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歪められた想い

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「ただいま…。」


「おかえりなさいませ、お坊ちゃま。」


うう、痛いわけじゃないけど胸が服にすれると感じちゃう…。
インナーもつけているのに。
だいぶ敏感になっちゃった。
自分がこんなに感じやすい体だとは思っていなかった。

サラシか何か必要だな…。


深夜、家に帰宅した私は、出迎えてくれた侍女頭に少し申し訳ない気持ちになった。
歴史が古く、伯爵家にしては広めの屋敷は、使用人を減らしているため、使っていないエリアは封鎖している。
侍女頭は私たちが幼い頃は乳母もしてくれていた母の侍女だ。


「ありがとう、サミー、まだ起きてくれていたの?私、仕事が遅いから気にしないでいいよ?」

「ありがとうございます。オランジェ坊ちゃまはお優しいですね。レンジュ様が近々デビュタントでございましょう。嬉しくて嬉しくて、なんだか眠れなかったのです。」


「そうか。そういえばデビュタントは来月か。レンジュに良い縁があればいいな。」

デビュタントは王族が立ち会うから、その日は私は殿下の側だ。
兄上にエスコートされて会場に入ってくるのを見るのが楽しみだなぁ。
うちの妹は兄の欲目かもしれないけど、なかなか美しいと思うんだ。
頭もいいし、淑女だし、それで美しいのだから、良い相手と巡り合って幸せになって欲しい。
どこに出しても恥ずかしくない妹だ。


「坊ちゃま、今夜も夕餉の支度はしておりませんが、本当によろしいのですか?」

「大丈夫。城で夜食が出るから。」
本当は店でつまんでいるんだけど。

「それならよいのですが…。」

「ありがとう。サミーに心配かけたね。」


部屋に戻り、服を脱いで、私は湯あみに向かった。



鏡に映る自分の体。

ふしだらな体。


あの店はお金が良い。
殿下が私にお金を落としてくれるから、思ったより早く借金は返せそうだけど…。

半年、くらいかなぁ。


半年、あ、あんなことしてたら…。私、どうなっちゃうんだろう。
だんだん敏感になっちゃって。
イチゴさんたちも、ちょっと乳首がぽってりってしてくるって言ってたし…。
こんな体で将来女性と結婚できるのだろうか。


………。

まあ、いっか。


私は次男だし。独身でも……。



殿下の側にいられれば、私はそれで…。



<どうして?どうしてそう思うの…?>


ん?

頭がちくっと痛い。


(働きすぎだろうか…。今日は早く寝よう。)









「………う。」

カーテンから零れる光が眩しい。


「坊ちゃま、朝餉ですよ。」

扉からサミーの声がする。

やはり疲れているのだろうか。寝過ごしてしまった。
いつも早く出勤しているから、遅刻にはならないだろうが、早く支度しなくては。


前髪にオイルをつけて、さっと後ろにかき上げる。

「よし。」


「おはようございます。母上、兄上。レンジュ。」


ダイニングでは父親以外が全員集合している。


「お兄様、おはようございます。最近なかなかお会いできなかったので嬉しいですわ!」

桃色の髪のレンジュ。

笑うとふわりと花が舞うようだ。

そうか、いつも私は朝早く出てしまうから…。

「オランジュ。我が家のために働いてくれてありがとう。でも、体には気を付けてほしい。今後も、朝くらいは一緒に食べられたら嬉しい。」

兄上…。

「兄上こそ、目の下のクマが酷いじゃないですか。結婚の準備もちゃんと進んでいるんですか?」

「大丈夫だ。私はお前こそ心配だよ…。」

「お兄様、わたくし、水の調査をしていますのっ。よくみれば、水の中にキラキラするものがあるのです。もしかしたら貴重な金属かもしれないですわ。」

「ありがとう、レンジュ。」

「ううっ、貴方たち。父親が盆暗だと子どもが立派になるものなのですね。」
赤毛の母親がハンカチで涙をふく。

「ふふ、伯爵家は安泰ですね。兄上も結婚しますし、レンジュもきっとよいご縁があるでしょう。」

「何をいっているの、貴方もですよ。」

「えっ……。私、ですか。」


「殿下がまだですから、探しにくいのはわかります。でも、いいなと思う令嬢はいないの?」

「そうだよ、見ているだけで胸がぎゅっとなるような。この人の隣を渡したくないというような。」



<………ほ……は、おまえは………か、のことが>


頭が痛い。



頭の中で鈴が鳴る。



「今は仕事が恋人ですね。」



ワカラナイ。


私は殿下の隣を渡したくない。


でもきっとそれは、臣下として、そうでしょう?
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