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第四十八話
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僕はこれを知っている。いや葵高の生徒なら誰でも知っている事だ。
「与一、一体これは何なんだい?」
唯一、それを知らぬ転校生の板額が戸惑った顔で僕を見て尋ねた。僕は思わず板額の顔を見てしまった。
そうなのだ、当人だけが気づいていないが、彼らは皆、この板額の登場を待っていたのだ。
そう、これは新しくランカー入りした者を称え敬う我が葵高伝統の儀式なのだ。一般には『ランカーの花道』と呼ばれている。
これが目の前で起こったと言う事は僕か板額のどちらか、あるいは両方がランカー入りしていると言う事に違いない。ただどう転んでも今回僕がランカー入りする事はない成績なの僕が一番良く知っている。と言う事は、間違いなく板額がランカー入りしたと言う事なのだ。
「君の為の花道だよ、板額。
さあ、堂々と前に進み給え」
そう察した僕は板額から手を離し、そっとそう言って板額の肩を押した。戸惑い、僕を振り返った板額に僕は祝福の笑顔で頷いた。それを見て板額が出来上がった花道を一人で歩き始めた。そして僕はまるで従者のごとくその一歩後ろを付いて歩いた。
最初は、勉学に関しては少し劣等生と思われていた転校生がランカー入りした事に対する驚きの視線だと僕は思っていた。でも、周りから板額に向けられるその視線はそんな生易しい物じゃなかった。そう、どちらかと言うと驚愕、いや畏怖と言うべき物だった。怯えさ感じさせる視線だったのだ。
単なるランカー入りじゃない。何かもっととんでもない事を板額はやってのけた。
僕はそう確信した。
「板額……あなたは一体何者なのよ?」
人垣の一番先頭、花道の終点にはあの『難攻不落のNo.1』緑川が居た。まだ意味が分からず戸惑い顔でゆっくりと近づいて来た板額に絞り出す様な声でそう尋ねた。その顔は完全に放心状態だった。
「ま、まさか……」
緑川のその表情と言葉から僕はとんでもない事を想像して目の前の掲示板を見た。
そこには……
『総合順位一位 烏丸 板額 点数595点』
とあった。
葵高のランカー発表は主要五教科の各部門別と、国語、英語、数学の主要三教科の合計点数順位が対象となる。僕ら二年生は国語が古典&漢文/現代文、英語が読解/文法、数学が数学Ⅱ/数学B、社会が日本史/世界史、理科が科学/物理でそれぞれ各教科100点×2の200点満点、三教科では600点満点となる。
そして板額の横に書かれていたのが……
『第二位 緑川 巴 点数516点』
であった。
『難攻不落のNo.1』であった緑川がトップを初めて明け渡した。しかも何とほぼ80点の大差をつけられての首位陥落なのだ。しかし、これは緑川の成績が今回に限って悪かった訳ではない。これでも三位とは20点以上の差がある。しかもここは天下の葵高なのだ。平均で170点以上をマークする緑川は通常なら誰からも、そして教師からも称賛される成績なのだ。
事実、葵高における各教科の平均点は120点前後である。この難関校である葵高へ入学した者が必死に勉強してもそれだけしか点が取れない程難問を教師達は定期考査で出してくる。これはこの葵高の教師達の伝統的な生徒の鍛錬法なのだ。決して教師達の意地が悪いわけではない。この超難問定期考査の洗礼を三年間受ける葵高生は、相手が例え超難関校の入試であってもさほど難しいと感じなくなるのだ。そしてそれが精神的な余裕に繋がり高い合格率を実現している。ただ、学校として世間にアピールするために高い合格率を出すようにしてるわけではない。葵高において受験する大学は生徒の自主的決断に任されている。例え、現実的に合格が難しい様な大学でも教師は決して生徒に諦める様には言わない。生徒自身がその大学を受けたいと言えばどんなに可能性が低かろうと教師はその背中を押してくれるのだ。
さらに各教科別の成績においても板額はすべてにおいても緑川を押さえ全教科首位を取った。しかもそれだけではない、板額は国語が195点だった以外は全教科200点をたたき出していた。これはまさに奇跡とも言える快挙だった。僕自身、このランキング発表で200点なぞ見た事はない。『葵高において定期考査で満点を取る事は決してできない』これが葵高での常識だった。僕が見た最高点は緑川がかつて英語で取った183点だ。その時ですら学校中でしばらく話題になった程なのだ。
