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第3章 遠ざかる2人
17. 天体観測
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ドキドキ
ドキドキ
心臓の音がうるさい。
自室。ベットに座り、携帯を握りしめてその時を待つ。
先輩から、さきほど家を出ると連絡があった。
準備万端に先輩の到着を知らせる着信を待っていた。
ピンポーン
へ?
先輩の到着を知らせたのは、携帯ではなくインターホンであった。
私は慌てて荷物をもって階下へ走る。
「こんばんわー」
玄関先で母と会話を交わす先輩。
「せ、先輩!」
「あ、奈美ちゃん。早かったね」
ニコニコ笑いながら、先輩の視線は母に戻る。
「夜分遅くに申し訳ありません。奈美さんと同じ高校に通う桜木拓磨と申します。ご挨拶もせずに、大事なお嬢さんをこんな時間に連れ出すのは、申し訳が立たないと思いまして。」
先輩は、丁寧に頭を下げて母に紙袋を差し出す。
「いえいえ。お気遣いありがとうございます。」
いつも、奈美がご迷惑をおかけしているようで。
こんな娘ですが、ぜひこれからもよろしくお願いします。
母も先輩に頭を下げる。
奈美、これ持っていきなさい。
母に魔法瓶の水筒を渡される。
「桜木さん。コーヒーは大丈夫かしら?」
「ええ。大好きです。」
爽やかなイケメンスマイルに母は上機嫌だ。
こんなイケメンだなんて聞いてない。母の心の声が、聞こえてきそうだ。
靴を履き、先輩の隣に並ぶ。
「奈美ちゃん、重いでしょ?それ、持つよ」
さきほど、母に渡された水筒を先輩が持ってくれる。
「それでは、娘さんをお預かりします。帰りも送り届けますので。」
先輩はもう一度母に頭を下げると、玄関の扉を開ける。
「行ってらっしゃい」
母はにこやかに送り出してくれた。
パタン
ドアがしまると、私は先輩に抗議する。
「先輩!なんでいきなりピンポンするんですか!!」
あはは、と笑って私の頭にヘルメットを乗せる。
「こうでもしないと、奈美ちゃん。お母さんに挨拶させてくれなさそうだったから。」
「挨拶しなくても……」
だーめ!
先輩は、私の言葉を遮る。
「女の子なんだから。お母さん、心配しちゃうでしょ?」
どこの誰かも分からない男と、2人で夜に出かけるなんて。
「あ、そういえば。奈美ちゃん、お父さんは?」
「父は仕事が忙しくて、日付が変わるくらいまで帰ってきません。」
そっか。
先輩は、優しく笑う。
「お父さん、いなくて寂しくない?」
そんなことないです!
ずっと大貴がいたから。
そこまで言ってはっとする。
「あ、えーと。」
今は、大貴もいませんけど、もう子供じゃないので大丈夫です!
先輩はふふっと笑ってバイクに跨った。
「ヘルメットは出来た?」
頷くと先輩はふわりと笑う。
それじゃ、行こうか。
しっかり捕まっててね?
距離、近い。
うるさいぐらいに跳ねる心臓を無視して、バイクの後ろに跨った。
遠慮がちに手を回すと、バイクはエンジン音を響かせて発車した。
しばらく走っていくと見慣れない街に入る。
小高い丘に到着した。
「ここね。俺の家の近くなんだけど。」
星がすごく綺麗に見えるんだ。
先輩は、バイクをとめて、ヘルメットを外しながら空を見上げる。
私も同じように、ヘルメットを外して空を見る。
「俺、おじいちゃんっ子でさ。小さい頃、よくここで天体観測教えて貰ってた」
懐かしむような先輩の表情。
この言い方は、多分。
私は思わず泣きそうになる。
「奈美ちゃん?」
俯いた私に先輩が声をかけ、泣きそうな顔の私に先輩は戸惑っていた。
ぐいっと引き寄せらせ、先輩の腕の中。
「どこまで素直なの」
先輩は困ったように笑う。
「俺は、大丈夫だよ。」
きちんと、お別れ済ませてるし。
こうやって天体観測している時は、おじいちゃんを近くに感じるから。
「先輩。おじいさんは、とても素敵な人だったんですね。」
こんなに素敵な先輩が、こんな優しい顔して思い出を懐かしむなんて。
空を再び見上げる。
星が降ってきそうなぐらい近く感じる。
街灯もない場所。
圧倒的な星空に先輩のおじいさんの人柄を想う。
優しくて暖かくて。人を幸せに導くことが出来る先輩。
きっと、先輩の中におじいさんが確かにいる。
つーーと、頬に涙が伝う。
「ふふっ。」
先輩は笑った。
「ほんと。君って子は。」
頭をポンと撫でられ、先輩に視線に向ける。
先輩は、指の腹で私の涙を拭う。
「たまらないな。こんな風に涙を流されると。」
ほら、行くよ?
