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母の葬儀が終わってから暫く、私は何も手に付かなかった。母にもっと何かしてあげられる事があったのでは無いか……と、そんな事ばかり考えてしまうのだ。
父も同じ気持ちなのか、暫くは考え込む日が続いていた。
そんな時、偶々廊下を歩いていると父の書斎の扉が開いていて、中から父とテレサが激しく言い争っている声が聞こえた。
どうしたんだろう…。私は扉の影からそっと中の様子を伺った。
「何故ですか!? 何故シナール様にお知らせしないのです。どんな事情があったにせよ、シナール様はリアーナ様の父親ですよ? 」
テレサが父に詰め寄っていた。おそらく母の死をセレジストに知らせるか否かで揉めているのだろう。だが父は珍しく激昂していた。
「シナールはずっとリアーナを無視し続けていたではないか? 病で気弱になったリアーナが何度会いたいと文を出しても、会えるどころか返事すら返って来なかったではないか! そんな人間が父なのか!?」
普段温和な父がここまで怒るのは珍しい。
「それでもっ…それでも父親が娘の死を知らないなんて、幾ら考えても余りにも理不尽です!! 旦那様がお知らせしないのならば、私がセレジストに向かいシナール様にお伝えしてまいります!」
テレサも怯む事無く父に言い返す。
「……ああ! 分かった! そこまで言うなら好きにするが良い。但しもう二度と戻って来なくて良いからな! 私に逆らう人間など我が家には必要ない!!」
父がテレサに言い放つ。
止めなければ…。このままでは本当にテレサが出て行ってしまう…。
私が一歩足を踏み出そうとした時だ。テレサが不穏な事を口にした。
「ええ、出て行かせて頂きますわ! リアーナ様が亡くなったのですもの。元よりこの屋敷に、私の居場所など無くなるのでしょう? それに…ねぇ、旦那様。リアーナ様の手紙は本当にシナール様に届いていたのでしょうか?」
「……っ!」
テレサのこの問いに父は絶句した。
そんな父を見てテレサは不敵な笑みを浮かべた。
テレサが部屋を出ようとした時、私は咄嗟に側にあった柱の影に身を隠した。
父は明らかに動揺していた。
まさか……。父が母の手紙をお爺様に届かない様にしていたの…?
テレサの言い方はまるでそう言っている様だった。
でも、そんなこと…。
もしそうだとしたら一体どうして…?
私は疑問に思ったが、それよりも先にテレサを止めなければ…。
そう考えた私はテレサの部屋に向かった。
だが、テレサは未だ部屋には戻ってはいなかった。
アンナ…。彼女はテレサの娘だ。テレサが出て行くのならアンナはどうするのだろう…。
私は次にアンナの部屋に向かった。もしテレサが本当に屋敷を出ようと考えているのならば、アンナに意思を確認するはずだ。
貴方はどうするのか……と。
案の定、アンナの部屋からテレサの声が聞こえる。
私は扉をノックするとアンナの部屋に入った。
「テレサ、屋敷を出て行くって本気なの? 貴方は病弱だったお母様に代わってずっと私の世話をしてくれた。私にとってとても大切な人なの…。お願い…考え直して…」
私はテレサに懇願した。
するとテレサは困った様に一つ息を吐いた。
「先程の旦那様との会話をお聞きになったのですね?」
テレサの問いに私は頷いた。
「お嬢様…。私はセレジストの人間です。そしてシナール陛下がどの様な人物か良く知っているのです。リアーナ様が王宮を出られる前、陛下はそれはそれはリアーナ様を可愛がっておられました。それに陛下は立派なお方です。私にはどんな事情があったとしても、陛下が病気のリアーナ様を見放すなんて考えられないのです。ですから、長い間リアーナ様にお仕えした者として、私は陛下に真実を確かめに行きたいのです」
「お父様がお母様の手紙を態とお爺様に届けなかったとテレサは考えているのね?」
「分かりません。ですが、もし手紙が何らかの理由で陛下の元に届かなかったのだとしたら、それが出来るのは旦那様以外考えられないのです。」
テレサは決意の籠った瞳で私を見た。
その瞳を見た私は、テレサの決心が覆る事はないのだと悟った。
「分かったわ。私も真実が知りたい…。ではせめて、セレジストまで護衛をつけさせて。女性の旅は危険だわ」
「いいえ、お嬢様。私は今、お嬢様以外のこの伯爵家の人間が信用出来ないのです。護衛は私が個人的にきちんと雇います。ですからお嬢様は心配なさらないで下さい」
「本当ね? 必ずよ? 約束してね」
私は何度も確認した。
「ええ、約束します。それよりお嬢様、アンナはやはりこちらに残りたいと申しております。お嬢様のお側を離れたくないそうです。アンナの事をお願いできますか?」
「もちろんよ! アンナの事は私に任せて」
私はそう言ってテレサを安心させようと、態と大袈裟に胸を張った。
まさか、それがテレサとの最後の会話になるなんて、私もアンナも思っても居なかった。彼女はきちんと護衛を雇うと言っていたのだ。
それなのに……。
それから2日後、街の郊外でテレサの遺体が見つかったと、衛兵隊から連絡が入った……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
申し訳ございません🙇🙇(先に謝るタイプです。)
1話2話の帝国の名前が、エンレストになっていました。正しくはセレジストが正解です。全て訂正したつもりですが、訂正忘れありましたらお許し下さい。
