23 / 29
第23話 エドモンド2
しおりを挟む
「最近では口五月蝿く私に意見して来る様になった。丁度良い、こうなった以上、あの女はもう用済みだ。離宮へでも移そう。なに、もう絞り取れるだけは絞り取った。これ以上、あの家からは何も出てはこんさ」
母の事件から暫く経った頃、その日、夜遅くまで母の看病をしていた僕は、自分の部屋へと戻る途中、父の部屋の前を通りかかった。
こんな夜遅い時間に人が通るなんて思ってもみなかったのだろう。父の部屋の扉が少しだけ開いていて、中から父と側近の話が漏れ聞こえてきた。
あの女?
用済み?
離宮?
それらの単語が耳に入り、気になった僕は、扉の影に隠れて2人の会話を盗み聞いた。
「ですが、あの様な条件をお飲みになって良かったのですか? ルクソールとオスマンサスが縁戚となれば王家にはとっては脅威でしかないでしょう?」
「仕方がないであろう? その条件を飲まねばルクソールは娘を嫁にはやらんと言うんだからな。だが、その娘さえ孕めばルクソールはもう逃げられまい。王家は安泰、もう金の心配などせずに済む。喜ばしい限りよ。そうすれば鬱陶しい2人の女は用済みになる。だが、それまではどちらの王子にもまだ利用価値はある。その母親である2人の女も臍を曲げぬよう、機嫌だけは伺わねばな」
「酷い言いようですな」
側近は笑いながら父の話に相槌をうつ。
鬱陶しい2人の女も用済み? 何の事だ?
だが、話の流れからそれは母達の事だろうと感じた。そして恐怖を覚える。
もし本当に用済みだと母達が父に此処を追い出されたらどうなるのだろう…と。
側妃には帰る家がある。でも母には…母には此処以外に生きる場所なんてないのに…。
そう考えると、その場に縫い付けられた様に足が動かなくなった。
父達の話は続く。
「王妃ももう少し己の部を弁えて行動しておれば、もう少し可愛げもあるものを。私に意見するとは身の程知らずも良い所だ。誰のせいで王家がこの様な窮地に陥ったと思っておるのか? ましてや、あの様な大それた事を仕出かす女など、怖うて側に置きとうもないわ」
父のこの言葉は、僕の考えを裏付けるものだった。
「全くですな。ですが問題はそのルクソールの娘です。噂ではかなり勝気なじゃじゃ馬のようですね」
「何、構わんさ。エドモンドには幼き頃より王家の為に一生尽くせと言い聞かせてある。王妃の望む通り、王太子にしてやるんだ。どんな娘が来ようと問題はない。 あいつは自分の役目を果たすだけだ」
え? 僕…!? この話から父がルクソールの娘と結婚させようとしているのは僕なのだと気付いた。
巫山戯るな! これじゃあまるで、僕は都合の良い種馬ではないか?
僕は怒りに震えた。
僕は部屋に押し入り、2人を殴りつけたい衝動を何とか抑え、その場所を後にした。
そして、もと来た廊下を戻った僕は、母の部屋へと舞い戻る。
眠っている母の胸には、剣の傷跡が生々しく夜着からでも透けて見えた。
僕はそっと母の手を握った。暖かい…。
母は僕を母の持つ全てをかけて2度も守ってくれた。
その母を父は邪魔者扱いしている。
僕はこの時、この先どんな事があろうとも母を守ると心に決めた。
それから直ぐ、あの夜の父の言葉通り、僕は王太子となり、ルクソールの娘を娶った。
そして、父がどう説得したのかは分からないが側妃は離宮へと移り、母は名実共に今は後宮の主人となり権勢を奮っている。
驚いた事に母は父の意図など、とっくに見抜いていた。彼女が嫁いで来ると、母は彼女に殊更強く当たった。だが、彼女も負けてはいなかった。彼女は僕が白い結婚を宣言した事を父に告げた。そして、これからも僕とは白い結婚を貫くと父に宣言したそうだ。
目論見が外れた形となった父は、母に激怒している。今、2人の仲は最悪だ。
だが、それだけでは終わらなかった。彼女は側妃に代わり、あの忌々しいリシャールと共に父に押し付けられた執務を次々にこなしながら、文官達の信頼を得ていった。
そして金と権力にものを言わせて、母に盾付き追い詰めていく。
母を悲しませる奴は誰であろうと許さない。僕はどんな事をしても母を守ろうと心に誓った。
母の事件から暫く経った頃、その日、夜遅くまで母の看病をしていた僕は、自分の部屋へと戻る途中、父の部屋の前を通りかかった。
こんな夜遅い時間に人が通るなんて思ってもみなかったのだろう。父の部屋の扉が少しだけ開いていて、中から父と側近の話が漏れ聞こえてきた。
あの女?
用済み?
離宮?
