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第五話
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「そうだ、与一。
せっかくこうして会えたんだから……」
そこで板額は一旦、言葉を切って真剣な顔つきで僕をじっと見つめてから続けた。
「僕を君の彼女にしてよ」
そう言うと板額は少しは頬を赤らめてはにかむ様な表情を浮かべて僕の答えを待った。
一瞬の凍り付いた様な静寂の後、なんとも形容しがたいどよめきが教室中に響いた。
そして、僕にはその時、板額が口にした言葉の意味が分からなかった。いや僕だって日本人である。しかも板額の言った言葉はしごくシンプルかつ分かり易い言葉だ。その上、やや低めでもその声はすごく良く通る声なのだ。普通なら意味が分からないなんて事はない。でも、僕の頭は何故か理解する事を拒んでいたような気がする。ただ女の子嫌いの僕には珍しく、はにかむ板額が抱きしめたいほど可愛く思えた事だけは妙にはっきり覚えている。
「とりあえずお友達からなら……」
僕は何だか分からないままそう反射的に答えていた。
「うん、分かったよ。
それじゃ『もう一度』友達から始めよう。
でもこれだけは忘れないで、与一。
僕は君の事が大好きなんだよ」
僕の言葉に、板額は一瞬驚いた様な表情を浮かべた。しかし、すぐにとびっきりの可愛らしい笑顔に変わって板額はそう答えた。
「お……おう……、ありがとな」
そして僕の方も、今、何が起こっているのか全然理解できないまま、そう不格好に答えていた。
こうして、後々、葵高生が代々語り継ぐことになる『葵高の七不思議』の一つ『まさかの、美少女転校生、転校初日にボッチ男へ彼女宣言事件』(どう考えてもこの名前長すぎるだろうが!)が起こったのだ。
そして、この日から僕は『いるのか居ないのか分からない存在感希薄のボッチ男』から『美人転校生から突如彼女にして宣言された謎の男』として何かと注目される存在になった。言うなれば優秀な熱光学迷彩を破られた思考戦車って奴だろう。意味が分からん奴は、深く考えるな。
マンガやラノベなら、この瞬間から僕と板額のラブラブイチャイチャのバカップルぶりが始まり板額も女子から疎ましく思われるのが普通だろう。しかし板額はその見かけ通りすごく賢い女の子だった。
それから一週間程、板額はもっぱら彼女の周りに集まる女の子達と話したり一緒に昼ごはんを食べたり一緒に帰ったりしていた。まるであの大事件がなかったかの様な風を装っていた。実際、この頃になるとあの事件は板額の洒落の効きすぎたジョークに違いないって話もまことしやかに流れ始めていた。
さらに、板額はモデルかと思えるほど美貌と、男子顔負けの長身もあって転校初日からうちのクラスのみならず学校中で目立っていた。その上板額はそのお姫様然とした風貌とは正反対の、自身を僕と言う男口調でしゃべる特異な『僕っ娘キャラ』だ。なんでもこの『僕っ娘』って奴、僕には理解出来ないけれど、一部の男子や女子からは強烈に好かれるものらしい。そんな目立つ外見と個性的で独特のキャラで、一週間が過ぎた頃には、男子生徒のみならず女子生徒も含めて全学校中の注目を集める存在となっていた。
それに、唐突な僕への彼女宣言とは裏腹に、表だって彼女らしい事もしなかった事もあり、『彼氏持ち』という変な警戒感もなくなっていた。
まあ、表立って彼女らしい事はしていなかった板額だが、朝や帰り、そして放課などボッチの僕に必ずひと声かけてくれていた。今までの僕なら、そう言うのは緑川の例もあってうっとしいと感じるのだが、何故か板額相手だとそうは感じなかった。いや、むしろ、それを嬉しいと感じる僕だった。それでも、僕はいつもそんな気持ちはおくびにも出さず、ただぶっきらぼうに、めんどくさそう……
