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●いじめ、がんばる!

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 目覚めたとしても、元気になるかはまだわからない。

 あたしはレティシア・ファラリスが回復しないようにと祈るしかなくて……

 祈るたびに人の不幸を願う自分が嫌いになった。

 願いもむなしくレティシア・ファラリスは回復し……驚いたことにリリア魔法学園の同じクラスに復学することになったのだ。

「どうしよう……」

 連絡を受けたあたしは頭を抱えた。

「あ~、侯爵様の性格だと~、アダルベルト様が結婚したら~、すぐにグローリアさん呼び戻すだろ~ね~」
「確実っすね」
「うん」

 イルマとラウラの言う通り。
 お父様は絶対にそういうことをする人だ。

「グローリアさんが呼び戻されたら~、私たちも戻されるだろうね~」
「そりゃそうすよ。お目付け役のお役目ごめんっす」
「よね~」

 二人とも無理をしてアタシについてきてくれているのに。
 勉強できることだって楽しみにしてたのに!
 何もできない自分が情けなくて悔しい。

「けど、婚約者さんも復学するってことはすぐに結婚する気はないっすよ。きっと」
「え~、そうかなぁ? 私たちより3つも年上なんだよ~? そろそろ行き遅れって言われる歳だし~、焦ってるかも~?」
「あり得るわ」

 ああ、もう! どうすればいいんだろ?

「ん~、いっそいびっちゃえばどうかな~?」
「いびる?」

 それってどういう意味?

「えっと、いじめるってことっす」
「どうしていじめるの!?」
「小姑が~いやな奴だと~、すぐに結婚とかいやって思わない~?」
「は! なるほど」

 さすがラウラ。
 この3人の中で、一番頭の回転が速いだけのことはある!

「けどね~、いじめすぎてもダメだよ~。婚約破棄されたら~、アダルベルト様にあっさり次の婚約者ができるだけだから」
「いじめすぎてはダメ……難しいわね」
「いや、グローリアさんなら思いっきりいじめるつもりでやって大丈夫だと思うっす」
「え? とにかく、もうすぐ復学するらしいから! しっかりいじめるわよ!」

「お~!」
「やるっすよ!」


 かくしてあたしたちは、レティシア・ファラリスをいじめることになったのだ!



 編入当日。

 教室のドアの向こうの話す気配にあたしはそわそわし通しだ。
 いじめ。
 いじめか……。

 お姉様に読んでもらった本の中には、ヒロインをいじめる女の子が出てくるものもあったけれど……最後には必ず報いを受ける。
 気が重いが、こっちも必死だ。
 あたしだけの問題じゃない。
 イルマとラウラのこともあるんだからっ!

 ようやく扉が開き、担任のモーリア先生が教室に入ってくる。
 その後ろからついてくるのが……レティシア・ファラリス。

 彼女の第一印象は、はかない。だった。

 ずっと眠っていただけあって肌は青白く、髪の色素も薄い。
 少し伏せた目にまつげが影を落としていて、弱弱しい雰囲気を強くしている。

「皆さん、今日から新しいお友達が増えます。遅れて編入する理由は昨日お話した通りです。あまり無理はさせないように、気を付けてくださいね」

 モーリア先生に仕様かいされ、レティシア・ファラリスは顔をあげた。
 途端にがらりと印象が変わる。
 濃い紫の瞳がしっかりとした意志の強さを示す。

「レティシア・ファラリスです。皆さんより少し年上ですが……寝ていたせいかあんまりそんな気はしないんです。同級生として仲良くしてくださいね」

 ゆっくりと、だがはっきりとした声からは自信を感じる。
 見た目から感じる印象と違いすぎて、少しだけど面食らってしまった。

「それじゃ、レティシアさんはあの開いている席に」

 モーリア先生に小さく頭を下げて、レティシア・ファラリスは席に向かった。

「委員長さんレティシアさんのことをお願いしますね」

 あ、委員長は私だ。

「はぁい」

 慌てたことを隠して、あまり興味がなさそうに返事をしておく。

 モーリア先生が教室を出て、これからが勝負だ。
 群れをなしてレティシア・ファラリスの元に詰めかけるクラスメイトをかき分けて、彼女の机の前に。

 最初が肝心と気合を入れて、大きな音を立てて机をたたく!

 バン!

 強く叩きすぎて手が痛い!!
 滲みそうになる涙をこらえて、目の前の彼女を睨みつける。

「あなたがレティシア・ファラリスね!」
「……そう、ですけど?」
「あたしがこのクラスの委員長。グローリア・ヴェロネージよ」

 さぁ、いじめの開始よ!
 お願いだから……早めに音を上げてよね!!

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