愛されなければお飾りなの?

まるまる⭐️

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第37話

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 更に父は続けた。

「もし、リシャール殿下が毒を盛られたと最初から分かっていたならば、近衛は真っ先に王妃様とエドモンド殿下、そしてルルナレッタの3人を調べた筈です。だが、それをしなかったのは、王家がリシャール殿下が倒れられた理由を、病を患われたのだと発表したからに他ならない! その結果、リシャール殿下は再度お命を狙われることとなった。陛下にお聞きしたい! 貴方はリシャール殿下を見殺しにされるおつもりだったのか!!」

 父の怒りを含んだその言葉は、謁見の間を飲み込んでいった。

 先程からのやり取りをずっと聞いていたその場に居並ぶ貴族や官僚達は、皆、刺すような鋭い視線を陛下に向ける。

「な…何を申す。リシャールは…私にとって、血を分けた可愛い息子だ…。その様なはずは…ないではないか…」

 陛下はその視線にたじろぎながらも、必死に弁解の言葉を述べた。

 だが、困惑しながらしどろもどろに話すその言葉と態度には、説得力も、また王としての威厳も微塵も感じる事は出来なかった。

「では、どんな理由があって隠蔽されたと言うのです? 王族が毒を盛られたのですよ? 再発防止の為にも、いち早く公表し、犯人を捕まえる事こそが先決だったのではありませんか?」

 父が再度問い直す。

「それは…」

 だが陛下はそう言うだけで、まともな答えさえ返す事は出来なかった。

 その時だ。

「宜しいですか?」

 そう声を上げたのはあの陛下の側近の男だ。

 陛下は自分に代わって彼が上手く執り成してくれるとでも思ったのだろう。一瞬、安心した様に顔を綻ばせた。何処までも他力本願な男である。だが、その期待は裏切られる。彼の口から発せられたのは、リシャールにとっては信じられないような言葉だったのだから。

「リシャール殿下が毒を盛られたとお聞きし、陛下が離宮へ駆けつけられた時、殿下は息も絶え絶えのご様子でした。其れを見た陛下は仰ったのです。リシャールは死ぬかも知れぬな。ならば、死ぬかも知れぬ子より、今、生きている子を守ろう。何、もうすぐエドモンドの側妃も子を産む。問題はないと…」

「ま…待て! お前は何を言っているんだ…!?」

 陛下は焦って止めようとした。

「何を? 何をって私は真実をお話しているだけですよ? 何故リシャール殿下が病を患っておられると王家が嘘の発表をしたのか? 皆様がお聞きになりたいのはそこでしょう?」

 そう答えた彼にこれ以上、何か言われたら堪らないとでも思ったのだろう。陛下は彼の元に駆け寄ると…

「其方はもうこれ以上何も話すな! 話すでない!! 良いな!?」

 彼に恫喝とも取れる様な怒気を含んだ声で、指差しながらそう命じた。その姿がここにいる皆からどう見えるのかさえ、この男には分からないのだろうか? 

 本当にこんな人が王だなんて、情けなくなる…。

 だが、彼は陛下の言葉に臆する事なく話を続けた。

「それから陛下はこうも仰いました。『それにこの子が死ねばもう側妃などいらぬ。離宮から追い出せるな』と…。そこに毒に倒れ苦しんでおられる殿下を気遣う言葉など1つもなかった。まるでリシャール殿下の死を願ってさえいる様なその言葉に私は怒りを覚えました。これが人の親か…? そう思った…」

 あまりに衝撃的な彼の言葉に、謁見の間のあちらこちらから息を飲み込む様な音が聞こえる。

「黙れ! 戯言を申すな!!」

 陛下は彼の胸ぐらを掴みそう叫んだ。だが陛下は気付いているだろうか? 自分がそう叫べは叫ぶ程、彼の言葉が真実だと認めている様なものだと言う事に…。

 彼はあっと言う間に掴まれた陛下の手を振り解き、其れを捻り上げ突き放した。

「いだっ! 貴様! 私にこんな事をして只で済むと思っているのか!」

 陛下は尻餅をつき、痛みに顔を歪ませながら声を荒げる。そんな陛下に彼は悲痛な表情を浮かべ、まるで言い聞かせる様に告げた。

「陛下、側妃様は18年と言う長い間、ずっとほぼ1人で全ての執務をこなされて来ました。それは王宮で働く者ならば、皆、知っている事です。ですが、そもそも国には金が無い。やれる事は限られていた。限界を感じた側妃様が陛下にご相談をされると、陛下からの答えは何時もたった1つでした。『そちに任せる』と…。ただそれだけ…。」

 私の時もそうだった。何を相談しても『任せる』の一点張り。他には何も言わない。考える事すらしないのだ。そのうち、陛下には何も期待する事はなくなった。

「それでも国政を投げ出す事は出来ない。側妃様は必死に国を守って来られた。で、あるならばそのご子息であるリシャール様が其れを引き継がれるのは当然の事。もう貴方は要らない。私はもう貴方などには仕えたくもない!」

 陛下の側近が目の前の陛下に向かい、そう言い放った時だった。リシャールが1歩踏み出し、謁見の間に集まった全ての人達に向かって問いかけた。

「王の最大の責務とは国の舵を取り、民の生活を守る事だと私は思う。その責務を放棄し、保身に走り人の命を軽視する。私は王太子として皆に問いたい。この様な男が王であって良いのか!?」

 リシャールのその言葉を受けて、オスマンサス公爵が一歩前へ出た。

「我がオスマンサス公爵家は、今、この場を持って王の退位を要求致します!」

 これが合図だった。皆が雪崩を打った様に口々に王の退位を叫んだ。

「だ、そうですよ? 陛下。いや、貴族からの信任を失った貴方は最早王ではありませんね? では、不本意ですがこうお呼びしましょう。父上! 即刻退位を!」

 リシャールが陛下にそう詰め寄った時だった。

 誰かがいきなり叫んだ。

「リシャール陛下、万歳!」と…。

 軈て、その声は大きなうねりを伴って、謁見の間を支配した。

 其れを見たリシャールが右手をあげ、皆に答える。

 リシャール王が誕生した瞬間だった。

 尻餅をついたまま、無様に王位を失う事になった陛下にリシャールは最後に語り掛けた。

「父上には離宮に移って頂きます。なに、離宮は快適ですよ? 何せ母上が住みやすい様に整え、綺麗に花まで植えた。父上は先程兄上にいいましたよね? お前は大切にする人を間違えたのだと…。その言葉を今度は離宮で父上が噛み締めれば良い。まぁ、そこに母上はいませんがね。邪魔者なんでしょう? だったら丁度良い。父上には母上と離縁して頂きます。母上もそろそろ幸せになっても許されるでしょう?」と…。

 リシャールはそう言って、先程まで父親の側近男の顔をちらりと見た。


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 次回、最終話です。更新時間変わります。宜しくお願いします🙇















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