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この日のための準備

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クレイは類まれな転移魔法の使い手の一人である。

ゆえに、クレイについては他の王族も警戒している節がある。


クレイは国をひっくり返すために、幼少のころから準備してきた。



幼い頃に自分を産んで死んでしまった母。

クレイには母に愛された覚えはない。

とはいって、父にも愛された覚えはないが。


父親であるバルバール陛下は、手に入れたいものを全て暴力や圧力で手に入れてきた男だ。

世界中を敵に回し、好き放題。

侵略戦争を繰り返し、勝利を重ね、領地を併合していき。

逆らうものは容赦なく残忍な殺し方をした。

だから、逆らう気のある者は誰もいなくなってしまった。



クレイの母親は、戦争で負けて併合した国の王女だった。

愛し合っている婚約者の王子がいたが、その王子の国も制圧し、両方の国と家族、婚約者を助けるために陛下に嫁いだ。

家族や元婚約者の前で純潔を奪われ、それでも耐え忍んで憎む男の子を孕み、出産したその翌朝。

無理に外に連れ出され、自分の家族、婚約者だった人、婚約者だった人の家族が残忍に殺されるのを見せられた。

目を抉られ、顔の皮を剥がれ、無残な姿にさせられ、生きたまま、刻むように殺された。


彼女は精神を病み、すぐに窓から飛び降りてこの世を去った。



なぜ、それを知っているか。



それは、私の腹心であるリュシーの母が彼女の侍女だったからだ。

リュシーの母も、陛下に乱暴をされている。

あの男は、国内でも国外でも気に入った女がいるとすぐに手を出す。

婚約者がいようが、夫がいようがお構いなしに。

リュシーの母は、夫の目の前で乱暴されたが、二人は耐えた。


リュシーの顔は母親似だから、本当の父がどちらかは定かではない。

だが、彼はリュシーを大事に育てた。

そして、私のことも大事に育ててくれた。



お陰で、私は父の帝王学を学ばされても、まともな感性を失わずに済み、リュシーと2人、牙を研いでいたのだ。





あいつに苦しめられた者たちの無念は、私たちが晴らす。




その時がくるまで、従順な振りをした。
多少、甘い男とは思われてはいたが、表向きは戦争をしかけても、実際は転移で先に通達し、秘密裏に他の国に避難させる。

家畜を殺して血をばら蒔き、全てが消失した振りをするために、派手に国を焼き払った。

あいつらに気づかれることはない。

そうしたことを繰り返し、父を討った後でバルバールが逆に攻められることのないように手を打った。






「ベル嬢、こちらでの生活にはなれたかね?」

ワインを飲んで赤らんだ顔で陛下が尋ねる。


3人の弟たちもベルを見た。

みんな、ベルをいやらしい目で見ている。

みな母の違う兄弟だが、弟たちは陛下にそっくりだ。

母親たちは全員私の母のような思いをして、出産後すぐに亡くなってしまったから、この国には妃はいない。


「………はい。もう、慣れました。」


ベルの胸元には呪いのネックレス。


だが、それはレプリカで、本当はベルの能力の封印は全て解かれているのだが。




そして、私のワイン。

味が少し変だ。

これは、強力な睡眠薬かな…?


事前に解毒剤を仕込んできて正解だが、これは今日が決行日だなと判断した。


既に、最後のパルファンも含めて、各国の囲い込みは完了し、準備は整っている。


「陛下。申し訳ありませんが、少し体調がすぐれないので失礼します…。ベル、君はゆっくり食事をしてからおいで。」


そう言って私が立った瞬間、にやりと陛下が笑ったのを見た。





「………すみません、お酒を飲みすぎてしまったみたいで…。」

先に宮へ戻ったクレイの分もと勧められ、ふらふらに歩くベルを陛下はにやにやしながら支えた。


「いやいや、今日は大変だから私の部屋で休むと言い。あの子の宮は遠いからな。」


「えっ…、でも…。」

「大丈夫、君は娘同然なのだから。ねっ。」



陛下はベルをベッドに寝かせると、人払いをして部屋にカギを掛けた。



「くっくっくっ。最近はよさげな女はいないのだよ。可愛い男の子もいいがね、君のような。」


「お戯れを。いけません、へいか。わたしにはくれいさまが」


「よいではないか、よいではないか」


「あーれー」


ピシっ。



「…………なっ。魔法は封じ、られているはず…っ。」


ピキピキと体が凍結し、両手両足が動かせない。


カチャリ。



背後から首輪がかけられる。




おそるおそる後ろの気配を探れば、そこには。


「魔法封じ、プラス身体能力五分の一ですよ、父上。蛮族の王として類まれなる攻撃力を誇る貴方でも、油断するとしたらこの瞬間しかない。念のためベルに動きを止めてもらい、その隙に貴方の力を奪わせてもらいました。」




「クレイ!クレイっ!!!きさまぁっ!」




「20年、この日を狙って生きてきました。リュシー!カルス!」


「うがあああああああああああああああああああああああ!」


闇に潜む二人が剣を持ち、陛下の両腕と両足を切断した。



「さて、弟たち……いや、あなたのコピーも全て同じようにしてきましょう。明日は公開処刑です。そして、この国はまっとうな国に生まれ変わるのです。」


クレイは陛下の頭を髪の毛を掴んで持ち上げ、不敵に笑った。









そして、私はパルファン王国に帰ったのだ。

カルスと一緒に。
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