然と思っていた名大よりもさらに難関である事には間違いない。故に、今のままでは合格は難しいと思われる。しかし、けっして不可能じゃない。京大はいくら何でも、僕では無理だろうが、受験科目を絞り込める私学の同志社なら可能性はある。
それに、緑川が京大に受かり、僕も同志社に合格できれば、板額の事はともかく緑川と同じ京都に下宿できる。そうすれば同じ大学でなくとも緑川との関係もこのまま続けて行けるのだ。
しかし、まあ、この辺りは僕の願望が多々入った見解だ。大学生になった、しかも京大生になった緑川の心に変化があるかもしれない。彼女にとっての新たな出会いだってある可能性がないとも言えない。それでも、やっぱり、僕は緑川の傍に居たいのだ。
ただ付け加えるなら、もし板額に再び会えて、この気持ちは決して口にしてはいけない、と僕はこの時、密かに思った。
実は……僕は後になって気が付いたことが一つある。
それは……
『何故、緑川は京大を第一志望校にしたのか?』
……と言う事である。
緑川の実力なら、『東大』、そう天下の東京大学だって無理じゃない。いや、この地方からならむしろ『東大』を選ぶのが一般的だと思われる。それを、わざわざ『京大』に決めたなんて、考えてみれば少々不可解なのだ。
もちろん、決して『京大』が『東大』劣ると言う問題じゃない。『東大』『京大』は日本の最高学府のツートップである事は誰も疑わない。それは僕も同じだ。ただ、僕の居るこの地方ではこの二つのどちらでも行ける実力があるなら、何か特別に京都にこだわる理由がなければ『東大』を志望校とて選択するのが普通なのだ。まあ、地方性と言う奴である。
それに緑川の家は代々医者の家系で、しかも代々東大医学部出とも風の噂に聞いた事もあった。
それなのに緑川は、あえて『京大』を第一志望校にしたのだ。
これは凄く奇異な事なのだ。
でも、この時の僕はそんな大事な事にまったく気付かなかった。それほど、この時の僕は色々な事に無頓着というか投げやりになっていたんだ。
ちなみに、後々、緑川にその事を尋ねたら……
『実は、与一がその事を追及して来たらどう言い訳するか、
色々と考えていたのよね。でも全部、無駄になっちゃった』
……と笑って答えた。
その時の笑いが少々僕を小ばかにする様な笑みで僕は思わずむすっとした。それと同時に、この時の自分の不甲斐ない状態を思い出して恥ずかしくもなった。
京大……もちろん日本における大学の二大最高峰の一つ『国立京都大学』の事だ。
いや、正確に言えば、京大の中に潜んでいた『京都』という言葉に僕の心が反応したのだ。
なんで、こんな簡単な事に気づかなかった?
僕はその瞬間、心の中で自問していた。
何故、もう二度と会えないと最初から諦めていた?
板額は、小学生の頃の僕に憧れ、自身が筆舌に尽くしがたい辛苦を舐めながらも、僕を探し追いかけ、僕に会いに来た。
今度は僕が板額を追いかけ、会いに行くべきじゃないのか?
板額は、京都の烏丸家本宅に居る。
遥か遠い異国に行ってしまったんじゃない。
京都なんて、ここから新幹線を使えば二時間かからずに行ける。
いや、もっといい方法があるじゃないか。
京都に住めば良い。
今は無理でも、もう一年ちょっとしたらやろうと思えばそれが出来る。
そうだ、京都の大学に入れば少なくとも四年間は京都で暮らせる。
板額の居る京都で365日毎日だって暮らせるんだ。
そうすれば、板額に会えるチャンスだって0じゃない。
この瞬間、僕の新しい生きる目標が決まった。
僕は板額に会うために京都の大学に行くんだ。
その後は、意外に早く、色々な事を決める事が出来た。
京都の大学と言っても、京都にはたくさんの大学がある。
今の僕の成績なら、安全圏なら『立命館大学』だろう。立命館なら、名古屋で受験する事も出来て、こちらから進学する人も多いし、事実、葵高からの入学者も多い。
でも、ダメだ。
例え第一の目的が板額にもう一度会う事だとしても、その為に安全圏の大学を選ぶなんてもっての外だ。そんな事をして板額に再会できたとしても板額は僕を許しはしないだろう。
では、緑川と同じく『京大』か?
