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「…それは…お母様を裏切っていた…と言う事でしょうか?」
私は怒りに震える声で父に問う。
だが、私のこの問いに先に答えたのはバーバラだった。
「まぁ…。裏切っただなんて酷いわ~」
彼女は歪な笑みを浮かべると、私に見せつける様に父にしなだれかかった。
態と語尾を伸ばす媚びる様な下品な話し方。母とは大違いだ。
大国の皇女として育った母は、例え病の床にあったとしても、凛とした気高さがあった。
…こんな品性の欠片も感じられない人に父が惹かれるなんて…。私には信じられない。
「貴方には聞いていません! 私は父と話をしているんです!」
私は彼女を睨みつけた。
「まぁ、こわ~い。 この子、私を睨みつけたわ。ねぇ、ジーク。何とかしてよ!」
バーバラは隣に立つ父に抱きついて甘えた声で訴えかけた。
その態度に虫唾が走る。何が今日からお前の母親だ!こんな人を母だなんて呼べる訳が無い!私は更に冷たい目で彼女を射抜いた。
そんな私を彼女の隣で見ていた父は、呆れた様にため息を吐くと、やっと私に向かって口を開いた。
「バーバラとエクメットの事はリアーナも知っていた」
「……っ!」
父の言葉に私は絶句した。
知っていた…? 知っていたの…?だとしたら母は一体どんな気持ちだったのだろう…。
自分が必死に病と闘っている間、全てを捨てて愛したはずの人は他の女性と不貞を働いて子まで作った。きっと絶望したに違いない。
私はテレサが父に言った最後の言葉を思い出していた。
『元よりこの屋敷に、私のいる場所など無くなるのでしょう…』
この言葉の意味がやっと分かった。母は父の不貞を知っていた。だからテレサは父にあんな態度を取ったんだ。母の側にずっと仕えていたテレサは、誰よりも母の気持ちを知っていたから。
『リアーナ様の手紙は本当にシナール様に届いていたんでしょうか?』
テレサは父に疑問を呈していた。そしてあの時、父は明らかに動揺していた。
自分が全てを捨てて愛した人は、自分を裏切った。もし絶望した母が祖父に助けを求めたのだとしたら…。祖父は帝国の皇帝…。こんな小国の伯爵家一つ潰すくらい簡単な事だろう…。父はそれを恐れて母の手紙を握り潰した…?
真実は分からない。でもテレサはきっとそう考えたんだ。
「あら。こうなったのも全部貴方のせいよ。 貴方が王太子との結婚を望んだから、私が貴方に代わるこの家の後継ぎを産んであげたんじゃない!! 感謝して欲しいくらいだわ!」
彼女は悪びれる様子もなく、反対に私を責めた。
「…私の…せい…? 私が殿下との婚約を望んだから…?」
初めての顔合わせの日、陛下は確かに殿下に向かって言ったわ…。今日からこのディアーナがお前の婚約者だと。あれは決まっていた事ではなかったの……?
そう言えば最後に陛下が確認した。
『ザイティガとの婚約を受けてくれるね?』と…。
私は笑顔で『はい』って答えた。答えたんだ。
「だから…お父様はこの人と…不貞を働いたの? 」
私が問いかけるとお父様は表情を固くして私に怒鳴った。
「ディアーナ、辞めなさい! 不貞だの何だの! ここにはまだ小さいエクメットもいるんだぞ! だいたい母になる人に対してその態度はなんだ!」
「お父様は私より、その子の方が大切なの? もしかして…お母様よりもこの人の方が大切だった? 」
私は答えを告げない父に更に問いかける。祈る様な気持ちだった。否定して…。お願い…。気がつけば目から涙が溢れていた。そんな私を見て父は狼狽えた様に視線を彷徨わせる。
父は最後まで答えなかった。私は父に失望を感じた。
「テレサが言っていたわ! お父様がお母様の手紙を態と届かない様にしたんじゃ無いかって…。彼女はそれ以上は言わなかったけれど、この状況をお爺様に知られたく無かったんじゃないの!? 」
「それは…」
父は言い淀んだ。それが答えだ。もう自分が止められなかった。
「だったら、テレサがお爺様の元へ行くのを何としても止めたかったんじゃないの? テレサが亡くなった時のあの冷たい態度…。もしかしてお父様がテレサを…っ!!」
私が最後まで言い切る前に父の手が私の頬を打った。
「まだ小さいエクメットの前で止めろと何度言えば分かる!? それにお前は自分の父親が犯罪を犯したと言いたいのか!?」
父に暴力を振るわれたのは初めての事だった。仁王立ちになり、私を睨みつける父はもう、以前の優しかった父では無い。私は父に打たれた頬に手を当てながら、父の目を真っ直ぐに見て問い返した。
「違うの?」と。
そんな私達を見てバーバラが父の横で薄く笑う。何故この状況で笑えるの?