先輩は私の手をとる。
持参したビニールシートに腰掛け、母から渡されたコーヒーを、2人で飲んだ。
星を見上げながら、会話はない。
けれど、心地が良かった。
言葉にしなくても、この星空が先輩の気持ちを代弁している。
先輩は、こうしてこの場所で星を眺めながら、おじいさんと会話をしているのだろう。
そして、おじいさんはきっと笑ってる。
満点の星空が私たちを包み込んでる。
流れ星が流れていく。
その光景を私は一生忘れないと思う。
また、涙が零れた。
先輩と不意に手が重なった。
ぎゅっと握りこまれた。
泣かないで?
そう、言われている気がする。
違うんです。先輩。
あまりにも美しくて。
感動しているんです。
そう、心の中で伝えて、先輩の手を握り返した。
それから、手を握りあったまま静かに鑑賞を続けていた。
「奈美ちゃん」
もう、どれぐらい会話をしていなかったか分からない。
先輩がぽつりと言葉を発した。
俺と出会ってくれてありがとう。
優しくほほ笑む先輩。
「今日、こうやってこの場所で奈美ちゃんと星を見てる。」
この場所は、おじいちゃんとの大事な思い出の場所だけど。
今日、この瞬間。
奈美ちゃんとの大切な場所になったよ。
「おじいちゃんね。喜んでるよ。」
こんなに素直で可愛い女の子を俺がここに連れてきて。
きっと、喜んでる。
先輩と目が合う。
お互い目が逸らせなくて。
私、こんな気持ち知らない。
ドキドキして心臓がうるさいのに、とても心地よくて。
ずっと、こうしていたい。
「奈美ちゃん。」
そんな無防備な顔。
好きじゃない男に見せちゃダメだからね。
先輩の指が私の頬をなぞる。
「襲われちゃうよ?」
悪戯に笑う先輩に、また、ドキリと心臓が跳ねた。
「あ、ごめんなさい!」
思わず謝って、顔を背ける。
あはは。先輩はいつもの人懐っこい笑顔になる。
「ごめんごめん。ちょっとからかった」
けど、襲われちゃうのは本当かもね?
そう言って、ポンポンと頭を撫でる。
先輩の笑い声で、いつもの空気に戻った。
「先輩。聞いてください」
一生懸命考えて、大貴に対する好きの気持ちの答えが出たことを伝える。
「幼馴染卒業か。」
奈美ちゃん、そう決めて、苦しい思いはしてない?
「はい!」
ずっとずっとモヤモヤしてた気持ちの理由が分かってスッキリしました。
寂しさは少しありますけど。
真子に嫉妬とかはありません。
にこやかに答えると、先輩はふわりと笑った。
「奈美ちゃん。素敵な恋をしてね。」
「先輩。1つ変なこと聞いてもいいですか?」
「ん?」
彼女さんと別れた理由、私、関係ありますか?
佳代に言われてずっと、引っかかっていた。
私のせいで、2人が悪い方向に進んでしまっていたなら、申し訳ない。
「あいつになんか言われたの?」
私は首を振る。
「あー、確かに。奈美ちゃんに凄い嫉妬してたみたいだけど。」
関係ないよ。
先輩はそう答えた。
受験も近くなって、彼女との時間を惜しく感じるようになって、一緒にいるのがしんどくなった。
俺はどうしても、大学に受かりたい。
そこでやりたいことがあるから。
彼女とは、そういう考えが合わなくて。
俺との時間が減ったことに納得出来なくてね。
なんで、私を蔑ろにするのか!って、喧嘩になって。
そんな時、奈美ちゃんといる所を見られてね。
あの子といる方がいいのかー
って、言われたりしたんだけど。
「俺、別に奈美ちゃんとの時間、無理矢理作ってたわけじゃないしね。たまたま、俺の時間がある時に奈美ちゃんがそこにいて。」
奈美ちゃんと話してると、なんか心洗われる感じだし。
奈美ちゃんとの時間、楽しんでたのは間違いないんだけどね。
「彼女に、今、無理に時間を作るつもりはないって伝えたら、もういい!ってね。」
まあ、俺も受験より彼女が大事って思えなかった時点でダメだったのかな?
私は、ぶんぶんと首を振る。
「そんなの!受験、大事に決まってます!」
だって!先輩は、進みたい道があって。すごくすごく一生懸命そこを目指してます!
キラキラ輝いていて眩しいぐらい!
そこに向かう先輩を、誰だって邪魔していいわけないんです!
「あ!彼女さんのこと悪く言ってしまってごめんなさい!」
慌てて謝ると先輩は、また笑う。
「ありがとう。」
奈美ちゃんは、本当に真っ直ぐだね。
「ねぇ奈美ちゃん。」
これからさ。俺は受験が控えてるでしょ?
奈美ちゃんは、自分から俺に連絡してくれる?
また、勢いよく首を振る。
「邪魔なんて出来ません!!」
「そうだよね。そう言うよね。」
俺だって時々は、息抜きしたいよ?
奈美ちゃんと話したくなるかもしれない。
だからさ。
俺が誘った時は、邪魔しちゃうかもって考えたりせずに、時間があったら俺に付き合って。
俺を助けると思って。
それから。
奈美ちゃんが。どうしても、どうしても俺に会いたい!
って、思ってくれたら、連絡していいんだよ?
タイミングに寄っては待たせちゃうかもしれないけど、少しも時間がないわけじゃないからね?
奈美ちゃん。ほっておくと1人でパンクしちゃいそうだから。
そう言って笑う。
人生相談。いつでも受け付けてます。
「先輩。あの……」
相談なしに会いたくなったら……
そう言いかけてやめた。
それは、私のわがままだ。
相談するのも、私のわがままなのに、これ以上先輩に頼ってちゃだめ。
先輩には、たくさん助けてもらって。
たくさん、思い出を貰った。
「受験、頑張ってください!」
私、ずっとずっと応援してます!
結果は、絶対教えてくださいね?
先輩は困ったように笑う。
「俺の話聞いてた?受験終わってなくても、俺が連絡したら会ってくれるよね?」
「えっと。はい。勿論です。」
じゃあ、そんな別れの挨拶みたいなセリフ言わないでよ。
「すいません!」
もう、いいよ。
そう言って、クシャと私の髪をかき混ぜた。
そろそろ帰ろうか。
ドキドキ
心臓の音がうるさい。
自室。ベットに座り、携帯を握りしめてその時を待つ。
先輩から、さきほど家を出ると連絡があった。
準備万端に先輩の到着を知らせる着信を待っていた。
ピンポーン
へ?
先輩の到着を知らせたのは、携帯ではなくインターホンであった。
私は慌てて荷物をもって階下へ走る。
「こんばんわー」
玄関先で母と会話を交わす先輩。
「せ、先輩!」
「あ、奈美ちゃん。早かったね」
ニコニコ笑いながら、先輩の視線は母に戻る。
「夜分遅くに申し訳ありません。奈美さんと同じ高校に通う桜木拓磨と申します。ご挨拶もせずに、大事なお嬢さんをこんな時間に連れ出すのは、申し訳が立たないと思いまして。」
先輩は、丁寧に頭を下げて母に紙袋を差し出す。
「いえいえ。お気遣いありがとうございます。」
いつも、奈美がご迷惑をおかけしているようで。
こんな娘ですが、ぜひこれからもよろしくお願いします。
母も先輩に頭を下げる。
奈美、これ持っていきなさい。
母に魔法瓶の水筒を渡される。
「桜木さん。コーヒーは大丈夫かしら?」
「ええ。大好きです。」
爽やかなイケメンスマイルに母は上機嫌だ。
こんなイケメンだなんて聞いてない。母の心の声が、聞こえてきそうだ。
靴を履き、先輩の隣に並ぶ。
「奈美ちゃん、重いでしょ?それ、持つよ」
さきほど、母に渡された水筒を先輩が持ってくれる。
「それでは、娘さんをお預かりします。帰りも送り届けますので。」
先輩はもう一度母に頭を下げると、玄関の扉を開ける。
「行ってらっしゃい」
母はにこやかに送り出してくれた。
パタン
ドアがしまると、私は先輩に抗議する。
「先輩!なんでいきなりピンポンするんですか!!」
あはは、と笑って私の頭にヘルメットを乗せる。
「こうでもしないと、奈美ちゃん。お母さんに挨拶させてくれなさそうだったから。」
「挨拶しなくても……」
だーめ!
