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私達の出立の日は幸い天気にも恵まれ、絶好の船出日和だった。
商船だからと謙遜していた公爵だったが、実際の船は大きく豪華で、これが本当に商船なのかと見粉うばかりだ。
「良かったですね~。お嬢様。お天気も良くて。私、船に乗るのって初めてで。何だかワクワクしちゃって!」
アンナもはしゃいでいた。
テレサが亡くなってからずっと塞ぎ込んでいたアンナだったが、セレジストに向かうと決めてからは少しずつ元気を取り戻している様に見える。やはり生まれ故郷に帰れるのが嬉しいのだろう。
「それでは行ってまいります」
「ああ、健闘を祈っているよ」
私達が公爵と最後の言葉を交わし、船に乗り込もうとした時だった。
公爵が私の胸元に光るブローチに目を付けた。
「おや、ペリドットだね。この日の為につけて来たのかい?」
セレジストグリーン…。セレジスト皇家の色だ。
私はこの日叔母が母へと贈った、あのペリドットのブローチを胸につけていた。これを身につけると、何だか2人が私を見守ってくれている様な、そんな気がして勇気が出るからだ。
「はい、母と父の結婚祝いにと叔母様から贈られた物だそうです。今日は私にとって人生の門出だと思ってつけました」
私が答えると、公爵は何かを考える様に手を口元に置いて私に問いかけた。
「叔母様…ミンティア様かい? 君は彼女に会った事があるのかい?」
公爵が質問を重ねる。
「…はい。私が子供の頃、一度だけ我が家を訪ねて下さいました」
公爵は何故こんなに叔母の事を気にするのだろう…?私は戸惑いながら答えた。
「すまないがそのブローチ、少し見せては貰えないだろうか?」
公爵は今度はそう言ってブローチに手を翳す。
「公爵、どうかしたんですか? このブローチが何か?」
ただ事では無い公爵の様子を殿下も気にしている様だ。ブローチを見つめている。
「はい、勿論です」
私は戸惑いながらも直ぐにブローチを外し、公爵に手渡した。
公爵は私から受け取ったブローチを念入りに見ながら
「うーん。別にこれと言って何も無いね。私の思い過ごしかな? 君のご両親の結婚祝いを、ミンティア様が何年も経ってから、態々届けに来られた…と聞いて気になったんだが…」と呟いた。
「念の為に聞くが、これ以外に何か叔母様から預かった物は無かったかい?」
公爵が更に私に問う。余程気になっているのだろう。
「…はい、宝石箱を頂きました」
私が答えると公爵は身を乗り出した。
「その宝石箱は今、何処にある!?」
私と公爵のこの一連のやり取りを、殿下とアンナは固唾を飲んで見守っていた。
公爵のこの慌て方…。きっと何か理由があるんだわ。
そう感じた私は、鞄から宝石箱を取り出して、「これです」と差し出した。
私から宝石箱を受け取ると、公爵は今度は宝石箱を念入りに調べ始めた。暫くすると何かに気付いたのか、中蓋の奥にあるつまみの様な物を捻る。
すると宝石箱の蓋が2つに分かれ、そこから手紙の様な物が現れた。側で見ていた私も殿下も驚きで目を見開く。
「中を見ても構わないかい?」
私が頷くと、公爵はその紙を見て顔を歪めた。
「これは…凄い物を見つけたな」
公爵はそう言って紙を私に差し出した。見てみろと言う事だろう。
紙に目を通した私は、驚きで体が震えた。
殿下も私の隣から覗き込んでいる。
余程気になっているのだろう。私は紙をずらして、殿下にも見えるようにした。
公爵から手渡されたその紙は、2通の鑑定書だった。
鑑定書には、叔母の名前とロイド様の名前。叔母は2人の血縁関係を調べていた。
丁寧に2通の鑑定書は態々、別々の施設で鑑定が行われた物だった。鑑定に信憑性を持たせる為だろう。
そして驚く事に2通共、2人に血縁関係は無いと鑑定されていたのだ。
「これは…どう言う事だ!?」
殿下が声を上げた。
「つまり、ロイドはロドリゲス閣下の子では無いと言う事だ。そしてこの鑑定が事実なら、その子であるシュナイダーには皇家の血は流れていないと言う事になる。つまり彼に皇位継承権は無いと言う事だよ」
公爵は鑑定の意味を分かりやすく説明してくれた。
「ですが公爵はシュナイダーはロドリゲス様に全てが似ているとおっしゃっていましたよね?」
殿下が公爵に聞いた。
「ああ…。だから私も不思議なんだ。彼は見た目や考え方、仕草までがロドリゲス様に似ていると噂になる程だった…」
するとアンナが突然手を上げて話し出した。
「私は普段お嬢様のヘアメイクをしているんですが、見た目だけなら、服装や髪型、仕草なんかで似たように見せるのは簡単ですよ。それにロドリゲス様って早くに亡くなっているんですよね? だったら余計に簡単じゃ無いですか? 皆んなの記憶も曖昧になっているでしょうし…。特に噂になっていたのなら、余計に皆んなそう思い込むんじゃ無いですか?」
「そうか…噂か…」
アンナの話を聞いた公爵が呟いた。