「貴方ねぇ!」
私はカッとなって、気がつけば彼女に掴み掛かろうとしていた。
父は彼女を守ろうと、私を力一杯跳ね退けた。その反動で私の体が床に打ち付けられる。
「エクメットを見てみろ! 怯えているじゃ無いか!!」
父の言う様にまだ幼いエクメットは震えていた。でも、私の怒りは収まらない…。
「そう…?やっぱりお父様は私よりその子の方が大切なのね? もしかしてお母様の事もお父様が……」
毒を盛って…殺した…?だって父はずっと自らの手で母に薬を飲ませていた。私が言っても主治医以外の医師に母を診せようとはしなかった。
自分の頭の中に父への疑惑が次々に湧いてくる。
私は咄嗟に頭に浮かんだ疑惑を飲み込んだ。だが、父には私が何を言おうとしたのか分かったのだろう。顔を真っ赤にして激昂した。
「出ていけ!! お前などもう私の娘では無い!!」
父が言い放つ。売り言葉に買い言葉だ。
「分かったわ! どうせ私にもこの屋敷に居場所なんてもう無いんでしょ!?」
私は父とバーバラを睨みつけると立ち上がり、そのまま執務室を後にした。
私は怒りに震える声で父に問う。
だが、私のこの問いに先に答えたのはバーバラだった。
「まぁ…。裏切っただなんて酷いわ~」
彼女は歪な笑みを浮かべると、私に見せつける様に父にしなだれかかった。
態と語尾を伸ばす媚びる様な下品な話し方。母とは大違いだ。
大国の皇女として育った母は、例え病の床にあったとしても、凛とした気高さがあった。
…こんな品性の欠片も感じられない人に父が惹かれるなんて…。私には信じられない。
「貴方には聞いていません! 私は父と話をしているんです!」
私は彼女を睨みつけた。
「まぁ、こわ~い。 この子、私を睨みつけたわ。ねぇ、ジーク。何とかしてよ!」
バーバラは隣に立つ父に抱きついて甘えた声で訴えかけた。
その態度に虫唾が走る。何が今日からお前の母親だ!こんな人を母だなんて呼べる訳が無い!私は更に冷たい目で彼女を射抜いた。
そんな私を彼女の隣で見ていた父は、呆れた様にため息を吐くと、やっと私に向かって口を開いた。
「バーバラとエクメットの事はリアーナも知っていた」
「……っ!」
父の言葉に私は絶句した。
知っていた…? 知っていたの…?だとしたら母は一体どんな気持ちだったのだろう…。
自分が必死に病と闘っている間、全てを捨てて愛したはずの人は他の女性と不貞を働いて子まで作った。きっと絶望したに違いない。
私はテレサが父に言った最後の言葉を思い出していた。
『元よりこの屋敷に、私のいる場所など無くなるのでしょう…』
この言葉の意味がやっと分かった。母は父の不貞を知っていた。だからテレサは父にあんな態度を取ったんだ。母の側にずっと仕えていたテレサは、誰よりも母の気持ちを知っていたから。
『リアーナ様の手紙は本当にシナール様に届いていたんでしょうか?』
テレサは父に疑問を呈していた。そしてあの時、父は明らかに動揺していた。
自分が全てを捨てて愛した人は、自分を裏切った。もし絶望した母が祖父に助けを求めたのだとしたら…。祖父は帝国の皇帝…。こんな小国の伯爵家一つ潰すくらい簡単な事だろう…。父はそれを恐れて母の手紙を握り潰した…?
