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第17話

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「ターゲットって…。 私、何か王妃に目に付けられる様な事、したかしら?」

 人差し指を口元に当て、暫し考える。

 まぁ、あるわね。私が陛下に飲ませた3つの条件はそのどれもがエドモンドに深く関わる事ばかりだ。

「まぁ、何をしてきてもこれからは無視するけどね」

 そう言った私に「はぁ?」とリシャールが呆れた様な声を出す。

 今回の事で私は悟った。真剣に相手するから言葉を歪曲され、揚げ足を取られるのだと。だったら構わないのが1番。第1私には、王妃に構っている暇なんてないのだ。押し付けられた膨大な量の執務。民の要望を叶える為の現地への視察や打ち合わせ。そして、王家のこの依存体質を解消する為の新たな施策も考えなければならない。

 はっきり言って猫の手どころか、鼠の手だって借りたい程に忙しい。

「無視ってお前…。現にある事ない事噂されてるだろ? 何もしなければ言いたい放題言われるぞ。お前、嫌じゃ無いのか?」

 リシャールは不思議そうに聞くけれど…。

「別に噂なんてされようがされまいがどうでも良いわ。それにもう直ぐルルナレッタが嫁いで来るのよ。そうなったら今よりもっと、色々と面白可笑しく噂されるに決まっているじゃない? それをいちいち気にしていたら身が持たないわ。そうでしょう?」

 私はそう言って首を傾げて笑ってみせた。

 噂なんて流されたって痛くも痒くもないし、こちらが何の反応も示さなければ、向こうもそのうち飽きて止めるでしょう…。私はこの時、そんな甘い考えを持っていた。

 だいたいその噂を流している使用人達は理解しているのだろうか? 今、我が家が怒って王家への支援金を止めたら、貴方達の給金すら滞るかも知れない状況なのに…。

 まぁ、そんな恨みを買う様な事はまだしないけどね。

 だって、今は目的の為の足場作りをする大切な時だ。出来るだけ敵は作りたく無い。

 反して、王妃は暇だ。これと言ってやる事もなく、だからと言って以前の側妃のように公務を頑張るかと問われると、そんな気は更々無くこっちに丸投げだ。

 だからこんな嫌がらせばかり思いつくのだ。そんな彼女の暇つぶしになんか付き合ってはいられない。

 それに彼女には対応を間違えると何をするか分からない怖さがある。

 だいたい自分の胸に短剣を突き刺すなんて正気の沙汰とは思え無い。

 つまり、触らぬ神に祟りなしなのだ。

「今は彼女には、気持ち良くやりたい様にさせてあげましょう」

 私はリシャールにそう告げた。

「良いのかよ?」

 彼が何度も私にそう言うのは、やはり母親が過去、王妃の言動にかなり胸を痛めていたからだろう。

 ふと気になってリシャールに聞いた。

「ねぇ、側妃様は貴方が此方に来ている間、離宮でどう過ごされているの?」

 もし1人寂しくされているのだとしたら申し訳ないと思った。

「ああ、母上なら気の置けない使用人達と刺繍や好きな花を育てたりしながら、穏やかに過ごしているよ。偶に父上も来て、こっちにいる時よりずっと快適で楽しそうだな」

「そう…。陛下が…?」

 そう言えばリシャールに私の仕事を補佐する様に言いに行ったのも、陛下自身だと言っていた。

「側妃様が離宮に移られた後も陛下と側妃様は接点があったのね?」

「ああ、あの女の目が届かないからか、2人ともとても幸せそうだな」

 そう言ってリシャールは2人を思い出しながらか今まで見たこともない様な柔らかな表現をして笑った。

 彼にとっては大切な両親。

 だから、リシャールが2人の事を大切に思う気持ちは分かる。

 そんな彼を見て心が痛んだ。

 ごめんなさい、リシャール。私は貴方の父親を失脚させ、代わりに貴方を王の座に就ける為、今此処にいるの。

 それでも心を鬼にしなければならない。私はルクソール公爵の娘なのだから…。

 それからの私は、この時口にした通り、王妃が何を言って来ても使用人にどんな噂をされてものらりくらり交わし、無視を決めこんだ。

 それから暫くしてルルナレッタがエドモンドの側妃として嫁いできた。

 私の時と違って2人は筒がなく初夜を済ませたそうだ。

 聞きたくもないのに、態々侍女達が噂話として聞こえるように私の耳に入れて来るのだ。

 それでも私が平然としているからだろう。

 今度はまた、王妃から晩餐に誘われた。

 名目は、側妃との初顔合わせだそうだ。

 別に顔を合わせなくても…と思ったがそう誘われれば断る事は出来ない。

 仕方がないと覚悟を決め、ダイニングに向かった私は既視感を覚えた。

 向かいには王妃、その両隣りにはエドモンドとルルナレッタ。

 エドモンドとルルナレッタは向かい合う様に座って、仲良さ気に談笑している。

 そして王妃に向かい合う長い食卓の端に席がポツンと一つ。恐らく此処が私の席だろう。私が嫁いだばかりの時と同じ席だ。

 ああ、そうか…。何の反応も示さなければそのうち飽きて止めるだろうと思っていた。

 でも違った。

 彼女はこちらが黙っていれば更に追い詰めて来るタイプの人間だったのだ…。
 
 




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