36 / 38
第36話
しおりを挟む
「王族殺害未遂…」
リシャールが告げたその言葉を、ルルナレッタは呆然として繰り返した。
それがどれ程の罪になるのか…。分からない者など貴族の中には誰もいない。最悪の場合、極刑も充分に考えられる程の罪だ。
まして、これだけ沢山の貴族や官僚達の前で、動かぬ証拠の品を突き付けられ、自分は捕まる。
未来など見えていた。
そして、それを覆す事など、もう出来ないのだ。
そう……。覆す事が出来ない様に真実を明らかにする…。
正しく、それこそがこの場を用意した私達の狙いだった。
リシャールが再起不能の重体だと聞いた王妃やルルナレッタは安心していたはずだ。
これでもう王位継承権を持つ王族は、エドモンドとルルナレッタのお腹の中に居る子供しか存在しない。ならば陛下は自分の血を後世に残す為、どんな事があっても自分達を守るだろう…。王妃はそう考えていた筈だ。
其れを裏付けるかの様に、陛下は毒を盛られたリシャールを、態々病による療養だと発表した。誰の仕業か薄々気付きながらも、王妃とエドモンドを守ったのだ。
だからこそ罠を仕掛けた。もう2度と言い逃れなど出来ない様に…。
実際、リシャールの体調が回復すれば、陛下を味方につける事など簡単だった。何故なら彼は自分の身を守る為、常に強い者の方につくのだから…。
だから、例え今朝毒薬が見つかっていなかったとしても、再起不能だと信じていたリシャールが目の前に現れればきっと彼女達はボロを出す。
そう考えて張った罠だったが、実際に引っかかってくれたのは、何も知らない…恐らくは彼こそが本当に聞いただけだったエドモンドだった訳だが…。
近衛兵がルルナレッタに迫ると、彼女は突然大声を張り上げた。
「本当です。本当なんです。貴方を殺めようとしたのは私じゃない! 王妃様なんです! 私はその毒薬を回収して捨てる様に頼まれただけなんです! お願い、信じて! 信じて下さい!!」
ルルナレッタは自分を捕らえようとする近衛兵に必死に抗いながら、涙を浮かべリシャールに向かってそう叫ぶ。
そんな彼女に近衛兵が声を掛けた。
「大人しくして下さい。 そうすれば手荒な真似はしません。これ以上暴れると、お腹の子にも影響しますよ…」と。
だが、半狂乱になった彼女に近衛兵の声は届かない。ルルナレッタは取り押さえられながら、今度は隣に居るエドモンドに向かって手を伸ばした。
「助けて…。ねぇ、エド助けてよ! お腹の中に子供がいるの! 貴方の子がいるのよ? お願い何か言ってよ! 私は捕まりたくない! 牢になんて入れられたらこの子はどうなるの? 私は絶対に捕まるなんていや!!」
正直、私はそのルルナレッタの言葉を聞いて、今更貴方が其れを言うのかと思った。罪だと知りながら、己の野心の為に王妃に手を貸したのは貴方自身ではないかと…。
すると、必死になって言い募るルルナレッタに向かって、エドモンドが声を荒げた。
「うるさい! 黙れ! 母上はそんな恐ろしい事はしない! さっきも言っただろう!? 母上を巻き込むなと!!」
「どうして? ねぇ、どうしてなの? どうして私を信じてくれないの? そんなに王妃様が大切? でも本当よ? リシャール様に毒を盛るように命じたのは王妃様なの…」
ルルナレッタは消え入りそうなか弱い声でエドモンドにそう告げると、その場で泣き崩れた。その後、彼女は諦めたのか、それとも愛する人に捨てられた事に絶望したのか…。もう抗う事はせず、素直に近衛兵に引き連れられて謁見の間を出て行った。
だが、毒の事は兎も角、全てを知りながらリシャールを階段から突き落とせと実際に命じたのは彼女なのだ。
ルルナレッタに同情する余地は無い。
それに、ここで王妃の名が彼女の口から語られたのは大きかった。
実はそれこそが、王妃をこの場に呼んでいない理由だった。
王妃が居なければ、ルルナレッタは全ての罪を彼女がした事だと証言するだろう…そう考えたのだ。
実際にルルナレッタはそう叫んだ。今の光景を見ていた皆が思っただろう…。
エドモンドとルルナレッタの間に出来た子を次の王太子にする為、王妃が邪魔になった側妃の子であるリシャール殿下に毒を盛って殺めようとしたのだと…。
そして、この様子を謁見の間の1番高い壇上から、放心状態でただ見守るしか出来無かった男がいた。
そう…陛下だ。
彼はリシャールを王太子にと高らかに宣言した。そこまでは彼にとってもシナリオ通りの流れだった。
問題はその後だ。父はそれ以降の詳細を彼に伝えてはいなかった。だから、リシャールが態と自分は病ではなく、毒を盛られたとこの場で証言した事は、彼にとっては寝耳に水の出来事だったのだ。
だが、彼には其れを止める事も出来なかった。事なかれ主義の彼はこんな時、どう立ち回れば良いのか分からなかったから…。
ここで口を挟んでもし迂闊な事でも喋ってしまったら、自分まで疑われかねない…。
謁見の間に集まった沢山の目が、彼が口を開く事を押し留めたのだ。
だから、彼は事の成り行きを見守る事にした。
そう…。ただ見守って嵐が通り過ぎるのを待つ事にしたのだ。
だが、彼は気付いてはいなかった。
自分がここに居る貴族や官僚達からどう見えているのかを…。
口火を切ったのは父だった。
「陛下! 何故、リシャール殿下が病気療養中だなどと嘘を仰ったのですか!? 実行犯を逃し、犯人である王妃の罪を隠蔽でもするおつもりだったのか!?」と…。
