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第28話
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「あの様な愚か者を、もはや王などと呼ぶ事など出来ん!」
私からの報告に、父は拳を思い切り握り締め、怒りを露わにした。
そんな父をオスマンサス公爵は必死に宥めながら、矢継ぎ早に私に問いかける。
「それで、殿下のご容態は? 回復するまでどれくらいかかるのですか? 医師はなんと?」と…。
「ええ、殿下はこの2週間で喉の炎症も大分おさまり、パンなどの固形物も喉を通る様になってきました。このままいけば、1月もあれば体力も回復し、動ける様になってくるだろうと医師は言っておりました」
私がそう答えると、先程までの怒りはどこへやら? 父はにやにやと不快な笑みを浮かべた。
「ほう…それは良かった。それはそうと、妃殿下の話しぶりは、まるで殿下の身内の様ですな」
オスマンサス公爵もまた、私を揶揄う様にそう言う。
「そうですか…? もしそうならこれからは改めます…」
私が少し不機嫌そうに答えると、今度は父が 「いや、結構、結構」 と、豪快に笑う。
何が結構なんだか…。本当に2人とも勘弁して欲しい。
私はこの2週間ほどの間、執務の合間を縫っては離宮のリシャールを見舞いに行っていた。
それが良かったのか悪かったのか…。
後宮では、私とリシャールの事が面白可笑しく噂される様になったのだ。
だが、そこは王妃が取り仕切る後宮だ。
噂は嫌になる位、王妃にとって都合が良いものばかり。そもそも後宮で働く者達は、リシャールが毒を盛られた事さえ知らない。
理由は簡単。陛下がリシャール不在の原因を病に依るものだと公表したからだ。
リシャールは当初、寝たきりで満足に体を動かす事も出来ない状態だった。
もし、このままリシャールが回復しなければ、エドモンド以外王家を継ぐものは居なくなる。陛下はそう考えたのだろう。だから王妃かエドモンドのどちらかが毒を盛った可能性があるにも関わらず、詳しく調査する事もせず、それを伏せたのだ。
その結果…
「ほら、また妃殿下が離宮へ向かわれるわよ? リシャール殿下のご容態、それ程お悪いのかしら? あ! もしかして妃殿下が行くから余計に悪くなっていたりして…」
失礼な! 私が行っても、行かなくても殿下はきちんと快方に向かってます。ご心配無く!
「あら、私は殿下はもう長くは保たないって聞いたわよ?」
勝手に殺すなよ! と言うか、王族がもう直ぐ死ぬなんて噂、流した時点で不敬罪だよ? 分かってて言ってる?
「くすくすくす。妃殿下もお可哀想。王太子殿下からは相手にもされず、頼りのリシャール殿下まで病に倒れられるなんて…お先真っ暗ね」
貴方達がね! 覚えてろ! 貴方達の顔は覚えたから…。
私はここのところ、侍女達がする噂話に盛大な突っ込みを入れながら、廊下を歩く羽目になっている。
だいたい誰か1人くらいリシャールの心配をする人はこの後宮にはいないの? 側妃が離宮へと移られた後、王妃が雇い入れた侍女達はこんなのばっかりで本当に嫌になる…。
今後の事を相談するため、実家である公爵家を訪れた私は、そんな事を2人の公爵に話して聞かせた。
すると父は大激怒し、オスマンサス公爵は状況を冷静に分析し出した。流石、商人! 脳筋の父とは大違いだ。
何故ならその後、オスマンサス公爵は私に切り出した。
「実はリシャール様の事件についてですが、陛下が調査されないのなら、私が代わりに調べてみようと思いまして…。何より実行犯が分かれば、状況は一変します。ですから、まずは私なりに考えてみたのです。もし、自分が毒を盛って人を殺めようとしたとします。そうしたら、誰にその実行を頼むだろうと…」
確かにそうだ。相手は王族。毒を盛った事が判れば死罪は免れない。
しかも、離宮とはいえ王宮の中だ。命知らずの破落戸を雇う訳にもいかない。
