上 下
84 / 84

悪役令息?上等ですが?

しおりを挟む
「………っ、あぁ!酷い…っ」

階段の下で傷だらけのピンクブロンドの小柄な男子生徒が菫色の大きな瞳から大粒の涙を流す。

階段の上では、茶色の髪の男子生徒がその様子を見下ろしていた。



「エンジ=テンポラリー侯爵令息っ!そんなに…っ、そんなに僕が邪魔ですかッ!?」

「何のことですか?」


「まぁ……。エンジさまったら…。」

「あの方、背がスラリとしてしゃんとして、剣術も魔術も素晴らしい腕前だし、逞しいのにものすごく美人で華があって、お素敵なのよねぇ…。」

「でもほら、バイオレット=ピーチ男爵令息に意地悪をされてるって…。本当かしら…?」

「さぁ…。なんでもエンゼル王太子の婚約者の座を争っているらしいけど…???どうだろうね?」



「なんの騒動だ…!?」

黒髪黒目のスラリとした美丈夫が現れる。

後には、茶色の髪のトーン=レックス侯爵令息。
緩やかなウェーブがかかった髪の、華やかな美男子だ。


「エンゼル様ぁ!エンジさまが……っ、僕を階段から突き飛ばしたのッ…!男爵令息風情がエンゼル様をお慕いするなんてッて…!!」


「なんてことだ…。」

「うぅっ、このっ、悪役令息ぅ!学校にまで身分を持ち込んで、威張り散らして!上位貴族ならこんなことをしてもいいと思うの?!僕、大けがしたり死ぬかもしれなかったんだよっ!」



「はぁ…。」

エンジは指をパチンと鳴らす。

その瞬間、エンジの髪と目の色は黒に、エンゼル王太子と呼ばれていた者の髪の色がこげ茶に変わった。

困惑するバイオレットの目の前。優雅に階段を降りて近づく。



「ありがとう、バイオレット=ピーチ男爵令息。来年、私の可愛いアンジュが入学するからね。その前に綺麗にしておきたかったんだ。隣国から来た侯爵令息を装ってね…?上昇志向が強いのは結構だけど、自分を磨くなら兎も角、虚偽の事実を吹聴して他人を陥れてまで、男を手に入れようとするのはいかがなものかね?」

「う、うそ…っ。そんな…っ。」


「今までありがとうね。リネーム。」

「いえ。貴族様の学園も面白かったので問題ありません。学食も美味しかったですし!でも、こんなあからさまなハニートラップ、真に受ける人がいるんですかねぇ。」

リネームは元孤児院育ち。

お母様であるアレン陛下が作った民間の学校で学び、騎士となり、私の護衛騎士となった男だ。


「ところがいるんだよね。」


「前例がいたんだよね。僕たちはそこの猫なで声のぶりっ子のどこがいいのか分からないけど。でも、これを契機にまた学園も引き締まるでしょう。スパンが空くと忘れがちだからね。」

トーンはくすくす笑った。





「さて、私が王太子のエンゼル=リンク=ファーマである。悪役令息?上等ですが??」



「いやああああああ!」


くるりと華麗にエンゼルはターンして、ギャラリーに微笑む。


「今回は、噂に惑わされる者がいなくて何よりでした。母のときの教訓がご家庭で行き届いているのでしょう。今回の話をよーく伝えておいてください。」




どうやらアレンとカエサルの長男は、天使というより魔王のようです。



END
しおりを挟む

この作品の感想を投稿する

みんなの感想(13件)

四葩(よひら)

こんばんは。楽しくて一気読みさせていただきました。
パイロンさんのお見合いという名の圧迫面接に笑い、結婚後の国の様子、文化の発展など、笑ったり、思わず納得してしまう部分もあり、あっという間でした。
一部の『ざまぁ』された人達もいましたが💦

やり直せた人もいて、今後を想像してしまいました。
最終回、やっぱり来たか、と思いつつ、まさかああなるとは(笑)
アレンさんの天使ぶりを振り返り、にまにましつつ読み終えました。好きな作品です(*´▽`*)♪

竜鳴躍
2024.08.14 竜鳴躍

感想ありがとうございます!
楽しんでいただけて嬉しいです。

解除
ひろたん
2024.08.13 ひろたん

いつも楽しく拝読しています。
83頁
馬が疲れやすく馬車が揺れにくい舗装された歩道
→馬が疲れにくく馬車が揺れにくい街道
かと。
アレン陛下が、馬に良くない道を敷く悪王になってます(笑)
馬車が通るので歩道ではなく、街道?馬車道?

竜鳴躍
2024.08.13 竜鳴躍

ありがとうございます!間違いです!

解除
いぬぞ~
2024.08.03 いぬぞ~

月曜日位までこちらが連載されてるのに気づいてなくて…。

レックス卿報われてほしいな。せめて本当の事情だけでも伝わって、最低の人評価から抜け出させてあげたい。

竜鳴躍
2024.08.03 竜鳴躍

感想ありがとうございます!
うまくいったらいいのですが…。

解除

あなたにおすすめの小説

義兄に愛人契約を強要する悪役オメガですが、主人公が現れたら潔く身を引きます!