先輩は、私の言葉を遮る。
「女の子なんだから。お母さん、心配しちゃうでしょ?」
どこの誰かも分からない男と、2人で夜に出かけるなんて。
「あ、そういえば。奈美ちゃん、お父さんは?」
「父は仕事が忙しくて、日付が変わるくらいまで帰ってきません。」
そっか。
先輩は、優しく笑う。
「お父さん、いなくて寂しくない?」
そんなことないです!
ずっと大貴がいたから。
そこまで言ってはっとする。
「あ、えーと。」
今は、大貴もいませんけど、もう子供じゃないので大丈夫です!
先輩はふふっと笑ってバイクに跨った。
「ヘルメットは出来た?」
頷くと先輩はふわりと笑う。
それじゃ、行こうか。
しっかり捕まっててね?
距離、近い。
うるさいぐらいに跳ねる心臓を無視して、バイクの後ろに跨った。
遠慮がちに手を回すと、バイクはエンジン音を響かせて発車した。
しばらく走っていくと見慣れない街に入る。
小高い丘に到着した。
「ここね。俺の家の近くなんだけど。」
星がすごく綺麗に見えるんだ。
先輩は、バイクをとめて、ヘルメットを外しながら空を見上げる。
私も同じように、ヘルメットを外して空を見る。
「俺、おじいちゃんっ子でさ。小さい頃、よくここで天体観測教えて貰ってた」
懐かしむような先輩の表情。
この言い方は、多分。
私は思わず泣きそうになる。
「奈美ちゃん?」
俯いた私に先輩が声をかけ、泣きそうな顔の私に先輩は戸惑っていた。
ぐいっと引き寄せらせ、先輩の腕の中。
「どこまで素直なの」
先輩は困ったように笑う。
「俺は、大丈夫だよ。」
きちんと、お別れ済ませてるし。
こうやって天体観測している時は、おじいちゃんを近くに感じるから。
「先輩。おじいさんは、とても素敵な人だったんですね。」
こんなに素敵な先輩が、こんな優しい顔して思い出を懐かしむなんて。
空を再び見上げる。
星が降ってきそうなぐらい近く感じる。
街灯もない場所。
圧倒的な星空に先輩のおじいさんの人柄を想う。
優しくて暖かくて。人を幸せに導くことが出来る先輩。
きっと、先輩の中におじいさんが確かにいる。
つーーと、頬に涙が伝う。
「ふふっ。」
先輩は笑った。
「ほんと。君って子は。」
頭をポンと撫でられ、先輩に視線に向ける。
先輩は、指の腹で私の涙を拭う。
「たまらないな。こんな風に涙を流されると。」
ほら、行くよ?
先輩は私の手をとる。
持参したビニールシートに腰掛け、母から渡されたコーヒーを、2人で飲んだ。
星を見上げながら、会話はない。
けれど、心地が良かった。
言葉にしなくても、この星空が先輩の気持ちを代弁している。
先輩は、こうしてこの場所で星を眺めながら、おじいさんと会話をしているのだろう。
そして、おじいさんはきっと笑ってる。
満点の星空が私たちを包み込んでる。
流れ星が流れていく。
その光景を私は一生忘れないと思う。
また、涙が零れた。
先輩と不意に手が重なった。
ぎゅっと握りこまれた。
泣かないで?
そう、言われている気がする。
違うんです。先輩。
あまりにも美しくて。
感動しているんです。
そう、心の中で伝えて、先輩の手を握り返した。
それから、手を握りあったまま静かに鑑賞を続けていた。
「奈美ちゃん」
もう、どれぐらい会話をしていなかったか分からない。
先輩がぽつりと言葉を発した。
俺と出会ってくれてありがとう。
優しくほほ笑む先輩。
「今日、こうやってこの場所で奈美ちゃんと星を見てる。」
この場所は、おじいちゃんとの大事な思い出の場所だけど。
今日、この瞬間。
奈美ちゃんとの大切な場所になったよ。
「おじいちゃんね。喜んでるよ。」
こんなに素直で可愛い女の子を俺がここに連れてきて。
きっと、喜んでる。
先輩と目が合う。
お互い目が逸らせなくて。
私、こんな気持ち知らない。
ドキドキして心臓がうるさいのに、とても心地よくて。
ずっと、こうしていたい。
「奈美ちゃん。」
そんな無防備な顔。
好きじゃない男に見せちゃダメだからね。
先輩の指が私の頬をなぞる。
「襲われちゃうよ?」
悪戯に笑う先輩に、また、ドキリと心臓が跳ねた。
「あ、ごめんなさい!」
思わず謝って、顔を背ける。
あはは。先輩はいつもの人懐っこい笑顔になる。
「ごめんごめん。ちょっとからかった」
けど、襲われちゃうのは本当かもね?
