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おっぱいと俺の死因

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 おおおおっぱい!?

 おっぱい?
 おっぱいだなぁ。

 もやし男子高校生の俺におっぱいはなかった筈だ。
 いや、絶対になかった。

 ムキっとした胸筋すらなくて、うっすらあばらが浮いてた。
 それが今や真っ白でたっぷりな双丘がある。
 恐る恐る手を伸ばして、下から持ち上げてみる。

 おお。

 柔らかそうなのに以外とハリがあり、指が沈み込むみたいなのはないけど程よい弾力でポヨポヨと揺れる。

 物心ついてから触ったことはないが、これは間違いなくおっぱいでは?
 しかし、重い。

 結構重い。
 女の子ってこんなの持って毎日暮らしてるの? 
 まじ尊敬するわ。

 いや、そうでなくて!
 もちろん尊敬はするけどそうではなくて!!
 なんで俺におっぱいあんの⁉︎

「レティシア様?」

 ちよっとハスキーな声がして、そっとカーテンが引かれた。
 少しできた隙間から顔をのぞかせたのは、淡い栗色の髪をひっつめにした女の子。
 くるくると渦を巻いた後れ毛が可愛い。
 まん丸に見開いた目に収まるのは、中心が緑がかったヘーゼルの瞳。
 鼻のあたりからそばかすが散っているがどう見てもチャームポイントでしかない。
 
 この子は――

「エダ」

 掠れた声が出た。

「レティシア様ぁ!」

 まん丸に見開かれたままの目から、ポロポロと涙が溢れる。
 え? 女の子泣かせちゃった!?
 やばっ。

「先生ー! レティシア様が! レティシア様がお目覚めになられました!!」
 女の子はパタパタと走っていき、戻って来た時には医者らしいたくさんの人たちを引き連れてきた。

「レティシア様、良かった。よかったです」
 にわかに騒がしくなる部屋で、必死に縋り付いて泣く女の子、エダの肩をそっと撫でる。
 細くて、でも温かい。

「ありがとう、でも、大丈夫よ」
 かすれているが、驚くほど甘くて優しい声が俺の口から出る。

 いったい何が起こっているのか……混乱しすぎて逆に冷静になっているのが今の俺である。

 縋り付き泣いているこの子は、エダ・マロウ。
 レティシア付きのメイドだ。
 で、そのレティシアというのは、俺だ。
 何言ってんだ? と、思われるだろうが、俺が一番思ってる。

 ちょっと前まで福井直人だった俺は、レティシア・ファラリスの中にいる。
 そして、レティシアとしての感情はないが、レティシアとしての記憶は引き継いでいるようだ。

 なるほど、これが異世界転生ってのか。
 いや、違うな、レティシアは別にいる。
 俺はレティシアの中にいる直人でしかない。

 魂だけがほかの人の体に入ったってことは異世界転移だな。
 百合男子になる前には、ラノベ結構読んでいたからわかる。

 て、待てよ。
 異世界転生とか異世界転移とか……大体死んでからだよな?
 俺、もしかして死んだの?
 最後の記憶が、尊さに手を合わせた時ってことは――まさか。


 尊死(とうとし)


 俺は百合によって尊死したのか。

 死因・百合。

 ……百合男子としては、最高の死に方ではある。

 自分の死因に呆然としている間にいろいろ検査をされ、疲れたから休ませて欲しいと頼み込んで、やっと一人で落ち着く時間が取れた。

 ふっかふかのベッドに寝ころんで、俺は頭の中で今の状況を整理する。

 福井直人の体のことは考えてもしょうがないので、とりあえず置いておく。
 尊死って最高の死に方をしたんだから、今更未練を持っても仕方ない。

 来季放送の百合アニメ二期とか、まだ完結してない百合漫画や小説とか、ぜったい行こうと思っていた百合オンリー即売会とか、実は未練たらたらだが、考えても意味ないしな。

 レティシア・ファラリス。

 これが今の俺の名前だ。
 王都からはかなり離れた田舎領主の娘。
 一応貴族の端くれだが、端っこの下っ端の下っ端。

 直人の感覚で言えば、田舎の大地主のお嬢さん。って感じだな。
 彼女は、ちょっと特殊な魔法を持っていて、王都にあるリリア魔法学園に入学した。

 この世界には魔法がある。
 魔法を使えるのは王族や貴族の血筋が圧倒的に多い。

 まぁ、昔の戦争で勝った人が王様や貴族になったわけだし、当然か。
 魔法使えるのが戦いに有利なのは当たり前で、つまりそういうことだろ。

 魔法はその家系に伝えられてきたが、ここにきてさらなる魔法の発展のため、女子のための魔法学園が作られた。

 それがリリア魔法学園。
 レティシアはその一期生だ。
 だが、一年の終わりごろに、何者かに呪いをかけられ目覚めない眠りについていたらしい。

 そして、二年後突然目覚めた。

 ただし、中身は俺なんだけど。

 魔法学園は入学の年齢から言うとちょうど高校なんで、まぁ、ほぼ同い年ぐらいだろう。
 勉強熱心な子だったらしく、学園では一期生で主席卒業するだろうと期待されていたようだ。

 そんな子がどうして呪いをかけられたのか。

 まぁ、わからなくもない。

 この世界の魔法は、一人に一系統のみ。
 それもほとんどが血筋によって決定される。
 で、火の魔法の血筋なら、爆炎の魔法、熱風の魔法、火柱の魔法って感じに細かく分岐していく。

 ファラリス家の魔法は『解除』。
 大体はアンロックの魔法なのだが、レティシアの持つ魔法は『解呪』。
 呪いを解く魔法。

 そりゃあ、呪いかけるほうの魔法使いには目障りだよな。
 なので勉強して使い方をマスターしてしまう前に呪い殺そうとしたけど、おそらくレティシアの解呪の魔法と拮抗して眠り続けた。

 って、所だろう。

 その眠っているレティシアの中に、なんで俺が入ってしまったかは全くわからないんだけど。
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