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第二十五話 王太子アルベルト 23

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 私とエレネストが聖女宮のエントランスへと差し掛かったとき、顔見知りの1人の神官がそっと声を掛けた。

「殿下、バイゼル様が亡くなってからと言うもの、この聖女宮の雰囲気はガラリと変わってしまいました。サイオス様は聖女様がこの聖女宮の中でさえ自由に過ごされる事を禁じ、聖女様を部屋に閉じ込め、結界を張る事だけを強いておられます。聖女様は怯えておられます。どうか助けてあげて下さい…」

 例えどれ程声を顰めたとしても、私達に話し掛けた事はサイオスの耳にも入るだろう。この神官はきっとこの後、私達に何を話していたのかを詰問され、咎めを受けるのだろう。

 だが彼に逃げ場は無い。聖女宮に一度仕えた神官は、一生外に出る事は許されないのだから…。それを覚悟の上でゆうかの今置かれている状況を教えてくれたのだ。

「分かった…。必ず何とかするから…」

 そう答えるのが精一杯だった。

 帰りの馬車の中、エレネストは深いため息を吐いた。

「かなり深刻な状況だね。父上は今まで以上に聖女を徹底的に管理して、表に情報が一切漏れないようにするつもりだ。逆に言うならそれだけ危機感を感じているんだろう。でも、生きて生活している人間の存在を完璧に隠し通すなんて出来る訳が無い。それをしようとしているんだ。聖女はかなり窮屈な生活を強いられているんだろうね。恐らく、さっきの神官が見過ごせない程に…」

「ああ、分かっている」

 つまりそれは、父上はこの先たとえ何があったとしても、聖女と言う便利な存在に頼り続ける未来を選んだと言う事だ。

 もう真実を隠し続けるのは限界だと諫言したバイゼルを、毒を盛って殺害してまで…。

 だが私達には証拠となる切り札がある。

 バイゼルが最後に私に手渡した資料…。

 父はその存在に気付いてはいないはず…。全てが燃やされて灰になってしまった今、バイゼルが残してくれたあの資料だけが全てを証明する証拠だ。

 最後にバイゼルに会った日、彼は自分はもう、あとどれくらい生きられるか分からないと言った。

 自分の死を悟っていた彼は、自分の死後、父が全ての証拠を消し去ろうとする事が分かっていたのかも知れない。

「エレネスト、私は決めたよ。だからその前にもう一度確認したい。以前お前は私側に付くと言ってくれた。その気持ちは今も変わらないか?」

 私の問いに、エレネストは真っ直ぐに私の目を見て頷いた。

「あの時より、今日はもっとそう思ったよ。これまで命を賭けてこの国を魔物から守ってくれた過去の聖女様達と、その聖女様に仕えた神官達の想いと苦しみを父上は全て灰にしたんだ。聞いていて許せないと思った」

 そう答えたエレネストの顔からは普段の飄々とした雰囲気は消え、その言葉に嘘は無いと感じた。

「どのみちこんな事、いつまでも隠し通せる訳が無い。今回はたまたまパトリシア王女の事があったけど、それ以前にも、何人もの異国の少女が突然、何の前触れもなく失踪しているんだ。どの国も不思議に思っているはずだ。その中の何処かがこの国の聖女の召喚に疑いの目を向けてもおかしくはないよ。もし、そうなって聖女について徹底的に調べられたら…この国はおしまいだ。何処かで歯止めをかけないと…」

「私は予定通り、城に帰ったら父上と話し合いをする事にした。お前が私側に付いてくれるなら、私も心強い」

「うん。まぁ、次の王位継承権を持つ王子2人が聖女と言う存在と決別する事を選んだんだ。流石に父上だって気付くだろ。今、自分がしている事がどれだけ無意味かなんて…」

 そうだ。王位継承権を持つ王子2人が国を本来あるべき姿に戻そうとしている。

 それはつまり、父が国王の座を退けば、今の国の在り方が一新される事を意味する。父が今、どれだけ足掻こうと、私とエレネストが同じ考えを持っている以上、この国はいずれ変わるのだ。

 それを父上に解けば…あるいは…。その意味でもエレネストが私に協力してくれる意義は大きい。

 だが不安は過ぎる。父の今回の行動を見る限り、それでも父は執拗に聖女に拘り続けているのだ。

「そうだと良いんだがな。だがこれだけは先に言っておく。もし父上との話し合いが決裂した場合、私は考えを共有出来る仲間を集め、父上には早急に退位頂く様に動こうと思っている」

「王位の剥奪…」
 
 ヒュっとエレネストが息を吸い込んだのが分かった。

「ああ…。それがどれ程困難な事か分かっているつもりだ。まして、このまま何事も無く過ごしていれば、私達のどちらかはいずれ王位を継ぐだろう。だが私は、ゆうかを最後の聖女にしたいんだ…」













 








 































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