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「それは…」
アンナの急な質問に私は言葉を失った。今、此処で否定したところで長年共に過ごしたアンナの目を誤魔化せるとは思えない。
すると、そんな私の様子を見てアンナが言葉を続けた。
「私はさっき言いましたよね? 母は父と別れてリアーナ様にお仕えすることを自分で選んだのです。だから母は最期まで自分の選択を悔いてはいませんでしたよ? お嬢様は殿下とお別れすることをご自分で選ばれましたか? 殿下の言葉に逆らえ無かっただけですよね? 殿下とは本当に今日でお別れですよ? お嬢様はそれでよろしいのですか? 後悔なさいませんか?」
アンナは矢継ぎ早に質問を繰り返した。その度に私の感情が揺さぶられていく。
「……だって…仕方がないじゃない…。殿下が私を拒絶するんだから…。本当は側にいたい…。でも、君の命を守るためだ言われれば私は殿下に何も言い返せない…」
気が付くと私はそう口にしていた。途中、また涙が溢れ出て来た。最近は泣いてばかりだ。
「やっと本音を言いましたね」
アンナは呆れた様に一つ息を吐くと、私の肩を、何時もしてくれる様に抱き締めた。
「私はずっとあんな人の何処が良いんだろう? あんなに蔑ろにされても好きだなんて、お嬢様はなんて物好きなんだろうって思ってました」
「……物好き……アンナ…酷い…」
私は泣き笑いをする。するとアンナは慰める様に私の頭を撫ぜた。
「でも今は、殿下の事を少しは見直しました。屋敷に匿われている時、公爵様は仰いました。殿下はお嬢様をセレジストに返す選択をした。それはメルカゾールがセレジストからの援助を受けず、自分の足で立つ事を意味する。他国に頼る事なく、自分の国の力で安定的な国家運営を目指す。殿下はあえてその茨の道を選んのだと…。」
自分の足で立つ…。公爵の言う通り、お母様が亡くなり、私をセレジストに返して仕舞えば、もうセレジストにメルカゾールを援助する理由は無くなる。それは即ち、今までより民に負担を強いる事に繋がる。当然、民の反発は免れない。正に茨の道だ。
「公爵様は、他国に支えられての国家運営は楽だが脆いとも仰いました。だからこそ殿下は国家としての自立を目指されるのだと」
アンナの声はとても優しくて温かかった。それに私を撫ぜる手も心地良い。
アンナにはきっと私が本当はどうしたいのか分かっているのだ。
「…共に戦う夫婦になりたかった…殿下はそう言ったわ。私もそう。彼の支えになりたい」
私はアンナに思いを口にした。
その為に辛いお妃教育も頑張って来たのだ。
「…そうですか…。それがお嬢様の本当の気持ちですね? なら、私はお嬢様に協力します。大丈夫。お嬢様が自分の気持ちをしっかりと持ち、行動すれば、きっと最善の策が見つかりますよ」
アンナはそう言って微笑んだ。
*****
馬車が宮殿に到着すると、私達はとある部屋へと通された。
そこが誰の部屋か…直ぐにピンと来た。その部屋がお母様の好きなセレジストの色、グリーンで統一されていたから…。
お母様が城を出てもう20年近く、祖父はずっとこの部屋を守っていてくれたのだろう。この部屋からは祖父の母への深い愛を感じる事が出来た。
「ここはお母様の部屋ですか?」
私は案内してくれた侍女に尋ねた。すると彼女はにっこりと微笑んだ。
「ええ、そうですよ。このお部屋からは庭園が一望出来るんです。リアーナ様は良くベランダへ出てご覧になっていました。ディアーナ様は本当にリアーナ様に良く似ていらっしゃいますね。それにそのブローチ、ミンティア様の物ですね?」
案内してくれた年配の侍女が、私の顔を見ながら涙ぐんだ。でも私はそれよりも、彼女が叔母のブローチについて触れた事に驚いた。
「このブローチを知っているのですか?」
