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第24話
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ルクソール公爵家に到着したリシャールと私を、父はエントランスで自ら出迎えた。
私が王家に嫁いでからと言うもの、父がこうしてエントランスに立って私を出迎えるのはもはや恒例行事となっていた。
理由は簡単。
王太子妃となった私の方が父よりも身分が高いからだ。
だが今回は少し様相が違った。
父はリシャールに向かって頭を下げ、私よりも先に彼の名を呼んだ。
「ようこそ我が家へ。リシャール殿下、王太子妃殿下。さぁ、此方へどうぞ」と…。
当然の事だが、此処は私の実家だ。だから父はいつもなら「妃殿下、お戻りなされませ」と声を掛ける。
つまり、父が言ったこの言葉は完全にリシャールに向けられたもの…。父は王太子妃である私よりも彼を優先して出迎えたと言う事になる。
貴族と言うのは兎角、立場や身分、序列にこだわるものだ。父のこの行動にリシャールは一瞬首を傾げたが、招かれた立場だ。何も言う事は無かった。
彼が行動を起こしたのは、その後、父に案内された応接室で、1番の上座で寛ぐオスマンサス公爵を見た時だった。
私達が部屋に入ると公爵は私達を一瞥した後、礼を取ることもせず視線を落とし、優雅に出されているお茶を一口飲んだ。
彼は足を組んで椅子に悠然と座り、立ち上がる素振りさえみせない。
リシャールは私達の後ろに控える父に話しかける体で、それでもはっきりと公爵に聞こえる様な声音で其れに苦言を呈した。
「閣下、オスマンサス公爵は妃殿下のお顔をご存知ないのではありませんか?」と。
すると、公爵は分かりやすく口角を上げ微笑んだ。
「いや、もちろん良く存じ上げておりますよ。これはうっかりしておりました。気が付かず申し訳ありません」
公爵はそう言って席を立ち、私に席を譲った。
本当に狸親父だ。気付かない訳がないだろう? さっき部屋に入って来た私達をきちんと確認したではないか。
こうやって彼はリシャールがどんな反応を示すか確かめたのだ。
「さぁ、妃殿下此方へどうぞ」
公爵は私に今まで自分が座っていた椅子を勧めた。
私は公爵に勧められるまま、その椅子に腰掛ける。
すると公爵は今度は私の隣の椅子を指し示して、
「さぁ、殿下は此方の席へ」
と案内し、自分はその前の椅子に座った。その席は先程とは打って変わって1番の下座だった。
私の前の席が空いているにも関わらずに…だ。その後「さぁ此方へ」と、今度は父に自分の隣の席を薦める。これでは誰がホストなのか分からない。
父は少し困惑した表情を見せたが、仕方なく薦められた席に座った。
こうして無事に席に着いた私達4人の中で、まず口火を切ったのはリシャールだった。
彼は皆が席に着くのを待ち構えていたかの様に、自分の目の前に座るオスマンサス公爵に語りかけた。
「俺はずっとオスマンサス公爵、貴方にお会いして、こうしてゆっくりとお話ししたかったのです。正確には、貴方にと言うよりは貴方のお父上であられる前公爵にですが…ね。どうしてもお聞きしたい事があったのです。ですが、既に鬼籍に入られたそうですね。残念な事です」
そう切り出したリシャールに公爵は怪訝な表情を浮かべた。
「ほう…父に…? 何ですかな? 私に答えられる事でしたなら代わりにお答えしますが?」
公爵はそう言ってまた、テーブルの上に置かれている茶に口をつけた。リシャールの隣にいた私には分かった。この時、リシャールは覚悟を決めた様に1つ息を吸い込んだ。
そして口を開く。
「では、お聞きしたい。今から19年前の出来事、あの時の貴方のお父上の対応は正しかったと、公爵は思われていますか?」
そのリシャールの言葉を聞いた父が、慌てて取り成そうと声を掛ける。
「殿下、今日の話はそう言うことでは…「いや、かまはないよ」」
オスマンサス公爵は父を手で制した。
「私も1度、殿下とはゆっくり話がしたいと思っていたものでね」
公爵からそう言われると、父にはもう何も言えなかった。