それらの単語が耳に入り、気になった僕は、扉の影に隠れて2人の会話を盗み聞いた。
「ですが、あの様な条件をお飲みになって良かったのですか? ルクソールとオスマンサスが縁戚となれば王家にはとっては脅威でしかないでしょう?」
「仕方がないであろう? その条件を飲まねばルクソールは娘を嫁にはやらんと言うんだからな。だが、その娘さえ孕めばルクソールはもう逃げられまい。王家は安泰、もう金の心配などせずに済む。喜ばしい限りよ。そうすれば鬱陶しい2人の女は用済みになる。だが、それまではどちらの王子にもまだ利用価値はある。その母親である2人の女も臍を曲げぬよう、機嫌だけは伺わねばな」
「酷い言いようですな」
側近は笑いながら父の話に相槌をうつ。
鬱陶しい2人の女も用済み? 何の事だ?
だが、話の流れからそれは母達の事だろうと感じた。そして恐怖を覚える。
もし本当に用済みだと母達が父に此処を追い出されたらどうなるのだろう…と。
側妃には帰る家がある。でも母には…母には此処以外に生きる場所なんてないのに…。
そう考えると、その場に縫い付けられた様に足が動かなくなった。
父達の話は続く。
「王妃ももう少し己の部を弁えて行動しておれば、もう少し可愛げもあるものを。私に意見するとは身の程知らずも良い所だ。誰のせいで王家がこの様な窮地に陥ったと思っておるのか? ましてや、あの様な大それた事を仕出かす女など、怖うて側に置きとうもないわ」
父のこの言葉は、僕の考えを裏付けるものだった。
「全くですな。ですが問題はそのルクソールの娘です。噂ではかなり勝気なじゃじゃ馬のようですね」
「何、構わんさ。エドモンドには幼き頃より王家の為に一生尽くせと言い聞かせてある。王妃の望む通り、王太子にしてやるんだ。どんな娘が来ようと問題はない。 あいつは自分の役目を果たすだけだ」
え? 僕…!? この話から父がルクソールの娘と結婚させようとしているのは僕なのだと気付いた。
巫山戯るな! これじゃあまるで、僕は都合の良い種馬ではないか?
僕は怒りに震えた。
僕は部屋に押し入り、2人を殴りつけたい衝動を何とか抑え、その場所を後にした。
そして、もと来た廊下を戻った僕は、母の部屋へと舞い戻る。
眠っている母の胸には、剣の傷跡が生々しく夜着からでも透けて見えた。
僕はそっと母の手を握った。暖かい…。
母は僕を母の持つ全てをかけて2度も守ってくれた。
その母を父は邪魔者扱いしている。
僕はこの時、この先どんな事があろうとも母を守ると心に決めた。
それから直ぐ、あの夜の父の言葉通り、僕は王太子となり、ルクソールの娘を娶った。
そして、父がどう説得したのかは分からないが側妃は離宮へと移り、母は名実共に今は後宮の主人となり権勢を奮っている。
驚いた事に母は父の意図など、とっくに見抜いていた。彼女が嫁いで来ると、母は彼女に殊更強く当たった。だが、彼女も負けてはいなかった。彼女は僕が白い結婚を宣言した事を父に告げた。そして、これからも僕とは白い結婚を貫くと父に宣言したそうだ。
目論見が外れた形となった父は、母に激怒している。今、2人の仲は最悪だ。
だが、それだけでは終わらなかった。彼女は側妃に代わり、あの忌々しいリシャールと共に父に押し付けられた執務を次々にこなしながら、文官達の信頼を得ていった。
そして金と権力にものを言わせて、母に盾付き追い詰めていく。
母を悲しませる奴は誰であろうと許さない。僕はどんな事をしても母を守ろうと心に誓った。
2,175
お気に入りに追加
5,711
あなたにおすすめの小説
【完結】ずっと大好きでした。
猫石
恋愛
私、クローディア・ナジェリィは婚約者がいる。
それは、学年一モテると持て囃されているサローイン・レダン様。
10歳の時に婚約者になり、それから少しづつ愛を育んできた。
少なくとも私はそのつもりだった。
でも彼は違った。
運命の人と結婚したい、と、婚約の保留を申し出たのだ。
あなたの瞳には私が映らなくて、悲しくて、寂しくて、辛い。
だから、私は賭けに出た。
運命の人が、あなたかどうか、知るために。
★息抜き作品です
☆このお話は完全フィクションです、創作です、妄想の作り話です。現実世界と混同せず、あぁ、ファンタジーだもんな、と、念頭に置いてお読みください。
☆作者の趣味嗜好作品です。イラッとしたり、ムカッとしたりした時には、そっと別の素敵な作家さんの作品を検索してお読みください。(自己防衛大事!)
☆誤字脱字、誤変換が多いのは、作者のせいです。頑張って音読してチェックして!頑張ってますが、ごめんなさい、許してください。
小説家になろう様にも投稿しています
なろうさんにて
日別総合ランキング3位
日別恋愛ランキング3位
ありがとうございますm(*_ _)m
裁判を無効にせよ! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!
