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ユリウス元王子と孤児のハル

弟が悪意の塊であることを心優しい君は知らない

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どうしてもハルが弟に会いに行きたいというので、不本意ながら店の休業日に修道院を訪問することにした。


カタコトと揺れる馬車の中、隣に寄り添って。
手は指と指を絡めて。


きらきらした瞳で馬車の窓から外を見る。

背が低いから、椅子に深く座ると足が届かなくなるらしい。



「わっ!」


「外がよく見えないだろう?私の膝に乗るといい。」

「えっ、でも…。足が痛くなっちゃいますよ?」


「大丈夫だよ。」



膝に乗せると、まだまだ軽い。

まあるい頭が可愛らしい。


つむじもかわいい。

手も小さい可愛い。




君の弟は、どんな男なんだろう。

君を傷つけるようなら許さない。

君が許しても許さない。

君が悲しむなら、君が悲しまない範囲で君の知らない場所でもう二度と君に危害を加えないように追い詰めてあげよう。


私は、君が思っているような優しいだけの男じゃない。





景色がだんだん流れていき、街から村へ。
家々から野原や畑になっていく。



彼の弟、ミルが行かされた修道院は町から外れた田舎にある。









「今日は突然の訪問を快く受け入れて下さり、ありがとうございます。」

「これはこれはユリウスさま。」


修道院の院長は大柄で筋肉質なスキンヘッドの男だ。


「修道院で入用かと思い、日用品や食料品を積んであるので、使ってほしい。」

「ユリウスさま、ありがとうございます。実は、街の方から貧しい子や身寄りのない子、ストリートチルドレンをこちらで引き取って来たのですよ。北の砦にいらっしゃるタイガー公爵家から連絡がありまして。おそらくあちこちの修道院も今、そうだと思うのですが、引き取りはしたものの、物資が足りてないものですから。」

公爵家や政府がいくらお金を出すと言っても、どうしても欲しい時にすぐにはもらえないですからね。



「ユリウスさま…もしかして…。」

聡いハルが何かを察したように私を見上げてくる。



そうだよ。ちょっとコネを使っちゃった。

でも、私も何か手助けしたいな。


ぎゅっと、指が私の手を握った。

ふふ。


君が喜んでくれるなら、やった甲斐がある。



「ところで、こちらで預かっているミル=ベリー元男爵令息に会いたいのだが。」


院長は眉を寄せながら、どうぞと案内した。



「なんでこんな簡単なことも分からないんだ!」
部屋から怒号と子供の泣き声が聞こえる。

「ミル!なんで怒鳴るんだ、辛い思いをしてきた子たちだ。全く勉強をしたこともない子も多いんだぞ!根気よくやりなさい!」

院長は怒ってどなりこむ。


「…っ、俺は優しく教えてる!理解できないこいつらが悪いんだ!――――――って…なんで………。」




あまり似ていない。髪の色だけが似ている彼の弟。

目を見開いて、ハルを見つめる。




歪んだ表情。




「ミル、ミルだけでも生きてて、よか―――――」


「なんで、お前がそんな綺麗な格好をしてるんだよ!どこも働けず、野垂れ死んでいるか、碌なことになってないと思ってたのにッ!許せない、自分だけそんな幸せそうにして、許せないッ!!!!!」






「ミル、どうして―――――」

ハルの肩を後ろから抱きしめる。



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