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マジック王国で

魔女と毒林檎

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トールと結婚して、幸せな日々。


今日は、キシリトール殿下と王妃様とお茶会。

殿下は美味しいお菓子を作って待っていてくれるし、王妃様は美味しいお茶を用意してくれるし、僕だけなにもないの。


トールは歌えばいいって言うけど、そういうことじゃないよ。



結局何も準備出来なくて、お茶会をするお庭に向かって歩いていたら、紫色のマントのフードを深くかぶったお婆さんに声をかけられた。

フードから見える鼻の頭には、深い古傷があって痛々しい。



「お婆さん。迷ってきたの?ここはお城の庭だよ。見つかったら怒られちゃうから、案内してあげる。」


お婆さんはしわがれた声で、困り果てた。

「せっかく林檎を売りに来たのに。ここは市場じゃないのかい。もう足腰痛くて、たまらないねえ。」


とてもかわいそう。
それに、採れたての真っ赤な林檎は、手土産になるかも?


「お婆さん。じゃあ今日だけ特別。丁度お茶会があるから、僕が買ってあげる。」

「まあ、なんて親切な男の子。じゃあ、ぜひ1個味見をしておくれよ。」


僕は、林檎に手をのばした。






「お母様。マリーン、遅いですね。」

キシリトール殿下は、お茶会の会場で自分が焼いたベイクドチーズケーキを切り分けながら、なんだか嫌な予感がしていた。


「お母さま、ごめんなさい。ちょっと待っていて。いやな予感がするから、迎えに行ってくる!」

「わかったわ、でも気を付けて!トールとギャバにも連絡しておくから!」


キシリトール殿下が駆けていくと、丁度、怪しい老婆から手渡された真っ赤な林檎を、マリーンが齧ったところだった。


「マリーン!やめるんだ!吐き出せ!マリーン!!」


「⁉ 殿下、ごめんなさい。迎えに来てくれたの?」
マリーンには遠くから叫ぶキシリトールの声は届いていたが、何を言っているか詳細までは聞こえていなかった。

「いいから、吐き出せ!」
走りながら、キシリトールが叫ぶ。


魔法が使えないマリーンには分からないかもしれない。

だが、彼の側にいる怪しい老婆からは、黒い魔力が漂っている。


「ーーーーうぅっ!」

マリーンがその場で膝をついた。


その瞬間、老婆がフードを脱ぐ。



その顔は、だいぶ老けてはいたけれど…


「……ビ、ビビアン…。なぜ…っ。」




どうしてそんなに年をとっているのか。

どうして結界を破ってこの国へ来れたのか。



「…ふふふ。お前だけ幸せになるなんて許せない。リチャードは死んだ。子を残さずに。あいつ、種無しだったんだ!お父様は死に、私は王太子妃とは名ばかりの子を産むだけの王家の奴隷。でもねえ、どんなに頑張っても子は出来なかったんだよ!!私のせいなものか、あのフニャチンが!なのに、どんなにしても子を作れとそれが私たちの贖罪だと王が言うから頑張ったのに、お前たちの子を分けてもらって王位を継がせるって言うんだよ!じゃあ、俺は何!!?なんなのさ!あいつが無理だってんなら、王の子だって産んでやったのに!だから、憎い憎いお前を殺すために!」


自分の若さを代償に、結界を破ったのさ。


ビビアンは高笑いをする。


「この毒は今に全身をまわる。お前は泡のようになって消えてしまうんだよ。死体も残さずに!」

墓にも入れない。

トールは愛する妻の亡骸を抱くことも弔うこともできない。

いい気味だ!!!




「…お前は、本当の悪い魔女だ!」

キシリトールは、かつて自分を捕えていた魔女を思い出していた。

マリーンを芝に寝かせて、自分の髪に魔力をこめる。


「………何っ!?」


しゅるりと伸びた黒髪が、ビビアンの四肢を拘束した。

「任せたよ、二人とも!」


「ああ、任せろ!」

「よくも、マリーンを!!」


林の陰からギャバとトールが飛び出し、二人で、ビビアンの首をはねた。


「ギャアアアアアアア!!!!!!」


一瞬のことで、首をはねてしばらくビビアンはハクハクと口を動かして目を剝いていたが、やがてこと切れた。






「マリーン、マリーン!」

トールがマリーンに駆け寄る。

抱きしめると、力のない体は、泡のようになって端から消えかかっていた。

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