そう考えると…。
「身内……」
私が呟くと、公爵は首肯した。
「私もそう思います。最も信頼出来るのは身内…。そう考えて、ちりぢりになった王妃の身内を調べてみたのです。そうしたら3年程前から行方が分からなくなっている人物がいたのです」
3年前…。側妃が離宮へと移り、私がエドモンドの元に嫁いだ頃だ。私は息を飲んだ。
「して、その人物とは?」
父が身を乗り出した。
「王妃の兄の妻…。彼女にとっては義姉です。しかも、多分、侍女ではない。身の回りの事を任せる侍女は、流石に側妃も入念に調べるでしょうから…」
「そうなると、下女か?」
父が言う。
下女…。掃除や洗濯といった、屋敷周りの事をする人達だ。これならそれ程調べられる事はないだろう。
「でも、王妃にとって義理の姉ですよね? しかも伯爵家に嫁いだのです。元は貴族の令嬢でしょう? そんな人を下女として働かせるなんて…」
「いえ…。彼女にもメリットはあるのです。彼女は元は伯爵家の娘だったのですが、子のいなかった遠縁の子爵家に養女に出されたのです。そして、彼女を養女に出した家。彼女にとっては実家という事になりますが…。その家を継いだ実の兄の娘…。それが側妃ルルナレッタです」
「え? ルルナレッタ…」
私は驚いて聞き返した。
「ええ。彼女は王妃とも、殿下の側妃とも縁戚関係にある。リシャール殿下は毒により倒れられた。と、なれば殿下に毒を盛った人間は必ずいるのです。もしリシャール殿下に毒を盛るとしたら、私は実行犯は彼女の可能性が最も高いと考えます…」
オスマンサス公爵はそう断言し、その上で自分の後ろに控えていた1人の男性を、私に紹介した。
「彼は私の2番目の息子でアレクサンダーと言います。彼を妃殿下の側に置いて頂きたい。色んな意味で貴方の役に立ちますよ」
私からの報告に、父は拳を思い切り握り締め、怒りを露わにした。
そんな父をオスマンサス公爵は必死に宥めながら、矢継ぎ早に私に問いかける。
「それで、殿下のご容態は? 回復するまでどれくらいかかるのですか? 医師はなんと?」と…。
「ええ、殿下はこの2週間で喉の炎症も大分おさまり、パンなどの固形物も喉を通る様になってきました。このままいけば、1月もあれば体力も回復し、動ける様になってくるだろうと医師は言っておりました」
私がそう答えると、先程までの怒りはどこへやら? 父はにやにやと不快な笑みを浮かべた。
「ほう…それは良かった。それはそうと、妃殿下の話しぶりは、まるで殿下の身内の様ですな」
オスマンサス公爵もまた、私を揶揄う様にそう言う。
「そうですか…? もしそうならこれからは改めます…」
私が少し不機嫌そうに答えると、今度は父が 「いや、結構、結構」 と、豪快に笑う。
何が結構なんだか…。本当に2人とも勘弁して欲しい。
私はこの2週間ほどの間、執務の合間を縫っては離宮のリシャールを見舞いに行っていた。
それが良かったのか悪かったのか…。
後宮では、私とリシャールの事が面白可笑しく噂される様になったのだ。
だが、そこは王妃が取り仕切る後宮だ。
噂は嫌になる位、王妃にとって都合が良いものばかり。そもそも後宮で働く者達は、リシャールが毒を盛られた事さえ知らない。
理由は簡単。陛下がリシャール不在の原因を病に依るものだと公表したからだ。
リシャールは当初、寝たきりで満足に体を動かす事も出来ない状態だった。
もし、このままリシャールが回復しなければ、エドモンド以外王家を継ぐものは居なくなる。陛下はそう考えたのだろう。だから王妃かエドモンドのどちらかが毒を盛った可能性があるにも関わらず、詳しく調査する事もせず、それを伏せたのだ。
その結果…
「ほら、また妃殿下が離宮へ向かわれるわよ? リシャール殿下のご容態、それ程お悪いのかしら? あ! もしかして妃殿下が行くから余計に悪くなっていたりして…」
失礼な! 私が行っても、行かなくても殿下はきちんと快方に向かってます。ご心配無く!