確かに憧れに近い目標なら『京大』でも良いだろし、それが出来ればベストだ。上手く行けば中学高校と続き緑川とまた同じ学校に通終える。
でも現実的な線を考えれば御所裏の赤レンガで有名な『同志社大学』だ。多くの京大志望者が併願校、あるいは滑り止めとして受験する関西屈指の難関私立。東の『早稲田』『慶応』に並ぶ歴史ある名門私立大学だ。
今まで僕が漠然と思っていた名大よりもさらに難関である事には間違いない。故に、今のままでは合格は難しいと思われる。しかし、けっして不可能じゃない。京大はいくら何でも、僕では無理だろうが、受験科目を絞り込める私学の同志社なら可能性はある。
それに、緑川が京大に受かり、僕も同志社に合格できれば、板額の事はともかく緑川と同じ京都に下宿できる。そうすれば同じ大学でなくとも緑川との関係もこのまま続けて行けるのだ。
しかし、まあ、この辺りは僕の願望が多々入った見解だ。大学生になった、しかも京大生になった緑川の心に変化があるかもしれない。彼女にとっての新たな出会いだってある可能性がないとも言えない。それでも、やっぱり、僕は緑川の傍に居たいのだ。
ただ付け加えるなら、もし板額に再び会えて、この気持ちは決して口にしてはいけない、と僕はこの時、密かに思った。
実は……僕は後になって気が付いたことが一つある。
それは……
『何故、緑川は京大を第一志望校にしたのか?』
……と言う事である。
緑川の実力なら、『東大』、そう天下の東京大学だって無理じゃない。いや、この地方からならむしろ『東大』を選ぶのが一般的だと思われる。それを、わざわざ『京大』に決めたなんて、考えてみれば少々不可解なのだ。
もちろん、決して『京大』が『東大』劣ると言う問題じゃない。『東大』『京大』は日本の最高学府のツートップである事は誰も疑わない。それは僕も同じだ。ただ、僕の居るこの地方ではこの二つのどちらでも行ける実力があるなら、何か特別に京都にこだわる理由がなければ『東大』を志望校とて選択するのが普通なのだ。まあ、地方性と言う奴である。
それに緑川の家は代々医者の家系で、しかも代々東大医学部出とも風の噂に聞いた事もあった。
それなのに緑川は、あえて『京大』を第一志望校にしたのだ。
これは凄く奇異な事なのだ。
でも、この時の僕はそんな大事な事にまったく気付かなかった。それほど、この時の僕は色々な事に無頓着というか投げやりになっていたんだ。
ちなみに、後々、緑川にその事を尋ねたら……
『実は、与一がその事を追及して来たらどう言い訳するか、
色々と考えていたのよね。でも全部、無駄になっちゃった』
……と笑って答えた。
その時の笑いが少々僕を小ばかにする様な笑みで僕は思わずむすっとした。それと同時に、この時の自分の不甲斐ない状態を思い出して恥ずかしくもなった。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
甘灯の思いつき短編集
甘灯
キャラ文芸
作者の思いつきで書き上げている短編集です。 (現在16作品を掲載しております)
※本編は現実世界が舞台になっていることがありますが、あくまで架空のお話です。フィクションとして楽しんでくださると幸いです。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ちょっと大人な体験談はこちらです
神崎未緒里
恋愛
本当にあった!?かもしれない
ちょっと大人な体験談です。
日常に突然訪れる刺激的な体験。
少し非日常を覗いてみませんか?
あなたにもこんな瞬間が訪れるかもしれませんよ?
※本作品ではPixai.artで作成した生成AI画像ならびに
Pixabay並びにUnsplshのロイヤリティフリーの画像を使用しています。
※不定期更新です。
※文章中の人物名・地名・年代・建物名・商品名・設定などはすべて架空のものです。
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
貸本屋七本三八の譚めぐり ~実井寧々子の墓標~
茶柱まちこ
キャラ文芸
時は大昌十年、東端の大国・大陽本帝国(おおひのもとていこく)屈指の商人の町・『棚葉町』。
人の想い、思想、経験、空想を核とした書物・『譚本』だけを扱い続ける異端の貸本屋・七本屋を中心に巻き起こる譚たちの記録――第二弾。
七本屋で働く19歳の青年・菜摘芽唯助(なつめいすけ)は作家でもある店主・七本三八(ななもとみや)の弟子として、日々成長していた。
国をも巻き込んだ大騒動も落ち着き、平穏に過ごしていたある日、
七本屋の看板娘である音音(おとね)の前に菅谷という謎の男が現れたことから、六年もの間封じられていた彼女の譚は動き出す――!
はじまりはいつもラブオール
フジノシキ
キャラ文芸
ごく平凡な卓球少女だった鈴原柚乃は、ある日カットマンという珍しい守備的な戦術の美しさに魅せられる。
高校で運命的な再会を果たした柚乃は、仲間と共に休部状態だった卓球部を復活させる。
ライバルとの出会いや高校での試合を通じ、柚乃はあの日魅せられた卓球を目指していく。
主人公たちの高校部活動青春ものです。
日常パートは人物たちの掛け合いを中心に、
卓球パートは卓球初心者の方にわかりやすく、経験者の方には戦術などを楽しんでいただけるようにしています。
pixivにも投稿しています。
彩鬼万華鏡奇譚 天の足夜のきせきがたり
響 蒼華
キャラ文芸
元は令嬢だったあやめは、現在、女中としてある作家の家で働いていた。
紡ぐ文章は美しく、されど生活能力皆無な締め切り破りの問題児である玄鳥。
手のかかる雇い主の元の面倒見ながら忙しく過ごす日々、ある時あやめは一つの万華鏡を見つける。
持ち主を失ってから色を無くした、何も映さない万華鏡。
その日から、月の美しい夜に玄鳥は物語をあやめに聞かせるようになる。
彩の名を持つ鬼と人との不思議な恋物語、それが語られる度に万華鏡は色を取り戻していき……。
過去と現在とが触れあい絡めとりながら、全ては一つへと収束していく――。
※時代設定的に、現代では女性蔑視や差別など不適切とされる表現等がありますが、差別や偏見を肯定する意図はありません。
イラスト:Suico 様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる