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第九十一話
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四時限目の授業が終わると、僕はいつも通りトイレにでも行くように極力自然な風で教室を出た。そしてちらりと後ろを振り返って誰も、いや正確には板額をだが、ついてこないのを確認すると走り出した。向かう先は、昼休憩でもめったに人が来ない特殊教室棟のトイレだ。
目指すトイレに到着すると、そのまま一番奥の個室に僕は飛び込んだ。そして、ポケットからスマホを取り出し再びあの添付ファイルを開いた。
そこには……
緑川が両手を後ろ手に縛られた上に猿轡をされて、どこか倉庫の様な場所でコンクリートの床の上に座らされている画像があった。
緑川は、ブレザーとスカートを脱がさた上、ブラウスのボタンも上から四つほど外され、薄いブルーのブラとショーツが露わになっていた。当の緑川も、この状態で顔まで撮られるのは嫌だったのだろう。必死に顔を背けようとしていたが、誰かがその緑川の顔を押さえて、恐怖と恥辱で頬を染める緑川の顔がはっきり写る様にしていた。もちろん、ご丁寧にもその人物の顔は一切画像に移らない様にトリミングしてあった。目に一杯の涙を貯めながらも、泣くまいと必死に耐えている緑川の瞳があまりに痛々しかった。
僕のスマホを持つ手はどうしようもない怒りで痙攣しているかの様に震えていた。
すぐに僕は、さっき教室でこの画像ファイルを開いた時には気づかなかった物に気づいた。画像はスマホの画面に収まらず少しだけフレームアウトした部分があったのだ。そこをスライドさせて表示させると、そこには段ボールにフェルトペンで殴り書きされた明らかに僕へと思われるメッセージがあった。
そこには……
『今日の夜7時までに、後で知らせる場所まで一人で来い。
一秒でも遅れたら、今度はこの女のAV動画が届く事になる』
これは僕を標的にしたものに間違いないと僕は確信した。緑川は僕をおびき出す餌にされてしまったのだ。
僕の為に、愛する緑川がこんな理不尽な辱めを受けた。
僕の精神はどうしようもない怒りでおかしくなりそうだった。いますぐ、指定された場所へ飛んで行って緑川を救い出したい衝動に駆られた。
しかし、その場所がどこかはまだまったくわかっていなかった。そのことが余計に僕を追いつめた。緑川のあの状況を見れば、彼女が次に何をされるかなど、あのメッセージを見なくても分かる。相手が美人の緑川なら、相手がメッセージ通り時間まで待ってくれている保証などない。こうしてる間にも緑川が狼どもの毒牙にかかっているのではないかと思うといてもたってもいられなかった。
相手はきっと僕がそう考えるのが分かってこんな事をやっているのだろう。そうやってまるで猫が獲物をなぶる様に、僕を精神的に追い詰めて楽しんでいるのだろう、と僕は思った。そう思うと悔しくてたまらなかったが今の僕にはどうすることもできなかった。
その頃、確かに僕自身の精神は『白瀬京子の呪い』に蝕まれ普通ではなくなっていた。一部でまともな判断や分析が出来なくなっていたのは事実だ。しかし、この時の僕にそう考えられるだけの冷静さはあった。緑川を無事に救い出す。その使命感が僕に冷静さを再び読み戻していた。
そう考えると、緑川をあんな姿にしてその画像を僕に送り付けたのは、僕を精神的に追いつめるだけが目的でない事にも僕は気が付いた。
この画像を撮影した者は、ただ単に緑川を辱める為にこの画像を撮ったのではない。緑川をこんな姿にしてその画像を僕に送り付けたのは、緑川を拉致した事を他言させない為に違いない。こんな緑川の姿、僕なら絶対に他の誰にも見せる事は出来ないと相手は確信しているのだ。そして、それは間違っていない。さらに言えば、こんな緑川の姿を見せられたら僕は、相手の言う事を聞かざるを得なくなる。
『与一君は、緑川さんの事になると違うのね。
あの頃からそうだったわ。とっても憎らしいわ』
冷たいと吐息と共に僕の耳元で白瀬の囁き声がそう囁いた気がした。同時に冷たい肌の感覚と生臭い血の匂いが背中から感じられた。
『頼む、白瀬。今は邪魔しないでくれ。
緑川を救い出したら、また君だけの僕に戻るから』
僕は背中にぺたりとへばりつく白瀬の怨霊にそう答えた。
『約束よ、与一君……』
するとそう再び僕の耳元でそう囁いた後、白瀬の怨霊は姿を消した。
目指すトイレに到着すると、そのまま一番奥の個室に僕は飛び込んだ。そして、ポケットからスマホを取り出し再びあの添付ファイルを開いた。
そこには……
緑川が両手を後ろ手に縛られた上に猿轡をされて、どこか倉庫の様な場所でコンクリートの床の上に座らされている画像があった。
緑川は、ブレザーとスカートを脱がさた上、ブラウスのボタンも上から四つほど外され、薄いブルーのブラとショーツが露わになっていた。当の緑川も、この状態で顔まで撮られるのは嫌だったのだろう。必死に顔を背けようとしていたが、誰かがその緑川の顔を押さえて、恐怖と恥辱で頬を染める緑川の顔がはっきり写る様にしていた。もちろん、ご丁寧にもその人物の顔は一切画像に移らない様にトリミングしてあった。目に一杯の涙を貯めながらも、泣くまいと必死に耐えている緑川の瞳があまりに痛々しかった。
僕のスマホを持つ手はどうしようもない怒りで痙攣しているかの様に震えていた。
すぐに僕は、さっき教室でこの画像ファイルを開いた時には気づかなかった物に気づいた。画像はスマホの画面に収まらず少しだけフレームアウトした部分があったのだ。そこをスライドさせて表示させると、そこには段ボールにフェルトペンで殴り書きされた明らかに僕へと思われるメッセージがあった。
そこには……
『今日の夜7時までに、後で知らせる場所まで一人で来い。
一秒でも遅れたら、今度はこの女のAV動画が届く事になる』
これは僕を標的にしたものに間違いないと僕は確信した。緑川は僕をおびき出す餌にされてしまったのだ。
僕の為に、愛する緑川がこんな理不尽な辱めを受けた。
僕の精神はどうしようもない怒りでおかしくなりそうだった。いますぐ、指定された場所へ飛んで行って緑川を救い出したい衝動に駆られた。
しかし、その場所がどこかはまだまったくわかっていなかった。そのことが余計に僕を追いつめた。緑川のあの状況を見れば、彼女が次に何をされるかなど、あのメッセージを見なくても分かる。相手が美人の緑川なら、相手がメッセージ通り時間まで待ってくれている保証などない。こうしてる間にも緑川が狼どもの毒牙にかかっているのではないかと思うといてもたってもいられなかった。
相手はきっと僕がそう考えるのが分かってこんな事をやっているのだろう。そうやってまるで猫が獲物をなぶる様に、僕を精神的に追い詰めて楽しんでいるのだろう、と僕は思った。そう思うと悔しくてたまらなかったが今の僕にはどうすることもできなかった。
その頃、確かに僕自身の精神は『白瀬京子の呪い』に蝕まれ普通ではなくなっていた。一部でまともな判断や分析が出来なくなっていたのは事実だ。しかし、この時の僕にそう考えられるだけの冷静さはあった。緑川を無事に救い出す。その使命感が僕に冷静さを再び読み戻していた。
そう考えると、緑川をあんな姿にしてその画像を僕に送り付けたのは、僕を精神的に追いつめるだけが目的でない事にも僕は気が付いた。
この画像を撮影した者は、ただ単に緑川を辱める為にこの画像を撮ったのではない。緑川をこんな姿にしてその画像を僕に送り付けたのは、緑川を拉致した事を他言させない為に違いない。こんな緑川の姿、僕なら絶対に他の誰にも見せる事は出来ないと相手は確信しているのだ。そして、それは間違っていない。さらに言えば、こんな緑川の姿を見せられたら僕は、相手の言う事を聞かざるを得なくなる。
『与一君は、緑川さんの事になると違うのね。
あの頃からそうだったわ。とっても憎らしいわ』
冷たいと吐息と共に僕の耳元で白瀬の囁き声がそう囁いた気がした。同時に冷たい肌の感覚と生臭い血の匂いが背中から感じられた。
『頼む、白瀬。今は邪魔しないでくれ。
緑川を救い出したら、また君だけの僕に戻るから』
僕は背中にぺたりとへばりつく白瀬の怨霊にそう答えた。
『約束よ、与一君……』
するとそう再び僕の耳元でそう囁いた後、白瀬の怨霊は姿を消した。
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