「ロドリゲス様は軍神と呼ばれるセレジストの英雄だ。その噂自体、意図的に流された可能性もあるな…」
商船だからと謙遜していた公爵だったが、実際の船は大きく豪華で、これが本当に商船なのかと見粉うばかりだ。
「良かったですね~。お嬢様。お天気も良くて。私、船に乗るのって初めてで。何だかワクワクしちゃって!」
アンナもはしゃいでいた。
テレサが亡くなってからずっと塞ぎ込んでいたアンナだったが、セレジストに向かうと決めてからは少しずつ元気を取り戻している様に見える。やはり生まれ故郷に帰れるのが嬉しいのだろう。
「それでは行ってまいります」
「ああ、健闘を祈っているよ」
私達が公爵と最後の言葉を交わし、船に乗り込もうとした時だった。
公爵が私の胸元に光るブローチに目を付けた。
「おや、ペリドットだね。この日の為につけて来たのかい?」
セレジストグリーン…。セレジスト皇家の色だ。
私はこの日叔母が母へと贈った、あのペリドットのブローチを胸につけていた。これを身につけると、何だか2人が私を見守ってくれている様な、そんな気がして勇気が出るからだ。
「はい、母と父の結婚祝いにと叔母様から贈られた物だそうです。今日は私にとって人生の門出だと思ってつけました」
私が答えると、公爵は何かを考える様に手を口元に置いて私に問いかけた。
「叔母様…ミンティア様かい? 君は彼女に会った事があるのかい?」
公爵が質問を重ねる。
「…はい。私が子供の頃、一度だけ我が家を訪ねて下さいました」
公爵は何故こんなに叔母の事を気にするのだろう…?私は戸惑いながら答えた。
「すまないがそのブローチ、少し見せては貰えないだろうか?」
公爵は今度はそう言ってブローチに手を翳す。
「公爵、どうかしたんですか? このブローチが何か?」
ただ事では無い公爵の様子を殿下も気にしている様だ。ブローチを見つめている。
「はい、勿論です」
私は戸惑いながらも直ぐにブローチを外し、公爵に手渡した。
公爵は私から受け取ったブローチを念入りに見ながら
「うーん。別にこれと言って何も無いね。私の思い過ごしかな? 君のご両親の結婚祝いを、ミンティア様が何年も経ってから、態々届けに来られた…と聞いて気になったんだが…」と呟いた。
「念の為に聞くが、これ以外に何か叔母様から預かった物は無かったかい?」
公爵が更に私に問う。余程気になっているのだろう。
「…はい、宝石箱を頂きました」
私が答えると公爵は身を乗り出した。
「その宝石箱は今、何処にある!?」
私と公爵のこの一連のやり取りを、殿下とアンナは固唾を飲んで見守っていた。
公爵のこの慌て方…。きっと何か理由があるんだわ。
そう感じた私は、鞄から宝石箱を取り出して、「これです」と差し出した。
私から宝石箱を受け取ると、公爵は今度は宝石箱を念入りに調べ始めた。暫くすると何かに気付いたのか、中蓋の奥にあるつまみの様な物を捻る。
すると宝石箱の蓋が2つに分かれ、そこから手紙の様な物が現れた。側で見ていた私も殿下も驚きで目を見開く。
「中を見ても構わないかい?」
私が頷くと、公爵はその紙を見て顔を歪めた。
「これは…凄い物を見つけたな」
公爵はそう言って紙を私に差し出した。見てみろと言う事だろう。
紙に目を通した私は、驚きで体が震えた。
殿下も私の隣から覗き込んでいる。
余程気になっているのだろう。私は紙をずらして、殿下にも見えるようにした。
公爵から手渡されたその紙は、2通の鑑定書だった。
鑑定書には、叔母の名前とロイド様の名前。叔母は2人の血縁関係を調べていた。
丁寧に2通の鑑定書は態々、別々の施設で鑑定が行われた物だった。鑑定に信憑性を持たせる為だろう。
そして驚く事に2通共、2人に血縁関係は無いと鑑定されていたのだ。
「これは…どう言う事だ!?」
殿下が声を上げた。
「つまり、ロイドはロドリゲス閣下の子では無いと言う事だ。そしてこの鑑定が事実なら、その子であるシュナイダーには皇家の血は流れていないと言う事になる。つまり彼に皇位継承権は無いと言う事だよ」
公爵は鑑定の意味を分かりやすく説明してくれた。
「ですが公爵はシュナイダーはロドリゲス様に全てが似ているとおっしゃっていましたよね?」
殿下が公爵に聞いた。
「ああ…。だから私も不思議なんだ。彼は見た目や考え方、仕草までがロドリゲス様に似ていると噂になる程だった…」
するとアンナが突然手を上げて話し出した。
「私は普段お嬢様のヘアメイクをしているんですが、見た目だけなら、服装や髪型、仕草なんかで似たように見せるのは簡単ですよ。それにロドリゲス様って早くに亡くなっているんですよね? だったら余計に簡単じゃ無いですか? 皆んなの記憶も曖昧になっているでしょうし…。特に噂になっていたのなら、余計に皆んなそう思い込むんじゃ無いですか?」
「そうか…噂か…」
アンナの話を聞いた公爵が呟いた。
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