「おおっ……」
……って答える毎日だった。
せっかくこうして会えたんだから……」
そこで板額は一旦、言葉を切って真剣な顔つきで僕をじっと見つめてから続けた。
「僕を君の彼女にしてよ」
そう言うと板額は少しは頬を赤らめてはにかむ様な表情を浮かべて僕の答えを待った。
一瞬の凍り付いた様な静寂の後、なんとも形容しがたいどよめきが教室中に響いた。
そして、僕にはその時、板額が口にした言葉の意味が分からなかった。いや僕だって日本人である。しかも板額の言った言葉はしごくシンプルかつ分かり易い言葉だ。その上、やや低めでもその声はすごく良く通る声なのだ。普通なら意味が分からないなんて事はない。でも、僕の頭は何故か理解する事を拒んでいたような気がする。ただ女の子嫌いの僕には珍しく、はにかむ板額が抱きしめたいほど可愛く思えた事だけは妙にはっきり覚えている。
「とりあえずお友達からなら……」
僕は何だか分からないままそう反射的に答えていた。
「うん、分かったよ。
それじゃ『もう一度』友達から始めよう。
でもこれだけは忘れないで、与一。
僕は君の事が大好きなんだよ」
僕の言葉に、板額は一瞬驚いた様な表情を浮かべた。しかし、すぐにとびっきりの可愛らしい笑顔に変わって板額はそう答えた。
「お……おう……、ありがとな」
そして僕の方も、今、何が起こっているのか全然理解できないまま、そう不格好に答えていた。
こうして、後々、葵高生が代々語り継ぐことになる『葵高の七不思議』の一つ『まさかの、美少女転校生、転校初日にボッチ男へ彼女宣言事件』(どう考えてもこの名前長すぎるだろうが!)が起こったのだ。
そして、この日から僕は『いるのか居ないのか分からない存在感希薄のボッチ男』から『美人転校生から突如彼女にして宣言された謎の男』として何かと注目される存在になった。言うなれば優秀な熱光学迷彩を破られた思考戦車って奴だろう。意味が分からん奴は、深く考えるな。
マンガやラノベなら、この瞬間から僕と板額のラブラブイチャイチャのバカップルぶりが始まり板額も女子から疎ましく思われるのが普通だろう。しかし板額はその見かけ通りすごく賢い女の子だった。
それから一週間程、板額はもっぱら彼女の周りに集まる女の子達と話したり一緒に昼ごはんを食べたり一緒に帰ったりしていた。まるであの大事件がなかったかの様な風を装っていた。実際、この頃になるとあの事件は板額の洒落の効きすぎたジョークに違いないって話もまことしやかに流れ始めていた。
さらに、板額はモデルかと思えるほど美貌と、男子顔負けの長身もあって転校初日からうちのクラスのみならず学校中で目立っていた。その上板額はそのお姫様然とした風貌とは正反対の、自身を僕と言う男口調でしゃべる特異な『僕っ娘キャラ』だ。なんでもこの『僕っ娘』って奴、僕には理解出来ないけれど、一部の男子や女子からは強烈に好かれるものらしい。そんな目立つ外見と個性的で独特のキャラで、一週間が過ぎた頃には、男子生徒のみならず女子生徒も含めて全学校中の注目を集める存在となっていた。
それに、唐突な僕への彼女宣言とは裏腹に、表だって彼女らしい事もしなかった事もあり、『彼氏持ち』という変な警戒感もなくなっていた。
まあ、表立って彼女らしい事はしていなかった板額だが、朝や帰り、そして放課などボッチの僕に必ずひと声かけてくれていた。今までの僕なら、そう言うのは緑川の例もあってうっとしいと感じるのだが、何故か板額相手だとそうは感じなかった。いや、むしろ、それを嬉しいと感じる僕だった。それでも、僕はいつもそんな気持ちはおくびにも出さず、ただぶっきらぼうに、めんどくさそう……
「おおっ……」
……って答える毎日だった。
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