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33話
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初めて入った都実地ダンジョンはいつも潜っている日野江ダンジョンに比べると明るい印象を受けたが、そんな事は直ぐに田部さんがアイテムボックスから取り出した物で忘れてしまいそうになる。
「そ、それって……?」
「あ、いや、あの……です」
恥ずかしそうに俯いて顔を赤くする田部さんだったが、その手に持っている物はそんな田部さんには不似合いの代物だった。
それは長く伸びた柄の先に黒々とした鈍い光を反射する見るからに重量感を感じさせる大きな頭部は片側は平らになっていて、もう片方は刺々しい棘が数本生えている独特なハンマーだった。
「……それが田部さんの武器ですか?」
「……はい、その、ドロップ品でして性能はかなり良いんですよ?」
田部さんの体格からすればどう見ても不釣り合いな筈の大きさのハンマーを片手で軽々しく振るう姿に思考が止まってしまう。
「アー、タシカニソレハセイノウガヨサソウデスネ」
「使用制限っていうか使い手認識が有るっぽくて私が使う分には問題無く使えるんですが、それ以外の人だと重たくて持てないんですよ」
振っている姿からそれは予想できなくは無かったけど、地味に聞こえるブンっという風切り音に戦闘中は巻き込まれないようにしないと思った。
そして、考える事を放棄した俺に気が付かないのかハンマーを振るのを止めた田部さんは言う。
「じゃあ、行きましょう!」
「そうだな。先頭は田部さんで良いか?」
「私は大丈夫ですよ。武器的にも先頭の方が良いですし」
俺も自分の武器をアイテムボックスから取り出して二人の後に続いて歩き始める。
遅れないように追いかけながらもいつもと違うダンジョンが気になって周りをキョロキョロと見てしまう。
「やっぱり、いつも違うところに潜ると気になる?」
「そうですね。いつもより明るい気がしますし、所々に植物が生えているのも気になりますね」
そう、いつも潜ってる日野江ダンジョンの低層には一切植物が生えてない。
ただただ、洞窟のように壁に囲まれた場所を歩くだけな為、ここみたいに適度に緑が有るのはありがたい。
まぁ、セーフティーエリアにはちょっとだけ緑が有ったり、水が湧き出るようになっているだけ良いんだけど、ここまで違うと羨ましいと言いたくなっても仕方ないような気がする。
「あぁ、ここの特徴の一つだな。他のダンジョンに比べて植物や水辺が多く有って、モンスターも食料に困らないからか大人しいモンスターが多くいる」
「でも、攻撃したらやり返してくるんですよね?」
勿論と良いながら笑う園田さん。
田部さんがほらと言いながら傍にいたラットにギリギリ当たらないようにハンマーを振り下ろすとラットはその風圧と振動ででバランスを崩すが、直ぐに田部さんを威嚇するように立ち上がって鋭い爪と歯を見せる。
だが、それを俺が確認した瞬間にその姿はハンマーによって潰されて消えた。
「……確かにそうでしたね」
「まぁ、余程の事が無ければ三十階まではピクニック気分で行けるよ」
「あっ、すみませんが今日の探索で出来れば二十階でドロップ集めたいんですが良いですか?」
軽く埋まったハンマーを持ち上げながら田部さんは振り向いてそう言ってきた。
どうやら業務関係で集めておきたい物が有るらしく、申し訳なさそうな顔をしていた。
「良いですよ」
「俺もだ。それに二十階って事はアレだろ?」
「はい、アレです」
田部さんの集めたい物が何か思い当たる物が有る園田さんは何やら嬉しそうな顔で田部さんに聞いていた。
「アレ……ですか?」
「あー、他の所に潜ってる人とかはあんまり知らないんだけど、アレってのは特殊な油でね……」
何か言いずらそうにする園田さんの言葉を引き継ぐように田部さんが教えてくれる。
「そのままだと食用には不向きな物なんだけど、ちょっとひと手間加えるだけでかなり美味しい物になるの」
「はぁ、そうなんですか」
パッと聞いたところではそんな言いずらそうにする理由が俺にはよく分からなかったが、どうやら二人の表情からすると他の部分に理由が有るらしい。
「ただ、そのモンスターが人によっては嫌う見た目しててね、食用以外にも使える油だから狩る対象にもなってるんだけど、進んで狩る人が少なくてね……」
あー、そういう事か。
確かにそういう系統のモンスターが落とす物だったらモンスター自体もだけど、落とした物が使われている物に拒否反応出す人もいるだろうしな。
「んー、実物見てみないとどうとは言えませんけど、ダンジョン関係なら何が有っても不思議では無いんで気にしないでください」
「そうですか……、因みに|我が社(ウチ)の『冷凍モー裂ニク盛チャーハン』や『パリっと皮のアゲアゲ餃子』とか食べた事有ります?」
「どっちも食べた事が有りますが……?」
どっちも美味しく人気でむつみ食品が取り扱う商品の中では上から数えた方が良いくらいの人気と売り上げの有る商品だったはずだ。
確か『冷凍モー裂ニク盛チャーハン』は牛系モンスターからドロップする肉を使った他の冷凍チャーハンに比べたら割高な値段設定になってたはずだけど、それでも買って食べたいと思える美味しさなんだよな。
でも、そんな事を聞いてくるって事はその例のアレが使われてるって事なのか……。
「……たぶん、最初は引くかもしれませんけど、絶対に健康とかには影響無いので!」
「は、はぁ、分かりました」