サイコちゃん
恋愛
十二歳の少女が男を殴って犯した……その裁判が、平民用の裁判所で始まった。被告はハリオット伯爵家の女中クララ。幼い彼女は、自分がハリオット伯爵に陥れられたことを知らない。裁判は被告に証言が許されないまま進み、クララは絞首刑を言い渡される。彼女が恐怖のあまり泣き出したその時、裁判所に美しき紳士と美少年が飛び込んできた。
「裁判を無効にせよ! 被告クララは八年前に失踪した私の娘だ! 真の名前はクラリッサ・エーメナー・ユクル! クラリッサは紛れもないユクル公爵家の嫡女であり、王家の血を引く者である! 被告は平民ではなく公爵令嬢である!」
飛び込んできたのは、クラリッサの父であるユクル公爵と婚約者である第二王子サイラスであった。王家と公爵家を敵に回したハリオット伯爵家は、やがて破滅へ向かう――
※作中の裁判・法律・刑罰などは、歴史を参考にした架空のもの及び完全に架空のものです。
兄がいるので悪役令嬢にはなりません〜苦労人外交官は鉄壁シスコンガードを突破したい〜
藤也いらいち
恋愛
無能王子の婚約者のラクシフォリア伯爵家令嬢、シャーロット。王子は典型的な無能ムーブの果てにシャーロットにあるはずのない罪を並べ立て婚約破棄を迫る。
__婚約破棄、大歓迎だ。
そこへ、視線で人手も殺せそうな眼をしながらも満面の笑顔のシャーロットの兄が王子を迎え撃った!
勝負は一瞬!王子は場外へ!
シスコン兄と無自覚ブラコン妹。
そして、シャーロットに思いを寄せつつ兄に邪魔をされ続ける外交官。妹が好きすぎる侯爵令嬢や商家の才女。
周りを巻き込み、巻き込まれ、果たして、彼らは恋愛と家族愛の違いを理解することができるのか!?
短編 兄がいるので悪役令嬢にはなりません を大幅加筆と修正して連載しています
カクヨム、小説家になろうにも掲載しています。
前世で処刑された聖女、今は黒薬師と呼ばれています
矢野りと
恋愛
旧題:前世で処刑された聖女はひっそりと生きていくと決めました〜今世では黒き薬師と呼ばれています〜
――『偽聖女を処刑しろっ!』
民衆がそう叫ぶなか、私の目の前で大切な人達の命が奪われていく。必死で神に祈ったけれど奇跡は起きなかった。……聖女ではない私は無力だった。
何がいけなかったのだろうか。ただ困っている人達を救いたい一心だっただけなのに……。
人々の歓声に包まれながら私は処刑された。
そして、私は前世の記憶を持ったまま、親の顔も知らない孤児として生まれ変わった。周囲から見れば恵まれているとは言い難いその境遇に私はほっとした。大切なものを持つことがなによりも怖かったから。
――持たなければ、失うこともない。
だから森の奥深くでひっそりと暮らしていたのに、ある日二人の騎士が訪ねてきて……。
『黒き薬師と呼ばれている薬師はあなたでしょうか?』
基本はほのぼのですが、シリアスと切なさありのお話です。
※この作品の設定は架空のものです。
※一話目だけ残酷な描写がありますので苦手な方はご自衛くださいませ。
※感想欄のネタバレ配慮はありません(._.)
いらないと言ったのはあなたの方なのに
水谷繭
恋愛
精霊師の名門に生まれたにも関わらず、精霊を操ることが出来ずに冷遇されていたセラフィーナ。
セラフィーナは、生家から救い出して王宮に連れてきてくれた婚約者のエリオット王子に深く感謝していた。
エリオットに尽くすセラフィーナだが、関係は歪つなままで、セラよりも能力の高いアメリアが現れると完全に捨て置かれるようになる。
ある日、エリオットにお前がいるせいでアメリアと婚約できないと言われたセラは、二人のために自分は死んだことにして隣国へ逃げようと思いつく。
しかし、セラがいなくなればいいと言っていたはずのエリオットは、実際にセラが消えると血相を変えて探しに来て……。
◆表紙画像はGirly drop様からお借りしました🍬
◇いいね、エールありがとうございます!
ダメンズな彼から離れようとしたら、なんか執着されたお話
下菊みこと
恋愛
ソフトヤンデレに捕まるお話。
あるいはダメンズが努力の末スパダリになるお話。
小説家になろう様でも投稿しています。
御都合主義のハッピーエンドのSSです。
【完結】浮気現場を目撃してしまい、婚約者の態度が冷たかった理由を理解しました
紫崎 藍華
恋愛
ネヴィルから幸せにすると誓われタバサは婚約を了承した。
だがそれは過去の話。
今は当時の情熱的な態度が嘘のように冷めた関係になっていた。
ある日、タバサはネヴィルの自宅を訪ね、浮気現場を目撃してしまう。
タバサは冷たい態度を取られている理由を理解した。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる