真面目な近衛騎士は借金返済のために雄っぱぶ嬢になりました。

兄がいない

「まだ見つからないのか！もう１週間だぞ！」

スプーン侯爵家でジェームズの叫びが反響する。

炊き出しに参加していた兄が行方不明になった。
王太子夫妻の結婚式と王子たちの誕生を祝う祝賀パレードという国の祝事が控えているが、それどころではない。

ダージとオランジェはジェームズに休暇を与え、騎士団を派遣した。

秘密の薔薇の仲間たちも捜索にあたってくれている。

教会のシスターから、スティーブが最近炊き出しに来る若い男と話をしていたと聞いた。

人の良いスティーブは攫われたかもしれない。



我が家に何も書状が来ないことを考えれば、金銭目的じゃない。

スティーブ自身が目的。


気が気ではない。


「落ち着け、ジェームズ。」

「父上はよく平気ですね！我が子でしょう！」


「私の子ではない。托卵だからな。今さら托卵だなんて恥だからな。黙っていたが、いなくなるならなるで都合がいい。」

傍にいた第一夫人がわあっと泣いた。

母上も冷めた目をしている。




はあ！？




なんだって！


それじゃあ俺は……なんのために今まで。



「もういい！俺は必ずスティーブを助け出す！」


領内にいるはずだ。

見つからないのは、極めて腕のいい魔術士が隠蔽魔法でもかけているのか？

ならば、しらみつぶしに探すだけだ。

僅かな綻びや違和感を探すんだ！




スティーブ！

スティーブ！


俺はもう遠慮しない。

あんなクズ、隠居させて遠くにやってやる。

俺の隣で笑って。