リシャールが告げたその言葉を、ルルナレッタは呆然として繰り返した。
それがどれ程の罪になるのか…。分からない者など貴族の中には誰もいない。最悪の場合、極刑も充分に考えられる程の罪だ。
まして、これだけ沢山の貴族や官僚達の前で、動かぬ証拠の品を突き付けられ、自分は捕まる。
未来など見えていた。
そして、それを覆す事など、もう出来ないのだ。
そう……。覆す事が出来ない様に真実を明らかにする…。
正しく、それこそがこの場を用意した私達の狙いだった。
リシャールが再起不能の重体だと聞いた王妃やルルナレッタは安心していたはずだ。
これでもう王位継承権を持つ王族は、エドモンドとルルナレッタのお腹の中に居る子供しか存在しない。ならば陛下は自分の血を後世に残す為、どんな事があっても自分達を守るだろう…。王妃はそう考えていた筈だ。
其れを裏付けるかの様に、陛下は毒を盛られたリシャールを、態々病による療養だと発表した。誰の仕業か薄々気付きながらも、王妃とエドモンドを守ったのだ。
だからこそ罠を仕掛けた。もう2度と言い逃れなど出来ない様に…。
実際、リシャールの体調が回復すれば、陛下を味方につける事など簡単だった。何故なら彼は自分の身を守る為、常に強い者の方につくのだから…。
だから、例え今朝毒薬が見つかっていなかったとしても、再起不能だと信じていたリシャールが目の前に現れればきっと彼女達はボロを出す。
そう考えて張った罠だったが、実際に引っかかってくれたのは、何も知らない…恐らくは彼こそが本当に聞いただけだったエドモンドだった訳だが…。
近衛兵がルルナレッタに迫ると、彼女は突然大声を張り上げた。
「本当です。本当なんです。貴方を殺めようとしたのは私じゃない! 王妃様なんです! 私はその毒薬を回収して捨てる様に頼まれただけなんです! お願い、信じて! 信じて下さい!!」
ルルナレッタは自分を捕らえようとする近衛兵に必死に抗いながら、涙を浮かべリシャールに向かってそう叫ぶ。
そんな彼女に近衛兵が声を掛けた。
「大人しくして下さい。 そうすれば手荒な真似はしません。これ以上暴れると、お腹の子にも影響しますよ…」と。
だが、半狂乱になった彼女に近衛兵の声は届かない。ルルナレッタは取り押さえられながら、今度は隣に居るエドモンドに向かって手を伸ばした。
「助けて…。ねぇ、エド助けてよ! お腹の中に子供がいるの! 貴方の子がいるのよ? お願い何か言ってよ! 私は捕まりたくない! 牢になんて入れられたらこの子はどうなるの? 私は絶対に捕まるなんていや!!」
正直、私はそのルルナレッタの言葉を聞いて、今更貴方が其れを言うのかと思った。罪だと知りながら、己の野心の為に王妃に手を貸したのは貴方自身ではないかと…。
すると、必死になって言い募るルルナレッタに向かって、エドモンドが声を荒げた。
「うるさい! 黙れ! 母上はそんな恐ろしい事はしない! さっきも言っただろう!? 母上を巻き込むなと!!」
「どうして? ねぇ、どうしてなの? どうして私を信じてくれないの? そんなに王妃様が大切? でも本当よ? リシャール様に毒を盛るように命じたのは王妃様なの…」
ルルナレッタは消え入りそうなか弱い声でエドモンドにそう告げると、その場で泣き崩れた。その後、彼女は諦めたのか、それとも愛する人に捨てられた事に絶望したのか…。もう抗う事はせず、素直に近衛兵に引き連れられて謁見の間を出て行った。
だが、毒の事は兎も角、全てを知りながらリシャールを階段から突き落とせと実際に命じたのは彼女なのだ。
ルルナレッタに同情する余地は無い。
それに、ここで王妃の名が彼女の口から語られたのは大きかった。
実はそれこそが、王妃をこの場に呼んでいない理由だった。
王妃が居なければ、ルルナレッタは全ての罪を彼女がした事だと証言するだろう…そう考えたのだ。
実際にルルナレッタはそう叫んだ。今の光景を見ていた皆が思っただろう…。
エドモンドとルルナレッタの間に出来た子を次の王太子にする為、王妃が邪魔になった側妃の子であるリシャール殿下に毒を盛って殺めようとしたのだと…。
そして、この様子を謁見の間の1番高い壇上から、放心状態でただ見守るしか出来無かった男がいた。
そう…陛下だ。
彼はリシャールを王太子にと高らかに宣言した。そこまでは彼にとってもシナリオ通りの流れだった。
問題はその後だ。父はそれ以降の詳細を彼に伝えてはいなかった。だから、リシャールが態と自分は病ではなく、毒を盛られたとこの場で証言した事は、彼にとっては寝耳に水の出来事だったのだ。
だが、彼には其れを止める事も出来なかった。事なかれ主義の彼はこんな時、どう立ち回れば良いのか分からなかったから…。
ここで口を挟んでもし迂闊な事でも喋ってしまったら、自分まで疑われかねない…。
謁見の間に集まった沢山の目が、彼が口を開く事を押し留めたのだ。
だから、彼は事の成り行きを見守る事にした。
そう…。ただ見守って嵐が通り過ぎるのを待つ事にしたのだ。
だが、彼は気付いてはいなかった。
自分がここに居る貴族や官僚達からどう見えているのかを…。
口火を切ったのは父だった。
「陛下! 何故、リシャール殿下が病気療養中だなどと嘘を仰ったのですか!? 実行犯を逃し、犯人である王妃の罪を隠蔽でもするおつもりだったのか!?」と…。
3,050
お気に入りに追加
4,385
あなたにおすすめの小説