そこまで言うような物なのか……。これはちょっと気合いを入れるべきかもしれないな。
そんな俺のちょっとだけ心配そうな顔で二人が見ていたとは知らずに先に進むのだった。
「そ、それって……?」
「あ、いや、あの……です」
恥ずかしそうに俯いて顔を赤くする田部さんだったが、その手に持っている物はそんな田部さんには不似合いの代物だった。
それは長く伸びた柄の先に黒々とした鈍い光を反射する見るからに重量感を感じさせる大きな頭部は片側は平らになっていて、もう片方は刺々しい棘が数本生えている独特なハンマーだった。
「……それが田部さんの武器ですか?」
「……はい、その、ドロップ品でして性能はかなり良いんですよ?」
田部さんの体格からすればどう見ても不釣り合いな筈の大きさのハンマーを片手で軽々しく振るう姿に思考が止まってしまう。
「アー、タシカニソレハセイノウガヨサソウデスネ」
「使用制限っていうか使い手認識が有るっぽくて私が使う分には問題無く使えるんですが、それ以外の人だと重たくて持てないんですよ」
振っている姿からそれは予想できなくは無かったけど、地味に聞こえるブンっという風切り音に戦闘中は巻き込まれないようにしないと思った。
そして、考える事を放棄した俺に気が付かないのかハンマーを振るのを止めた田部さんは言う。
「じゃあ、行きましょう!」
「そうだな。先頭は田部さんで良いか?」
「私は大丈夫ですよ。武器的にも先頭の方が良いですし」
俺も自分の武器をアイテムボックスから取り出して二人の後に続いて歩き始める。
遅れないように追いかけながらもいつもと違うダンジョンが気になって周りをキョロキョロと見てしまう。
「やっぱり、いつも違うところに潜ると気になる?」
「そうですね。いつもより明るい気がしますし、所々に植物が生えているのも気になりますね」
そう、いつも潜ってる日野江ダンジョンの低層には一切植物が生えてない。
ただただ、洞窟のように壁に囲まれた場所を歩くだけな為、ここみたいに適度に緑が有るのはありがたい。
まぁ、セーフティーエリアにはちょっとだけ緑が有ったり、水が湧き出るようになっているだけ良いんだけど、ここまで違うと羨ましいと言いたくなっても仕方ないような気がする。
「あぁ、ここの特徴の一つだな。他のダンジョンに比べて植物や水辺が多く有って、モンスターも食料に困らないからか大人しいモンスターが多くいる」
「でも、攻撃したらやり返してくるんですよね?」
勿論と良いながら笑う園田さん。
田部さんがほらと言いながら傍にいたラットにギリギリ当たらないようにハンマーを振り下ろすとラットはその風圧と振動ででバランスを崩すが、直ぐに田部さんを威嚇するように立ち上がって鋭い爪と歯を見せる。
だが、それを俺が確認した瞬間にその姿はハンマーによって潰されて消えた。
「……確かにそうでしたね」
「まぁ、余程の事が無ければ三十階まではピクニック気分で行けるよ」
「あっ、すみませんが今日の探索で出来れば二十階でドロップ集めたいんですが良いですか?」
軽く埋まったハンマーを持ち上げながら田部さんは振り向いてそう言ってきた。
どうやら業務関係で集めておきたい物が有るらしく、申し訳なさそうな顔をしていた。
「良いですよ」
「俺もだ。それに二十階って事はアレだろ?」
「はい、アレです」
田部さんの集めたい物が何か思い当たる物が有る園田さんは何やら嬉しそうな顔で田部さんに聞いていた。
「アレ……ですか?」
「あー、他の所に潜ってる人とかはあんまり知らないんだけど、アレってのは特殊な油でね……」
何か言いずらそうにする園田さんの言葉を引き継ぐように田部さんが教えてくれる。
「そのままだと食用には不向きな物なんだけど、ちょっとひと手間加えるだけでかなり美味しい物になるの」
「はぁ、そうなんですか」
パッと聞いたところではそんな言いずらそうにする理由が俺にはよく分からなかったが、どうやら二人の表情からすると他の部分に理由が有るらしい。
「ただ、そのモンスターが人によっては嫌う見た目しててね、食用以外にも使える油だから狩る対象にもなってるんだけど、進んで狩る人が少なくてね……」
あー、そういう事か。
確かにそういう系統のモンスターが落とす物だったらモンスター自体もだけど、落とした物が使われている物に拒否反応出す人もいるだろうしな。
「んー、実物見てみないとどうとは言えませんけど、ダンジョン関係なら何が有っても不思議では無いんで気にしないでください」
「そうですか……、因みに|我が社(ウチ)の『冷凍モー裂ニク盛チャーハン』や『パリっと皮のアゲアゲ餃子』とか食べた事有ります?」
「どっちも食べた事が有りますが……?」
どっちも美味しく人気でむつみ食品が取り扱う商品の中では上から数えた方が良いくらいの人気と売り上げの有る商品だったはずだ。
確か『冷凍モー裂ニク盛チャーハン』は牛系モンスターからドロップする肉を使った他の冷凍チャーハンに比べたら割高な値段設定になってたはずだけど、それでも買って食べたいと思える美味しさなんだよな。
でも、そんな事を聞いてくるって事はその例のアレが使われてるって事なのか……。
「……たぶん、最初は引くかもしれませんけど、絶対に健康とかには影響無いので!」
「は、はぁ、分かりました」
そこまで言うような物なのか……。これはちょっと気合いを入れるべきかもしれないな。
そんな俺のちょっとだけ心配そうな顔で二人が見ていたとは知らずに先に進むのだった。
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