「それは…あの時の事だね? 君は我が家が商売の拠点を他国に移した事を言っているのだろうか?」
「いいえ。そうではありません」
リシャールは公爵の言葉を、首を振りながらキッパリと否定した。
「何処の国で誰と商売をするかは、商人の自由。その事にとやかく言うつもりはありません。俺が申し上げたいのは王妃の生家の伯爵家の事です」
「ほう…。伯爵家か…」
リシャールの言葉に公爵は怪訝な表情を浮かべた。それはそうだろう。王妃とリシャールの母である側妃が犬猿の仲である事は周知の事実だ。
「もちろん、先程の理屈から言えば誰と取引するかも公爵家の自由でしょう。ですがそれはあくまでも対等な立場にある場合のみです。公爵家と伯爵家では力の差は歴然だった。公爵家は意図を持って伯爵家との取引をやめ、王妃の家を没落させた。これは明らかな報復です。誰もオスマンサスの力を恐れて言わない。いや、言えない。だから私が言います。あれは明らかに常軌を逸した行為だった!」
リシャールは公爵を前に怯む事なく言い放った。
父と私は驚きで目を見開く。
「あの時、父と令嬢はまだ正式な婚約を結んでいた訳じゃない。その間に、恋愛して腹に子を宿した。それは、爵位や領地を奪われ、一家が離散させられなければならない程の罪なのか!?」
リシャールは拳を握り締め、怒りを露わにした。
反して、彼の前に座るオスマンサス公爵は冷静だった。冷静にリシャールの話を聞き、問い返した。
「君は何故、そこまで王妃の為に怒る? こんな事を言うと失礼だが、王妃と君の母親は上手くいっていないんじゃなかったのかい?」
「上手くいってない? そんな生やさしいものじゃない。王妃は母を憎んでいる。母は父に嫁いでからずっと、あの女に苦しめられ続けて来たんだ」
リシャールは答えた。
「では何故…?」
もう一度そう疑問を呈した公爵にリシャールは再び答えた。その時、彼が見せた表情は苦脳に満ちていた…。
「皆んな誤解している。王妃に先に子が出来たから彼女が先だった訳じゃない。逆なんですよ。父と付き合い始めたのは母の方が早かった。ただ子を宿したのが王妃の方が早かっただけだ。もし父と付き合った順通り2人が懐妊していたとしたら、公爵家に没落させられていたのは母の生家の方だった…」
私が王家に嫁いでからと言うもの、父がこうしてエントランスに立って私を出迎えるのはもはや恒例行事となっていた。
理由は簡単。
王太子妃となった私の方が父よりも身分が高いからだ。
だが今回は少し様相が違った。
父はリシャールに向かって頭を下げ、私よりも先に彼の名を呼んだ。
「ようこそ我が家へ。リシャール殿下、王太子妃殿下。さぁ、此方へどうぞ」と…。
当然の事だが、此処は私の実家だ。だから父はいつもなら「妃殿下、お戻りなされませ」と声を掛ける。
つまり、父が言ったこの言葉は完全にリシャールに向けられたもの…。父は王太子妃である私よりも彼を優先して出迎えたと言う事になる。
貴族と言うのは兎角、立場や身分、序列にこだわるものだ。父のこの行動にリシャールは一瞬首を傾げたが、招かれた立場だ。何も言う事は無かった。
彼が行動を起こしたのは、その後、父に案内された応接室で、1番の上座で寛ぐオスマンサス公爵を見た時だった。
私達が部屋に入ると公爵は私達を一瞥した後、礼を取ることもせず視線を落とし、優雅に出されているお茶を一口飲んだ。
彼は足を組んで椅子に悠然と座り、立ち上がる素振りさえみせない。
リシャールは私達の後ろに控える父に話しかける体で、それでもはっきりと公爵に聞こえる様な声音で其れに苦言を呈した。
「閣下、オスマンサス公爵は妃殿下のお顔をご存知ないのではありませんか?」と。
すると、公爵は分かりやすく口角を上げ微笑んだ。
「いや、もちろん良く存じ上げておりますよ。これはうっかりしておりました。気が付かず申し訳ありません」
公爵はそう言って席を立ち、私に席を譲った。
本当に狸親父だ。気付かない訳がないだろう? さっき部屋に入って来た私達をきちんと確認したではないか。
こうやって彼はリシャールがどんな反応を示すか確かめたのだ。
「さぁ、妃殿下此方へどうぞ」
公爵は私に今まで自分が座っていた椅子を勧めた。
私は公爵に勧められるまま、その椅子に腰掛ける。
