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第2話
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話は3年前に遡る。
「しかし、馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまでの大馬鹿者だったとはな…」
父が呆れた様にほくそ笑む。嬉しいのか悲しいのか全く分からないその表情は、きっと踊り出したい位に嬉しいのだと娘の私なら分かる。
父はそう言う人だ。
因みにだが、父の言うこの馬鹿は残念ながら私の夫である王太子エドモンドの事では無い。陛下の事だ。
この国の王家には金が無い。何故か? それは王家の他に国内の流通、商業を牛耳る巨大な家紋が存在するからだ。それが二大公爵家の一つオスマンサス家だ。
当然王家も手を拱いて見ていた訳では無い。陛下がまだ王太子だった頃、オスマンサスの令嬢との縁談話を進めていた。ところがである。
陛下は事もあろうに、夜会で知り合った伯爵令嬢を妊娠させてしまう。これを伯爵家が騒ぎ立て、王家とオスマンサス公爵家の縁談は呆気なく破談となった。この時の伯爵令嬢。それが今の王妃様、そしてその時王妃様のお腹に宿っていたのが、誰あろう私の夫であるエドモンドだった。
婚姻前からの不貞。然も相手を妊娠させると言う大失態を犯した陛下は、この時、オスマンサスと言う巨大な後ろ盾を失った。
それだけでは無い。
面目丸潰れとなったオスマンサスが陛下や伯爵令嬢を許す訳も無く…。
それ以来王家とオスマンサス公爵家は没交渉。犬猿の仲となった。然もオスマンサスは税を王家に支払うなど真っ平御免とばかり、国内にあった商会の拠点の殆どを他国へと移動した。これに手を貸したのが外交のルクソールと呼ばれる我が家だ。
我が家は代々国の外交に携わっており、他国との関係が深かった。
そのお陰でオスマンサスの店舗の移動はスムーズに行われ、我が家はオスマンサスに貸しを作った形となった。今や国内に残るオスマンサスの店舗は王都を含む数店舗のみ。これによりオスマンサスから国へと支払われる税収は、ピーク時の三分の一程度に激減したのだ。
それから18年…。遂ににっちもさっちもいかなくなった王家が頼りにしたのがもう一つの公爵家。つまり我が家だった。
王家はエドモンドにルルナレッタと言う恋人がいる事を知りながら、今回、厚顔無恥にも私に彼との婚姻を打診して来た。
「彼女とは私が責任を持って別れさせる。どうか王家を救うと思ってこの縁組を受けては貰えないだろうか?」
この時陛下はこう言った。確かに言った。この時交渉のテーブルについていた人は皆んな聞いていたはずだ。
そして父は一度ははっきりと断った。
「我が娘を殿下に嫁がせたとして、我が家に利など何も御座いません」と。
本来なら酷く無礼な発言である。だが、余程金に困っているのだろう。それでも陛下は食い下がった。
「そこを何とか…。私に出来る事なら何でもしよう。頼む。この通りだ。王家を救っては貰えないだろうか」
平身低頭、頭を下げる陛下のこの言葉を聞いた父はすかさず願いをもうしでた。
「では、オスマンサス家の嫡男ヴァレウス様と、これの妹アンゼリカの婚姻をお許し願いたい」
私を指差しそう言った父に、陛下は一瞬、息を飲み込んだ。
この婚姻に寄って二大公爵家が結びつくのだ。その意味が陛下に分からない筈はない。流石に父も王家が認めるとは思っていなかったようだ。
ところが蓋を開けてみれば…。
「まさか認めるとはな…。これでこの国は我らの思うがままだ!」
父はそう言ってほくそ笑むが…。
この瞬間、私はエドモンドに嫁ぐ事が正式に決まったのだった。
「しかし、馬鹿だ馬鹿だと思ってはいたが、ここまでの大馬鹿者だったとはな…」
父が呆れた様にほくそ笑む。嬉しいのか悲しいのか全く分からないその表情は、きっと踊り出したい位に嬉しいのだと娘の私なら分かる。
父はそう言う人だ。
因みにだが、父の言うこの馬鹿は残念ながら私の夫である王太子エドモンドの事では無い。陛下の事だ。
この国の王家には金が無い。何故か? それは王家の他に国内の流通、商業を牛耳る巨大な家紋が存在するからだ。それが二大公爵家の一つオスマンサス家だ。
当然王家も手を拱いて見ていた訳では無い。陛下がまだ王太子だった頃、オスマンサスの令嬢との縁談話を進めていた。ところがである。
陛下は事もあろうに、夜会で知り合った伯爵令嬢を妊娠させてしまう。これを伯爵家が騒ぎ立て、王家とオスマンサス公爵家の縁談は呆気なく破談となった。この時の伯爵令嬢。それが今の王妃様、そしてその時王妃様のお腹に宿っていたのが、誰あろう私の夫であるエドモンドだった。
婚姻前からの不貞。然も相手を妊娠させると言う大失態を犯した陛下は、この時、オスマンサスと言う巨大な後ろ盾を失った。
それだけでは無い。
面目丸潰れとなったオスマンサスが陛下や伯爵令嬢を許す訳も無く…。
それ以来王家とオスマンサス公爵家は没交渉。犬猿の仲となった。然もオスマンサスは税を王家に支払うなど真っ平御免とばかり、国内にあった商会の拠点の殆どを他国へと移動した。これに手を貸したのが外交のルクソールと呼ばれる我が家だ。
我が家は代々国の外交に携わっており、他国との関係が深かった。
そのお陰でオスマンサスの店舗の移動はスムーズに行われ、我が家はオスマンサスに貸しを作った形となった。今や国内に残るオスマンサスの店舗は王都を含む数店舗のみ。これによりオスマンサスから国へと支払われる税収は、ピーク時の三分の一程度に激減したのだ。
それから18年…。遂ににっちもさっちもいかなくなった王家が頼りにしたのがもう一つの公爵家。つまり我が家だった。
王家はエドモンドにルルナレッタと言う恋人がいる事を知りながら、今回、厚顔無恥にも私に彼との婚姻を打診して来た。
「彼女とは私が責任を持って別れさせる。どうか王家を救うと思ってこの縁組を受けては貰えないだろうか?」
この時陛下はこう言った。確かに言った。この時交渉のテーブルについていた人は皆んな聞いていたはずだ。
そして父は一度ははっきりと断った。
「我が娘を殿下に嫁がせたとして、我が家に利など何も御座いません」と。
本来なら酷く無礼な発言である。だが、余程金に困っているのだろう。それでも陛下は食い下がった。
「そこを何とか…。私に出来る事なら何でもしよう。頼む。この通りだ。王家を救っては貰えないだろうか」
平身低頭、頭を下げる陛下のこの言葉を聞いた父はすかさず願いをもうしでた。
「では、オスマンサス家の嫡男ヴァレウス様と、これの妹アンゼリカの婚姻をお許し願いたい」
私を指差しそう言った父に、陛下は一瞬、息を飲み込んだ。
この婚姻に寄って二大公爵家が結びつくのだ。その意味が陛下に分からない筈はない。流石に父も王家が認めるとは思っていなかったようだ。
ところが蓋を開けてみれば…。
「まさか認めるとはな…。これでこの国は我らの思うがままだ!」
父はそう言ってほくそ笑むが…。
この瞬間、私はエドモンドに嫁ぐ事が正式に決まったのだった。
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