すると彼女は頷いた。
「ええ、勿論です。私はミンティア様にお仕えする侍女でしたから…」
このやり取りを黙って聞いていた殿下が驚いた様に目を見開いた。
「ミンティア様の侍女…。では貴方はミンティア様の死の真相をご存知なのですか?」
「ミンティア様の死の真相…ですか? それはどう言った事でしょう? ミンティア様は事故で亡くなったのですよ?」
だが、殿下の質問に彼女は怪訝な表情を浮かべた。
「私の信頼する知人はミンティア様はロイド様に殺されたと言いました。そしてロイド様は陛下に処刑された…とも」
すると彼女は怒りで顔を赤く染め、殿下を見据え声を張り上げた。
「貴方はメルカゾールの王族でしょう? 何も知らず、しかもセレジストの宮殿でその様な発言、誰かに聞かれたら、不敬だと断罪されても仕方が無いのですよ!?」
だが殿下は怯む事なく言葉を続ける。
「…ですが、この話は陰ながらではありますが、至る所で噂されています。大体無理がありませんか? ミンティア様が亡くなって、後を追う様にロイド様が亡くなった。セレジストの皇位継承権を持つ人物が続けて亡くなったのです。2人の死を関連付けるのは当然の事だ」
殿下の意思を感じたのか、彼女は諦めた様な顔をして徐にアンナの方へと向き直った。
「あなた…テレサの娘ね。名はそう…確かアンナだったかしら? 私の事を覚えている?」
「はい…確かダリア様…。母ととても仲良くして頂いていたのを覚えています」
アンナは突然話題を変えたダリアに戸惑いながらも、懐かしそうに目を細めた。
「あぁアンナ…覚えていてくれたのね? 抱きしめても良いかしら。テレサの事、聞いたわ。大変だったわね」
彼女はそう言って優しくアンナを抱きしめた。そして殿下に問いかけた。
「それを私が話す事で、確実にあの男の息子を廃嫡出来ますか?」と。
あの男の息子…。ダリアからはロイドとシュナイダーに対する強い怒りが伝わって来た。
アンナの急な質問に私は言葉を失った。今、此処で否定したところで長年共に過ごしたアンナの目を誤魔化せるとは思えない。
すると、そんな私の様子を見てアンナが言葉を続けた。
「私はさっき言いましたよね? 母は父と別れてリアーナ様にお仕えすることを自分で選んだのです。だから母は最期まで自分の選択を悔いてはいませんでしたよ? お嬢様は殿下とお別れすることをご自分で選ばれましたか? 殿下の言葉に逆らえ無かっただけですよね? 殿下とは本当に今日でお別れですよ? お嬢様はそれでよろしいのですか? 後悔なさいませんか?」
アンナは矢継ぎ早に質問を繰り返した。その度に私の感情が揺さぶられていく。
「……だって…仕方がないじゃない…。殿下が私を拒絶するんだから…。本当は側にいたい…。でも、君の命を守るためだ言われれば私は殿下に何も言い返せない…」
気が付くと私はそう口にしていた。途中、また涙が溢れ出て来た。最近は泣いてばかりだ。
「やっと本音を言いましたね」
アンナは呆れた様に一つ息を吐くと、私の肩を、何時もしてくれる様に抱き締めた。
「私はずっとあんな人の何処が良いんだろう? あんなに蔑ろにされても好きだなんて、お嬢様はなんて物好きなんだろうって思ってました」
「……物好き……アンナ…酷い…」
私は泣き笑いをする。するとアンナは慰める様に私の頭を撫ぜた。
「でも今は、殿下の事を少しは見直しました。屋敷に匿われている時、公爵様は仰いました。殿下はお嬢様をセレジストに返す選択をした。それはメルカゾールがセレジストからの援助を受けず、自分の足で立つ事を意味する。他国に頼る事なく、自分の国の力で安定的な国家運営を目指す。殿下はあえてその茨の道を選んのだと…。」
自分の足で立つ…。公爵の言う通り、お母様が亡くなり、私をセレジストに返して仕舞えば、もうセレジストにメルカゾールを援助する理由は無くなる。それは即ち、今までより民に負担を強いる事に繋がる。当然、民の反発は免れない。正に茨の道だ。
