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29話
しおりを挟む河谷学園高等学校。耳かき界隈では市内でも有数の学校で明日見流学園の耳かき部が衰退する以前は2代巨頭として最強の座を奪いあい、今では市内の耳かき部では最強、県大会レベルまで視野を広げてもベスト5常連というまさしく現状の市内王者だ。
規模もまさに王者といった所で、大所帯であるため常に交流試合を受け付けているし、オフシーズンでは1軍だろうと個人戦なら受けてくれるケースもあるのだという。
「たしかにこりゃ凄いですね。」
部室の設備もすごい。見回しただけでも試合につかうソファをはじめとした設備、棚にしまわれた耳かき道具。いずれも明らかに高級な品だ。
「試合に使う機器が全部ってわけじゃないよー。でもウチももう少し広いへやがほしくなるよねー。」
友梨奈先輩は何度か来たことがあるようで、勝手知ったるといったリラックスっぷりだ。もっとも、この人はいつもリラックスしてはいるが。
「4人で使うには十分だと思うけどね・・・」
「でもここも広さに対しては練習してる人は少ないんですね。」
宮古先輩と伊織はそれに続く。
「大会近いし、多分1軍は合宿。2軍も個人試合とかで外に行く人が多いんですよー♡」
後ろから高い声が聞こえる。振り返ると河谷学園の制服の女子が立っていた。
「由芽ちゃん!」
「ゆりちゃん!みゃーちゃんひさしぶりー!練習試合だよね!楽しみにしてたよー!」
「みゃーちゃん言うなって。ほら、後輩たち。挨拶。」
宮古先輩に促され、頭を下げる。
「明日見流学園1年、耳塚柿人です。よろしくお願いします。」
「同じく、鶴城伊織です。」
「ふーん。私は小紋由芽。男子かぁ。そんなに入部希望者がいなかったの?ゆりちゃん?」
露骨にテンションがさがった反応。なるほど。これが男に厳しいタイプの耳かきプレイヤーか。
「ん?今年の希望者はこの二人だけだったよ!」
「人手不足だと大変だね、ゆりちゃんも。」
若干小ばかにしたような声音。目を横に向けると伊織は拳を少し握りしめて折り、宮古先輩は若干渋い顔をしている。
「そうでもないよ!この2人、とっても優秀なんだから!学校での自主練も毎日楽しいくらいだよ!でも、自主練だけじゃなくて、他の人との試合形式もやってみたいなって!」
しかし友梨奈先輩はまったく気にした様子もなく、いや、気づいてないだけだなコレ。
「いいね!じゃあ、私達も期待に応えないとね♡」
そう言うと由芽は練習中の部員に目を向ける。
「全員注目!これから明日見流学園耳かき部との練習試合を行います!枠は後3人!参加希望ある人はダッシュ!」
そんな雑な決め方ある?そう思ったのも束の間、二人一組で耳かきをしていた部員やj1人でセルフ耳かきをしていた部員がはじかれたように走り出す。
「んな馬鹿な。」
「相変わらず河谷学園は血気盛んだね!」
「友梨奈、その反応はおかしいと思うよ私。」
「でも、対戦にここまで熱意があると戦いがいはありそうですね!」
友梨奈先輩と伊織はわくわくすっぞ!と言わんばかりの反応だが、宮古先輩の反応をみるにやはりこの迫力は異常らしい。
由芽の目の前には、背が高く妙に大人びた感じのする女子、由芽よりも更に小柄な、嫌下手をすれば大きな小学生と言った方が近いような女子、そして、その中間のような平均的な背丈の、しかしメガネが目立つ女子が並んでいた。
「薫ちゃんと、透ちゃんと、灯ちゃんね。うんいいね。じゃあ今日は私とこの三人で練習試合にしまーす♡見学はフリーだから、手が空いてる子は見に来てね!」
一歩遅れて、並べなかった部員たちもその言葉を聴いて、練習を続けるか見学にいくか話合うペアが出てくるなど、はたから見ると奇妙な光景だった。
「じゃ、試合用のソファまで行こっか!明日見流学園の男子の力、みせてもらうね♡」
自信と余裕に満ち溢れテイルが故の小ばかにしたような言い方。だが、これでいい。勝つのは自分達だ。余裕であるというその態度をすぐに崩してやるぞと、自分の中に闘志が燃え上がるのを自覚した。
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