すると公爵は今度は私の隣の椅子を指し示して、
「さぁ、殿下は此方の席へ」
と案内し、自分はその前の椅子に座った。その席は先程とは打って変わって1番の下座だった。
私の前の席が空いているにも関わらずに…だ。その後「さぁ此方へ」と、今度は父に自分の隣の席を薦める。これでは誰がホストなのか分からない。
父は少し困惑した表情を見せたが、仕方なく薦められた席に座った。
こうして無事に席に着いた私達4人の中で、まず口火を切ったのはリシャールだった。
彼は皆が席に着くのを待ち構えていたかの様に、自分の目の前に座るオスマンサス公爵に語りかけた。
「俺はずっとオスマンサス公爵、貴方にお会いして、こうしてゆっくりとお話ししたかったのです。正確には、貴方にと言うよりは貴方のお父上であられる前公爵にですが…ね。どうしてもお聞きしたい事があったのです。ですが、既に鬼籍に入られたそうですね。残念な事です」
そう切り出したリシャールに公爵は怪訝な表情を浮かべた。
「ほう…父に…? 何ですかな? 私に答えられる事でしたなら代わりにお答えしますが?」
公爵はそう言ってまた、テーブルの上に置かれている茶に口をつけた。リシャールの隣にいた私には分かった。この時、リシャールは覚悟を決めた様に1つ息を吸い込んだ。
そして口を開く。
「では、お聞きしたい。今から19年前の出来事、あの時の貴方のお父上の対応は正しかったと、公爵は思われていますか?」
そのリシャールの言葉を聞いた父が、慌てて取り成そうと声を掛ける。
「殿下、今日の話はそう言うことでは…「いや、かまはないよ」」
オスマンサス公爵は父を手で制した。
「私も1度、殿下とはゆっくり話がしたいと思っていたものでね」
公爵からそう言われると、父にはもう何も言えなかった。
「それは…あの時の事だね? 君は我が家が商売の拠点を他国に移した事を言っているのだろうか?」
「いいえ。そうではありません」
リシャールは公爵の言葉を、首を振りながらキッパリと否定した。
「何処の国で誰と商売をするかは、商人の自由。その事にとやかく言うつもりはありません。俺が申し上げたいのは王妃の生家の伯爵家の事です」
「ほう…。伯爵家か…」
リシャールの言葉に公爵は怪訝な表情を浮かべた。それはそうだろう。王妃とリシャールの母である側妃が犬猿の仲である事は周知の事実だ。
「もちろん、先程の理屈から言えば誰と取引するかも公爵家の自由でしょう。ですがそれはあくまでも対等な立場にある場合のみです。公爵家と伯爵家では力の差は歴然だった。公爵家は意図を持って伯爵家との取引をやめ、王妃の家を没落させた。これは明らかな報復です。誰もオスマンサスの力を恐れて言わない。いや、言えない。だから私が言います。あれは明らかに常軌を逸した行為だった!」
リシャールは公爵を前に怯む事なく言い放った。
父と私は驚きで目を見開く。
「あの時、父と令嬢はまだ正式な婚約を結んでいた訳じゃない。その間に、恋愛して腹に子を宿した。それは、爵位や領地を奪われ、一家が離散させられなければならない程の罪なのか!?」
リシャールは拳を握り締め、怒りを露わにした。
反して、彼の前に座るオスマンサス公爵は冷静だった。冷静にリシャールの話を聞き、問い返した。
「君は何故、そこまで王妃の為に怒る? こんな事を言うと失礼だが、王妃と君の母親は上手くいっていないんじゃなかったのかい?」
「上手くいってない? そんな生やさしいものじゃない。王妃は母を憎んでいる。母は父に嫁いでからずっと、あの女に苦しめられ続けて来たんだ」
リシャールは答えた。
「では何故…?」
もう一度そう疑問を呈した公爵にリシャールは再び答えた。その時、彼が見せた表情は苦脳に満ちていた…。
「皆んな誤解している。王妃に先に子が出来たから彼女が先だった訳じゃない。逆なんですよ。父と付き合い始めたのは母の方が早かった。ただ子を宿したのが王妃の方が早かっただけだ。もし父と付き合った順通り2人が懐妊していたとしたら、公爵家に没落させられていたのは母の生家の方だった…」
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