137 / 161
第百三十七話
しおりを挟む
「ごめん、与一、先に謝っておくよ。
僕もこのことを知っていながら君に話さなかった。
その原因は京子に対する嫉妬だったんだ。
君の心に居る京子はいくら僕でも敵わないからね。
君を京子に取られたくなかったんだ」
板額はあの後、僕と二人きりの時にそう言って僕に謝った。
「ただの幽霊にすぎない私から見れば、
鬼牙の御姫様のあなたの方がよっぽど怖いわよ。
その気になれば私なんか一撃で浄化だもの。
……って冗談はともかく、
元は男の子なのに、女の子になっても、ある意味、人でなくなっても、
それでも平泉君の事を想い追い続けたあなたこそ、
私にはすごく怖い存在だったのよ」
二人きりとは言ってもそこは幽霊の白瀬の事、板額の言葉を聞いてふわりと僕らの目の前に現れてそう言って笑った。
生きていたころの白瀬は、控えめで何事にも自信なさげでおどおどしていた。
でもそれはあの義父が居たから委縮してそうなってただけだったのだろう。本来の白瀬京子という女の子は、板額や緑川同様にかなりはきはきした性格だったんじゃないかと、そんな白瀬を見るたび僕は思った。
ちなみに白瀬は、あれから僕の傍にいつも居る様になった。
そして僕は白瀬と何日も夜を徹していっぱい話した。
それこそ母が心配するくらい。おかげで授業中もつい居眠りをして何度も白瀬に起こされたっけ。さらには、勘の良い板額と緑川にも勘繰られ散々嫌味も言われた。
僕らはあの時、お互い話せなかった事を話しつくしたのだ。お互いの事、そして、大好きな小説の事。さらにはお互いの胸の奥に隠して来た恋心さえも隠さずみんな話した。その事を話した時、白瀬は僕にしがみ付いて大声を上げて泣いた。まるで子供の様に泣きじゃくった。それは、悲しみ、後悔、喜びなど色々な感情が入り混じった一言では言い表せない感情だったのだろう。
僕は、散々泣きじゃくった後、白瀬が浮かべた森の泉に沸く水の様に澄み切った笑顔を今でも決して忘れない。そして、心の中で思った。
『僕は心の奥底ではやっぱり白瀬の事が一番好きなのかもしれない』
……って。そして板額と緑川には同じように心の中で謝った。
『白瀬は幽霊だからそのくらい僕が思ってやるのを許して欲しい』
……と。まあ、彼女らからすれば、これは男の身勝手な言い訳かもしれないけど。
もちろんいつもいると言っても白瀬は、僕のプライバシーにかかわる時間や、板額や緑川と二人きりでいる時などは気を使って姿を消してくれる。白瀬は、そういう時は一時的に存在が消えてるから、そこで何が起きてるか見たり聞いたりは出来ない、とは言ったいた。
でも、僕が白瀬を呼べばいつでも瞬時に戻ってくることは出来るらしい。実際そうではあるから、白瀬のその言葉を僕は完全には信じてはいない。だって相手は幽霊なんだもの、僕からは見えないだけで実はずっと傍に居るんじゃないかと密かに思っている。
また、僕は母にも白瀬が幽霊になって僕の傍に居る事を話した。
何となく、信じてくれるかどうかは別にして母には白瀬が傍に居る事を知らせなくてはいけない気がしていたのだ。
「京子ちゃん、笑ってた?」
そしたら母は多くを語らずただ僕にそう尋ねた。僕は微笑みながら頷くと、母は目に涙を浮かべて何度も何度も嬉しそうに頷いていた。
僕には一言も言わなかったが、きっと母も白瀬の事に関しては、あの時からずっと心に引っかかる事があったのだろう。それが今の白瀬が笑っている事を知って、すべて氷解したのだろうと僕は思った。
そうそう、白瀬絡みの事で後談にはもう一つ触れておかねばならない事がある。
緑川が板額からもらった例のチョーカーを毎日身に着け白瀬の姿が普通に見える様になってから数日の事だった。
僕ら三人だけになった……まあ、白瀬もいるから正確には四人か……時に、ふと緑川が言ったのだ。
「あのさ、板額。
今朝、JRのホームに恨みがましい目でじっと線路見ながら、
佇んでるサラリーマン風の人が居たんだけど、アレって……」
