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夜会で呪い

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「ねえ、お母さま。今度また夜会に呼ばれたの………。髪の毛、整えてもらえないかしら。」

今まで自分の装いに無頓着だった息子が。


ガタッと身を震わせ、エメラルダは感涙にむせぶ。


「あなたの髪に触れるのは、いつぶりかしら。嬉しいわ。」

「そう?」



鏡を見ながら頬を染めて物思いにふける息子。

間違いなく、恋をしているのだろう。


アニス殿下か、騎士団長か。

相手がどちらでも、こんな喜ばしいことはない。

幸せになってほしい。




どうしたんだろう。

身づくろいなんてめんどくさくて、失礼がないくらいに整えていればいいやっていつも思っていたのに。

どうしちゃったんだろう、僕。

アニス様やカモミール団長のことを考えると。

2人に手を引かれて、一緒にダンスするのが物凄く楽しみなの。

わくわく?しているのかな。

ううん、わくわくとも違う。


……なんだろう、この気持ち。






「さあ、行きましょう。ソルト。」

「なあに、みんなカボチャだと思ってればいいのさ。周りなんて気にするな。踊って、うまいタダ酒と飯楽しんで帰ればそれでいいんだ。」

「くすっ。カモミール団長ってば。」

アニス様とカモミール団長を両手に、僕は夜会へ足を踏み入れる。



会場に入った瞬間、注目されることは今でも怖い。

なんかいけない場所に来てしまった。そんな感覚になる。

だけど、二人が一緒だから、耐えられる。



ドンっ。



人混みにまみれて、黒いドレスの令嬢と体がぶつかった。



「ごめんなさ…。」

「この国で一番素敵な男子を二人も拘束して、いいご身分だこと。あんたなんか、呪われるがいいわ。」



そう、呪詛を吐かれた瞬間、体が何だかピリピリして。


皮膚が張り付くようで。

顔や体が炎で焼かれたように熱くなった。


「う、うぅうっ。」

「ソルト!!」

「ソルト!!?」

2人が心配して僕を見る。

そして、ハッとした表情になると、団長は黒いドレスの令嬢を睨みつけ、衛兵に顎で合図をして拘束させた。


「ヒッ…!」


異変に気付いた人たちが躍るのをやめ、僕を見て、短い悲鳴を上げた。

騒ぎを聞きつけて現れた陛下たちも、驚いて、騎士の人たちに場の終息を命じている。

遠くから見守っていたお兄様たちが慌てて駆けつけ、ホワイト兄さまが僕を見て、彼女の方へ回った。



「ははははは!!いい気味よ!呪いを受けて、やけどで爛れたような姿になって、婚約がなかったことになればいいわ!素敵な人を独り占めして手玉にとった罰よ!!!」

「呪いの解除方法を吐け!」

ホワイト兄さまが彼女に詰め寄る。


「そんなの知らないわ。私は、悩み相談をしていたら、教えてもらっただけだもの。」


「誰に!」

「知らないわよ、黒いローブで顔も見えなかったもの。」




「……アニスさま、カモミール団長。ごめんなさい。二人とも、僕なんかやめて、他の…。」

涙がぽろっと零れて。


2人はそれでも僕の手をとった。



右の頬にアニス様がキス。

左の頬にカモミール団長がキス。



「どんな姿でも、ソルトはソルトです。ソルトが妃に相応しくないと反対されるのなら、いつでも王子をやめます。こう見えても僕は能力がそこそこ高いので、幸せに食べていけるくらいの生活力はあると思うんです。」

「俺だってそうだ。騎士団長をやってりゃそのくらいの傷、よく見るもんだ。そんなもので、俺のソルトへの愛は変わらない。」



うれしい。



そう、思った瞬間。



オラクル様に祝福を受けたときの光が突然、僕を包んだ。


頭の中にオラクル様の声が聞こえる。


(私が祝福を与えたのだから、どんな呪いも効くわけないであろう?)



一瞬で、さっきのことが夢だったように、きれいさっぱり傷やケロイドが消えて、元通りになった。


「ぎゃ、ギャアアアアアアアアアアアア!」



逆に、ホワイト兄さまが捕まえていた女性が叫びだす。



さっきまで僕にあった傷が、いや、さっき以上の傷が、彼女に現れていた。




「呪詛返しだ。人を呪えば、自分に返ってくるんだよ。」

ホワイト兄さまは、痛みで震える彼女を掴んで、牢まで引きずっていった。





彼女は誰だったんだろう。

僕は、みんなに嫌われているんだろうか。だから、呪ったんだろうか。



やっぱり、二人をどっちつかずのままキープしているのって、よくないよね。



でも、僕分かったの。

2人とも同じくらい、好きなんだ。


僕は、悪い子。







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