「公爵様は、他国に支えられての国家運営は楽だが脆いとも仰いました。だからこそ殿下は国家としての自立を目指されるのだと」
アンナの声はとても優しくて温かかった。それに私を撫ぜる手も心地良い。
アンナにはきっと私が本当はどうしたいのか分かっているのだ。
「…共に戦う夫婦になりたかった…殿下はそう言ったわ。私もそう。彼の支えになりたい」
私はアンナに思いを口にした。
その為に辛いお妃教育も頑張って来たのだ。
「…そうですか…。それがお嬢様の本当の気持ちですね? なら、私はお嬢様に協力します。大丈夫。お嬢様が自分の気持ちをしっかりと持ち、行動すれば、きっと最善の策が見つかりますよ」
アンナはそう言って微笑んだ。
*****
馬車が宮殿に到着すると、私達はとある部屋へと通された。
そこが誰の部屋か…直ぐにピンと来た。その部屋がお母様の好きなセレジストの色、グリーンで統一されていたから…。
お母様が城を出てもう20年近く、祖父はずっとこの部屋を守っていてくれたのだろう。この部屋からは祖父の母への深い愛を感じる事が出来た。
「ここはお母様の部屋ですか?」
私は案内してくれた侍女に尋ねた。すると彼女はにっこりと微笑んだ。
「ええ、そうですよ。このお部屋からは庭園が一望出来るんです。リアーナ様は良くベランダへ出てご覧になっていました。ディアーナ様は本当にリアーナ様に良く似ていらっしゃいますね。それにそのブローチ、ミンティア様の物ですね?」
案内してくれた年配の侍女が、私の顔を見ながら涙ぐんだ。でも私はそれよりも、彼女が叔母のブローチについて触れた事に驚いた。
「このブローチを知っているのですか?」
すると彼女は頷いた。
「ええ、勿論です。私はミンティア様にお仕えする侍女でしたから…」
このやり取りを黙って聞いていた殿下が驚いた様に目を見開いた。
「ミンティア様の侍女…。では貴方はミンティア様の死の真相をご存知なのですか?」
「ミンティア様の死の真相…ですか? それはどう言った事でしょう? ミンティア様は事故で亡くなったのですよ?」
だが、殿下の質問に彼女は怪訝な表情を浮かべた。
「私の信頼する知人はミンティア様はロイド様に殺されたと言いました。そしてロイド様は陛下に処刑された…とも」
すると彼女は怒りで顔を赤く染め、殿下を見据え声を張り上げた。
「貴方はメルカゾールの王族でしょう? 何も知らず、しかもセレジストの宮殿でその様な発言、誰かに聞かれたら、不敬だと断罪されても仕方が無いのですよ!?」
だが殿下は怯む事なく言葉を続ける。
「…ですが、この話は陰ながらではありますが、至る所で噂されています。大体無理がありませんか? ミンティア様が亡くなって、後を追う様にロイド様が亡くなった。セレジストの皇位継承権を持つ人物が続けて亡くなったのです。2人の死を関連付けるのは当然の事だ」
殿下の意思を感じたのか、彼女は諦めた様な顔をして徐にアンナの方へと向き直った。
「あなた…テレサの娘ね。名はそう…確かアンナだったかしら? 私の事を覚えている?」
「はい…確かダリア様…。母ととても仲良くして頂いていたのを覚えています」
アンナは突然話題を変えたダリアに戸惑いながらも、懐かしそうに目を細めた。
「あぁアンナ…覚えていてくれたのね? 抱きしめても良いかしら。テレサの事、聞いたわ。大変だったわね」
彼女はそう言って優しくアンナを抱きしめた。そして殿下に問いかけた。
「それを私が話す事で、確実にあの男の息子を廃嫡出来ますか?」と。
あの男の息子…。ダリアからはロイドとシュナイダーに対する強い怒りが伝わって来た。
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