「ああ、そうそう、君の思ってる通りのモノさ。
なるべくなら目を合わさない様にすることを、
僕は強く推奨するよ」
それを聞いて板額がこともなげに言った。
僕には板額の口元がなんだかにやにや笑っている様にも見えた。
「やっぱり……
居るのね、結構、そこかしこに」
一方、緑川は少しうんざりした顔でそう呟く様に言った。
僕もこのことを知っていながら君に話さなかった。
その原因は京子に対する嫉妬だったんだ。
君の心に居る京子はいくら僕でも敵わないからね。
君を京子に取られたくなかったんだ」
板額はあの後、僕と二人きりの時にそう言って僕に謝った。
「ただの幽霊にすぎない私から見れば、
鬼牙の御姫様のあなたの方がよっぽど怖いわよ。
その気になれば私なんか一撃で浄化だもの。
……って冗談はともかく、
元は男の子なのに、女の子になっても、ある意味、人でなくなっても、
それでも平泉君の事を想い追い続けたあなたこそ、
私にはすごく怖い存在だったのよ」
二人きりとは言ってもそこは幽霊の白瀬の事、板額の言葉を聞いてふわりと僕らの目の前に現れてそう言って笑った。
生きていたころの白瀬は、控えめで何事にも自信なさげでおどおどしていた。
でもそれはあの義父が居たから委縮してそうなってただけだったのだろう。本来の白瀬京子という女の子は、板額や緑川同様にかなりはきはきした性格だったんじゃないかと、そんな白瀬を見るたび僕は思った。
ちなみに白瀬は、あれから僕の傍にいつも居る様になった。
そして僕は白瀬と何日も夜を徹していっぱい話した。
それこそ母が心配するくらい。おかげで授業中もつい居眠りをして何度も白瀬に起こされたっけ。さらには、勘の良い板額と緑川にも勘繰られ散々嫌味も言われた。
僕らはあの時、お互い話せなかった事を話しつくしたのだ。お互いの事、そして、大好きな小説の事。さらにはお互いの胸の奥に隠して来た恋心さえも隠さずみんな話した。その事を話した時、白瀬は僕にしがみ付いて大声を上げて泣いた。まるで子供の様に泣きじゃくった。それは、悲しみ、後悔、喜びなど色々な感情が入り混じった一言では言い表せない感情だったのだろう。
僕は、散々泣きじゃくった後、白瀬が浮かべた森の泉に沸く水の様に澄み切った笑顔を今でも決して忘れない。そして、心の中で思った。
『僕は心の奥底ではやっぱり白瀬の事が一番好きなのかもしれない』
……って。そして板額と緑川には同じように心の中で謝った。
『白瀬は幽霊だからそのくらい僕が思ってやるのを許して欲しい』
……と。まあ、彼女らからすれば、これは男の身勝手な言い訳かもしれないけど。
もちろんいつもいると言っても白瀬は、僕のプライバシーにかかわる時間や、板額や緑川と二人きりでいる時などは気を使って姿を消してくれる。白瀬は、そういう時は一時的に存在が消えてるから、そこで何が起きてるか見たり聞いたりは出来ない、とは言ったいた。
でも、僕が白瀬を呼べばいつでも瞬時に戻ってくることは出来るらしい。実際そうではあるから、白瀬のその言葉を僕は完全には信じてはいない。だって相手は幽霊なんだもの、僕からは見えないだけで実はずっと傍に居るんじゃないかと密かに思っている。
また、僕は母にも白瀬が幽霊になって僕の傍に居る事を話した。
何となく、信じてくれるかどうかは別にして母には白瀬が傍に居る事を知らせなくてはいけない気がしていたのだ。
「京子ちゃん、笑ってた?」
そしたら母は多くを語らずただ僕にそう尋ねた。僕は微笑みながら頷くと、母は目に涙を浮かべて何度も何度も嬉しそうに頷いていた。
僕には一言も言わなかったが、きっと母も白瀬の事に関しては、あの時からずっと心に引っかかる事があったのだろう。それが今の白瀬が笑っている事を知って、すべて氷解したのだろうと僕は思った。
そうそう、白瀬絡みの事で後談にはもう一つ触れておかねばならない事がある。
緑川が板額からもらった例のチョーカーを毎日身に着け白瀬の姿が普通に見える様になってから数日の事だった。