「与一、一体これは何なんだい?」
唯一、それを知らぬ転校生の板額が戸惑った顔で僕を見て尋ねた。僕は思わず板額の顔を見てしまった。
そうなのだ、当人だけが気づいていないが、彼らは皆、この板額の登場を待っていたのだ。
そう、これは新しくランカー入りした者を称え敬う我が葵高伝統の儀式なのだ。一般には『ランカーの花道』と呼ばれている。
これが目の前で起こったと言う事は僕か板額のどちらか、あるいは両方がランカー入りしていると言う事に違いない。ただどう転んでも今回僕がランカー入りする事はない成績なの僕が一番良く知っている。と言う事は、間違いなく板額がランカー入りしたと言う事なのだ。
「君の為の花道だよ、板額。
さあ、堂々と前に進み給え」
そう察した僕は板額から手を離し、そっとそう言って板額の肩を押した。戸惑い、僕を振り返った板額に僕は祝福の笑顔で頷いた。それを見て板額が出来上がった花道を一人で歩き始めた。そして僕はまるで従者のごとくその一歩後ろを付いて歩いた。
最初は、勉学に関しては少し劣等生と思われていた転校生がランカー入りした事に対する驚きの視線だと僕は思っていた。でも、周りから板額に向けられるその視線はそんな生易しい物じゃなかった。そう、どちらかと言うと驚愕、いや畏怖と言うべき物だった。怯えさ感じさせる視線だったのだ。
単なるランカー入りじゃない。何かもっととんでもない事を板額はやってのけた。
僕はそう確信した。
「板額……あなたは一体何者なのよ?」
人垣の一番先頭、花道の終点にはあの『難攻不落のNo.1』緑川が居た。まだ意味が分からず戸惑い顔でゆっくりと近づいて来た板額に絞り出す様な声でそう尋ねた。その顔は完全に放心状態だった。
「ま、まさか……」
緑川のその表情と言葉から僕はとんでもない事を想像して目の前の掲示板を見た。
そこには……
『総合順位一位 烏丸 板額 点数595点』
とあった。
葵高のランカー発表は主要五教科の各部門別と、国語、英語、数学の主要三教科の合計点数順位が対象となる。僕ら二年生は国語が古典&漢文/現代文、英語が読解/文法、数学が数学Ⅱ/数学B、社会が日本史/世界史、理科が科学/物理でそれぞれ各教科100点×2の200点満点、三教科では600点満点となる。
そして板額の横に書かれていたのが……
『第二位 緑川 巴 点数516点』
であった。
『難攻不落のNo.1』であった緑川がトップを初めて明け渡した。しかも何とほぼ80点の大差をつけられての首位陥落なのだ。しかし、これは緑川の成績が今回に限って悪かった訳ではない。これでも三位とは20点以上の差がある。しかもここは天下の葵高なのだ。平均で170点以上をマークする緑川は通常なら誰からも、そして教師からも称賛される成績なのだ。
事実、葵高における各教科の平均点は120点前後である。この難関校である葵高へ入学した者が必死に勉強してもそれだけしか点が取れない程難問を教師達は定期考査で出してくる。これはこの葵高の教師達の伝統的な生徒の鍛錬法なのだ。決して教師達の意地が悪いわけではない。この超難問定期考査の洗礼を三年間受ける葵高生は、相手が例え超難関校の入試であってもさほど難しいと感じなくなるのだ。そしてそれが精神的な余裕に繋がり高い合格率を実現している。ただ、学校として世間にアピールするために高い合格率を出すようにしてるわけではない。葵高において受験する大学は生徒の自主的決断に任されている。例え、現実的に合格が難しい様な大学でも教師は決して生徒に諦める様には言わない。生徒自身がその大学を受けたいと言えばどんなに可能性が低かろうと教師はその背中を押してくれるのだ。
さらに各教科別の成績においても板額はすべてにおいても緑川を押さえ全教科首位を取った。しかもそれだけではない、板額は国語が195点だった以外は全教科200点をたたき出していた。これはまさに奇跡とも言える快挙だった。僕自身、このランキング発表で200点なぞ見た事はない。『葵高において定期考査で満点を取る事は決してできない』これが葵高での常識だった。僕が見た最高点は緑川がかつて英語で取った183点だ。その時ですら学校中でしばらく話題になった程なのだ。
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