真面目な近衛騎士は借金返済のために雄っぱぶ嬢になりました。

閑話 ジェームズとスティーブ

がたっ、


誰ももう道を歩いていない時間。

店を閉めて、洗濯をし、１日のごみを裏に捨てる。

オーナー兼ママであるポンチが、店の掃除を行い、食器を洗って１日の売り上げの帳簿をつけている間にそれをやるのが、キウイの仕事だ。


他のキャストが帰った後で、それは行われる。


何故か。


それは、キウイがこの店の２階に住み込んでいるからだ。


屋敷を追い出されたキウイには行くところがない。
そして、リーフ公爵家への多額の賠償金の支払いがある。


初めはこの生活を屈辱に感じていたが、慣れたものである。

何も知らなかった貴族の手は、働き者の手になった。
ママのお陰で荒れてはいないが、筋肉のつき方が以前と違うと思う。



ふと。


キウイは視線を動かした。



そこに立っていたのは、自分の――――――――――



「…………」




ジェームズ。

勝手に母親に言われるがまま距離をとって。
碌に会話をしたこともない弟。

この店の元締め。


私の代わりに後継になった。


殿下の付き添いで何回か来店したこともあれば、オーナーと話をしているところも何回も見ている。

だが、いつも私と目を合わさない。

そんな弟が私を見ていた。



そして、今、


どうしてそんな泣きそうな顔をして。

そして、私に見つかって去ろうとするの。



「ジェームズ！」

思わずコートの裾を掴めば、ジェームズはびっくりした顔で私を見た。


「あ、申し訳…。」

そういえば、もう私は世界が違うのだった…。


その瞬間、抱きしめられる。


弟だけれど、騎士として逞しい弟は、身長も高くて、私より肉付きもよくて。


どうして泣いているの…。



「…ごめん、ごめん。兄上………。」

「泣かないで、大丈夫、大丈夫だから…。」


体は大きいのに。まるで幼い子どものようだ。





「愛してる…。」



それは、暗闇に漏れた真実。