僕ら三人だけになった……まあ、白瀬もいるから正確には四人か……時に、ふと緑川が言ったのだ。
「あのさ、板額。
今朝、JRのホームに恨みがましい目でじっと線路見ながら、
佇んでるサラリーマン風の人が居たんだけど、アレって……」
「ああ、そうそう、君の思ってる通りのモノさ。
なるべくなら目を合わさない様にすることを、
僕は強く推奨するよ」
それを聞いて板額がこともなげに言った。
僕には板額の口元がなんだかにやにや笑っている様にも見えた。
「やっぱり……
居るのね、結構、そこかしこに」
一方、緑川は少しうんざりした顔でそう呟く様に言った。
0
お気に入りに追加
12
あなたにおすすめの小説
AV研は今日もハレンチ
楠富 つかさ
キャラ文芸
あなたが好きなAVはAudioVisual? それともAdultVideo?
AV研はオーディオヴィジュアル研究会の略称で、音楽や動画などメディア媒体の歴史を研究する集まり……というのは建前で、実はとんでもないものを研究していて――
薄暗い過去をちょっとショッキングなピンクで塗りつぶしていくネジの足りない群像劇、ここに開演!!
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
山蛭様といっしょ。
ちづ
キャラ文芸
ダーク和風ファンタジー異類婚姻譚です。
和風吸血鬼(ヒル)と虐げられた村娘の話。短編ですので、もしよかったら。
不気味な恋を目指しております。
気持ちは少女漫画ですが、
残酷描写、ヒル等の虫の描写がありますので、苦手な方又は15歳未満の方はご注意ください。
表紙はかんたん表紙メーカーさんで作らせて頂きました。https://sscard.monokakitools.net/covermaker.html
水曜の旅人。
太陽クレハ
キャラ文芸
とある高校に旅研究部という部活動が存在していて。
その旅研究部に在籍している花咲桜と大空侑李が旅を通して多くの人々や物事に触れていく物語。
ちなみに男女が同じ部屋で寝たりしますが、そう言うことはないです。
基本的にただ……ただひたすら旅に出かけるだけで、恋愛要素は少なめです。
ちなみにちなみに例ウイルスがない世界線でのお話です。
ちなみにちなみにちなみに表紙イラストはmeitu AIイラストメーカーにて作成。元イラストは私が書いた。
グリモワールと文芸部
夢草 蝶
キャラ文芸
八瀬ひまわりは文芸部に所属する少女。
ある日、部室を掃除していると見たことのない本を見つける。
本のタイトルは『グリモワール』。
何気なくその本を開いてみると、大きな陣が浮かび上がって……。
まる男の青春
大林和正
キャラ文芸
ほぼ1話完結となってるシリーズモノです
どれから読んでも大丈夫です
1973年生まれのまる男は小学校1年の頃から、ある理由でプロも通うボクシングジムで学校以外、ボクシング漬けだった。そして、中学校、友達に誘われて野球部に入る。運動神経は怪物だけど、常識のだいぶずれた少年と少し奥手な仲間たちの物語である
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!
【完結】実はチートの転生者、無能と言われるのに飽きて実力を解放する
エース皇命
ファンタジー
【HOTランキング1位獲得作品!!】
最強スキル『適応』を与えられた転生者ジャック・ストロングは16歳。
戦士になり、王国に潜む悪を倒すためのユピテル英才学園に入学して3ヶ月がたっていた。
目立たないために実力を隠していたジャックだが、学園長から次のテストで成績がよくないと退学だと脅され、ついに実力を解放していく。
ジャックのライバルとなる個性豊かな生徒たち、実力ある先生たちにも注目!!
彼らのハチャメチャ学園生活から目が離せない!!
※小説家になろう、カクヨム、エブリスタでも投稿中
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる