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殿下の帰国後、殿下と私の婚姻式が3年後、殿下が成人として認められる20歳になられるのを待って取り行うと、王家が正式に声明を出した。
そして婚姻式までの3年間、私と殿下は親睦を深める為に月に一度、婚約者の義務として茶会を開く事が陛下の提言で決定された。
それは、殿下の留学によってずっと会う事が叶わなかった私達への陛下なりの配慮だったのだろう。
その後、初めて催された茶会の場所もまた今日と同じ庭園内のガゼボだった。
殿下はこの日、初めて出会ったあの日と同じ様に先に来て私を待って下さっていた。
約束の時間より随分早く来たつもりだった私は、驚いて慌ててカーテシーをした。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。ご無沙汰致しております。ディアーナでございます」
だが次の瞬間、殿下の放った言葉に私は一瞬耳を疑った。
「たかだか伯爵令嬢の分際で俺を待たせるとはいい度胸だな! お前、一体何様のつもりだ? あぁ、そうだった…。お前は大国セレジスト皇帝の孫娘だったな。そうか、青い血の流れた高貴な令嬢は、政略で婚約したこんな小国の王太子との約束など忘れていたのだろう!?」
「……っ!」
いきなり殿下に口汚く罵られた私は言葉を失った。まさか、殿下がこんな事をおっしゃるなんて…。すると殿下は次の瞬間、嘲る様に歪んだ笑みを浮かべた。
「はは…。俺なんぞにはまともな返事も出来ないか!? …ったく…父上にも困ったものだ。幾ら婚約者だからと言って、何が楽しくてこんな傲慢な女と毎月茶を飲まなければならないんだ!」
傲慢な女……。殿下は私の事をそんな風に思っていたの…?
殿下から一方的に罵声を浴びせられた私は、信じられない気持ちで一杯だった。確かに私が殿下にお会いするのはまだ二度目だ。でも、手紙のやり取りを通して、心は通い合っていると信じていた。私は余りの事に驚いて殿下を見つめた。だがそれすらも殿下の気に触った様だ。
「何だ、その目は? もういい! 気分が悪くなった!!」
私に向かってそう怒鳴りつけた殿下は、さっさと席を立ち怒りの表情を浮かべながら立ち去った。
一体何が起こったのだろう…。私は暫くの間茫然とその場に立ち尽くした。
「……私、時間を間違えてしまったのかしら…。」
私は戸惑いながらアンナに尋ねた。
「いいえ。間違いございません。何度も確認致しましたから…。今の時間でさえ、まだお約束のお時間前でございます」
アンナもまた戸惑いながら答えた。
「そう…よね?」
やっと殿下にお会い出来る!私は、何度も何度も日時を確認した。毎日お会い出来る日を指折り数えて待っていた。間違えるはずなんて無い…。だから今日は朝からうきうきして、王宮に着いた時は、「早く来すぎたかしら?」とアンナと笑い合っていた程だ。
なのに何故……。
私の一体何が、あれ程迄に殿下のお気に触れたのだろうか…?
「お嬢様、今日はもう屋敷に帰りましょう。殿下のあのご様子では、この後、殿下がこちらに戻られる事は無いと思います。ここは人目につきます。お嬢様の外聞に関わります。」
アンナに諭され周りを見渡すと、殿下が怒鳴り声をあげたからか、あちこちから視線を感じる。今直ぐに屋敷に戻ったとしても、私と殿下が仲違いした事は明日には王宮中に知れ渡るだろう…。
私の何がいけなかったの…?
私は居た堪れない思いを胸に屋敷に戻った。
そう言えば、この時も帰りの馬車の中、アンナは今日と同じようにプリプリ怒りながら慰めてくれたっけ…。
「お嬢様! お嬢様は何も悪くありませんからね。お嬢様が気になさる必要なんて無いんです! きっと殿下は時間を勘違いされていたんですよ。そうで無いのなら、あんなの只の言いがかりです!」
そう言って涙を流す私の肩をずっと抱きしめてくれていた。
その後屋敷に戻った私は、兎に角殿下の怒りを鎮めなければと思いペンを取った。
『折角お忙しい中お時間を作って頂きながら、殿下をお待たせする事になり申し訳ございません…』
だがこの手紙が殿下の免罪符となってしまう。この一件が私の有責にされてしまったのだ。
「お前はどうせ遅れてくるんだろう? なら俺が時間通りに来る必要はないな!」
二度目の茶会でそう言い放つと、その後決められた時間に殿下が茶会に来られる事は一度も無かった。
それどころか、どんどん来て頂ける時間は遅くなり、とうとう姿を現して下さる事さえ無くなった。
時を同じくして、殿下と数々の令嬢との逢瀬の噂が耳に届く様になった。
そしてやはり今日も殿下は来て頂け無かった。やっぱりアンナが言う様に婚約を解消して頂いた方が良いのかしら…。これだけ殿下に疎まれているんですもの。もしかしたら私が思うよりもずっと、簡単に婚約が解消出来るかも知れない…。
そう思いながらも愚かな私は諦める事が出来ないでいる。初めてお会いした日の殿下のあの笑顔…。それをいつか再び、私に向けてくださる日が訪れるのではないかと期待してしまうのだ。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
私の拙い小説を読んで頂きありがとうございます🙇
皆様のおかげで、ホットランキングに選んで頂く事が出来ました。
さて、小説はまだまだ序盤で、ヒロインにとって知っている事の部分です。これからヒロインにとって、そしてヒーローにとって少しずつ知らなかった事が出てきます。その部分が上手く表現出来ると良いのですが…。
もしよろしければ引き続きお付き合い頂ければ嬉しいです。
まるまる
そして婚姻式までの3年間、私と殿下は親睦を深める為に月に一度、婚約者の義務として茶会を開く事が陛下の提言で決定された。
それは、殿下の留学によってずっと会う事が叶わなかった私達への陛下なりの配慮だったのだろう。
その後、初めて催された茶会の場所もまた今日と同じ庭園内のガゼボだった。
殿下はこの日、初めて出会ったあの日と同じ様に先に来て私を待って下さっていた。
約束の時間より随分早く来たつもりだった私は、驚いて慌ててカーテシーをした。
「お待たせしてしまい申し訳ございません。ご無沙汰致しております。ディアーナでございます」
だが次の瞬間、殿下の放った言葉に私は一瞬耳を疑った。
「たかだか伯爵令嬢の分際で俺を待たせるとはいい度胸だな! お前、一体何様のつもりだ? あぁ、そうだった…。お前は大国セレジスト皇帝の孫娘だったな。そうか、青い血の流れた高貴な令嬢は、政略で婚約したこんな小国の王太子との約束など忘れていたのだろう!?」
「……っ!」
いきなり殿下に口汚く罵られた私は言葉を失った。まさか、殿下がこんな事をおっしゃるなんて…。すると殿下は次の瞬間、嘲る様に歪んだ笑みを浮かべた。
「はは…。俺なんぞにはまともな返事も出来ないか!? …ったく…父上にも困ったものだ。幾ら婚約者だからと言って、何が楽しくてこんな傲慢な女と毎月茶を飲まなければならないんだ!」
傲慢な女……。殿下は私の事をそんな風に思っていたの…?
殿下から一方的に罵声を浴びせられた私は、信じられない気持ちで一杯だった。確かに私が殿下にお会いするのはまだ二度目だ。でも、手紙のやり取りを通して、心は通い合っていると信じていた。私は余りの事に驚いて殿下を見つめた。だがそれすらも殿下の気に触った様だ。
「何だ、その目は? もういい! 気分が悪くなった!!」
私に向かってそう怒鳴りつけた殿下は、さっさと席を立ち怒りの表情を浮かべながら立ち去った。
一体何が起こったのだろう…。私は暫くの間茫然とその場に立ち尽くした。
「……私、時間を間違えてしまったのかしら…。」
私は戸惑いながらアンナに尋ねた。
「いいえ。間違いございません。何度も確認致しましたから…。今の時間でさえ、まだお約束のお時間前でございます」
アンナもまた戸惑いながら答えた。
「そう…よね?」
やっと殿下にお会い出来る!私は、何度も何度も日時を確認した。毎日お会い出来る日を指折り数えて待っていた。間違えるはずなんて無い…。だから今日は朝からうきうきして、王宮に着いた時は、「早く来すぎたかしら?」とアンナと笑い合っていた程だ。
なのに何故……。
私の一体何が、あれ程迄に殿下のお気に触れたのだろうか…?
「お嬢様、今日はもう屋敷に帰りましょう。殿下のあのご様子では、この後、殿下がこちらに戻られる事は無いと思います。ここは人目につきます。お嬢様の外聞に関わります。」
アンナに諭され周りを見渡すと、殿下が怒鳴り声をあげたからか、あちこちから視線を感じる。今直ぐに屋敷に戻ったとしても、私と殿下が仲違いした事は明日には王宮中に知れ渡るだろう…。
私の何がいけなかったの…?
私は居た堪れない思いを胸に屋敷に戻った。
そう言えば、この時も帰りの馬車の中、アンナは今日と同じようにプリプリ怒りながら慰めてくれたっけ…。
「お嬢様! お嬢様は何も悪くありませんからね。お嬢様が気になさる必要なんて無いんです! きっと殿下は時間を勘違いされていたんですよ。そうで無いのなら、あんなの只の言いがかりです!」
そう言って涙を流す私の肩をずっと抱きしめてくれていた。
その後屋敷に戻った私は、兎に角殿下の怒りを鎮めなければと思いペンを取った。
『折角お忙しい中お時間を作って頂きながら、殿下をお待たせする事になり申し訳ございません…』
だがこの手紙が殿下の免罪符となってしまう。この一件が私の有責にされてしまったのだ。
「お前はどうせ遅れてくるんだろう? なら俺が時間通りに来る必要はないな!」
二度目の茶会でそう言い放つと、その後決められた時間に殿下が茶会に来られる事は一度も無かった。
それどころか、どんどん来て頂ける時間は遅くなり、とうとう姿を現して下さる事さえ無くなった。
時を同じくして、殿下と数々の令嬢との逢瀬の噂が耳に届く様になった。
そしてやはり今日も殿下は来て頂け無かった。やっぱりアンナが言う様に婚約を解消して頂いた方が良いのかしら…。これだけ殿下に疎まれているんですもの。もしかしたら私が思うよりもずっと、簡単に婚約が解消出来るかも知れない…。
そう思いながらも愚かな私は諦める事が出来ないでいる。初めてお会いした日の殿下のあの笑顔…。それをいつか再び、私に向けてくださる日が訪れるのではないかと期待してしまうのだ。
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私の拙い小説を読んで頂きありがとうございます🙇
皆様のおかげで、ホットランキングに選んで頂く事が出来ました。
さて、小説はまだまだ序盤で、ヒロインにとって知っている事の部分です。これからヒロインにとって、そしてヒーローにとって少しずつ知らなかった事が出てきます。その部分が上手く表現出来ると良いのですが…。
もしよろしければ引き続きお付き合い頂ければ嬉しいです。
まるまる
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