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マーガレットの夢

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「まったくなんなのよぉおおおお!!!このままじゃお婆さんになってしまうわ!誰にも愛されないじゃない!」

マーガレットは塔の牢の中で暴れる。

ここは貴族牢らしく、男爵家にいた頃の自分の部屋よりはよほどましだ。
侍女がいないから、クローゼットには自分で着替えられる程度の簡単なワンピースしかないが、平民時代の服に比べたら質がいい。

食事はフルコースとまではいかなくても、しっかりしたものが出てくるし、汚れ物はまとめて食事の皿と一緒に回収され、食事とともに綺麗になって返ってくる。


生きていくには支障はない。

充分すぎるほどだ。

恐らく病気になれば、治癒魔法師が駆けつけてくれさえするのだろう。


だけど、自分が求めていたのはそういうことじゃない。

そりゃあ、できるだけ裕福に暮らしたかったけど。
自分だけを見て、愛を囁いてくれて。
そういう人と一緒に生活して。
子どももうんと大事にして…。

絵に描いたような幸せな生活をしたかったのに。



「ああー、もう、なんなの………。」



やりたいこともやることも何もなく、マーガレットはベッドに横になり、すぐに『すぅ…』と寝息を立てた。









「マーガレットー!」

「あぁ、ベン…。」

ベンは近所で唯一の食堂の息子で、幼馴染だ。

そばかすだらけで鼻ぺちゃで、背も低くて小太り。
愛嬌はあるけど、異性は感じない。私の友だち。

ベンのご両親は親切で、両親がここに住み始めたときも世話してくれたという。
お嬢様と使用人の駆け落ち。
父親に愛してほしくて、家事を習ったのも彼のお母さんやお婆さんからだった。

「どうしたの、元気ないね。」

「うん、お父さんまたお酒が増えて…。お母さんもああだし、家にいたくなくて。」

「そういえば角の小物やさんでバイトしてなかったっけ?」

「ああーあそこねえー。小娘は読み書き計算が出来ないって馬鹿にして、給金誤魔化そうとしてくれたのよ。指摘したらクビよ。」

「…………そっか、マーガレットって確か僕と同じ年で14歳だったよね?」

「そうよ。14歳って言ったら結婚してもおかしくない年よね。誰かもらってくれないかしら。」

「マーガレットはすっごくかわいいから、きっとお嫁さんにしたいって人はいっぱいいるんじゃないかって思うけど、僕が言いたいのはそういうことじゃなくって…。」

「なによ?はっきりいいなさいよね。」

「食堂の給仕の募集をしているんだけど、マーガレットどうかなーって。賄いも出るよ!」

「うわあ!嬉しい!私頑張るわ。」


給仕の仕事は楽しかった。
男はみんな私にチヤホヤ。

その中から一番かっこよくて、羽振りの良い人と交際を始めるまで、時間はかからなかった。


「………マーガレット。ねえ、ジョーイだけは辞めない?」

「なに、ベン。ヤキモチ?」

「あいつ、遊び人だよ。やめなよ、マーガレットが傷つくだけだよ。」

「でもジョーイはお金持ちだし、プレゼントだってくれるし、優しいし。そんなこと言うベンなんて嫌い!私はこんな田舎で燻っていい女じゃないの!お母さんがお父さんと駆け落ちなんかしなかったら、私だって今頃は綺麗なドレスを着て、学校だって行けて、素敵な王子様が彼氏だったんだから…!」

「………マーガレット!」



実際はベンの言う通り、私は遊ばれて捨てられただけ。

次の男も、次の男も……。

私はそこらへんで一番可愛い女の子だったから、躍起になって人の彼氏でも旦那さんでも素敵な人は寝取っていった。

食堂も辞めて、男たちに貢がれていい気になってた。
ベンとも疎遠になった。


その頃にはお父さんもお母さんも死んでいた。

お父さんがいなくなって、世話する人がいなくなって。
ある日男の家から戻ったら、お母さんは冷たくなっていた。

私にあれこれ言うようになったお母さんを、『いつまでお嬢様のつもりなの?誰のせいでお父さんが死んだと思ってるの!?いい加減、一人でご飯くらい食べられるようになってよ!そのへんの幼児だって軽食くらい一人で作れるわよ!介護が必要な体じゃないんだからさ!』と、罵ったのが、最後だった。


――――――――意識が浮上する。





ああ、私を心配してくれたベン。
娘のようにかわいがってくれた食堂の家族たち。

お金持ちじゃなかったけど、ベンも全然カッコよくはなかったけど。

私の本当の愛は、もしかしたらあそこにあったのかしら…。


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