「あら、私は殿下はもう長くは保たないって聞いたわよ?」
勝手に殺すなよ! と言うか、王族がもう直ぐ死ぬなんて噂、流した時点で不敬罪だよ? 分かってて言ってる?
「くすくすくす。妃殿下もお可哀想。王太子殿下からは相手にもされず、頼りのリシャール殿下まで病に倒れられるなんて…お先真っ暗ね」
貴方達がね! 覚えてろ! 貴方達の顔は覚えたから…。
私はここのところ、侍女達がする噂話に盛大な突っ込みを入れながら、廊下を歩く羽目になっている。
だいたい誰か1人くらいリシャールの心配をする人はこの後宮にはいないの? 側妃が離宮へと移られた後、王妃が雇い入れた侍女達はこんなのばっかりで本当に嫌になる…。
今後の事を相談するため、実家である公爵家を訪れた私は、そんな事を2人の公爵に話して聞かせた。
すると父は大激怒し、オスマンサス公爵は状況を冷静に分析し出した。流石、商人! 脳筋の父とは大違いだ。
何故ならその後、オスマンサス公爵は私に切り出した。
「実はリシャール様の事件についてですが、陛下が調査されないのなら、私が代わりに調べてみようと思いまして…。何より実行犯が分かれば、状況は一変します。ですから、まずは私なりに考えてみたのです。もし、自分が毒を盛って人を殺めようとしたとします。そうしたら、誰にその実行を頼むだろうと…」
確かにそうだ。相手は王族。毒を盛った事が判れば死罪は免れない。
しかも、離宮とはいえ王宮の中だ。命知らずの破落戸を雇う訳にもいかない。
そう考えると…。
「身内……」
私が呟くと、公爵は首肯した。
「私もそう思います。最も信頼出来るのは身内…。そう考えて、ちりぢりになった王妃の身内を調べてみたのです。そうしたら3年程前から行方が分からなくなっている人物がいたのです」
3年前…。側妃が離宮へと移り、私がエドモンドの元に嫁いだ頃だ。私は息を飲んだ。
「して、その人物とは?」
父が身を乗り出した。
「王妃の兄の妻…。彼女にとっては義姉です。しかも、多分、侍女ではない。身の回りの事を任せる侍女は、流石に側妃も入念に調べるでしょうから…」
「そうなると、下女か?」
父が言う。
下女…。掃除や洗濯といった、屋敷周りの事をする人達だ。これならそれ程調べられる事はないだろう。
「でも、王妃にとって義理の姉ですよね? しかも伯爵家に嫁いだのです。元は貴族の令嬢でしょう? そんな人を下女として働かせるなんて…」
「いえ…。彼女にもメリットはあるのです。彼女は元は伯爵家の娘だったのですが、子のいなかった遠縁の子爵家に養女に出されたのです。そして、彼女を養女に出した家。彼女にとっては実家という事になりますが…。その家を継いだ実の兄の娘…。それが側妃ルルナレッタです」
「え? ルルナレッタ…」
私は驚いて聞き返した。
「ええ。彼女は王妃とも、殿下の側妃とも縁戚関係にある。リシャール殿下は毒により倒れられた。と、なれば殿下に毒を盛った人間は必ずいるのです。もしリシャール殿下に毒を盛るとしたら、私は実行犯は彼女の可能性が最も高いと考えます…」
オスマンサス公爵はそう断言し、その上で自分の後ろに控えていた1人の男性を、私に紹介した。
「彼は私の2番目の息子でアレクサンダーと言います。彼を妃殿下の側に置いて頂きたい。色んな意味で貴方の役に立ちますよ」
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