そう言って、ポンポンと頭を撫でる。
先輩の笑い声で、いつもの空気に戻った。
「先輩。聞いてください」
一生懸命考えて、大貴に対する好きの気持ちの答えが出たことを伝える。
「幼馴染卒業か。」
奈美ちゃん、そう決めて、苦しい思いはしてない?
「はい!」
ずっとずっとモヤモヤしてた気持ちの理由が分かってスッキリしました。
寂しさは少しありますけど。
真子に嫉妬とかはありません。
にこやかに答えると、先輩はふわりと笑った。
「奈美ちゃん。素敵な恋をしてね。」
「先輩。1つ変なこと聞いてもいいですか?」
「ん?」
彼女さんと別れた理由、私、関係ありますか?
佳代に言われてずっと、引っかかっていた。
私のせいで、2人が悪い方向に進んでしまっていたなら、申し訳ない。
「あいつになんか言われたの?」
私は首を振る。
「あー、確かに。奈美ちゃんに凄い嫉妬してたみたいだけど。」
関係ないよ。
先輩はそう答えた。
受験も近くなって、彼女との時間を惜しく感じるようになって、一緒にいるのがしんどくなった。
俺はどうしても、大学に受かりたい。
そこでやりたいことがあるから。
彼女とは、そういう考えが合わなくて。
俺との時間が減ったことに納得出来なくてね。
なんで、私を蔑ろにするのか!って、喧嘩になって。
そんな時、奈美ちゃんといる所を見られてね。
あの子といる方がいいのかー
って、言われたりしたんだけど。
「俺、別に奈美ちゃんとの時間、無理矢理作ってたわけじゃないしね。たまたま、俺の時間がある時に奈美ちゃんがそこにいて。」
奈美ちゃんと話してると、なんか心洗われる感じだし。
奈美ちゃんとの時間、楽しんでたのは間違いないんだけどね。
「彼女に、今、無理に時間を作るつもりはないって伝えたら、もういい!ってね。」
まあ、俺も受験より彼女が大事って思えなかった時点でダメだったのかな?
私は、ぶんぶんと首を振る。
「そんなの!受験、大事に決まってます!」
だって!先輩は、進みたい道があって。すごくすごく一生懸命そこを目指してます!
キラキラ輝いていて眩しいぐらい!
そこに向かう先輩を、誰だって邪魔していいわけないんです!
「あ!彼女さんのこと悪く言ってしまってごめんなさい!」
慌てて謝ると先輩は、また笑う。
「ありがとう。」
奈美ちゃんは、本当に真っ直ぐだね。
「ねぇ奈美ちゃん。」
これからさ。俺は受験が控えてるでしょ?
奈美ちゃんは、自分から俺に連絡してくれる?
また、勢いよく首を振る。
「邪魔なんて出来ません!!」
「そうだよね。そう言うよね。」
俺だって時々は、息抜きしたいよ?
奈美ちゃんと話したくなるかもしれない。
だからさ。
俺が誘った時は、邪魔しちゃうかもって考えたりせずに、時間があったら俺に付き合って。
俺を助けると思って。
それから。
奈美ちゃんが。どうしても、どうしても俺に会いたい!
って、思ってくれたら、連絡していいんだよ?
タイミングに寄っては待たせちゃうかもしれないけど、少しも時間がないわけじゃないからね?
奈美ちゃん。ほっておくと1人でパンクしちゃいそうだから。
そう言って笑う。
人生相談。いつでも受け付けてます。
「先輩。あの……」
相談なしに会いたくなったら……
そう言いかけてやめた。
それは、私のわがままだ。
相談するのも、私のわがままなのに、これ以上先輩に頼ってちゃだめ。
先輩には、たくさん助けてもらって。
たくさん、思い出を貰った。
「受験、頑張ってください!」
私、ずっとずっと応援してます!
結果は、絶対教えてくださいね?
先輩は困ったように笑う。
「俺の話聞いてた?受験終わってなくても、俺が連絡したら会ってくれるよね?」
「えっと。はい。勿論です。」
じゃあ、そんな別れの挨拶みたいなセリフ言わないでよ。
「すいません!」
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