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34話

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 たどり着いた二十階は今までの階よりも緑――植物が多いように感じた。
 まさか三十階を超えて無いのにこんな階が有るのかと思いながら二人について歩いていくとそこは大きな大木が部屋の中央に生えている場所だった。
 周りの壁にもびっしりと木の枝で覆われ、所々に穴が開いているのが微かに見える。

「何を探しているんですか?」

 キョロキョロと何かを探すように辺りを見る二人の様子に気になって聞いてみた。
 すると二人は俺が探し物の事を知らない事を思い出して直ぐに教えてくれる。

「あー、そっか知らないよね。えっと、大きさとしては拳ぐらいで色としては緑だったり、茶色だったりするんだけど……」

「……基本的には中央の大木とか壁の木々の間にいて、あまり動かないから気が付きにくいんだが……」

 二人で顔を合わせながら説明してくれるが、どんな形をしているモンスターかは二人とも言いにくいのか言葉を濁してしまう。
 そんなに言いにくいモンスターなのかと思いながらも聞いた通りに木々の間を除くために壁に近づく。
 ちょっとずつ移動しながら木々の間をいくつか覗いたがそれっぽいモンスターを見つけられなくて諦めかけたその時、諦め気味に覗き込んだ先には緑や茶色の色をした芋虫が大量に蠢いているを見てしまう。

「うわぁぁぁぁぁぁぁ!?」

「あっ、集まってるの見ちゃったか……」

「……大量にいなければ気にするほどでもないんですけどね」

 俺の叫び声に二人が何か言っているのに気が付かず、俺は直ぐにその場所から飛びのいた。
 どうやらその声に芋虫も反応してしまったようで俺が覗いた穴から動いているのか周りの葉っぱや枝が動いているのが分かる。

「大丈夫か?」

「あぁ、ちょっと驚いただけだから」

「まぁ、最初にあんなん見ちゃうと仕方ないですよ」

 心配してくれる二人は俺が見た物がどんな物か分かっているようでゴソゴソと未だに動き続けている壁の木々に目を向けていた。

「さて、俺たちの探していた物はどんなんか分かったと思うからさっさと集めようか」

「そうですね。できるだけ多く欲しいのでよろしくお願いします」

「えぇ、特に変わった事も無く倒せるんですよね?」

「はい、一般的な昆虫系モンスターで糸を吐いたり、飛び掛かって噛みつこうとしてくるぐらいなので」

 そう言いながら木々に向かって手に持っているハンマーを叩きつける田部さんを見習って俺も動いているところにナイフを突き刺すと運よく当たったらしく、何かに突き刺さる感触と共にドロップアイテムの魔石が転がり落ちる。

「あー、因みに狙ってる油はレアドロップまではいかないまでも魔石よりは出にくいからな」

 狙った物と違う魔石を回収しながら園田さんに目を向けると俺の言いたい事が分かったのか同じように魔石を拾いながら教えてくれる。
 その言葉に嘘偽りが無いようで何回か同じことを繰り返していると何個か油が入っていると思われる瓶を何本か手に入れる事が出来た。
 しかし、虫から手に入る油が使われてるって考えるとなんか美味しくても今までよりは手を出したくなくなりそうだな……。というか、巣とか取れる訳でもない虫から取れる油って体液のような気がするけど。

「これって本当に身体には悪影響は無いんですよね?」

「あっ、はい。逆にコレを使わなくても美味しいには美味しい商品が出来るんですけど、使った物に比べると味が劣るんですよ」

「協会の鑑定も問題無いって判定で市場に出てる訳だから問題無いだろ、たぶんな。……あんまり深く考えたくない物だって事以外」

「そうですね。俺もちょっと悩んじゃいましたよ……」

 鑑定で大丈夫だし、たぶんだけど国もそれとは別に研究所とかで検査して他にも使えないかとか実際に流通させる前にモルモットとかで実験をやってるだろうからと思う事にした。
 でも、この事知ってるのはどれくらいの人がいるのか気になる。

「因みにこの油について詳しく知ってるのってどれくらいなんですか?」

「えっと、まず当社ウチの探索者部門と園田さんの所の人は確実に知ってますね」

「そうだな。俺の所は守秘義務も有るから基本的に依頼を担当した奴以外は知らない筈だ」

「じゃあ、俺も広めないようにしないとダメですね」

 流石に守秘義務が有るなら俺も迂闊な事は出来ないな。
 それにわざわざ初めての探索に付き合ってくれてるのにそんな事をしたら取引は無くても信用に関わる問題になりそうだし。

「そうしてください。……当たり前ですけど、ちゃんと商品情報には油についてもしっかり書いて有りますから安心してください」

「そうですよね。じゃないと偽装になりそうですし」

「あははー、流石にそれだけはしませんよ」

 笑いながらも特に挙動不審な点も無く油を回収していく田部さんの姿に嘘は無いだろう。
 今度、買う時はその辺もしっかり確認してみるのも良いかも知れない。
 そんな事を考えながら目についたモンスターを倒していくと珍しいのか分からないが蛹がそのままドロップする。

「この蛹って集めていた方が良いですか?」

「蛹自体は会社としては使いませんし、羽生さんがそのまま換金して貰って良いですよ。ただ、蛹型の方からは芋虫よりも純度の良い油が出るんで倒してください」

「分かりましたー」

 そんなこんなでそんなに長い時間いたとは感じない内に目標の量を確保してダンジョンから出る事にしたのだった。
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