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第22話 エドモンド1

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「もし本当にそれを陛下がお許しになると思われるなら、ここに陛下をお呼びしましょうか!?」

 目の前で啖呵を切る女を見て苛立ちを覚えた。

 馬鹿か? お前は何を見ている? あの男がそんな面倒事に首を突っ込むはずがないだろう…と。

 女好きで、事勿れ主義。おまけに全て人任せで何もやる気が無い。

 お前は嫁いて来てから全ての執務をあの男に押し付けられているではないか? それなのにまだあの男の名を口にし、頼ろうとするのか?

 あんな男を引き合いに出された所で、僕の心には何一つ響く事はない。

 それでも僕が彼女に謝ったのは、これ以上母の立場を悪くしない為だった。

 人は僕の事を母の傀儡と呼ぶだろう。でも、僕はそれでも構わない。

 僕は今までに2度父に捨てられた。

 その2度共、全てを捨て僕を必死に守ってくれたのは母だったから…。

 1度目は母の懐妊が分かった時。

 喜んで父に報告した母に、オスマンサスを恐れたあの男は告げた。

「その子の事は諦めてくれないか?」

 あの時、母や母の親族が騒ぎを起こさなければ、母は父の手によって堕胎させられ、僕は今ここにはいなかっただろう。

 後で知った話だが、あの男は既にオスマンサスの令嬢にも手を出していたのだ。

 当然、母はそんな事を知る由も無い。

 確かにその時、父とオスマンサスの令嬢の間に縁談が持ち上がっていた事は誰もが知っていた。でもまだ正式に婚約していた訳ではなかった。

 それなのに母と母の親族は、オスマンサスによって没落に追い込まれた。

 そしてこの時、母は王太子妃と言う立場は得たものの、全てを失ったのだ。

 それなのに…。

 父は僕がまだ母のお腹にいる時から浮気をし、その女もまた父の子を宿した。

 仕方なくその女は父の側妃となった。

 母はどれだけ悔しかっただろう。その女が後に産んだ子がリシャールだ。

 母はその女と子を憎んだ。当たり前だ。何も知らなかった母とは違い、その女は父に妻がいる事も、母の腹に子がいる事も知っていた。

 知っていて父に抱かれたのだ。

 僕が生まれると父は僕に言い聞かせた。

「お前は罪の子だ。お前さえいなければ王家がここまで困窮する事は無かった。だからお前はせめて、王家のために一生尽くせ」

 今ならば言い返すだろう。貴方は何を言っているんだ。初めにその罪を犯したのは他の誰でもない、貴方ではないかと。

 だが、当時まだ子供だった僕には、父のこの言葉は重くのしかかった。

 それからと言うもの、第一王子として生まれた僕に自由な時間なんて無かった。幼い頃から何人もの家庭教師がつけられ、沢山の事を学ばされた。でも僕がどれだけ頑張っても、父上は僕を見てため息を吐く。

「何だ! こんな事も出来ないのか!? 情けない。それでも私の息子か!?」

 父にはいつも叱られた。
 
 頑張らなきゃ、頑張らなきゃ…。

 もっと頑張って父上に認めて貰うんだ。

 そう思って焦れば焦るほど、結果を出せない…。それが情けなくて、悔しくて…。そのうち、僕はストレスで文字を見ると頭が痛くなる様になった。

 これを見かねて母は僕を庇ってくれた。

「陛下。これ以上はこの子が壊れてしまいます。何故この子にこんなに辛く当たるのです!? 私は貴方のせいで全てを失った…。それなのにこの子まで私から奪うつもりですか!?」

 母は父をそう言って責めた。

 すると、父は僕にはもう何も言わなくなった。それどころか僕の言う事は何でも聞いてくれて、猫可愛がりするようになった。

 反してリシャールには厳しく当たった。

「あら、あの子また陛下に叱られているわ。可哀想な子…。余程出来が悪いのね。その点、貴方はお父様にとても愛されているから幸せね」

 母は僕が父に可愛がられる様になると、いつもそう言って優越感に浸っていた。

 でもそうじゃ無かった。

「王太子はリシャールにしようと思う」

 ある日、父がそう告げた。

 そう…。僕は母に庇われたあの日、父に見放されたのだ。

 だから父は急に僕に優しくなったのだ。

 僕に何の期待もしなくなったから…。

 それからだった。母が可笑しくなってしまったのは…。

 その後、何度も僕を王太子にするようにと父に迫った母は、父がそれを拒絶すると短剣で自らの胸を貫いた。そして血を流しながら父に言ったのだ。

「王太子はエドモンドに…。あの女の子供だけは決して王にはさせないで…」と…。

 





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