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15 ザイティガ視点3
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「危険な男? どう言う意味です?」
俺は伯父の言葉を訝しむ。俺の知るシュナイダーは、勉強熱心で、優秀な男だ。
「納得のいかない顔をしているね? それで良いんだよ。ただ私がそう感じるだけだ。だが、今の君は私が何を言っても友人である彼を信じるだろう? 君が誰を信じ、誰を信じないかは君が判断する問題だ。だが、私は今、君に問題を提起したよ? その後は君自身が間違えない様にその目で見て、調べて判断しなさい。君は将来、我々の王となるべき存在なのだから」
伯父が帰った後も、俺の頭の中には伯父の言葉がずっと残っていた。
商売で他国を飛び回っている伯父は、俺の知らない何かを知っているのだろうか?
沢山の事を学んで沢山の物を見てほしい。そうすれば何かに気付く。これは俺がディアーナとの手紙で彼女に送った言葉だ。
「よし! 一度調べてみるか」
俺は1人でごちた。
幸い俺は今、セレジストにいる。彼の事を調べるのは難しい事ではないだろう。
翌日から俺はシュナイダーについて調べ始めた。
その結果、今セレジストの皇位継承権を持つ人物が3人しかいない事を知る。
彼シュナイダー、リアーナ様、そして、彼女の産んだ娘、ディアーナ。
駆け落ちして伯爵夫人になったリアーナ様の継承権は、何故か未だ剥奪されていなかった。
リアーナ様、ディアーナ…。
前世、亡くなった2人だ。2人が死んだ事により残ったのはシュナイダーたった1人。どうにも気になった。
更に詳しく調べる。
すると、シュナイダーはシナール陛下の本当の孫ではない事が分かった。
彼の祖父はシナール陛下の弟だった。名前はロドリゲス。王弟として戦の指揮を取り、軍神と国民から崇められた男だ。彼の活躍で帝国は戦に勝利し続け、力を得た。だがロドリゲスは戦場で負った傷が原因で亡くなってしまう。
彼の死に責任を感じたシナール陛下は、まだ幼かった彼の息子ロイドを引き取って育てた。それがシュナイダーの父親だった。
つまり、シナール様の正統な子では無いロイドも、その息子シュナイダーも、王族ではあるものの、皇帝の実子であるリアーナ様やその妹ミンティア様に比べると皇位継承順位は低い。
だが、ミンティア様が数年前事故で亡くなり、ロイドもそれから数ヶ月後に病で亡くなった。何とも奇妙だ。
これで残ったのは駆け落ちして国を離れたリアーナ様のみ。そのリアーナ様は異国の伯爵夫人だ。本来ならシュナイダーは既に立太子していてもおかしくはないはず。現にリアーナ様は、学院に入学される前に王太女になられたと聞いている。
「これは、どう言うことだ…。まさか…」
シナール陛下は何らかの理由で、彼が皇太子になる事を認めていないのでは無いか?
だからリアーナ様の継承権が失われていない…?リアーナ様が継承権を持っていればそれは当然、彼女の産んだ子にも引き継がれる。
前世、彼が皇太子になれたのは他に継ぐべき者が誰もいなくなったから…?