まるまる
父も同じ気持ちなのか、暫くは考え込む日が続いていた。
そんな時、偶々廊下を歩いていると父の書斎の扉が開いていて、中から父とテレサが激しく言い争っている声が聞こえた。
どうしたんだろう…。私は扉の影からそっと中の様子を伺った。
「何故ですか!? 何故シナール様にお知らせしないのです。どんな事情があったにせよ、シナール様はリアーナ様の父親ですよ? 」
テレサが父に詰め寄っていた。おそらく母の死をセレジストに知らせるか否かで揉めているのだろう。だが父は珍しく激昂していた。
「シナールはずっとリアーナを無視し続けていたではないか? 病で気弱になったリアーナが何度会いたいと文を出しても、会えるどころか返事すら返って来なかったではないか! そんな人間が父なのか!?」
普段温和な父がここまで怒るのは珍しい。
「それでもっ…それでも父親が娘の死を知らないなんて、幾ら考えても余りにも理不尽です!! 旦那様がお知らせしないのならば、私がセレジストに向かいシナール様にお伝えしてまいります!」
テレサも怯む事無く父に言い返す。
「……ああ! 分かった! そこまで言うなら好きにするが良い。但しもう二度と戻って来なくて良いからな! 私に逆らう人間など我が家には必要ない!!」
父がテレサに言い放つ。
止めなければ…。このままでは本当にテレサが出て行ってしまう…。
私が一歩足を踏み出そうとした時だ。テレサが不穏な事を口にした。
「ええ、出て行かせて頂きますわ! リアーナ様が亡くなったのですもの。元よりこの屋敷に、私の居場所など無くなるのでしょう? それに…ねぇ、旦那様。リアーナ様の手紙は本当にシナール様に届いていたのでしょうか?」
「……っ!」
テレサのこの問いに父は絶句した。
そんな父を見てテレサは不敵な笑みを浮かべた。
テレサが部屋を出ようとした時、私は咄嗟に側にあった柱の影に身を隠した。
父は明らかに動揺していた。
まさか……。父が母の手紙をお爺様に届かない様にしていたの…?
テレサの言い方はまるでそう言っている様だった。
でも、そんなこと…。
もしそうだとしたら一体どうして…?
私は疑問に思ったが、それよりも先にテレサを止めなければ…。
そう考えた私はテレサの部屋に向かった。
だが、テレサは未だ部屋には戻ってはいなかった。
アンナ…。彼女はテレサの娘だ。テレサが出て行くのならアンナはどうするのだろう…。
私は次にアンナの部屋に向かった。もしテレサが本当に屋敷を出ようと考えているのならば、アンナに意思を確認するはずだ。
貴方はどうするのか……と。
案の定、アンナの部屋からテレサの声が聞こえる。
私は扉をノックするとアンナの部屋に入った。
「テレサ、屋敷を出て行くって本気なの? 貴方は病弱だったお母様に代わってずっと私の世話をしてくれた。私にとってとても大切な人なの…。お願い…考え直して…」
私はテレサに懇願した。
するとテレサは困った様に一つ息を吐いた。
「先程の旦那様との会話をお聞きになったのですね?」
テレサの問いに私は頷いた。
「お嬢様…。私はセレジストの人間です。そしてシナール陛下がどの様な人物か良く知っているのです。リアーナ様が王宮を出られる前、陛下はそれはそれはリアーナ様を可愛がっておられました。それに陛下は立派なお方です。私にはどんな事情があったとしても、陛下が病気のリアーナ様を見放すなんて考えられないのです。ですから、長い間リアーナ様にお仕えした者として、私は陛下に真実を確かめに行きたいのです」
「お父様がお母様の手紙を態とお爺様に届けなかったとテレサは考えているのね?」
「分かりません。ですが、もし手紙が何らかの理由で陛下の元に届かなかったのだとしたら、それが出来るのは旦那様以外考えられないのです。」
テレサは決意の籠った瞳で私を見た。
その瞳を見た私は、テレサの決心が覆る事はないのだと悟った。
「分かったわ。私も真実が知りたい…。ではせめて、セレジストまで護衛をつけさせて。女性の旅は危険だわ」
「いいえ、お嬢様。私は今、お嬢様以外のこの伯爵家の人間が信用出来ないのです。護衛は私が個人的にきちんと雇います。ですからお嬢様は心配なさらないで下さい」
「本当ね? 必ずよ? 約束してね」
私は何度も確認した。
「ええ、約束します。それよりお嬢様、アンナはやはりこちらに残りたいと申しております。お嬢様のお側を離れたくないそうです。アンナの事をお願いできますか?」
「もちろんよ! アンナの事は私に任せて」
私はそう言ってテレサを安心させようと、態と大袈裟に胸を張った。
まさか、それがテレサとの最後の会話になるなんて、私もアンナも思っても居なかった。彼女はきちんと護衛を雇うと言っていたのだ。
それなのに……。
それから2日後、街の郊外でテレサの遺体が見つかったと、衛兵隊から連絡が入った……。
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申し訳ございません🙇🙇(先に謝るタイプです。)
1話2話の帝国の名前が、エンレストになっていました。正しくはセレジストが正解です。全て訂正したつもりですが、訂正忘れありましたらお許し下さい。
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