月歌(ツキウタ)
BL
おそらく、ここはBLゲームの世界。義兄は攻略対象者だ。そして、僕は義兄に愛人関係を強要する悪役モブ。いや、不味いでしょ。この関係は明らかにヤバい。僕はゲーム主人公が登場したら、兄上から潔く身を引きます!だから、主人公さん、早く来て! ☆オメガバース(独自設定あり過ぎ) ☆男性妊娠あり ☆表紙絵 AIピカソとAIイラストメーカーで作成しました。

【完結済】(無自覚)妖精に転生した僕は、騎士の溺愛に気づかない。

キノア9g
BL
完結済。騎士エリオット視点を含め全10話(エリオット視点2話と主人公視点8話構成) エロなし。騎士×妖精 ※主人公が傷つけられるシーンがありますので、苦手な方はご注意ください。 気がつくと、僕は見知らぬ不思議な森にいた。 木や草花どれもやけに大きく見えるし、自分の体も妙に華奢だった。 色々疑問に思いながらも、1人は寂しくて人間に会うために森をさまよい歩く。 ようやく出会えた初めての人間に思わず話しかけたものの、言葉は通じず、なぜか捕らえられてしまい、無残な目に遭うことに。 捨てられ、意識が薄れる中、僕を助けてくれたのは、優しい騎士だった。 彼の献身的な看病に心が癒される僕だけれど、彼がどんな思いで僕を守っているのかは、まだ気づかないまま。 少しずつ深まっていくこの絆が、僕にどんな運命をもたらすのか──? いいねありがとうございます!励みになります。

攻略対象5の俺が攻略対象1の婚約者になってました

白兪
BL
前世で妹がプレイしていた乙女ゲーム「君とユニバース」に転生してしまったアース。 攻略対象者ってことはイケメンだし将来も安泰じゃん!と喜ぶが、アースは人気最下位キャラ。あんまりパッとするところがないアースだが、気がついたら王太子の婚約者になっていた…。 なんとか友達に戻ろうとする主人公と離そうとしない激甘王太子の攻防はいかに!? ゆっくり書き進めていこうと思います。拙い文章ですが最後まで読んでいただけると嬉しいです。

【完結】僕の大事な魔王様

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
BL
母竜と眠っていた幼いドラゴンは、なぜか人間が住む都市へ召喚された。意味が分からず本能のままに隠れたが発見され、引きずり出されて兵士に殺されそうになる。 「お母さん、お父さん、助けて! 魔王様!!」 魔族の守護者であった魔王様がいない世界で、神様に縋る人間のように叫ぶ。必死の嘆願は幼ドラゴンの魔力を得て、遠くまで響いた。そう、隣接する別の世界から魔王を召喚するほどに……。 俺様魔王×いたいけな幼ドラゴン――成長するまで見守ると決めた魔王は、徐々に真剣な想いを抱くようになる。彼の想いは幼過ぎる竜に届くのか。ハッピーエンド確定 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/11……完結 2023/09/28……カクヨム、週間恋愛 57位 2023/09/23……エブリスタ、トレンドBL 5位 2023/09/23……小説家になろう、日間ファンタジー 39位 2023/09/21……連載開始

泣くなといい聞かせて

mahiro
BL
付き合っている人と今日別れようと思っている。 それがきっとお前のためだと信じて。 ※完結いたしました。 閲覧、ブックマークを本当にありがとうございました。

王太子殿下は悪役令息のいいなり

白兪
BL
「王太子殿下は公爵令息に誑かされている」 そんな噂が立ち出したのはいつからだろう。 しかし、当の王太子は噂など気にせず公爵令息を溺愛していて…!? スパダリ王太子とまったり令息が周囲の勘違いを自然と解いていきながら、甘々な日々を送る話です。 ハッピーエンドが大好きな私が気ままに書きます。最後まで応援していただけると嬉しいです。 書き終わっているので完結保証です。

期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています

ぽんちゃん
BL
 病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。  謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。  五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。  剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。  加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。  そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。  次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。  一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。  妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。  我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。  こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。  同性婚が当たり前の世界。  女性も登場しますが、恋愛には発展しません。

愛などもう求めない

白兪
BL
とある国の皇子、ヴェリテは長い長い夢を見た。夢ではヴェリテは偽物の皇子だと罪にかけられてしまう。情を交わした婚約者は真の皇子であるファクティスの側につき、兄は睨みつけてくる。そして、とうとう父親である皇帝は処刑を命じた。 「僕のことを1度でも愛してくれたことはありましたか?」 「お前のことを一度も息子だと思ったことはない。」 目が覚め、現実に戻ったヴェリテは安心するが、本当にただの夢だったのだろうか?もし予知夢だとしたら、今すぐここから逃げなくては。 本当に自分を愛してくれる人と生きたい。 ヴェリテの切実な願いが周りを変えていく。  ハッピーエンド大好きなので、絶対に主人公は幸せに終わらせたいです。 最後まで読んでいただけると嬉しいです。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。