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まろ蔵

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「戦の国」(冲方丁著:講談社)

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〈つわものどもが〉
かつては、冲方丁さんと云えば、ファンタジーやSFの名手というイメージが強かったが、今や時代小説作家としても、熟練の域。戦国時代が舞台という最新刊「戦の国」。わくわくドキドキ、お手並み拝見である。
自分は関西の人間なので、どうしても豊臣贔屓。
なので、城の中の男・秀頼の「黄金児」を一等思い入れ深く読んだ。
老獪だが余命の刻に限りある家康と、武家出自ながら公家の風格で前途ある秀頼。
老公の執念が(関西人にとっては、えげつないまでの言いがかりと根回しが)、太閤秀吉の築いた大坂城を追い詰め滅ぼして行く様は、分かっていても胃の痛くなる歯軋りものであり、聡明な秀頼の非業の最後にひたすら胸が痛くなった。

閑話休題。

さて、私事は置いといて、本作は、合戦、下克上、混沌とする戦乱の時代約半世紀を駆け抜けた六名の武将からみた連作歴史長編である。桶狭間から大坂の陣まで、織田信長、上杉謙信、明智光秀、大谷吉継、小早川秀秋、豊臣秀頼の六傑が時代を追ってバトンを繋いで行く。
どの一編も珠玉の短編でありながら、通読すれば壮大な歴史ドラマを浮かび上がらせると云う絶妙な構成にも驚嘆させられる。
頂きを極めた者、道半ばで倒れた者、市井に心を砕いた者、天下を案じた者、滅ぼされゆく者・・・。
僅か半世紀程の時間の何と濃密な事か!
勝てば官軍、負ければ賊軍は、世の習い。勝者の歴史はいつの世も敗れた者には残酷であるが、敗者にも矜持はあるし、民の心に残り続け、やがて美談として語られる事すらあろう。
「戦の国」で語られる漢(おとこ)たちの物語は、平等に刻まれる時間の中での必然なのか、偶然なのか、或いは運命の連鎖の悪戯であったのかも知れない。
時には、武具のたてる騒音や駿馬の嘶きが遠くに聞こえ、或いは血煙や硝煙の匂いすら鼻腔に広がってくる気がして、正に五感を刺激する物語で、さながら実写のオムニバス映画を観ている様な気分にも陥った。
間違いなしの傑作、歴史小説に新たなる一ページを開いた一冊。
(小説現代:2017年11月号)
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