真実は分からない。でもテレサはきっとそう考えたんだ。
「あら。こうなったのも全部貴方のせいよ。 貴方が王太子との結婚を望んだから、私が貴方に代わるこの家の後継ぎを産んであげたんじゃない!! 感謝して欲しいくらいだわ!」
彼女は悪びれる様子もなく、反対に私を責めた。
「…私の…せい…? 私が殿下との婚約を望んだから…?」
初めての顔合わせの日、陛下は確かに殿下に向かって言ったわ…。今日からこのディアーナがお前の婚約者だと。あれは決まっていた事ではなかったの……?
そう言えば最後に陛下が確認した。
『ザイティガとの婚約を受けてくれるね?』と…。
私は笑顔で『はい』って答えた。答えたんだ。
「だから…お父様はこの人と…不貞を働いたの? 」
私が問いかけるとお父様は表情を固くして私に怒鳴った。
「ディアーナ、辞めなさい! 不貞だの何だの! ここにはまだ小さいエクメットもいるんだぞ! だいたい母になる人に対してその態度はなんだ!」
「お父様は私より、その子の方が大切なの? もしかして…お母様よりもこの人の方が大切だった? 」
私は答えを告げない父に更に問いかける。祈る様な気持ちだった。否定して…。お願い…。気がつけば目から涙が溢れていた。そんな私を見て父は狼狽えた様に視線を彷徨わせる。
父は最後まで答えなかった。私は父に失望を感じた。
「テレサが言っていたわ! お父様がお母様の手紙を態と届かない様にしたんじゃ無いかって…。彼女はそれ以上は言わなかったけれど、この状況をお爺様に知られたく無かったんじゃないの!? 」
「それは…」
父は言い淀んだ。それが答えだ。もう自分が止められなかった。
「だったら、テレサがお爺様の元へ行くのを何としても止めたかったんじゃないの? テレサが亡くなった時のあの冷たい態度…。もしかしてお父様がテレサを…っ!!」
私が最後まで言い切る前に父の手が私の頬を打った。
「まだ小さいエクメットの前で止めろと何度言えば分かる!? それにお前は自分の父親が犯罪を犯したと言いたいのか!?」
父に暴力を振るわれたのは初めての事だった。仁王立ちになり、私を睨みつける父はもう、以前の優しかった父では無い。私は父に打たれた頬に手を当てながら、父の目を真っ直ぐに見て問い返した。
「違うの?」と。
そんな私達を見てバーバラが父の横で薄く笑う。何故この状況で笑えるの?
「貴方ねぇ!」
私はカッとなって、気がつけば彼女に掴み掛かろうとしていた。
父は彼女を守ろうと、私を力一杯跳ね退けた。その反動で私の体が床に打ち付けられる。
「エクメットを見てみろ! 怯えているじゃ無いか!!」
父の言う様にまだ幼いエクメットは震えていた。でも、私の怒りは収まらない…。
「そう…?やっぱりお父様は私よりその子の方が大切なのね? もしかしてお母様の事もお父様が……」
毒を盛って…殺した…?だって父はずっと自らの手で母に薬を飲ませていた。私が言っても主治医以外の医師に母を診せようとはしなかった。
自分の頭の中に父への疑惑が次々に湧いてくる。
私は咄嗟に頭に浮かんだ疑惑を飲み込んだ。だが、父には私が何を言おうとしたのか分かったのだろう。顔を真っ赤にして激昂した。
「出ていけ!! お前などもう私の娘では無い!!」
父が言い放つ。売り言葉に買い言葉だ。
「分かったわ! どうせ私にもこの屋敷に居場所なんてもう無いんでしょ!?」
私は父とバーバラを睨みつけると立ち上がり、そのまま執務室を後にした。
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