そんな疑惑が頭をよぎった。
理由が知りたかった。
だが、他国の皇位継承に纏わる話は国の最も秘匿とする部分だ。ましてや曰く付きならば尚更。俺は考え抜いた挙句、この問題を提起した伯父に手紙を書いた。
一言、『真相を知りたい』と。
数日後、伯父から手紙が来た。其処には日にちと場所が書いてあった。
俺は手紙に書かれた通り、その日にその場所へと向かった。どうやら其処は伯父の取引先の商会の様で、入り口で名前を告げると奥の部屋へと通された。
暫く部屋で待っているとノックの音がして伯父が部屋へと入ってきた。
俺は立ち上がって頭を下げる。
「わざわざセレジストまで来ていただき申し訳ありません」
「いや、こちらも仕事のついでだ。構わないよ。こちらこそ呼び出して悪かったね。話が話だけに誰かに聞かれたらまずいと思ってね。それで…何か分かったから手紙をくれたんだろ?」
俺は自分が調べて不思議に思った事を伯父に話した。
「ミンティア様が亡くなって、数ヶ月後にロイド様が亡くなった。どう考えても変だと思うんです。其処に何かがある様なそんな気がする」
「ああ、良く気が付いたね。ミンティア様を事故に見せかけて殺したのはロイドだよ」
伯父は事も無げに語った。その内容に俺は驚く。
「どうした? 皇位継承での殺し合いなんて何処の国でも一度や二度はあるよ。私達商人にとっては然程珍しい話でもないがね。だがシナール陛下は、娘2人を溺愛していたからね。ミンティア様の死が受け入れられず徹底的に調べ尽くし、犯人がロイドだと突き止めたんだ」
なる程、そう言う事か…。ロイドはシナール陛下に消されたんだ。
「分かった様だね。本来ならこう言う時は連座制だ。一族全て罰を負う。だが、シナール陛下は国の英雄ロドリゲスの血を絶やす事を避けようとしたんだ。何しろ彼が居なければ、今のセレジストはないからね。それにシュナイダーは弟、ロドリゲスに良く似ていた。だからロイドを病死として発表したんだよ。シュナイダーを守るためにね」
「シュナイダーは犯罪者の息子だった。だから彼は未だ皇太子の座に着いていないんですね?」
「いや、それもあるだろうが、1番の理由は、彼は似すぎているんだよ。ロドリゲスに…全てがね。彼はね、目の前の問題を武力で解決しようとする所があるんだ」
伯父のその話を聞いて、俺は前世を思い出さずにはいられなかった。
城を包囲されたあの日の事を…。
「セレジストは今や大陸の盟主だ。攻められればどの国も一溜まりもないだろう。
それが分かっているからこそシナール陛下は話し合いでの解決を目指す。根気よくね。2人の考え方は水と油だ。だから陛下は彼に皇位を譲るのを躊躇っているんだと思うよ」
だが前世、リアーナ様とディアーナが亡くなった事により彼が皇太子になった。
嫌な予感がした。
俺はシュナイダーの動向を探り始めた…。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーー
次回からまたディアーナ視点です。
俺は伯父の言葉を訝しむ。俺の知るシュナイダーは、勉強熱心で、優秀な男だ。
「納得のいかない顔をしているね? それで良いんだよ。ただ私がそう感じるだけだ。だが、今の君は私が何を言っても友人である彼を信じるだろう? 君が誰を信じ、誰を信じないかは君が判断する問題だ。だが、私は今、君に問題を提起したよ? その後は君自身が間違えない様にその目で見て、調べて判断しなさい。君は将来、我々の王となるべき存在なのだから」
伯父が帰った後も、俺の頭の中には伯父の言葉がずっと残っていた。
商売で他国を飛び回っている伯父は、俺の知らない何かを知っているのだろうか?
沢山の事を学んで沢山の物を見てほしい。そうすれば何かに気付く。これは俺がディアーナとの手紙で彼女に送った言葉だ。
「よし! 一度調べてみるか」
俺は1人でごちた。
幸い俺は今、セレジストにいる。彼の事を調べるのは難しい事ではないだろう。
翌日から俺はシュナイダーについて調べ始めた。
その結果、今セレジストの皇位継承権を持つ人物が3人しかいない事を知る。
彼シュナイダー、リアーナ様、そして、彼女の産んだ娘、ディアーナ。
駆け落ちして伯爵夫人になったリアーナ様の継承権は、何故か未だ剥奪されていなかった。
リアーナ様、ディアーナ…。
前世、亡くなった2人だ。2人が死んだ事により残ったのはシュナイダーたった1人。どうにも気になった。
更に詳しく調べる。
すると、シュナイダーはシナール陛下の本当の孫ではない事が分かった。
彼の祖父はシナール陛下の弟だった。名前はロドリゲス。王弟として戦の指揮を取り、軍神と国民から崇められた男だ。彼の活躍で帝国は戦に勝利し続け、力を得た。だがロドリゲスは戦場で負った傷が原因で亡くなってしまう。
彼の死に責任を感じたシナール陛下は、まだ幼かった彼の息子ロイドを引き取って育てた。それがシュナイダーの父親だった。
つまり、シナール様の正統な子では無いロイドも、その息子シュナイダーも、王族ではあるものの、皇帝の実子であるリアーナ様やその妹ミンティア様に比べると皇位継承順位は低い。
だが、ミンティア様が数年前事故で亡くなり、ロイドもそれから数ヶ月後に病で亡くなった。何とも奇妙だ。
これで残ったのは駆け落ちして国を離れたリアーナ様のみ。そのリアーナ様は異国の伯爵夫人だ。本来ならシュナイダーは既に立太子していてもおかしくはないはず。現にリアーナ様は、学院に入学される前に王太女になられたと聞いている。
「これは、どう言うことだ…。まさか…」
シナール陛下は何らかの理由で、彼が皇太子になる事を認めていないのでは無いか?
だからリアーナ様の継承権が失われていない…?リアーナ様が継承権を持っていればそれは当然、彼女の産んだ子にも引き継がれる。
前世、彼が皇太子になれたのは他に継ぐべき者が誰もいなくなったから…?
そんな疑惑が頭をよぎった。
理由が知りたかった。
だが、他国の皇位継承に纏わる話は国の最も秘匿とする部分だ。ましてや曰く付きならば尚更。俺は考え抜いた挙句、この問題を提起した伯父に手紙を書いた。
一言、『真相を知りたい』と。
数日後、伯父から手紙が来た。其処には日にちと場所が書いてあった。
俺は手紙に書かれた通り、その日にその場所へと向かった。どうやら其処は伯父の取引先の商会の様で、入り口で名前を告げると奥の部屋へと通された。
暫く部屋で待っているとノックの音がして伯父が部屋へと入ってきた。
俺は立ち上がって頭を下げる。
「わざわざセレジストまで来ていただき申し訳ありません」
「いや、こちらも仕事のついでだ。構わないよ。こちらこそ呼び出して悪かったね。話が話だけに誰かに聞かれたらまずいと思ってね。それで…何か分かったから手紙をくれたんだろ?」
俺は自分が調べて不思議に思った事を伯父に話した。
「ミンティア様が亡くなって、数ヶ月後にロイド様が亡くなった。どう考えても変だと思うんです。其処に何かがある様なそんな気がする」
「ああ、良く気が付いたね。ミンティア様を事故に見せかけて殺したのはロイドだよ」
伯父は事も無げに語った。その内容に俺は驚く。
「どうした? 皇位継承での殺し合いなんて何処の国でも一度や二度はあるよ。私達商人にとっては然程珍しい話でもないがね。だがシナール陛下は、娘2人を溺愛していたからね。ミンティア様の死が受け入れられず徹底的に調べ尽くし、犯人がロイドだと突き止めたんだ」
なる程、そう言う事か…。ロイドはシナール陛下に消されたんだ。
「分かった様だね。本来ならこう言う時は連座制だ。一族全て罰を負う。だが、シナール陛下は国の英雄ロドリゲスの血を絶やす事を避けようとしたんだ。何しろ彼が居なければ、今のセレジストはないからね。それにシュナイダーは弟、ロドリゲスに良く似ていた。だからロイドを病死として発表したんだよ。シュナイダーを守るためにね」
「シュナイダーは犯罪者の息子だった。だから彼は未だ皇太子の座に着いていないんですね?」
「いや、それもあるだろうが、1番の理由は、彼は似すぎているんだよ。ロドリゲスに…全てがね。彼はね、目の前の問題を武力で解決しようとする所があるんだ」
伯父のその話を聞いて、俺は前世を思い出さずにはいられなかった。
城を包囲されたあの日の事を…。
「セレジストは今や大陸の盟主だ。攻められればどの国も一溜まりもないだろう。
それが分かっているからこそシナール陛下は話し合いでの解決を目指す。根気よくね。2人の考え方は水と油だ。だから陛下は彼に皇位を譲るのを躊躇っているんだと思うよ」
だが前世、リアーナ様とディアーナが亡くなった事により彼が皇太子になった。
嫌な予感がした。
俺はシュナイダーの動向を探り始めた…。
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次回からまたディアーナ視点です。
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