純白の牢獄
ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」
華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。
王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。
そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。
レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。
「お願いだ……戻ってきてくれ……」
王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。
「もう遅いわ」
愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。
裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。
これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】婚約者の義妹と恋に落ちたので婚約破棄した処、「妃教育の修了」を条件に結婚が許されたが結果が芳しくない。何故だ?同じ高位貴族だろう?
つくも茄子
恋愛
国王唯一の王子エドワード。
彼は婚約者の公爵令嬢であるキャサリンを公の場所で婚約破棄を宣言した。
次の婚約者は恋人であるアリス。
アリスはキャサリンの義妹。
愛するアリスと結婚するには「妃教育を修了させること」だった。
同じ高位貴族。
少し頑張ればアリスは直ぐに妃教育を終了させると踏んでいたが散々な結果で終わる。
八番目の教育係も辞めていく。
王妃腹でないエドワードは立太子が遠のく事に困ってしまう。
だが、エドワードは知らなかった事がある。
彼が事実を知るのは何時になるのか……それは誰も知らない。
他サイトにも公開中。

「君を愛するつもりはない」と言ったら、泣いて喜ばれた
菱田もな
恋愛
完璧令嬢と名高い公爵家の一人娘シャーロットとの婚約が決まった第二皇子オズワルド。しかし、これは政略結婚で、婚約にもシャーロット自身にも全く興味がない。初めての顔合わせの場で「悪いが、君を愛するつもりはない」とはっきり告げたオズワルドに、シャーロットはなぜか歓喜の涙を浮かべて…?
※他サイトでも掲載中しております。

二度目の恋
豆狸
恋愛
私の子がいなくなって半年と少し。
王都へ行っていた夫が、久しぶりに伯爵領へと戻ってきました。
満面の笑みを浮かべた彼の後ろには、ヴィエイラ侯爵令息の未亡人が赤毛の子どもを抱いて立っています。彼女は、彼がずっと想ってきた女性です。
※上記でわかる通り子どもに関するセンシティブな内容があります。

十分我慢しました。もう好きに生きていいですよね。
りまり
恋愛
三人兄弟にの末っ子に生まれた私は何かと年子の姉と比べられた。
やれ、姉の方が美人で気立てもいいだとか
勉強ばかりでかわいげがないだとか、本当にうんざりです。
ここは辺境伯領に隣接する男爵家でいつ魔物に襲われるかわからないので男女ともに剣術は必需品で当たり前のように習ったのね姉は野蛮だと習わなかった。
蝶よ花よ育てられた姉と仕来りにのっとりきちんと習った私でもすべて姉が優先だ。
そんな生活もううんざりです
今回好機が訪れた兄に変わり討伐隊に参加した時に辺境伯に気に入られ、辺境伯で働くことを赦された。
これを機に私はあの家族の元を去るつもりです。

私が愛する王子様は、幼馴染を側妃に迎えるそうです
こことっと
恋愛
それは奇跡のような告白でした。
まさか王子様が、社交会から逃げ出した私を探しだし妃に選んでくれたのです。
幸せな結婚生活を迎え3年、私は幸せなのに不安から逃れられずにいました。
「子供が欲しいの」
「ごめんね。 もう少しだけ待って。 今は仕事が凄く楽しいんだ」
それから間もなく……彼は、彼の幼馴染を側妃に迎えると告げたのです。

【完結】元妃は多くを望まない
つくも茄子
恋愛
シャーロット・カールストン侯爵令嬢は、元上級妃。
このたび、めでたく(?)国王陛下の信頼厚い側近に下賜された。
花嫁は下賜された翌日に一人の侍女を伴って郵便局に赴いたのだ。理由はお世話になった人達にある書類を郵送するために。
その足で実家に出戻ったシャーロット。
実はこの下賜、王命でのものだった。
それもシャーロットを公の場で断罪したうえでの下賜。
断罪理由は「寵妃の悪質な嫌がらせ」だった。
シャーロットには全く覚えのないモノ。当然、これは冤罪。
私は、あなたたちに「誠意」を求めます。
誠意ある対応。
彼女が求めるのは微々たるもの。
果たしてその結果は如何に!?

夫の告白に衝撃「家を出て行け!」幼馴染と再婚するから子供も置いて出ていけと言われた。
window
恋愛
伯爵家の長男レオナルド・フォックスと公爵令嬢の長女イリス・ミシュランは結婚した。
三人の子供に恵まれて平穏な生活を送っていた。
だがその日、夫のレオナルドの言葉で幸せな家庭は崩れてしまった。
レオナルドは幼馴染のエレナと再婚すると言い妻のイリスに家を出て行くように言う。
イリスは驚くべき告白に動揺したような表情になる。
子供の親権も放棄しろと言われてイリスは戸惑うことばかりでどうすればいいのか分からなくて混乱した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる